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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第三部『生徒会選挙編』:第三章
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三ノ肆

「自信というものは人間を変えてくれるわね」

 いつの間にか、隣には――天生ちゃんが立っていた。

 僕と同じく視線は彼女達の背中。

「うん、今じゃあ怖いもの無しって感じだ」

「素晴らしいね、あれも彪光さんのおかげかな?」

「それもあるだろうけど、彪光のしごきについていけてる裏萩さんあってこそだよ」

「なるほどね」

 彪光の事だから指導は厳しいだろうなあ。

 扇子で叩かれまくってたりして。

「それにしてもあれから襲撃も無く、生徒会の調査も進んでいないようだね」

「らしいね」

 未だに犯人どころか手がかりの一つすら見つかっていない。 

 きぐるみの頭部がごろごろと見つかって、これならすぐにまた手がかりが見つかるはずだと周囲を捜索して空振りに終わったり、生徒の数が多すぎて聞き込みにも時間が掛かったりで行き着いた先が行き止まりとあってはね。

「もしも選挙の妨害が目的ならば、公開討論会までに何かしら次の行動を起こすとは思ったのだが、私の杞憂だったらしい」

「僕もまったく同じ考えだったよ」

「気が合うね、私達の相性はいいのかもしれない!」

「ごめんなさい!」

「あれっ!? 今私は振られたのかい!?」

 行き着き先は大体予想できたのでかなり先回りしておいた。

 こほんっ、と小さく呼吸を落として、続々と会議室から出てくる生徒達の邪魔になるので僕達はロビーへ向かい、天生ちゃんは続けた。

「しかし……あの襲撃は何だったと思う?」

「何だった……っていうと?」

「何が目的だったのか、まったく分からなくないかい? 選挙妨害が目的だと言えば、それで片付けられるが」

「まぁ……」

「結局、知名度注目度が上がっただけで、襲撃の意味は無く、襲撃者にとっては望んでいた効果はまったく無くむしろ逆効果。君は、あの襲撃、もしもの話だが……“選挙妨害が目的じゃなかったとしたら”どう思う?」

 彼女と僕の考えは見事なまでに一致しているであろう。

 彼女が聞きたい事も分かる、彼女は僕が何を言うか分かっている、問題は言うべきか言わざるべきか、彼女は聞くべきか聞かざるべきかでお互いがその境界線上に立っている。

「僕は……」

 沈黙は数秒続いた。

 ロビーに到着し、討論会があったからか今日はコーヒー無料配布がされており、それ目にして、

「あれはいいね」

 僕達は列に並んでコーヒーを頂いた、空いた席に座った。

 窓側が運よく空いていてよかった、外の風景を楽しみながらコーヒーを飲むなんて最高だね。

「昼休みの予定は無いようだね」

「まあね。裏萩さん達は昼休みも選挙活動って感じだけど僕がついていったところでやる事も無いし」

「ならば私と共にコーヒーを楽しもうじゃないか」

「うん、いいよ」

 天生ちゃんは不思議な人だ、なんだろうなこの感じ。

 話していて結構楽しい。

「それと、さっきの質問は無かった事にしよう」

「……そう、だね」

「まだ最後の立会演説会がある。それを見越して襲撃を控えている可能性も考えられるから、もしかしたら襲撃があるかも、しれないが」

 かもしれない。

 けれど、無いかもしれない。

 どちらが濃厚かといったら、後者。


 サラサラ。


 サラサラ。


 サラサラ。


 何やら隣から妙な音が聞こえる。


 サラサラ。


 見てみると、スティックタイプの砂糖を既に四本使用してコーヒーに入れていた。

「多くないっ!?」

「えっ? 何が?」

 続いてコーヒーフレッシュを四つ。

「うーん、いい色」

「もはやコーヒー牛乳っぽいんだけど」

「それでもコーヒーさ。君はブラックか、大人だね」

 君は甘党学園代表みたいな人だね。

「このように、本来は苦味であるものでも何かを加えると別の味になる。これは当然の事だが、根本というものは変わらない」

「唐突に哲学的な話になったね」

「まあ、聞きたまえ。様々なものを加えようがコーヒーが大半を占めていればこれはコーヒーという枠からは外れないのだよ。それは当然であろう?」

 そうですね、どれだけ甘くても、どれだけ色が変わろうがコーヒーはコーヒーですね。

 コーヒー自体の量が少なくなれば違ってくる、それも当然な話。

「人間もそうさ、何か加えられても根本は変わらない。だからこそ愛おしい存在だ」

 よく解らないけど深い、かも。

「今回の選挙では、そういう面を多く観察できて楽しい」

 観察するにしてもその人の根本を理解していなければ楽しめないと思うが。

「変わった人だね」

「よく言われる」

 見るからに甘そうなコーヒーを彼女は口へ運び、啜って満面の笑み。表情の変化がそれほど見られなかったが今この瞬間だけ、彼女は確かな笑顔を作っていた。

 よほどコーヒー……っていうより甘いものが好きなのかね。

 僕は甘いコーヒーはそれほど好きではないのでこの砂糖無しコーヒーフレッシュも無しのコーヒーで満面の笑み。

「天生ちゃんは何組?」

 彼女と知り合ってまだ少ししか経っていない。

 好奇心に押されて僕は聞いてみる。

「一組だよ、君とは教室がかなり遠いね」

 一組と七組とでは距離が離れすぎている。そりゃあ彼女の見覚えが無いはずだ。

 用が無ければ普段僕は一組付近まで行かないのだから天生ちゃんも当然七組付近まで行かない。

「部活には?」

「帰宅部部長をやっている」

「それって部活じゃないよね」

 帰宅部があるのならば僕も是非入部させてもらいたい。

「運動が嫌いなのだ」

 ふぅん、まあ天生ちゃんが運動しているのは想像しにくい。

 見た目は本当におとなしい美少女、体も小柄で僕と同じくらいの身長だ。どこかこう、哲学者みたいな、大人びた雰囲気もあって本を読んでいる姿はきっと様になる。

「さて、そろそろ行くとしよう。実に有意義な時間を過ごさせてもらった」

「そう言ってくれると嬉しいね」

「うむ、ということで君を」

「ごめんなさいっ」

「今、振られたのかな私は」

 先に断っておくのも忘れない。

「あ、そうだ天生ちゃん」

「なんだい?」

 彼女が踵を返したところで僕は思い出して呼び止めた。

「このままがいいって、君は思う?」

 主語の無い質問だが、彼女はきっと理解する。

「君はこのままがいいのかい?」

「僕は……」

「真相はどこかに転がっているかもしれない、それを見なかった事にするか、拾うかは君次第だ。転がっていたらの話ではあるがね」

 僕次第……か。

 天生ちゃんは口元だけを緩めた笑みで、続ける。

「調べている者なら誰もが“もしかして”とたどり着くがそこで止まる。今はそこだ、行き止まり。そんな状況で我々に選択肢はあるのだろうか」

「……現時点では無いね」

「これほど時間が経っても何も無いという事はきっと何も出てこないのだろう。だったらこのままにするしかあるまい。これもまた狙いであり、我々はうまくはまってしまっているのかもしれないが」

 何かもやもやする。

「今は何事も無くうまくいっている、それでいいんじゃないかな」

「そうだけどさ……」

「我々の推測が間違っている可能性だってある、何も考えない事だ」

 そう言って彼女は立ち去った。

 話をして少しは楽になった、考えも整理できた、けれども……すっきりしない。

 推測は推測でしかない、彼女の言う通りこれについては何も考えないで終わりにしよう……。

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