三ノ参
一週間が過ぎた。
僕は毎日襲撃について調べたが、これといった手がかりは無し。
隠し部屋でパソコンを使って生徒会の調査した結果が見れるとの事でそれを見ながら調べてはいるも、何も成果は無い。
立候補者それぞれ襲撃の時間でのアリバイは全員あり。
襲撃当日、その時間に学校に留まっていた生徒は半数近く、これでは調べようが無い。
目撃証言はそれなりにあり、まとめられていて一つ一つ目を通してみるも、犯人に繋がるような証言は無い。
現場周辺ではきぐるみの頭部以外は何も見つかっておらず、犯行に使われた道具も見つかっていない。
襲撃者がまだ持っていると思われ、襲撃当日学校のどこかに隠したか持ち帰ったかはしたであろうが、部活動の生徒達に紛れれば目立ちはしない。
バットを使っていたという証言からその日バットを持っていた生徒や持ち帰っていた生徒はいないかと調べるも目撃者は無し。
バット――野球部などバットを使用する部活動生徒を調べるもその時間に部活動から外れた生徒は無し。欠席者も無し、ね。
困ったもんだ、まるで煙のように襲撃者が消えてしまっている。
しかしこの一週間は襲撃も一切無く、嫌がらせなども一切無く、選挙は順調に進んでいた。
もう襲撃する気は無いのか……? そう思ってしまう。
他の立候補者が襲われたという話も聞かない、あの襲撃で得られたのは裏萩さんの注目度だけだ。
彼女を陥れようという魂胆での襲撃ならば逆効果だ。
でも待てよ……?
もしかしたら……。
僕は、別の考えが頭の中に生まれて居座り始めていたが、それは流石に無いだろうなと……思った――思うようにした。
討論会はあと十分後。
彪光も裏萩さんも襲われてはいない、既に準備をしていて生徒会による警備も万全。襲われる心配は皆無。
結局、杞憂に終わった。
ほっと胸を撫で下ろして僕は裏萩さんの付き添いのために共に会議室へ。
この一週間で裏萩さんは変わったと思う。
どこかこう、堂々とした様子で緊張はしているようだが自信も感じられる。彪光は同席しないが、大丈夫そうだ。
この一週間、相当練習したらしくポケットから取り出した原稿は古い宝の地図かと思うくらいにぼろぼろ。
一度読み直して今日話す内容をぶつぶつと呟いて最後の練習。
僕は彼女の集中を乱さぬように静かにしている事にした。
襲撃の件から生徒会の警備は厳しく、会議室には直接向かうのではなく一度それぞれに用意された準備室へと入り、呼ばれたら生徒会の人と共に会議室へ行く。
まるでこれから国際会議でもするかのような対応だ。
呼ばれて会議室へ向かい、左右には生徒会の警備担当が一人ずつ挟むようにして並び、会議室までは警備が一定距離で立っていた。
襲撃なんて絶対にやらせないという意気込みが感じられる。
会議室に入り、僕達は指定された席へ着席。
昼休みという事で、生徒の数は前回の比ではない多さ。
加えて校内に設置されたテレビで生放送、一つの番組会場かと錯覚してしまうほどに会場は出来上がっていた。
立候補者達も気合を入れた表情でいる。
流石にこの雰囲気に、
「き、緊張する……」
裏萩さんは冷や汗一つ。
「深呼吸しようっ。大丈夫、きっとうまくいく!」
「え、ええ……!」
手の平に人という字を書いて飲み込む動作、緊張をほぐすためにそれやる人久しぶりに見たな。
結果から言うと、彪光によほどしごかれたのか、相手からの質問には五秒以内に答えて、自分の意見も付け足して完璧。
僕はただ座って討論会を見ているだけで、なんかついてこなくてもよかったなと思ったり。
裏萩さんは自信に満ち溢れており、かなりの手ごたえといったご様子。
「うまく、やれたかな?」
「最高」
「ふふ、ありがとっ」
襲撃されても臆せず選挙活動を続け、しかも彪光無しで完璧にこなす立候補者。
誰もがそう見てくれたに違いない。
今回、浜角さんの掲げる方針について、生徒達とのトラブルが発生する可能性については考えているか、そうなった場合はどうするか、私なら――と相手の方針をうまく利用して自分の方針を見せ付けて比べさせる話術も効果的だったに違いない。
会議室を出る僕たちを見る浜角さんは眉間にしわを寄せて裏萩さんを強敵と認めた目をしていた。
冷や汗をかいて入室した裏萩さんは、他の立候補者に冷や汗をかかせて退室。
通りすぎる生徒達は言う。
もはや古戦谷、浜角、裏萩の三つ巴戦だと。
古戦谷君はこれといって皆が興味を引くマニフェストではないものの、安定したマニフェストばかりであるために崩れがたい。
浜角さんは今崩れかけているが彼女はなんだかんだいってこの一週間、アクロバティックな選挙活動で人気者だ。
残る立会演説会までには持ち直してくるはず。
「裏萩、どうだった?」
現れたのは彪光と音々子さん。
校内テレビで見ていたから聞かずともどんな様子かは分かっているだろうが、直接聞いておきたいといったところか。
「えっと……最高っ!」
僕の感想をそのまま彼女にお届け。
「そう、それはよかった」
扇子を開いて微笑。
予想通りっていう微笑な気がする。
「残る立会演説会での原稿も今日からまとめるわよ。普通の演説もしながらだから、これからもっと大変になるわ」
「分かってる! 私頑張るよ!」
「よろしい」
二人共、最後の立会演説会に向けて意気込みやよしだ。
まったく、最初のあの頼りない裏萩さんはもう消え失せて別人だ。
今なら彼女に一年生徒会長を任せてもいいと僕は思っている。
正直、前は心配でこの人がもし一年生徒会長になったらどうなる事やらって感じだったのは内緒だ。
「やはりあの二人が強敵ですね彪光様」
「そうね、音々子……終始演説の様子は観察しておいてね」
「了解です」
彪光達は会議室から出てくる立候補者――古戦谷君と浜角さんを見てひそひそ話。
裏で動くのも忘れず、手は絶対に抜かず。
うーん、この陣営すごいですねえ。
討論会が終わってからは四十分の昼休み延長が与えられたので裏萩さん達は早速原稿をまとめるべく選挙準備室へ。
僕はゆっくりどこかで昼休みを堪能するとしよう。
彪光達の背中をしばらく見つめていたが、通りかかる生徒達は誰もが彼女達を見ていた。
もう注目度は最高値って感じだ。




