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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第二部『異餌命編』:第四章
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其ノ終

 後日談。

 小十太さんの話によれば秋野嶋さんの家に南方さんは行き、彼女の前で土下座して自分のした事を全て話し、秋野嶋さんは怒るどころか土下座し返してお互いに数十分ほど謝罪し合ったとか。

 学校にもそのうちまた通い始めるんじゃないかと彼は言っていた、それはとてもいい事だ。

 学校では異餌命の解散は早くも噂になっており、暴力事件を起こした女子生徒がリーダーを病院送りにして異餌命は解散になったとか、とある裏サークルが異餌命を潰したとか、噂は様々。

 異餌命の専用サイトは潰す事も出来たが、あえてそうせずにリーダーの消失を選んだ結果、噂の拡散と苛め行為に対する威嚇、メンバー達への警鐘という大きな効果を生み出せたわけだ。

 その中でも最も効果を生んだのは誰かを苛めたりすると異餌命と思われて襲われるかもしれない――というもの。

 生徒会の目安箱では苛められてる生徒からの相談はほぼ無くなった。

 苛められている生徒に手を差し伸べたら自分も苛められるのでは、その不安も解消されて孤立している生徒に手を差し伸べる生徒は増えていったという話もここ一週間で聞く。

 苛めっ子達はもはや強者を演じる事は出来ない。

 裏掲示板のほうはちょっとした愚痴が多めな書き込みばかりで、苛めについては誰もが話題を避けていた。

 棚から牡丹餅とはこれのことかとぱっと見て解る平和の訪れに僕は微笑ましかった。

 虎善さんの校門での挨拶も再開、勿論卵がどこからか飛んでは来ない、絶対に。

 風紀委員や生徒会、それに教師達も調査をしているが、もう既になくなったも同然であるので調査の必要は無いと言いたいが言えないもどかしさ。

 僕達だけが知っている、もう異餌命が活動する事が無いのを。

 あの人は、異餌命のメンバーをまだ襲撃はしていたもののここ二日ほどはまったく襲撃の話は聞かず。

 異餌命に協力していた佐々楓は選挙を途中で辞退したのを見ると、襲撃者を恐れて異餌命と縁を切って保身ってところかな。

 最後に襲撃されたのはこの学校の野球部に所属するコントロールの良さに定評のあるエース。

 今までの卵を投げた事件では彼が数件関わったのではないかと僕は考えている。

 学校側も調べればそのうち彼について何か解って処分を下すかもしれない。

 あの人は次のメンバー探しは行き詰っているのならば、そのうち僕らを訪ねて異餌命の情報を求めてくるかもしれないが僕はこっちも行き詰って情報を得られていないと嘘をつくだろう。

 あの人には悪いが、穏便に終わらせるにはこれが一番だと思う。

 ここで問題が一つ。

 僕の理想であったハッピーエンド。

 ――彪光が異餌命のリーダーを懲らしめて異餌命を解散させて虎善さんに報告する――ありがとう彪光、貴方は最高の妹よ、家に帰っておいで! からの――姉さん、嗚呼……私の最高の姉さん、喜んで!

 そして二人は仲良くおうちへ帰ってスクランブルエッグを食べるのでした。 


 完。


 ――これね。

 流れている噂から、彪光が異餌命を潰しましたって報告したら虎善さんが疑問に思わないわけがない。

 どうやって潰したのかとか質問責めを喰らうのを予測すると、裏サークルに所属していたりこれまでやってきた事を考えると説明はし辛い――出来ない。

 結果、最初から僕の理想であったハッピーエンドは破綻していたのだ。

 だが諦めてはいけない、何か、どうにか彪光が潰したとうまく伝える手段を考えなくては。

「ねえ、手伝って」

「あ、うん」

 とりあえず今は、今日子ちゃんの退院祝いの準備をするとしよう。

「何考え事してたの」

 僕は止まっていた手を動かしてキャベツの千切りを再開。

「別に、何でもないよ」

「そういう台詞を吐く奴ほど重要な事を考えてるものよね」

 図星。

「これ、油に入れるだけでいいの?」

「いいよ、ちゃんと時間計ってね」

 彪光は油にから揚げを大量投入、味付けは僕がやったが中々の味を出してくれると思う。

「なんか悪いな、何から何までやってもらって」

「構わないさ、新蔵はゆっくりしててよ」

 といっても居間にいる今日子ちゃんとアンナのはしゃぎっぷりから戻ったら二人に構われてゆっくりできなさそうだけど。

 今日は新蔵の家にお邪魔させてもらっている。

 退院祝いはやはり自分の家でやるのが一番だ。

「そういえばさ、僕達の裏サークルってまだ名前つけてないよね?」

「そうね、忘れてたわ。彪光と愉快な奴隷達にしましょう」

「僕達の扱いが酷すぎる!」

 一人奴隷っぽいというより是非にでも奴隷になってくれる人がいるけど。

「別に誰かに名乗るわけじゃないんだから」

「そうだけどさ、でも無名の裏サークルってのもなんか、士気的にね?」

「いい名前ならばつけるけど、貴方はなんてつけたいの?」

「うーん、正義の――」

「却下」

「最後まで聞いてくれてもいいじゃない」

 たとえ僕の言う事を既に解っていてもさ。

 食卓に大量のから揚げが乗った皿を持っていき、話は有耶無耶に。

 アンナのおかげで最後までおおはしゃぎで終わった退院祝い、異餌名の件は精神的に疲れる事が多かったので、重々しい気分が解消されて心が軽くなったな。

 久しぶりに思い切り笑って、楽しい話題やテレビで盛り上がったと思う。




「あ、そうだ」

「何?」

「サークル名はね、残虐虎わんこで」

「えー……」

 彪光は僕を睨みつける。

「いや……ね? 残虐は無いかなーと」

「じゃあ虎わんこ」

 それはどうしても入れたいんだ。

 何か他にいい名前は無いものか。

「もういいでしょ、サークル名はこれで決定!」

「うーん……」

 もうちょっと待って欲しいな、と僕は彼女に言おうとするが、彪光は扇子で僕の口を叩いて言葉を封じる。

 それでもめげずに、と再度僕は試みるが、

「お手」

「わんっ!?」

 そのたびに変ないじられ方をして、振り回される僕だった。


 なんだかなー。


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