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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第二部『異餌命編』:第四章
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四ノ陸

「大丈夫ですか?」

 一応、怪我人なので僕の対応は柔らかく。

「……うるせえ、うぜえ、クソカス童貞野郎」

 目を覚ましたと思ったら、予想外の酷い言葉が飛んできた。

 泣いていいかな?

 立ち上がろうとするも彼女はふらついてすぐに尻をついた、それほどに新蔵の一発は重たかったようだ。

 壁に凭れさせて、三人で囲むように彼女の前に立って身動きは出来るけど身動きは出来ないような状況にする。

 後ろには小十太さんがいて、恐る恐る彼女の様子を窺っている。

 また襲い掛かってきやしないかと逃げ腰気味。

 無理もない、僕も小十太さんと同じ気分だ。

 この人、本当に怖いのよね。

 何をしてくるか解らないという怖さと、何かしたら確実にただ事では済まないという怖さがある。

 今までどんな事をやったのか、僕が憶えているものを思い出すとほぼ全てに血と暴力が関わっている。

 今回も、そうだ。

 これからも、そうだろう。

「貴方、異餌命を狙って襲撃してるようね」

「それがどうしたクソ○ッチ」

 彪光の眉間が歪んだ。

 扇子を開いて、口元を隠すが横からでは君の表情はまる解り。

 への字にして今にも怒りを爆発させそうだが、なんとか耐えている。

 会話を優先したい、そんな意思を感じられる。

「理由は――姉さん? さっき言ってたもの、間違いないわよね」

「だとしたら何だ」

「異餌命、貴方はどう思う?」

「お前くらいにムカつく」

 それは結構、と彪光は笑みを浮かべた。

「私達も異餌命は気に入らないの。つまり、貴方とは今回だけ気が合いそう」

「そうかよ、ならなんでお前らはそいつを守りにきてんだ?」

「彼は異餌命に所属してるけど、異餌命のリーダーを突き止めようとしてるから。いわばスパイ、潜入捜査官、囮、捨て駒、そういう役柄」

 妙な言葉が聞こえた気がする。

「何か俺の例え最後のおかしくなかった?」

「気のせいスケープゴー……いえ、柳生小十太」

「今スケープゴートって言おうとしなかった!?」

 スケープゴート。

 この場合は身代わりや生贄として彼女は使ったのかな、そうだとしたら小十太さんが可哀想だよ彪光。

「私は今この人と話してるの、邪魔しないでくれる?」

 理不尽に怒られて納得できない表情であるも会話の邪魔はしないようにと口を閉ざす小十太さん。

 僕らに関わってしまってから彼はよく酷い目にあってるのは気のせいにしておこう。

「じゃあそいつの知ってる事とお前らの知ってる事全部教えろ」

「いいわよ、あまり役に立つ情報は無いけど」

「えっ、彪光……それはちょっと……」

 彼女に何か一つでも情報を与えてしまったら被害も比例して拡大してしまうのではないかな。

「私達が教えなくてもいずれ情報は得る、現に異餌命のメンバーを突き止めてるのだから調べる面では私達とほぼ同じ速度を保ってたのよ」

「そ、そうだけどさあ……」

「何か、文句でもあんのか?」

「あ、いえ、そのー……」

 あまり睨まないでほしいなあ、とても怖いのです。

「メンバーはどうやって突き止めたの?」

 自分達を調べている奴がいるなどの書き込みは一切無かった、彼女は異餌命に知られずに独自の調べでメンバーを突き止めたのは素直に感心してしまう。

 僕達が調べていた時、彼女も近くにいたかも。

「説明するのめんどくせえなあ……」

「全部喋って頂戴、新蔵に殴られたくなければ」

「いたいけな女子に暴力振るうとか酷ーい、あたし泣いちゃう! うわぁぁん」

 こういう時だけ女子としての武器を発揮するのはあざとくて本来の効果は見込めない。

 彪光は新蔵の肩を扇子で軽く叩くと、新蔵は彼女を持ち上げた。

「嘘嘘嘘! 嘘だよーん、言います言います、離せよデカぶつ野郎」

 しかしこの人、一つ一つが凄い。

 泣く演技は本当に涙を流して号泣を即座に作り出すが持ち上げられた途端に涙はぴたりと止んでしまった。

 ドラマに出たらどんな役柄でもこなしてしまいそうだ。

「いでっ。落とすなよ!」

「離せと言ったから離したまでだ」

「乙女のケツを労われよなあ」

 乙女がケツとか言わないでよね。

「話の続き、いいかしら?」

「はいはい、いいですよ」

 彪光には本当にこの人は嫌そうな態度をとっている。

 何かと唾を吐き捨てて、犬猿の仲を醸し出していた。

 彼女の不満はやはり――小鳥遊家での問題から蓄積していて、取り除く事は難しい。

 だろう、も。

 かもしれない、も。

 ようだ、も。

 であろう、も。

 何もつける必要は無い、何の迷いも何かを付ける必要も無く難しい――そう、断言できるからだ。

 彼女は仕方ないと言いたげな溜め息をついた後に口を開いた。

「最初はただの偶然さ、朝に学校近くにいた生徒が電柱の影にあった焦げ茶の紙袋を持っていってな、卵を取り出してたんだよ」

「それはいつ?」

「一週間ぐらい前。何をするのかはその時は解らなかったが、虎善さんが卵を当てられたのを知って卵を投げた奴はそいつだと確信した」

「それで?」

「そいつの友達に化けて携帯電話やら何やら全部調べた、そしたら異餌命っつう奴らが出てきたから一人ずつ襲撃してリーダーを探ろうとしてたんだよ」

 この人の特技、というか、特技と言っていいのか解らないが兎に角、完璧に人に化けれる特技は感服すら覚える。

 スパイ活動にも重宝される逸材なのではないか。

「賢いだろお?」

 異餌命のメンバー一人ずつ襲撃していけばいずれはリーダーにたどり着くかもしれない。

 が、しかし――賢いかというと、僕は首を傾げて三点リーダを脳内に生成する。

「ええ、とても賢いわ。異餌命のサイトについては調べたと思うけど、今はどうやってサイトを見ているの?」

「調べた時に盗んだ携帯電話で見たくらいで今は見てはいねえ」

「ではどうして異餌命の今日の活動を知ってたの?」

「知ってもいねえ。卵を投げた奴の近くにずっといた、そしたらそいつの付近に異餌命っぽい奴らがいて、兎に角殴った」

 もし普通の生徒だったらどうするのだろう、いや、どうするも何も彼女には関係など一切ないから迷いなくやれるのか。

「ではこちらのお返し、異餌命のサイトを教えてあげる。あと入れるパスも」

 携帯電話を取り出して、彼女に手渡した。

 それを見て彼女は自分の携帯電話に何やら打ち込んで、不敵な笑みを浮かべる。

「私としてはもっと暴れて欲しいわ、異餌命が怯えるくらいに」

「当然」

「彪光……それはちょっと……」

 流石に暴力沙汰が増えるのは、こちらとして止めておきたい。

 小十太さんはもう青ざめてしまってる、これから起きるであろう暴力の嵐を知って。

「何?」

「何、って……」

「貴方は勘違いしてないかしら?」

「勘違い?」

「そう、勘違い。私は異餌命のメンバーがどうなろうと燃えるゴミを出した時にそのゴミがどこでどうなるかを知る必要が無いくらいにどうでもいいの」

 彼女が心変わりするような言葉を選んで、どう論破すればいいだろう。

 想像してもこちらが一方的に凹まされそうなのも否めないが。

「私は別に正義の味方じゃない、悪の組織を倒して平和で万歳じゃなく、平和で万歳よりも悪の組織を痛めつけて苦しめて悶えさせて泣き喚かせたいのよ」

 何をしてでも僕は君を更生させたい。

「異餌命のメンバーは確実に特定できるような情報は載ってないけど、サイトを見て異餌命の動きを把握すればメンバーは解るかもしれないわ。深く生徒に紛れ込む事の出来る貴方ならきっと見つけられるわ。それと佐々楓、彼女は異餌命に協力してるから彼女の近くにメンバーがいる可能性は高い」

「ひひ……楽しみ」

 怖い、その笑い方はものすごく怖い。

 僕の中でのトラウマが蘇る笑い方だ。

 ひそひそと彪光と何か話をした後に彼女はその笑みを保ったまま、どこかへと行ってしまった。

 一先ず、小十太さんの安全は保障されたと思われる、小十太さんはまだ警戒心を高めての帰宅だが襲われはしないので一応足取りは軽かった。

 僕達も帰路に着いた、新蔵は家の方向が違うのでその場で別れて二人きりだ。

「気になる」

「何が?」

「奴の話を聞くと、卵が入っていたのは焦げ茶の紙袋」

「そうだね、それがどうかしたの?」

「私がよく行くスーパー、今時珍しく買い物が少ない人には紙袋で渡してくるのよ。それも焦げ茶の」

 最近のスーパーはほとんどが、ほとんどがというよりほぼレジ袋ばかりだ。

 僕は彪光の行くスーパーは時々行くけどまとめ買いで量が多いのでレジ袋だ、紙袋を貰ったのはあるは思うけど数回程度。

 他のスーパーでは紙袋を使ってる店は無い、ならばその紙袋……。

「そのスーパーで卵が購入されたと?」

「しかも今月は卵の特売日が多いの」

「君の通ってるスーパーに異餌命のリーダーがいると?」

「かもしれない、少し……様子見しなきゃならないけど、それ以降にこちらから動いてリーダーを炙りだすとするわ」

 何か考えがあるらしい。

 君の考えを聞かせてくれないか――僕の質問に彪光は、

「焦らないの。そのうち、ね」

 それはとても可愛らしく。

 その笑顔はとても美しく。

 無邪気が固められたような表情ではあったけど、裏にはどす黒い何かが渦巻いているのを僕ははっきりと感じた。

 まったく……君って奴は、本当に恐ろしい子だよ。

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