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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第二部『異餌命編』:第四章
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四ノ弐

 ふと、廊下を歩いていると何やら騒がしくなってきた。

「あら? 姉さん……」

 風紀委員の鍋島さんら数名、その中に虎善さんは立っていた。

 頭には……卵は乗っていない。

 おかしいな、異餌命がさっき卵を投げつけを行ったはずなんだが。

 失敗に終わったのか? 風紀委員の何人かが佐々楓と思しき人物に何か話をしている。

「おいあれ、見ろよ」 

 新蔵が何か見つけて指差す先には、風紀委員に両肩を支えられて歩く二人の生徒の後姿。

 一人につき左右に風紀委員が一人ずつ――怪我をしたようでそれも重傷、歩くのもやっとというふらつき方。

 何が起きたんだろう……? 騒然としていて、緊張感が漂っている。

 誰もが不安そうに表情を曇らせて、よく見ると廊下の床には血痕がいくつかついていた。

 いくつか?

 いいや、結構な量だ。

 窓にも飛んでいる。

 流血沙汰? 異餌命が暴力事件でも起こしたとか?

 鍋島さんは虎善さんと近くで立っている生徒三人へ交互に話を聞いて伝えてをしており、しばらくして場所を移すようで生徒三人を連れて僕達のほうへやってきた。

 慌てて、特に悪いことはしてないが――何故か慌てて僕達は近くの自動販売機の影へと移動。

 耳を傾けて何を話しているのか聞いてみる。

「話を聞くであります、先ずどうして総生徒会長を尾行するような行動を?」

「ぼ、僕達はですね……そ、総生徒会長虎善様のファンクラブ、でして、は、はい……」

「ファンクラブ?」

 おや、ファンクラブの人か。

 まさかファンクラブに所属してる人が暴力事件を?

 見た目は皆ややぽっちゃりで温厚そうな人達ばかり、彼らが暴力事件を起こすとは考えられない。

 ファンクラブ同士でのトラブル? それとも異餌命に対してファンクラブが立ち向かって衝突したとか?

「そ、そうです、あ、僕、会員ナンバー10番なんですよ。すごいでしょ?」

「知らないであります」

「私は、会員ナンバー103番です。100番以内に入りたかったです」

「知らないであります」

「お、おいら、会員ナンバー168番です、い、今は会員証無くしちゃって、見せられないけど」

「知らないしあったとしても見せなくていいであります」

 誇らしげに会員証を見せていくが鍋島さんは心底興味無さそう。

 ……待てよ。

 今、会員ナンバー168って言わなかった?

「なあ、彪光……会員ナンバー168って小十太さんが言ってた番号じゃなかったっけ?」

「そのはずね……拾ったか盗んだかしたのかしら。どちらであれ柳生は私達に嘘をついていた、つく理由があった」

 嘘をついた理由は、尾行や写真を撮っていたのを問い質されたらファンクラブだからと言い逃れて怪しまれないため、そして虎善さんを尾行していた理由は異餌命に関わっている画像提供者であるから――と、考えられるといえば考えられる。

「尾行の理由は……一応、解ったでありますが、君達は先ほどの騒動に関わってはいないのでありますな?」

「は、はい……自分達は見てただけで、あっ、殴ってた人は女の子、女子生徒でした!」

「自分達へ寄ってきて、お前らも異餌命か、と聞いてきたけど、否定してたら風紀委員が来て、それを見てすぐにその人は逃げてしまいました」

 暴力事件で間違いは無さそうだ、しかし話を聞いていると犯人は女子生徒?

 話はまだ続いていたが、あとは周辺の様子やファンクラブについて鍋島さんが聞いていただけだったので僕達はその場を離れる事にした。

 詳細は学校の掲示板などを調べればすぐに解るだろう。

 廊下にいた生徒は数十人、掲示板を沸かせる話題としては絶好のネタ。

「私達以外で異餌命を敵視してる生徒がいるって事かしら」

「殴りかかるなんて過激な人だね」

 こちらにも過激な人はいるんだけどね。

 十分に過激といえば過激な人だけど敵視してるからといって殴りかかるまでとはいかない。

「是非異餌命全員を殴り殺して欲しいわ」

「そんなの願わないでっ。そういえばさっき連れてかれた生徒は異餌命なのかな?」

「ワタシタチも、カチコミ、ゴー?」

「やめてっ」

 アンナ、カチコミなんて言葉どこで憶えたの?

「あら、奇遇ね。何してるの? 何かしたの? 何かしようとしてるの?」

 そこへ現れたのは柳生さん、妹のほうだ。

「やあ柳生さん、なんか騒がしくて気になって見に来たんだ」

 咄嗟でもすぐに嘘をついて怪しまれないようにっこりと笑顔を出せる自分が嫌になる。

「こいつは?」

 彪光は小声で僕に聞いてくる。

「クラスメイトの柳生さん」

「柳生?」

 下から上へ、嘗め回すかのような視線の移動。

「えっ、何か?」

 彪光は近寄って、更に嘗め回すかのような視線の移動。

「貴方、お兄さんとかいる?」

「いるよ? どうかした?」

 小十太さんと僕のクラスメイトの柳生さんが兄妹かはまだ聞いていない。

 聞いてはいないけど、兄弟だろうなっていう確信はあった。

 目や鼻、かなり似ているからである。

 彪光もそう思ったからこそ兄がいるか聞いたのだ。

「同じ学校?」

「うん、三年にいるよ。兄貴がどうかした?」

「お兄さん、今どこにいるのか解るかしら。ちょっとお話があるの」

 小十太さんか確かめるつもりかな、それか彼の居場所を探るつもり?

 待ってて、と柳生さんは携帯電話を取り出して連絡。

 話し中に彪光は補足する――居場所だけ解ればいいから、自分達の事は言わないで、と。

 異餌命が関係している暴力事件も起きたばかりで用があると言われると警戒されて逃げられるかもしれない、その補足は最良。

「少ししたら帰るところだって、すぐ近くにいるんじゃないかな」

 階段を下りれば正面玄関までは数秒とかからない。

 もし帰宅するところであれば今玄関で待っていれば彼は現れるはず。

「そう、ありがと。行きましょう」

「兄貴、何かしたの?」

「いいえ、何もしてないわ。心配しないで」

 彪光はいつもとは打って変わって物腰は柔らかく丁寧に、そして優しく言う。

 気になるようで僕達の後ろをついてくる柳生さんだがアンナは振り返って、

「ヤギュー、教エテほしーモノ、あるヨー。ジャパニーズフード、コーバイ、レッツゴー」

 柳生さんをついてこさせないように連れて行った。

 本当に購買の食べ物が気になったのかもしれないが、うーん、どっちだろう?

 アンナは純粋な子だ、先の事はあまり考えず、後の事はあまり振り返らず、今を自分が思うままに動くような子。

 柳生さんが僕達の後ろをついてこられるのはこちらとしてもやりづらい、ついてこられたら何らかの手段を取っていたであろう。

「あの子も悪知恵が働くようになったわね」

「解らないよ、本当に購買への興味が沸いていて柳生さんに教えて欲しかったのかも」

「知らないの?」

「何が?」

「あの子、意外と腹黒よ?」

「「えっ?」」

 僕と新蔵は、お互いの同じ言葉を吐き出し、お互いに視線を交差させて、お互いにいつも笑顔を絶やさず純粋を固めたら出来上がったようなあのアンナを思い浮かべて、まさかねえと苦笑い気味の笑みを浮かべた。

「冗談、という事にしておきましょう」

「後味悪い言い方止めてっ」

 そういえば。

 購買は一階にある。

 すぐそこの階段を降りたほうが近いのに、アンナは反対方向へと柳生さんをつれていった。

 ……購買への行き方が解らなかっただけ、うん、そうだよな。

 僕達は階段を下りて、正面玄関へと向かった。

 今の時間は流石に生徒が多い、多すぎる、ここで待つよりも、外に出て待ったほうがいい。

 靴を履き替えて、僕達は外で待ち伏せ。

「彼の言う、少ししたらという少しは一体何分の意味を込めてたのかしら、それとも何秒? コンマ一秒だったらお手上げなのだけれど」

 待てども待てども小十太さんは現れない。

 もう帰ってしまったのかな、若しくは見逃したか。

 彪光は扇子で手のひらを軽く叩いて睨むように玄関を見ていた。

「もう少しだけ待ってみようよ」

「もう少しとは、貴方にとって何分? 何秒? コンマ一秒?」

「コンマ一秒では無いよ、僕だったらもう少しの基準は五分前後かな」

 僕だったら、ね。

「俺もそれくらいだな」

「そう、なら貴方達の基準でもう少し、待ってみましょうか」

 これで柳生さんのお兄さんが小十太さんじゃなかったらどうしよう。

 いや、自分を信じろ、というより似てる顔付きから自信を持て。

「おい、あれ」

 それから三分後――もう少しの範囲内の時間に新蔵は指差した。

 あれ、とはこそこそと歩く男子生徒。

 左右を見ては高い警戒心を見せつけ、やや駆け足気味で早く学校から出たそうな、そんな足取り。

「確保」

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