二ノ伍
頬を掻く。
呆れて無意識にとった行動である。
「君達は生徒会役員の人? その、ね、卵を当てられても凛々しく立つ総生徒会長、どうしても撮りたくてつい……」
彪光は溜め息をついた。
僕もつられて溜め息をつきそうになる。
「このファンクラブも非公認だし……写真を撮ったのもまずい? やっぱり怒られるかな?」
「……私達は生徒会では無いわ」
「そうなの? ならどうして俺を捕まえたんだい?」
「貴方、異餌命のメンバーでは無いの?」
「異餌命? ああ、あれか。総生徒会長が異餌命の標的にされてるって噂は知ってるけど違うよ。ファンクラブの会員が異餌命のメンバーなわけないじゃないか」
あの躊躇した様子は何だったんだ、紛らわしいなあ。
「ほら、会員証」
ポケットから会員証を取り出して僕達は彼は見せてきた。
ああ、確かに会員証だ。
会員ナンバー168番、意外と会員いるな。
「もういい、しまいなさい」
「生徒会じゃないとすると、君達は……ファンクラブのメンバー? 親衛隊みたいな人?」
「違うわ」
「あ、ならファンクラブに入りたい人かな?」
「違うわ」
「だったら……画像が欲しいのかい?」
「画像? それなら削除したわ」
「なんですとっ!?」
あ、本当に削除してる。
凄い速さで動く指で携帯電話のボタンを押していき、画像をどんどん削除していた。
「お、おい! やめてくれ!」
「申し訳ないですが貴方が撮った総生徒会長の画像は消えてしまいました」
まるでゴミを捨てるかのように彼に携帯電話を投げ渡した。
「申し訳無さの欠片も無い気が!」
「用は無いからとっとと家に帰って死ね」
「は、はい……」
肩を落として素直に応じる小十太さん。
「死ぬの!?」
そんなに落ち込まないで。
追い出すように彼を脇道から解放して、彼の後姿を見つつ彪光は再び溜め息をついた。
「溜め息つくと幸福が逃げるよ」
「その分幸福を得るわ、今日の夕食は豪勢にいくわよ。寿司と焼肉、買ってきて」
「駄目だよ、節約しなきゃ」
「なら無駄にから回しして落胆してるこの気分を完全に払拭できるくらいの幸福を頂戴」
「よーし、任せて。ほら、ちゅー」
その時、左右の頬に扇子による強打をもらい、最後に腹部への強打。
「こ、こ、この馬鹿!」
「冗談だよお……」
すごく痛い、けど楽しい。
別に僕がマゾヒストではなく、彼女の反応を見るのが楽しいのだ。
「あやみちゅー、乱暴よくないネー」
彪光、顔面真っ赤の図。
こういう反応。
本当に見てて楽しい。
「大胆だな」
「冗談だよ、新蔵」
「本当に?」
「半分本気、なんて――あいたっ」
新蔵のほうを見ていたら、後ろから彪光が僕の頭を扇子で叩いてきた。
彪光はそのまま背を向けて早足でアパートのほうへと帰っていく。
今日はもう活動無しなのかな?
「ほら、行ってやれよ」
「あ、うん。新蔵達は?」
「ガッコーに戻るヨー、ねねこー、帰る言ってしんぞーとてあー……。てあー、ワッセ」
てあー、ワッセ?
日本語っぽいけど外国語っぽい。
アンナは何を僕に伝えようとしてるんだ?
てあー、ワッセ……
てあーわっせ?
てあーわせ
ん? ああ、なるほど
「手合わせ?」
「そー! ソレね、テアーワセぇ~」
グッバイと、アンナは新蔵を連れて手を振る。
それじゃ、僕も帰ろう。
彪光に追いついて今日の晩御飯でも一緒に考えるとしますか。