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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第二部『異餌命編』:第二章
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39/90

二ノ陸



 次の日の昼休みにて。

 新蔵とアンナは早々にどこかへ行ってしまい、それならと僕は彪光を捕まえて一緒に食堂で食事をする事にした。

 なんか苛立ってるしさ、僕が彼女の怒りの中和剤にならなきゃ周囲に危険が及びかねない。

 本日の昼食はカツ丼。

 がっつり食べてストレス発散? カツ丼は彪光の注文である、僕は何を選ぶか迷っていたので、彪光がカツ丼なら僕もそれでいいかなっていう意味の無い便乗。

「安くておいしいね」

「そうね」

「異餌命に勝つどん、なんつって」

「五臓六腑を引きずりだして平たくして乾燥させて粉末になるまで砕いて風に乗せて無に返すわよ?」

「すみませんでした許してくださいお願いします」

 見るからに苛々してるなあ。

 いつもは上品に音を立てず食べるのに今日はがつがつとカツ丼を喉へ流し込むかのような食べ方だ。

 最後にはコップいっぱいに入った水を飲み干して、勢いよくコップをテーブルに置いて締める。

「今日はどうする?」

 僕は食べながらではあるも彼女に言葉を投げる。

 少しでも会話を多くして、彼女の心を穏やかにさせたい。

「今日はまた姉さんの尾行、あとは校内に一人配置して校内から卵を投げた奴がいたら直ぐに駆けつけられるようにしておく」

「学校、広いから難しいかも」

「音々子と連携させて姉さんを狙える位置にある部屋を教えて移動させるしか無いわね、今は」

 しかし昨日のように二階から狙うとは限らない。

 三階からかもしれないし、狙える位置とはいえ多い部屋数を考えると特定は難しい。

 あまり良い案とは言えないが、他にやれる事と言っても……何だろう。

「異餌命の被害に遭った生徒から話を聞こうかしら。徹底的に調べないとね」

「一昨日虎善さんに会った時に聞いてみたけど、秘密事項だって言ってたよ」

 生徒に聞いて回るのも、生徒数が多いのだから探すのも難しい。

「姉さんに会ったの?」

「うん、放課後にね。卵乗ってた」

 唐突に、腹パン。

「ぐふっ!? なんでっ!?」

「丁度いい腹部があった」

「丁度よくないよっ」

 もうちょっとふくよかな人のお腹を殴ってくれないかな!

 僕はやせっぽちでお腹は贅肉がほとんど無いんだからさ。

 今の腹パンはどうしてすぐに教えてくれなかったという意味を込めたもののようだ。

「姉さん、何か言ってた?」

「被害にあった生徒は何か隠してるようだった、とか」

「ふうん、気になるわ。その生徒に会うしかないわね」

 本当に君は行動力あるよね。

「あとは君の事気にかけてたよ、どう生活してるのか心配してる感じ」

「……そう」

 少しだけ、笑みを見せた。

 嬉しそうだ。

「それはいいとして」

 自分の事は置いといて、みたいな切り替え。

「異餌命の標的にされた生徒は不登校になってるのよね?」

「らしいよ、よほど酷かったのかな?」

「ならば生徒の出席簿を手に入れましょう」

「えっ? どうして?」

 彪光は溜め息をつく。

 まったく、この男……馬鹿なんだからと言いたげに。

「不登校という事は出席簿で欠席が続いてる生徒、それを探せばいいじゃない」

「あ、なるほど」

 再び溜め息をつかれる。

「馬鹿」

「すみません」

 もう本当勘弁してください、悲しくなるよ。

「他にも情報を得られるかもしれない、やるわよ」

「でもどうやって?」

「ほら、出席簿なら持ち歩いてる人がいるじゃない」

 つまり、先生から奪うという事ですか?

 言っている事がちょっとよく解らないですね。

「流石に奪い取るのは騒ぎになるかしら?」

「騒ぎにならなかったらおかしいよっ!」

「ではこうしましょ。貴方は教師一人一人にタックルをかましてその隙に出席簿を強奪」

「ふむふむ、ん?」

「そして私達へ出席簿を渡し、貴方は教師一人一人に出席簿は燃やしたと言う」

「あれ? なんかおかしくない?」

「悪くても三日間の停学くらいで済むんじゃないかしら」

「おーい、彪光さんおかしくない?」

 どうして君は良策だと言わんばかりの良い笑顔で言うのかな。

「何よ」

「僕の未来を考えてっ」

「考えてるわよ、三連休欲しくないの?」

「欲しいけど不名誉な三連休は嫌だよ!」

 昼食も終えた事だし、一先ず僕達は食器を返して廊下へ。

 相変わらず廊下は騒がしい、歩きながら話を再開させようと思ったが、彪光は口元を扇子で覆って今は話をしようとはしていなかった。

 僕は黙って彼女の隣を歩き、視線は壁に貼られている選挙ポスターへ。

 御厨さんは三年生徒会長に立候補ね、他の立候補者は五人……意外と立候補する人いるんだなあ。

 二年は更に多く、七人の立候補者だ。

 全員知らない名前、票を入れよと言われたら僕は多分この名前は良さそうっていう曖昧な印象で票を入れると思う。

 一年はまだ選挙の時期では無いが、まあ誰がなってもどうでもいいか。

 彪光は出ないようだし。

 パチン、と彪光は唐突に音を立てて扇子を閉じた。

「以前に職員室へ行った時、出席簿が目に入ったわ」

 彪光の視線の先には職員室。

「教師は皆机に置きっぱなしなのよね」

「そうなんだ」

「職員室に忍び込んで三年の出席簿を盗むわよ」

「解った、それでは僕はこれでっ」

 回れ右。

 そして前進のために第一歩、を踏み出そうとしたけど、僕の頬に扇子がめり込みぐりぐりとねじ込むように動かされていた。

「痛い痛い痛いっ」

「何も貴方にやれって言ってないわ、ほら、行くわよ」

 行くって何処へ?

 ああ、隠し部屋ね。

 僕は彪光に腕を掴まれて、隠し部屋へと連れていかれた。 

 隠し部屋に入るや豚骨の香りがお出迎え。

 何だ何だと薄暗い中、香りの元を探すと音々子さんがおり、豚骨味であろうカップラーメンをすすっていた。

 湯沸しポットをいつの間に持ち込んでいたのやら。

 照明はパソコンの光のみに頼っていて、薄暗くその中沈黙して食事を摂っていた彼女はなんか切なく見える。

 照明をつけて、その光景に僕達はどう反応していいのか困惑。

「音々子、貴方友達いないの?」

 あまりにも。

 あまりにも、寂しそうな光景に彪光は言ってしまう。

 そこは、ほら、なんかもうちょっと、遠まわしな言い方でさ。

「え? んー、いませんね」

 きっぱり言っちゃう?

「この部屋見つけてから教室よりここで寛ぐのが伸び伸び出来ていいんですよ」

「そ、そうなんですか……」

「なんかクラスメイトに興味がいかなくなって、昼休みは気がついたらここで一人でご飯食べるのが当然になっちゃいました」

 長い間ここで、しかも一人で昼食を摂っていた高校生活というのも如何なものか。

 どれほど長い間かは、この生活観溢れる室内が教えてくれている。

「そう、まあいいわ」

 いいの? ……まあ、うん、いいか。

 彪光はテーブルの前で座るや音々子さんはすかさずお茶を出した。

「ご苦労」

「でへへ」

 嬉しそう。

 僕の分もちゃんと出してくれて、本当に良い人だ。

 音々子さんはカップラーメンを食べ終えてゴミ箱へ、何か話があるのかと傍へ寄ってきたところで話が始まった。

「職員室から出席簿を盗もうと思ってるの」

 先ずは音々子さんへ説明。

「出席簿を?」

「異餌命の被害に遭ってる生徒は不登校になったから、出席簿から絞り込むわ」

「なるほど、ではやりましょう」

 僕と違ってすんなり受け入れるなあ。

「でもほら、出席簿がもし無かったら、どうするのさ。それに三年生を担当する先生の机の位置も解らないんだよ?」

「三年担当教師の席なら職員室の前の壁に座席表が貼られてるわよ」

 あ、そうなんですか。

「たとえ出席簿が無くても、教師の持ってるUSBメモリを盗めば出席簿のデータを取り出せるわ。昼休みは皆必ず机に置いてあるパソコンに差し込んだままね」

「音々子さん、随分職員室の事情に詳しいですね」

「よく先生に呼ばれてたの、もう少しクラスメイトを大事にしなさいとか説教されてたの」

 それを思い出してか、音々子さんは天井に向かって嘆息を放つ。

 うん、僕ももう少しクラスメイトを大事にしたほうがいいと思うな。

 一人でここでラーメンをすするよりは楽しい学生生活を送れるはず。

「クラスメイトを大事にとか、協調性を大事にとか、くだらない事よ。虎が牛の中で穏やかに生活しろと言われても無理な話」

「ですよねえ~」

 二人とも協調性無さそう。

 得に彪光はなんか一人で退屈そうな顔をして溜め息を時々つきつつ扇子を扇いでいる姿が思い浮かぶ。

 彼女はクラスでうまくやっていけてるだろうか。

 気になるけど、怖くて聞けない。

「ほら、話を戻すわよ」

「あ、うん。それで、盗むのは誰がやるの?」

「……誰がやるのかしらね?」

 彪光は僕を満面の笑みで見つめてくる。

「ぼ、僕はやだよ!」

「えー」

「えー、じゃないよっ!」

 何その心から残念そうな顔。

「よし、音々子。やりなさい」

「はい……」

 結末は見えていたかのように、音々子さんは縮こまりながら頷いた。

「何その態度。貴方は私がやれと言ったら火の中、水の中、土の中、雲の中、宇宙の中、マグマの中、太陽の中、どこにでも飛び込まなくちゃならないのよ? 解ってる?」

「は、はい!」

 なんか、口元が嬉しそうにつり上がりはじめてる。

「貴方は何?」

「彪光様の奴隷でございます!」

 それでいいのか音々子さん。

「そうよ、貴方は私の奴隷。だから、ちゃあんと私の希望を叶えなさい」

 彪光は扇子で音々子さんの両頬を軽く叩く。

「了解いたしましたぁ……」

 音々子さんは恍惚たる表情で彪光を見つめていた。

 なんかもうこの人、色々と駄目な気がする。



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