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僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理陀
第二部『異餌命編』:第二章
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二ノ参


 嵐のような人だった。

「一人のぺちゃぱいが天に召された」

「鍋島さん死んでないよ!?」

「今日は風紀委員も活動を一度やめるでしょうね、好都合。行くわよ」

 無線機で音々子さんに虎善さんの居場所を聞くと、虎善さんは校舎を出て学校敷地内の見回りをしてるらしい。

 僕達も外に出てあたりを探すと虎善さんを発見。

 遠くから観察するとした。

「外も選挙活動で人がいっぱいだね」

「そうね、腹パンボックスを用意して置いてこようかしら」

「やめてっ」

 ぶり返す罪悪感。

「ほら、行くわよ。自然と、ただ放課後暇つぶしに外歩いてるような感じで」

「暇つぶしに外歩くのもあんまり無いからどんな感じで?」

「そのプチトマト級の脳みそでじっくりことこと考えて」

 何その煮込むような考え方。

「僕の脳みそそんなに小さくないよ!」

「ごめんなさい、奇跡的にテニスボールサイズだったわね」

「奇跡が起きてもそれくらいの大きさしかないのっ!?」

 納得できないけど反論したら痛い目に合いそうだったのでやめておき、あんパンを食べるとした。

「半分頂戴」

「ほい、牛乳いる?」

「あまり飲みたくは無いけど、喉詰まりそうだから頂くわ」

 あんパンに牛乳は合うから美味しいと思うんだけどなあ。

「牛乳嫌いなの?」

「好きか嫌いかでいうと嫌い、あの独特な匂いもちょっとね」

「もっと牛乳飲まなきゃ成長できないよ」

「成長? 私はどこを成長させなきゃいけないの?」

 うーん、この流れ、非常にまずい。

 特に深い意味も無く成長という言葉を使ったのは失言だった。

「あ、いや……そのっ」

「胸? 胸をもっと大きくしろと? 貴方は巨乳が好きなのかしら」

「僕は……うーん……」

「確かに私の胸は大きくないわ。アンナにも負ける、姉さんにも負ける、音々子にも負ける」

 ごめんなさい、もうこの話は止めにしましょうよ。

「でも鍋島のまな板よりは私のほうが上、私の胸は確かにここにあるのよ」

「いいよ解ったって! だから触らせようとしないで!」

 強引に僕の手を掴んで自分の胸へと引き寄せるけどこのままだと僕はわいせつ罪でお縄だ。

 彪光を宥めて近くのベンチに座らせる。

 虎善さんの観察に戻ろう。

「ほら、僕らの目的を、ね?」

「……そうね」

 虎善さんはまだ目の届く範囲にいる。

 彪光は虎善さんを見て少しは落ち着いたようだ。

 あんパンを頬張りながらじっと見ていた。

 虎善さんは帰宅する生徒達に挨拶を交わしていてしばらくはその場に留まっているだろう。

 周囲には今のところ怪しい人物は無し。

 平和な放課後だ。

「卵も飛んでこないね、今日は何も起きないかな」

「まだ解らないわよ、油断しないで」

 あんパンを食べ終えた彪光は牛乳を飲み干して腰を上げ、僕も彼女についていく。

 周辺の選挙活動をしている人らの賑わいに紛れて、虎善さんとの距離を縮め、あたりを見て回った。

「アンナ達も近くにいるかな?」

「いるんじゃないかしら、あの子が飽きてない限り」

 実は新蔵とボクシングしてましたとか言ってどこかに行ってる可能性もあるね。

「それより、一人怪しい奴いるわ」

「え、どこ?」

「探そうとはしないで。学校側の木、左から三番目の陰。姉さんとの距離は近からず遠からずの距離を保ってる」

 僕は視線だけを動かしてその木を見てみると、誰かが木陰にいるのを確認。

 遠くてはっきりとは解らず、男子生徒って事くらいしか解らない。

「何だろう、虎善さんを見てるのかな?」

「手には何か持ってるわね」

「携帯電話……?」

 虎善さんに向けてるが、その動作はまるで携帯電話のカメラ機能で写真を撮っているように見える。

「写真を撮ってるとしたら、怪しいわ」

「どうする?」

「先ずは様子見」

 人数は一人、かな。

 彼の周辺には人はいない、鍋島さんが言うにはグループを作って行動していると言っていたけど彼は一人で行動している。

「あ、動いた。人ごみに紛れるつもりね。彼の後ろ側に回り込むわよ」

 他の選挙候補を見に行くような雰囲気を出しつつ彼の後ろへと回り込んだ。

 距離は三メートルほど、ちょっと緊張する。

 彼は虎善さんの近くには行くも彼女を中心に弧を描くように歩いた後にそのまま学校外へ。

「どう思う?」

「よく解らんね」

「気になるわ。学校から出るのに姉さんの周りを一周する必要が無いじゃない」

「そうだね、電柱をぐるぐる回る犬じゃあるまいし」

「貴方じゃあるまいしね」

「僕って犬なの!? いや、確かに狗な時もあるけど!」

 狐狗狸としては狗なんだよね、狗なだけに犬扱いなの?

「お手」

「わん!?」

「お座り」

「わわん!?」

 反射的に鳴いてしまったけど手は出さない。

「いい子いい子」

「おかしいよっ!」

「似合ってるわよ、狗」

 てかこんな事してる場合じゃなくてね。

 飽きた彪光は溜め息をついて、

「くだらない事やってないで、行くわよ」

 と僕は理不尽に叱られた。

 その後、また虎善さんを尾行して怪しい人物を探してはいたが結局手がかりは何も得られず、何の得られないまま時間だけが経過していく事に不安と焦燥が徐々に積み重なっていった。


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