↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らの未来に正義は無い  作者: 智恵理侘
第二部『異餌命編』:第二章
PR
35/90

二ノ弐


「解ったであります、うるさいであります」

「ま、真面目に聞くであります!」

 よく怒る人だ。

 それに独特な口調。

 怒るたびにポニーテールの束ねた後ろ髪が上下に揺れる。

 周囲の生徒は皆彼女に目を向けていた、有名な人? 風紀委員長だからかな?

 まだ一年生の僕にはこの人の知名度がいかほどのものかも、この人がどのような人なのかも解らない。

「もう行っていいでありますか? 風紀委員長殿」

「君は私を馬鹿にしてるでありますか!?」

「してないであります」

 彼女の口調を真似て、彪光は口をにんまりとさせながら答える。

 彪光、そのへんにしとかないとこの人怒るよ?

 ――いや、もう怒ってるか。

 怒りの頂点ってやつに到達する前に彪光を引き離したいところ。

「む? 君、襟を正すであります」

 ふと鍋島さんは僕に近寄って襟に手を伸ばす。

 顔が近い、吐息を感じるその距離に心臓の鼓動が少しだけ強くなった。

 僕よりもやや背は低め、女子生徒の中では低いほうに分類されるくらいの身長だ。

 小柄ではあるもこの快活さ、たじろんでしまう。

 襟をしっかりと正してもらい、彼女は満足したのか数歩下がって僕の服装をチェックし、うむと頷いた。

「生徒手帳は持ってるでありますか?」

「持ってますよ」

 持ってるのを証明するために内ポケットから取り出して見せた。

 彼女はそれを受け取り、中を確認。

「ふむ、いい名前でありますな!」

「それはどうも」

 ページをいくつかめくり、

「校則はここを見るであります!」

「ご親切にありがとうございます」

 にっこりと、満面の笑みで彼女は生徒手帳を僕に返却。

 次に彪光へ近づいた。

「服装チェックするであります!」

「なら私も貴方の服装チェックしてあげるわ」

 彪光が?

 ちょっとそれはおかしくないかい?

「まあ大変! 胸のふくらみが無いけど大丈夫かしら! ブラジャーにパッドは入れてないの!?」

「き、君は完全に私を馬鹿にしてるでありますな!」

 彼女は胸を両腕で隠して赤面。

 いやあ、可愛い人だ。

 この恥らう様子、うーん、いいね。

「馬鹿にはしてないでありますよー。ふくらみが無いのは女子としていかんでありますよー。ねえ?」

 君達の言葉戦争に僕を巻き込まないで。

「き、君もふくらみの無い女子はいかんのでありますか!?」

 だから僕を巻き込まないで。

「その……」

「いかんでありますよねえー? 男は胸の大きいほうが好きでありますよー?」

 周囲にいた男子生徒数名が頷いていた。

 選挙活動でビラを配ってる男子生徒も。

「き、君だってそんなにふくらみ無いであります!」

「有るか無いかで言ったら私はあるの!」

「どうせパッドを入れてるであります!」

「入れてないわよ! ナチュラルなおっぱいよ!」

 廊下でそんな言葉大声で言わないで。

 てか服装チェックからもう話が変わってるんだけど。

「それに最近ちょっと大きくなったのよねえ、貴方はどう? あ、聞くまでもないか」

「ぐぬぬ……!」

 勝ち誇ったように彪光は扇子を取り出して優雅に扇ぐ。

「あ! 扇子は持ち込みいかんであります!」

 この言い合いは不利だと悟ったのか、鍋島さんは扇子を見るやそちらに反応。

「何? 生徒手帳の校則にそんな事書いてたの?」

「勉強には必要の無いものであります!」

「なら総生徒会長に言いなさいよ」

「そ、総生徒会長?」

「扇子持ってるじゃない。それとも総生徒会長の扇子は良くて私の扇子は駄目なの?」

「ぐ、ぐぬぬ……!」

 駄目だよー、彪光に言葉で挑んじゃあ。

「それに勉強に必要無いものを持ってきては駄目なら貴方はブラジャーにパッドを付けて学校に来れなくなるわよ? 胸のふくらみはこのままよ?」

「パ、パッドは今後付ける予定は無いであります!」

「そう、可哀想に……」

「そんな目で見るなであります!」

 彪光……この人三年生なんだから年上の人をあまりいじらないで欲しい。

 涙目になってるよ。

 てか早く行こうよ、僕らの目的は鍋島さんの胸について言い合う事じゃなく虎善さんの尾行なんだから。

 僕は彪光に視線を送ると、彪光は僕と目を合わせるも、扇子を左右に振って拒否の反応を見せた。

 まだこの人をいじりたりないというの?

「胸が原因で苛められてたりしない? 大丈夫?」

「大丈夫であります! 屈しないであります!」

「でも異餌命、だっけ? そんな人達もいるんでしょう?」

 胸を張って、あ、いや、胸なだけにそういう表現を選んだわけじゃないけど鍋島さんは胸を張って答えた。

「相手が誰だろうと屈しないであります! 異餌命は我々風紀委員も調査に入ってるので近いうちに絶対に解散させてやるであります!」

「ふうん、そうなの? 何か情報でも掴んでるの?」

 なるほど。

 何がなるほどかというと、だ。

「もちろん!」

「本当にぃ? 風紀委員って廊下をただ歩いて生徒になんか言って偉そうな態度してるだけでしょう?」

「ち、違うであります! 疑ってるでありますな! ならば私の活動を教えてあげるであります!」

 うまくいったものだ。

 彪光は勝ち誇った表情で扇子で頬を仰いでいた。

「総生徒会長殿は困っており、御厨殿も警護に周るも何者かによる罠に引っ掛かったと聞いて是非にと私は協力を申し出て部下数名連れて周辺警護にあたってるであります! これによって御厨殿は選挙活動に専念でき、総生徒会長は我々の厚い警護を受けられて一石二鳥であります!」

「へー。すごいすごい」

 ぱちぱちと感情の込められていない乾いた拍手を彪光は送る。

 それに対して鍋島さんはむっと表情を変えて、続けて口を開いた。

 今生徒会は選挙で忙しいらしいしね、風紀委員が協力してくれてるってわけか。

「それとですね、異餌命というサークルを知ってるでありますか?」

「ええ、知ってるわ」

「ならば話が早い、実は私、その異餌命のメンバーを捕らえようとしてるのであります! 今回の件は異餌命が関与してると思われるのであります!」

「手がかりでもあるの?」

「ええ、もちろん!」

 おお、それは是非聞きたい。

「今日も昨日に引き続き卵が投げられたのでありますが、今日私は部下と共に少し離れ、総生徒会長が見える場所で登校中の生徒を観察してたのであります!」

「で?」

「卵が投げられ、その投げられた場所は私は見ると、複数名が何やら怪しい動きをしていたのであります!」

「へえ、そいつらの顔は見たの?」

 それそれ。

 重要だよそれは。

「見てないであります!」

 駄目だこりゃ……。

「ぺちゃぱいの頭は豊胸しかないようね」

「き、君は本当に失礼でありますな! それにまだ続きがあるのであります!」

「えー、もういいわよ」

「つ、続きを聞くであります!」

「はあ……仕方ないわね」

 見事に相手に話させる流れへと誘導できている。

 彪光、君って奴はすごいねえ。

「その生徒達は行動を共にしてるようだったのでおそらくグループを作り誰にも見られずに卵を投げるよう考えて行動してたのであります!」

「ふーん、そう」

 彪光は引いて、相手がべらべら喋るのを待つ体勢を取るようだ。

 興味が失せたと言わんばかりに窓の外に広がる夕方に迎えられそうな青と橙色の空を見始める彪光に、なんとか自分へ興味を引かせようと押していく鍋島さんは間髪を容れず口を開く。

「わ、私の部下は極秘に風紀委員の腕章をつけず一般生徒に紛れ込んで、異餌命が活動しやすそうな場所の調査、異餌命との接触、若しくは現行犯で捕らえるチャンスを窺ってるのであります!」

 極秘って多くの生徒がいる廊下で言っちゃっていいのかな。

「へえ、それはすごい活動ね。警察みたい」

「どうでありますか我々風紀委員の活動は!」

 ほこらしげ。

「ええ、すごいわ。極秘の情報を大声で廊下で言いふらす風紀委員長様はすごいであります、部下らしき人が貴方の後ろで驚愕した顔をしてるわね」

 表情が固まり、先ほど自分で話した内容を脳内再生しているのか、数秒後にて、

「……はっ! しまったであります!」

 鍋島さんは自身の失態に頭を抱えた。

「図ったでありますな!」

「貴方が勝手に言っただけだし、私は知らないでありまーす」

 鍋島さんの部下らしき人が二人やってきて、鍋島さんに微笑みかけているも明らかに怒気が感じられ、鍋島さんは縮こまる。

「会議をしましょう、緊急の」

「わ、わかったであります……」

 両腕を掴まれ連行されるその背中、何だか悲しい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。