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異世界美容外科医 ~美しくなりたい彼女たちと、俺のクリニック経営~  作者: シャロン=ミ


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46話 新時代への第一歩

バルトロメウスが王立騎士団に連行され、長きにわたった審問は幕を閉じた。


大聖堂前の広場を覆っていた熱気は収まりつつも、集まった人々は皆、異世界の真の医療——『美容形成医療』という新たな概念の誕生に興奮を隠せない様子で語り合っていた。


片付けを終え、会場を後にしようとする雄介たちの前に、数人の人物が立ちふさがった。 豪華なローブを着た治癒術師ギルドの若者たち——十代後半から二十代前半ほどの若い治癒術師や術士見習い数名だった。


雄介は一瞬、警戒して足を止める。 (またギルドからの嫌がらせか……?)


だが、若者たちは互いに顔を見合わせた後、意を決したように深々と頭を下げた。


「相澤先生……!」


思いがけない行動に、雄介だけでなくアリアやミーナも目を丸くする。


「……何の用だ?」 雄介が尋ねると、先頭に立った若い治癒術師が、震える声を絞り出した。


「お、俺たちにも……教えてください!」


「何をだ?」


「手洗いを……! 感染症のことを! 解剖学を……! そして、患者さんを正しく『診る』ということを……!」


青年は顔を上げ、真直ぐな目で雄介を見つめた。


「俺は……ギルドで教え込まれるまま、ただ魔法で患者の傷を塞ぐことしか考えていませんでした。『浄化』を唱えれば清潔だと思い込み、治らなければ患者の魔力が悪いのだと信じ切っていた……。でも、今日の先生の手術を見て、初めて分かったんです。患者の身体を理解し、構造を整え、心の底から救う……『治す』っていうのは、そういうことだったんですね!」


青年の言葉に、後ろに控える若者たちも大きく頷く。 そこには、バルトロメウスたち旧態依然とした幹部たちが固執していた既得権益や権威への執着は一切なかった。ただ純粋な、医療者としての情熱と知的好奇心が溢れていた。


雄介の唇に、自然と笑みがこぼれた。


「だったら、いつでもクリニックに来い」


「え……いいんですか!?」


「患者を助けたい、もっと良くしたいって気持ちがあるなら、俺は誰にだって教えるよ。ただし——手洗いと解剖学の勉強は、相当厳しいぞ?」


「はいっ! 喜んで勉強させていただきます!」


若者たちは歓喜の声を上げ、何度も頭を下げて去っていった。 その背中を見送りながら、アリアが静かに微笑む。


「……先生。いずれうちのクリニックだけでは、彼らを受け入れきれなくなるかもしれませんわね」


「そうだな。いずれは小さな『学校』のような場所が必要になるかもしれない。この世界に、正しい医学を広めるためのな」


一つのクリニックから、やがて世界を変える教育の場へ——。 雄介の胸に、未来への新たな展望が静かに芽生えていた。



夕暮れ時。 緋色に染まる王都の街並みを抜け、雄介たちは久しぶりに我が家である『AIZAWA skin beauty』へと戻ってきた。


「ふう……緊張した〜! でも、勝てて本当に良かったですね!」


ミーナがのびをし、アリアが冷たいお茶を淹れる。 そこへ、扉が勢いよく開き、受付のデスクからミーナが抱えきれないほどの紙の束を持って走ってきた。


「せ、先生ーーーっ! 大変ですっ!」


「どうしたミーナ、そんなに慌てて」


「これ見てください! 審問が終わった直後から、予約の使者が次々に押し寄せてきて……! 予約票が、机に収まりきらないくらい増えてます!」


どさりとテーブルに置かれたのは、山のようなカルテと予約票の束だった。 貴族令嬢からの相談だけでなく、一般の市民、果ては遠方の街からの問い合わせまで殺到している。


「さらに『美容形成医療について学びたい』という医師や薬師からの問い合わせまで届いてますよ!」


ミーナの報告に、アリアは呆れたように苦笑した。


「……これ、明日から審問前以上の大忙しになりますわね」


「ふふっ、嬉しい悲鳴ですね! 私たち、もっと頑張らなきゃ!」


賑やかに笑い合う二人から少し離れたところで、リーナがぽつんと立ち、夕日に照らされるクリニックの内装を愛おしそうに見つめていた。


かつて「出来損ない」と蔑まれ、ギルドを追われた頃の彼女なら、「私なんかがここにいていいのだろうか」と縮こまっていたはずだった。 だが今の彼女の背筋はすっと伸び、青紫の瞳には誇りと自信が宿っている。


「……私、ここで働いてるんですよね」


ぽつりと漏らした言葉に、隣に立った雄介が優しく応じる。


「ああ」


「……王立監察院からも、正式に認められたんですよね」


「ああ。君の『生気湧出』は、このクリニックに絶対に欠かせない素晴らしい魔法だ」


リーナは照れくさそうに目元を緩め、心からの笑顔を浮かべた。


「……嬉しいです。先生に出会えて……本当によかったです」


「俺もだよ、リーナ」


雄介は執務室のデスクに向かい、一冊の新しいカルテを開いた。


ページをめくると、そこには明日以降に控えた施術の予定がずらりと並んでいる。


『ヒアルロン酸・ルミナフィラー注入相談』 『肌質改善・ルミナニードル』 『自体脂肪移植・ルミナファット施術』


雄介は万年筆を取り、インクを浸した。


「さて……明日からも忙しくなりそうだな」


ミーナが目を輝かせながら覗き込んでくる。


「先生、もしかしてまだ新しい施術を増やすつもりですか?」


雄介はペンをくるりと指先で回し、悪戯っぽくニヤリと笑ってみせた。


「もちろん。美しくなりたい患者さんがいる限り、俺たちが作れる医療はまだまだたくさんあるからね」



窓の外を見やれば、すっかり夜の帳が降り始めた王都の街並みが広がっていた。 街道灯の灯る中、新しく掲げられた『AIZAWA skin beauty』の看板を、希望に満ちた目で見上げる人々の姿があった。


「美容形成医療」——その聞き慣れぬ、けれど温かい言葉は、確実にこの異世界へと根を張り始めていた。


(美しくありたい) (若くありたい) (傷を消したい) (もう一度、自分の顔を好きになって、胸を張って笑いたい)


その切実な願いに、「贅沢だ」とか「道楽だ」などという理由で蓋をする必要なんて、どこにもない。


医療とは、ただ命を繋ぎ止めるためだけにあるのではない。 傷ついた心に寄り添い、その人が「その人らしく」輝いて生きるためにあるのだから。


(だから俺は——)


雄介はカルテに力強く筆を走らせた。


美しくありたいと願う、すべての人のために。 俺はこの世界に、新しい医療の未来を切り拓いていく。


——異世界美容医療の新時代が、今、ここに始まった。

これにて第二期終了です!

第3期は現代に通じる美容についてですので楽しみに!


ブクママークと星評価リアクションぜひお願いします!

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