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通報回数が経験値!? 全身黒タイツ(目出し帽)にならないと戦えない俺、不審者通報が多すぎて配信のアカウントが止まりそう  作者: 折若ちい


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第27話 第十階層、あるいは「本音」という名の最終採決

第九階層の「聖域」を突破した俺たちの前に、ついに最上階へと続く最後の大扉が立ちはだかった。

 これまでの階層とは違い、漂ってくるのは禍々しい魔力ではなく、どこか懐かしく、そしてひどく退屈な「古い紙と埃の匂い」だった。


「……ここが最後ですわね、阿久津」


凛子がレイピアを握り直す。鎧はボロボロだが、その表情には迷いがない。

 俺は黄金のバールを肩に担ぎ、スマホのカメラに向かって不敵に笑った(目出し帽で見えないが)。


「リスナー、見てるか。ついにラスボスだ。……出すもん出させて、さっさと飯食いに行こうぜ!」


俺が扉を力任せに蹴破る。

 

 バァァァン!!


そこに広がっていたのは、見慣れた本会議場を模した空間だった。だが、議長席に座っていたのは、先ほどの「法の番人」のような威厳のある存在ではない。

 それは、数千、数万もの「建前」と「報告書」が寄り集まって形成された、不格好な紙の巨人だった。


《最終ボス:『審議の形骸(空虚なる議長)』が出現しました》


「『……イギ、ナシ。……原案ノ通リ、決定ス……』」


巨人がそう呟くと、空間がセピア色に変色し、俺たちの動きが鉛のように重くなる。

 だが、第八階層の「長老」の時のような圧倒的な圧力ではない。それは単に「やる気を削ぎ、思考を停止させる」ような、粘りつくような退屈さだった。


「こいつ、強そうっていうより……めちゃくちゃ面倒くさそうだぞ!」


「ええ、これがこのダンジョンの核心! 人々の無関心と、形だけの議論が積み重なって生まれた『虚無』の化身ですわ! まともに戦っては、こちらの気力が吸い尽くされます!」


巨人が紙の腕を振り回す。それは物理的な破壊力こそ低いが、触れた箇所の「色」を奪い、俺たちの存在を「灰色の事務処理」に変えようとしてくる。


「『……無駄ダ。……全テハ、既定路線ナリ……』」


「既定路線なんて、俺のバールで脱線させてやるよ!!」


俺はスキル『不法侵入(強引な割り込み)』を発動した。

 まだ物語は始まったばかりだ。奥義なんて高尚なもんはない。あるのは、ただの泥臭い「カツアゲの技術」だけだ!


「白金さん、あいつの胸元に光る『本音の議事録』が見えるか! あそこだけ紙が黒く汚れてやがる。あそこが弱点だ!」


「わかりましたわ! ですが、敵の『無関心バリア』が邪魔で近づけません!」


「なら、俺がこじ開ける! 凛子ちゃん、俺の背中を踏み台にしろ!」


俺は四つん這いになり、地面にバールを固定して「踏み台」になった。

 聖騎士が不審者の背を蹴って舞い上がる。この不条理な連携こそが、このダンジョンの攻略法だ!


「はぁぁぁぁ!!」


凛子のレイピアが、巨人のバリアに亀裂を入れる。

 その隙間に、俺は全力で黄金のバールを投げつけた。


「当れぇぇ!! 『物理的強行突破』!!」


バールは回転しながら巨人の胸元に突き刺さり、積み上げられた「建前」の紙束を強引に引き剥がした。


《アビリティ『カツアゲ』成功!》

【獲得アイテム:本音の議事録、黄金の議長槌、議員定数削減の権利(仮)】


「『……バ、バカな……。……予定ニ、ナイ……!』」


胸元の核心を奪われた巨人は、支えを失ったトランプの塔のように、サラサラと音を立てて崩壊していった。

 本会議場を覆っていた灰色の霧が晴れ、窓から本物の朝日が差し込んでくる。


《永田町・魔議場:攻略完了》

《称号獲得:『国会議事堂をこじ開けた男』》


「……はぁ、はぁ。……勝った。意外と、最後はあっけなかったな」


俺は床に落ちた黄金のバールを拾い上げる。

 凛子も荒い息をつきながら、レイピアを鞘に収めた。彼女の顔には、この数時間で築かれた、不審者への奇妙な信頼が浮かんでいる。


『【速報】不審者、永田町を制圧wwww』

『同接100万人突破!! 歴史の瞬間を見ちまった』

『凛子ちゃんの「阿久津を台にする」連携、最高だったな』

『阿久津、お前これ明日からどうするんだよ……』


「……阿久津。これで、ダンジョンは消滅しますわ」


凛子が朝日の中で俺を見つめる。

 

「貴方は……やはり犯罪者です。ですが、今日だけは、この国を救った『不審なヒーロー』として、見逃してあげなくもありませんわ。……もっとも、警察が貴方の身元を特定するのは時間の問題でしょうけれど」


「へへ、そいつは助かる。……でも、俺の『不法侵入ライフ』は、ここからが本番なんだよ。日本にはまだ、こじ開けなきゃいけない『不自然な扉』が山ほどあるからな」


俺はスマホのカメラに向かってピースサインを作り、そのまま議事堂のバルコニーへと出た。

 眼下には、朝日に照らされた東京の街並みが広がっている。


「リスナー! 永田町攻略編はこれにて完結だ! だが、俺のカツアゲ配信は終わらない! 次のターゲットは……そうだな、あの『誰も入れない禁断の巨大企業』か、あるいは『地図から消された廃村』か……」


「ちょっと、勝手に次を決めないでください! 私が貴方を監視エスコートすることを忘れないで!」


凛子が呆れたように、しかしどこか嬉しそうに俺の隣に並ぶ。

 聖騎士と不審者の、あまりにも不条理なバディ・ストーリー。

 

 舞台は永田町から、再び混沌とした「現代日本」の街中へと移る。

 俺のバールが次にこじ開けるのは、一体どこか――。

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