第19話 第四階層、あるいは「派閥」という名の包囲網
「……三階のボス、意外と弱かったな。ただのデカいスピーカーだったし」
第三階層を突破し、俺たちは第四階層へと足を踏み入れた。
だが、そこは今までとは全く異なる光景だった。
廊下の中心に、巨大な『円卓』が並んでいる。
そしてその周囲には、壁のように高く積み上げられた「高級な料亭の膳」が迷路を作っていた。
第四階層『派閥の迷宮(密室の談合)』。
ここでは、空気そのものが煮詰められたウナギのタレのような匂いがし、視界が常に琥珀色の「高級酒の霧」で霞んでいる。
「阿久津、気を付けて。ここからは単体の魔物ではなく、『集団』で襲ってきますわ」
凛子の予言は的中した。
霧の向こう側から、カチャカチャと「お猪口」を叩く音が響いてくる。
「『……ウチの……ウチの若い衆を……ヨロシク……』」
「『……コノ、アンケンは……トオサナイ……』」
現れたのは、黒塗りの重厚な「座布団」に乗って宙を浮く魔物、『派閥・リッチ』。
彼らは数体で円陣を組み、俺たちの周囲に「会食」という名の結界を張り始めた。
「うわっ、なんだこの結界! 身体が重い……まるで、断れない飲み会に強制参加させられてるみたいだ!」
「これが派閥の圧力……! 私の聖なる光すら、彼らの『調整』によって無効化されていますわ!」
リッチたちが杯を掲げると、俺たちの足元から大量の「煮物の化け物」が這い出してきた。
絡みつくレンコンの蔦、爆発する里芋。
「リスナー! 助けてくれ! 俺、こういうドロドロした人間関係が一番苦手なんだよ!」
『【悲報】不審者、人間関係の構築に失敗』
『阿久津、お前はもともとボッチだろw』
『派閥リッチの攻撃「根回し(スタン)」に注意!』
『凛子ちゃん、早くその結界を壊して!』
「……不審者、耳を貸しなさい。彼らの結界を破るには、内側から『異分子』を投入するしかありません。……貴方のその、一番不潔で、一番空気が読めない攻撃をぶち込みなさい!」
「不潔って言うな! ……よっしゃ、空気を読まないのは俺の得意分野だ! 新奥義……『不法侵入(宴会ぶち壊し)』!!」
俺は黄金のバールを地面に突き刺し、結界の境界線に向かって、バールを回転させながら突っ込んだ。
ガガガガガッ!!
高級な座布団が裂け、リッチたちの「調整」が乱れる。
俺はそのまま、一番偉そうなリッチの懐に飛び込み、その胸元に光る「派閥のバッジ」をバールでこじ開けた。
《アビリティ『カツアゲ』発動!》
【獲得アイテム:高級日本酒(MP回復)、裏帳簿、秘書の連絡先】
「『……ナ、ナイフ、コンダ……!?(内紛だ!?)』」
リッチたちが混乱し、同士討ちを始めた。
その隙を逃さず、凛子が跳躍する。
「汚れた談合は、私の剣で清算します!『聖騎士の断罪一閃』!」
白銀の閃光が迷路を焼き尽くし、料亭の壁が次々と崩落していく。
リッチたちはその光に耐えられず、煙となって消えていった。
「……ふぅ。酒の匂いで酔いそうだったぜ」
「……阿久津。貴方、さっき『空気を読まないのは得意』と言いましたわね。……あれ、少しだけ感心しましたわ。貴方のような、何にも縛られない自由な不審者が一人くらいいても、この国には必要なのかもしれませんわね」
「……え、白金さん。それ、今、俺のこと褒めた? デレた?」
「……殺しますわよ? 早く次に行きますわ。五階は……もう目の前です」
凛子が顔を逸らし、足早に階段へ向かう。
俺はその後ろ姿を追いながら、黄金のバールを肩に担いだ。
第四階層突破。
残るはあと六階層。
俺たちの「不審者配信」は、永田町の深淵へとさらに潜っていく。




