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中古系異世界へようこそ!  作者: 高砂和正
3章 『中古系異世界へようこそ!』
52/57

52 トリッパー、大地に立てない!

「――――――――」


 何事か言った。

 パンツ一丁で濡れた全身を乾かしていた金髪の少年は、干していたボロボロの衣服を纏うと街の方へと向かっていく。

 この世界に転移して来たばかりの少年、さとがわたかとしはそれを背の高い草の影からじっと見つめていた。


 全身ががたがたと震えていた。


(な、何だったんだあいつ。ぎ、銀髪のねーちゃんに、こ、殺されたと思ったら、色が変わって起き上がりやがった……)


 女神に送り出され、この世界に来て最初に見たのがその光景であった。

 前の世界を含めても初めて目にする暴力による殺人と、胸糞悪くなる明らかな快楽目的の死体損壊。

 それだけでもショックだったのに、加害者の女が去っていった後、茶色の髪に色黒の肌の少年の死体が突如として金髪に白い肌へと変貌したのである。

 殺されたはずの少年は仰向けになったまま号泣し、絶叫した。

 起き上がってからは川まで彷徨い、そして去っていった。

 郷川はそれをずっと隠れ見ていた。

 数時間に渡り目を離せずにいたというのに、せっかく獲得したステータスチェック能力を使って素性を確認するのも忘れてしまっていた。

 

 少年が去ってから数分程経過した。

 非現実的な光景を見た衝撃からようやく立ち直った郷川は、


(……オート復活とか、変装魔法とか使ってたってことか? もしそんなのがあのボロ着てた奴でも使えるっていうならすげえけど)


 どうにかゲームや小説的に解釈しようとする。

 しかし、逆にあの金髪の少年はそういったゲームでは高レベルにならないと使えなさそうな魔法か何かを扱える実力者である可能性も有ることに気付く。


(そしたら、茶髪だった時に殺されたのも演技だとか、俺に気付いて変な行動して見せて撹乱させようとしてたかも知れない? 考え過ぎかな……?)


 不安から裏を勘繰る。


(くっそ。最後のチートは心を読める能力とかにすれば良かった)


 今更ながらにその選択肢を思いつく。

 強奪、能力閲覧、そして精神操作あるいは閲覧。

 それこそが真の最強セットだったと郷川は後悔した。


(……とりあえず、あの金髪が行った方は止めとこう)


 そう方針を決め、アイテムボックス(仮)のチートを発動させる。

 空中に開いた穴に手を突っ込み、金髪の少年を追跡するうちに偶然拾った安っぽい巾着型の袋を引っ張り出す。

 金髪の少年が去った後の岩が丁度良さそうだったので、中に入っていた物を取り出して広げて見る。


(すげえ、ありがてえ。安そうだけど普段着っぽい服に、ナイフ、火打石、餅みたいなの、干し魚、干した野菜、竹の水筒、塩……)


 誰が持っていた物なのか分からないが、まるで初心者の旅行セット一式とでも言うべき物が揃っている様だった。


(神様の贈り物かも知れない。有り難く使わせてもらおう。お、これは財布か?)


 財布の中を見ると、1万円札に似た紙幣が20枚程入っていた。使われているのは日本語とアラビア数字。人物画の部分は見知らぬ禿頭の人物だった。


(……日本の1万円札みたいに精巧じゃないけど、明らかに文化が共通してる。多分俺より前に来た転移者か転生者が内政したんだな)


 多少は文明化されているかも知れないことは頭に入れると、郷川は自分の着ていた学ランから袋に入れられていた普段着に着替えて、学ランはアイテムボックス(仮)に。残りは全て袋に仕舞っていく。


(靴がスニーカーなのと日本人の顔なのはしょうが無いか。……でもまあ、黒髪黒目が伝説の勇者と同じ特徴とかだったりもするし、考えても仕方ないだろ)


 そう思い、郷川は袋を肩にかけて歩き出した。











 2時間程歩き、郷川は金髪の少年が向かった方とは別の市街地に到着していた。

 

(あんまり人がいないな。……しかし、マジで内政進んでやがるな)


 すれ違う人や建物等は彼のイメージする中世欧州系のファンタジーっぽいが、どこか幻想的ではない「白々しさ」を感じる街並みだった。

 地面には煉瓦のような素材が敷かれた整備された道が広がり、光源は電気ではないかもしれないが街灯が並んでいる。

 看板等に使われている文字は漢字、ひらがな、カタカナ、アラビア数字にアルファベットで、未知の文字体系を探そうにも見当たらない。


(日光江戸村ならぬ、〈日本異世界村〉とかそんな設定でも可笑しく無い光景だぞ……)


 郷川は自身の活躍の価値が脅かされる可能性をじわじわと感じながら、案内板に記された〈冒険者役場・ウィケロタウロス壁西支部〉へ向かって足を進めていた。

 最初は「ギルド」の文字を探したのだが、対応しそうな施設がそこしか見当たらなかったのだ。

 異世界物の小説に慣れ過ぎた郷川には、この世界における「冒険者ギルド」が「半公的な管理組織」ではなく、実際に遊んだ事が無いMMORPGで扱われる方の「独自性の強いプレイヤーの寄り合い所帯」に近い存在であることが想定出来なかったのである。 

 

 しかし、そうして辿り着いた冒険者役場の建物はやはりと言って良いのか、郷川にとっての「冒険者ギルド」の概念に近い雰囲気を持つ建物だった。

 中に入って見ると、受付のカウンターで空間の仕切られた広い部屋となっていた。


(やっぱり、ここも人いない……)


 彼の思う、喧騒に包まれた冒険者用施設としての姿は無かった。

 居たのは衝立で仕切られた受付で事務作業をしている女性職員と、その近くのテーブルで酒を飲んでいる冒険者が一人だけだった。

 冒険者はテレビで見た自衛隊員のような装備をした、頭の辺りが禿げ上がった白髪の老人。

 女性職員はOLの様な制服を着た耳の長い女性だった。


(え、エルフだ! すげえ、マジで美人だよ。……あ、この世界はエルフのおっぱい小さい系異世界か。残念……)


 心中の興奮を顔に出さないよう苦労していると、


「おう、おたけ。客来てるぞー」


 郷川に気付いた老冒険者が言った。


「え、今日にですか? いらっしゃいませー!」

「あえ、は、はあ……。ども……」 


 お竹と呼ばれた女性職員は郷川の方を向くと、いかにも日本人的なサービススマイルと共に会釈して見せた。

 風貌だけはエルフだというのに、あまりに見慣れた仕草であったために困惑する。


「……あれ、リアクターの方ですか?」

「リアクター?」


 郷川をまじまじと見ながらお竹が言うが、郷川はその言葉の意味が分からなかった。


「うぅん、違いましたかね?」


 首を傾げてお竹が老冒険者の方を向いて言うと、視線を合わせた老冒険者は人差し指を立ててくるくる回した。

 合図だった。

 衝立で郷川からは見えない位置で、お竹は自身の〈お竹・フリムラン〉と書かれた名札を外した。


「こちらの支部では初めてのお客様ですよね。御登録で宜しかったでしょうか?」


 にこりと笑って言う。


「そ、そです」

「ではこちらへ」


 促され、素直にお竹の対面の席に郷川は座る。

 緊張に加え、街の雰囲気や彼が転移する前の日本と変わらないようなお竹のサービス的な態度に混乱し、当初彼が想定していた「主人公らしい」態度等と言うものを維持することはまるで出来なくなってしまっていた。


「冒険者役場、ウィケロタウロス壁西支部へようこそ! 私は受付担当のフリムランと申します」

「こ、これはどうも御丁寧に……」

「御登録に関し、まずはこういった書類を――」





 






「はい、有難う御座いました!」


 名前や適当な出身地、出来ること等を書類を書き終えると、ニコニコしながらお竹が言った。

 勿論、本当の事は書いていない。名前も姓名順を逆にした物をカタカナで書いている。

 

「あ、あの、質問いいすか?」

「ええ。何でしょうか」


 自然体のお竹に対し、郷川は少し緊張した表情で訪ねた。


「……俺みたいな黒髪黒目の人間って、結構いるんですか?」

「んー? 多くは無いですけど」


 お竹は首を傾げながら言う。

 動揺した様子は無い。

 まるで、そう言われた時の対応を決めていたかのように違和感が無かった。

 

「お友達のニコラウスさんなんか黒髪黒目ですもんね」

「ん、ああ。奴は確かに黒髪に黒目だな。まあ、居なくは無いってくらいだなあ」


 お竹が老冒険者に話を振ると、適当に、しかし嘘を言ってるようには見えない態度で応えた。


(ニコラウス……、外人か。ここで日本人の名前が出て来ないなら、大昔に内政だけしてその後居なくなったとかかな。だったら……!〉


 少し気が楽になる。


「あ、そうだ!」


 顎に手を当てて考え込んでいると、お竹が声を出した後に執務スペースから奇妙な形の器具を運んで来た。


「これは……?」


 木製で、縦横50センチ程度の厚い板のような形状をしている。

 お竹は自分の側に有るスリットからA4サイズの紙を差し込み、両側面のダイヤルを使ってさらに引き込み、固定する。

 上面には手形が描かれており、お竹は郷川にそこに手を合わせるように言った。

 それに従って手を合わせると器具が淡く光り始める。


「すいません、5分程そのままでお願いします」

「あ、はい……」


 素直に頷くが、流石に手持ち無沙汰になる。


(……そうだ。ここはオタケさんの能力を見させてもらうか)


 思いつき、お竹の指先辺りを注視しながら能力を閲覧する。


『個体名称:お竹・フリムラン

 年齢:56歳

 性別:女性

 人種:五精系青精種

 職業:冒険者(引退)lv.5 受付嬢lv.3


能力値  

 体力:3(22/30)

 持久:5(30/57)

 制御:7(54/82)


 腕力:1(12/84)

 器用:8(57/67)

 耐久:2(25/78)

 敏捷:6(43/65)

 魔力:7(32/80)

 運気:5(--/--)

 技量:-(42/99) 

 精神:-(65/99) 


魔力適正

 神威:霊威:界威=7:1:9


特記

 スクエアスロットlv.5

 弓戦闘lv.4

 剣戦闘lv.2

 一般魔法・攻・界理lv.3

 狩人lv.4

 etc……』


(わ、分かりにくい……)


 ずらりと視界に表示されたデータに郷川は顔をしかめた。

 見た目通りでない年齢と元冒険者であることくらいは分かったが、エルフではなく青精種という妙な人種名であることが気にかかった。


(お竹……? 江戸時代とかの女の人みたいな名前だな。括弧の前と中の数字は何なんだ? 特記の中のスキルっぽいやつくらいしか参考にならないぞ……)


 特に、能力値が非常に理解しづらい代物だった。

 

(初めての能力使用だし仕方ないか。慣れて行けばきっとどうにかなるだろ)


 そう思い、ついでに老冒険者の方も閲覧する。


「……!?」


 しかしその瞬間、頭に酷い痛みが走った。


『個体名称:-抵抗、閲覧不可-

 年齢:75歳

 性別:男性

 人種:-抵抗、閲覧不可-

 職業:冒険者lv.9

 状態:-抵抗、閲覧不可-


能力値  

 体力:4(77/60)

 持久:5(63/59)

 制御:2(74/30)


 腕力:4(82/55)

 器用:5(87/53)

 耐久:5(69/48)

 敏捷:5(76/43)

 魔力:2(66/17)

 運気:1(--/--)

 技量:-(97/99) 

 精神:-(69/99) 


魔力適正

 神威:霊威:界威=10:5:2


特記

 効率思索lv.7

 スクエアスロットlv.9

 源世界知識lv.4

 戦域把握lv.7

 武具戦闘・万能lv.8

 その他魔法・万能/神令lv.7

 etc……』


(な、何だ? 抵抗に、閲覧不可? ……そういう、対閲覧用のアイテムとか持ってたのか?)


 右手を器具に当てたまま、郷川は頭痛に耐える。

 一方で老冒険者は見られていることに気付いた様子も無く、酒を飲み続けていた。


(……このレベルってやつ、上限は分からないけどこっちの爺さんの方が受付のエルフよりは上か。上限が10くらいなら相当な実力者ってことになるな……)


 心中で老人に対する警戒レベルを上げていると、丁度手を当てていた器具の光が収まっていく。

 

「お、終わりましたね」

 

 お竹はそう言うと、器具の横に付いているダイヤルを回し、中に入れられていた紙を押し出させた。

 郷川からはよく見えなかったが、紙には漢字とひらがなの三つの文と、それに対応してカタカナでルビが振って有るようだ。

 お竹がそれを一覧すると、にこやかな表情が抜け落ちて行った。


「ど、どうしたんすか?」


 郷川が訪ねるが、お竹は応えずに立ち上がり、つかつかと速歩きでカウンターの向こうから客側スペースに出て来た。

 無表情なお竹が立っているのは、郷川と出入り口の間である。

 逃がさないための位置だった。


「永田さん、確認が終了しました。トリプルホルダー、その内のPA二つが犯罪記録の残る高次警戒対象クリミナルです」

「え?」


 明らかに日本人の名前。

 しかし、それは自身を呼ぶ物では無く郷川は呆けたような声を出した。


「おう」


 代わりに応えたのは老人。

 現代日本の同年代はおろか、若い1流のアスリートでも出来ない動きで郷川に飛びかかり、一瞬のうちに腕を極めて床に少年の顔を叩き付けた。 

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