43 イグゾースト
二つの影の交差。金属の激突音。呼気と詠唱。
祈念札・闘式が構築した結界の内側で、丘崎とマーティンは幾度も刃をぶつけ合い、魔法を撃ち合う攻防を繰り返していた。
方向性は真逆だが、偶然にも2人とも接近戦寄りの万能型に近いスタイルであり、戦闘の間合い自体は噛み合っていた。
柔軟性と粘り、技巧の面では現時点でも丘崎の方が上回っている。
だが、スピードとパワーにおいてはマーティンの方が上。
現在の拮抗は、その上で互角であるということだ。
丘崎の方から見れば柔良く剛を制している形だが、実態はどちらが良いという話ではない。
集中力の持続性等を考慮すれば、マーティンの粗い神令頼りの方が圧倒的に楽で、精緻な制御を求められるお柚直伝の霊法を使う丘崎は不利だった。
「〈スターフォール〉!」
風切音が、耳障りな金属の擦過音と入れ替わる。
丘崎は創作世界の巨剣による上段からの振り下ろしを中巻柄の両手剣で受け流した。
神令による補助で強化された一撃は重く、まともに受けなかったにも関わらず、丘崎は腕の痺れを感じて距離を取る。
左腕を軸に〈五行魔力球〉を構築。
「〈バリア〉!」
(構うかっ!)
射撃を察したマーティンが対魔障壁を構築するが、無視して上から魔力弾を叩き込む。
低威力の丘崎の魔力弾は障壁と相性が悪く、悉くが弾かれて霧散してゆく。
だが、魔力弾を撃ち続けたまま駆ける。
疾走しながらも、霊法の外殻によって射線はマーティンに合わせられていた。
(物理と同時なら、どうだ!?)
中巻柄の両手剣をスロットに仕舞い、空いた右手で足元の砂土を掬うように削り取って投げつけた。
「がああっ!」
対魔障壁ををすり抜け、眼潰しの砂土がマーティンの顔面に直撃する。
視界を潰されたマーティンは対魔障壁を維持しつつも怯んだ。
(獲った!)
再度、中巻柄の両手剣を展開する。
普通、武器に霊威を注ぎ込んで強化するのは数秒はかかるが、スロットに入れた武具の切替を多用するニコラウスやお柚の指導により、丘崎のそれはかなり早くなっている。
距離を測って連射を止め、掴んだ中巻柄の両手剣に突撃の勢いを乗せる。
「〈リフレッシュ〉!」
(っちぃっ!)
マーティンの状態異常解除の神令が、顔面、特に目に進入した土砂を消滅させる。
涙腺の状態や眼球の浸透圧すらも無効化、強制的に平時の状態に戻せる神令の効果は地味に驚異的だった。
「卑怯者がっ!」
(止められない! クソッ!)
近づけまいと闇雲に振るわれる創作世界の巨剣に、勢いを殺すことが出来ずに真正面から中巻柄の両手剣を叩きつける。
刀身がぶつかり合い、火花が散った。
「ぐ、うううううううぅっ!」
全身で押さえ込もうとして呻く丘崎。
全身の血管が破裂するかという程に力を込めていた。
腕力、強化の度合い、剣の重量、素材、丘崎の方が圧倒的に不利なつばぜり合いだ。
硬度にして最高の白魔鋼を使っているモギレフスキー社製の創作世界の巨剣に対し、炭素鋼の中巻柄の両手剣では差が有り過ぎた。
ぎしぎしと音を立てる二つの剣。
丘崎の中巻柄の両手剣の刀身に、わずかに創作世界の巨剣の刃がめり込んでいた。
丘崎が纏わせているのは強度確保のための〈金気〉だ。対白魔鋼で最も有効なのは〈火気〉だが、出力差で相剋を覆す〈火虚金侮〉になることを恐れている。
しかし、いつ剣もろともに丘崎が真っ二つにされても良いような条件だと言う事を考えると、これでもまだマシな方だ。
鍔迫り合いで済んでいるのは、丘崎の特化して鍛え上げられた体重移動技術によるものだった。
「潰れろ! 〈ピースメイカー〉!」
マーティンが新たな神令を叫んだ。
〈ピースメイカー〉は抵抗力を奪う神令だ。
踏ん張る力や意志を減衰させ、守勢に指向している相手を一時的に脆くする。
抵抗の練習にニコラウス等から幾度か掛けてもらった事も有るが、精神面にも干渉してくるため非常に対応が難しかった。
(不味いっ!)
押し出すように振り抜かれる創作世界の巨剣。
抵抗しそこなった丘崎が身体ごと吹き飛ばされ、結界の端近い煉瓦板の壁の建物に叩きつけられた。
同時に、限界に達していた中巻柄の両手剣の刀身が砕け散る。
「がはっ!」
丘崎は息を絞り出され、ずるずると地面に落ちた。
ぶつかった背後の煉瓦板が割れているが、鎧のように纏っていた魔力のおかげで丘崎にそこまでのダメージは無い。
だが、かつて同型の愛剣を破壊された相手に再び主武器を失わされた事は精神的に大きかった。
嗜虐の興奮の表情をしたマーティンがゆっくりと近づいて来ることに血の気が引く。
丘崎の中巻柄の両手剣はリカッソを含めれば柄だけでも1メートルは有る。刀身を失ったため普通の剣のように構える。
(もう、アレを出すしか無いか? いや、しかし……)
丘崎は苦々しく思いながら、最早棍棒未満でしか無い中巻柄の両手剣に魔力を注いだ。
それを右肩に担ぐように構える。
マーティンとの距離はもう10メートル程。
向こうもまた、大上段に剣を振りかぶった。
「〈ブレイブ・キャリバー〉! 真っ二つになって……!」
神令の宣言と同時にマーティンの創作世界の巨剣を白い光が包み込む。
それはその場で振っても丘崎を丁度飲み込む程に伸長した、神々しくすら見える光の剣だった。
(やばいやばいやばいやばい! どう考えてもまともに食らえんだろアレは! やるしかない。いや、だからこそ……!)
「償ぇえええええええええええええっ!」
振り下ろされる。
その直前に、丘崎は中巻柄の両手剣の柄を投擲した。
投槍のように放たれた柄はマーティンの振り下ろしで微塵になるが、内包した魔力が炸裂する。
「ギャアッ!」
同時に巨剣の白い光も消費し、霧散した。
投げつけた柄はトゥレスの魔導射法から学んだ技術を応用し、魔力を流し込んだ爆弾になっていたのだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああっ!」
丘崎は叫ぶ。
絶叫で己を奮い立たせ、必殺の一撃を無効化されて棒立ちになっているマーティンに吶喊した。
スロットに仕込んでいた「切り札」にありったけの〈火気〉を注ぎ込む。
(だからこそっ! チャンスッ!)
走る。
自身の全速力ではあるが、向こうが立て直されれば終わり。
距離を詰めるまでの数歩が酷く長く感じた。
しかし、鋼の音は鳴った。
「あ?」
魔力の炸裂から視界が回復したマーティンは、妙な軽さから自分の手元を見た。
巨大な白魔鋼の刀身が30センチ程しか残っていなかった。
金属塊のような残りの刃が、一拍置いて空から落ち、地面に突き刺さった。
「俺の、モギレフスキーが……?」
「ふぅううううううううううっ!」
盛大に息を吐き出した丘崎、そしてまだ何が起こったかを理解していないマーティンの視線が合った。
丘崎が手にしているのは、まだ〈火気〉を帯びたままの灰魔鋼の三葉飾の大剣。
〈鬼の魔窟〉から出た後、モギレフスキー社の剣に対抗するためにニコラウスから借し与えられた彼の予備の剣だった。
普段は取り回しに優れた中巻柄の両手剣を使う丘崎だが、ただ振り抜くという動作を行う分には三葉飾の大剣でも全く問題無かった。
強度ではやや劣るが、五行のどの属性もそれなりに流しやすい灰魔鋼に〈火気〉を流して〈火克金〉の構図を作り神令の弱まったタイミングでぶつけた結果は、一方的な武器破壊という結末を生んだ。
前段階で一切武器に〈火気〉を使う所を見せず、また、〈蟲の魔窟〉でも丘崎に〈火気〉の使用機会が無かったことで五行的な対策をさせていなかった事も大きい。
マーティン自身の五行制御技術の問題や、愛剣に対する信頼も有ったのだろうが、神令の一時的強化を優先してその基本性能に頼っていたのだ。勝ち目の少なかった丘崎がそれを狙わない理由は無かった。
(こうなればもう、こちらが有利。ん? ……結界も崩壊していく?)
呆けた表情でブツブツと何事か呟いているマーティンを正面から外さないまま、戦闘の余波を周囲に撒き散らさないための祈念札の結界が崩壊してゆくのを見た。
恐らく拠り所だった武器を破壊されたマーティンの敗北感を感知したのだろう。
突如街中で始まり、30分近くに渡って続いた戦闘には大勢のギャラリーが発生しており、歓声を上げる者、予想を外してか悔しがる者等が居た。
(……まだ、あの人達は来ていない、か)
その中に、丘崎が待つ者達はいなかった。
(いま少し、時間を稼がないと。……? 何だ?)
マーティンが丘崎を睨みつけていた。
決闘用の結界が崩壊するほどに心中で敗北を感じたというのに、闘志、いや、攻撃性を露にした表情。
ゆらゆらと視線を周りに向け、何かを見つけてにたりと笑った。
右腕を水平に上げる。
そして、丘崎を見た。
嘲笑っている。
「〈ジェノサイダー〉ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
それは以前〈蟲の魔窟〉でも丘崎を殺すべく放たれた大出力の神令だった。
構築に時間のかかるタイプであり、マーティンの右手にスイカ玉のような魔力の塊が出来上がっていく。
丘崎はそこでようやくマーティンの射線が向かう先を見た。
目標は窓から戦闘の趨勢を観賞していた幼い兄妹だった。自分達が狙われていることを察したのか、兄の方が妹を懐に抱き込んだ。
そして、同じく気付いたギャラリーの一部が更にその盾になろうと動き始めている。
ざわりと背筋に悪寒が走る。
マーティンの放とうとしている物、向かう先、その意図、その悪意……。
ギャラリーの動き。唐突な危機に覚悟を決めたかのような表情。
(ああ……)
丘崎の脳裏に、リインの顔が浮かんだ。
約束した。
帰れば、きっと前の様に上手くやれる。
そう思う。
だが、
(……もしもお前が俺の立場でここに居れば、こう、するな)
丘崎はマーティンの魔法の射線上に飛び込み、アブドラから借りた大盾を展開した。
狙いが成ったマーティンの顔が喜悦に歪む。
丘崎は大盾に魔力を注ぎ込む。未熟ながらも白魔鋼製の大盾の前面に防護障壁が構築された所で、
(抑え込めっ!)
集束された神威の奔流が丘崎に殺到した。
「ぐっ」
障壁が魔力の流れを弾く。
だが、物理的な圧力すら伴うそれは丘崎の腕力を奪い、障壁を脆く軋ませてゆく。
「く、そ……!」
本来の所有者でない大盾の障壁が砕け散る。
盾本体の装甲も慣れない丘崎が使う事で充分な性能を発揮出来ず、歪み、中央から皹が入っていく。
「ぅああっ!」
皹から内側へと破壊の魔力が漏れ、丘崎の右手を焼いていく。
あまりの苦痛で呻きが漏れる。
が、苦痛で丘崎は手を離しはしない。
何時か途切れるだろうと思うが、それが来ない。
魔窟で強敵と戦った時とはまた違う、にじり寄るような死を実感した。
そして、ついに盾が完全に破壊され、
――〈対界侵蝕〉――
意図したことでは無かった。
今の状況で役立てられるPAでないことは重々承知しているはずだった。
使用を思いつくことすら有り得ないはずだった。
「……レベル3 開放形態……」
しかし丘崎の舌は滑るように音を流し、これまで扱った事の無い領域でPAを発動させた。
ウィケロタウロス壁南地区からいくらか離れた草原地帯。
「……!? 今の、オカちゃん?」
お柚は一瞬だけ感じ取った、良く知る感触を受けて呟いた。
僅かな間だった故にそれで連絡など出来た訳ではないが、これまでに無い深さの〈対界侵蝕〉の感応だったと思う。
「な、何だ?」
対峙していたウェイヨンも困惑したように声を漏らす。
(がんばっとるやん)
垣間見た、丘崎のこなしていた戦闘の経緯。
不器用だが生真面目な弟子の戦い振りに、お柚は自らも強敵と相対しているというのに頬を緩ませていた。
(さて、うちも良い加減やらんとな)
お柚は愛用の半月刃の斧槍を構え直す。
対するウェイヨンはマーティンの物よりさらに巨大な創作世界の巨剣。
(出来れば、更生して欲しいんやけどな)
そんなことを思う。
敵対し、〈変り種〉を嵌めて殺そうとしたウェイヨンだったが、ニコラウスが何処からか調査して来た彼の素性を思うとお柚は憎みきることが出来なかった。
――彼の両親が殺され、デヴォニッシュ夫妻に引き取られることになった強盗殺人事件について詳しく調べてもらったのだけどね、どうもおかしい。
――どんな教育を行ったか、教育を受けて不思議に思わなかったかは分からないけど、その後にデヴォニッシュ夫妻及びウェイヨン自身が行ったと思われる凶行に細部が酷似しているんだよね。
――多分、彼の親を殺したのは当時のデヴォニッシュ夫妻だ。
――犯し、奪い、殺し、その後で何食わぬ顔をしてウェイヨンの保護者に収まって、有能な尖兵として鍛え上げた。その後のデヴォニッシュ家のやり口を含む状況証拠から見て、だけどね。確度は決して低くないと僕は思う。
哀れでならなかった。
――まあ、洗脳されてリアクター化してからは喜んで様々な犯罪行為の下手人を務めたみたいだから、同情の余地が有るかはだいぶ怪しいけどね。
〈凶蛇〉もまた被害者。そう思うとお柚は非情になりきれず、1対1の形になってから投降を呼びかけ続けていた。
残念ながら、ニコラウスの調査内容の証拠をお柚が持っている訳でもないため口頭だけでデヴォニッシュ夫妻の行動を伝える訳にもいかず、ひたすら武器を交えていた。
「〈凶蛇〉のドロヴァンディ」
「何だ。〈欠陥品〉のエモニエェ……」
ウェイヨンが挑発するように言った。
〈欠陥品〉というのは十数年前、弓使いとして活動しようとしていたが期待外れになっていた頃のお柚のあだ名である。
今では〈捨弓〉 ――こちらも大概な意味合いだが―― の方が通りが良いが、お柚を侮蔑するあだ名としてウェイヨンは使っていた。
しかし、お柚はそれを気にはしない。
「もう、降りろなんて言わないわ。ただ、貴方は素晴らしい武人だった。それで十分」
「……ふん、青精人種の女の癖に貴様も腕だけは良かった。それは認めてやる。我らと道は違えたが、貴様もどこかのセトラーの係累だったに違いない」
「……それはどうも」
ウェイヨンはこれまで散々口にした、威圧的で女性を蔑視するようなことを口にしなかった。
エルフで、小柄な女で、スロットは2つも下のお柚にここまで苦戦するとは思っていなかったのだろう。
何かにつけて優秀性をセトラー関係者であることに見出す癖には閉口したが、ここに来て戦闘力だけは認め合うことが出来た。
それほど強かった。
(やっぱ、彼とデヴォニッシュ夫妻を引き離したのは良策やったな)
ニコラウスは連携を重視するが故に敵の連携を恐れた。
プライドの高さは分かりきっていたので、夫妻が遠出して居る間に現役時代のデヴォニッシュ家の3人が有していた攻略時間や、最小攻略人数といった魔窟のレコードを更新して回ることでそれを刺激。
ひたすら目障りに動き、怒れるウェイヨンが何かしら仕掛けてくるタイミングで確固撃破というのが今回の作戦だった。
迂遠ではあったが、何とか上手くいった。
「だけど、そろそろ決着をつけさせてもらうわ」
「こちらの台詞だっ!」
言葉を交わすと、霊威を全身から放出しながらウェイヨンが飛び込んでくる。
巨大な白刃が振り上げられる。
「〈マリオネットドライバ〉」
お柚は静かに言霊を乗せて口にし、その場から消えた。
「!?」
敵を見失ったウェイヨンが制動をかける。
戦闘経験による物だろうか、振り向いて背後に巨剣を振るうと激突音と共に火花が散った。
巨剣と斧槍が耳障りに鳴っている。
「き、貴様っ!」
「そう、ここで決着をつけて、あなたの戦いは、もう当分お預け……」
突進していたはずのウェイヨンの真後ろにお柚はいた。
回りこんでさらに追走するという有り得ない動きをした事になる。
「スピードは上がったようだが、パワーで俺に勝てると……ッオオオッ!?」
大人と子供程も体格差の有る競り合いで、ウェイヨンの身体が後ろにずれて行く。
全身を揺らすような体重移動。
「ウオオッ!?」
体重で自身の3倍は有る巨漢を、矮躯のお柚が吹き飛ばした。
スロットを展開、宙を舞うウェイヨンに、
「まだよ……」
分銅の付いた鎖が投げつけられる。
基本的に手から離れた物を相手に投げることが不得手なお柚だが、手元での操作が可能な物であればそのくくりから逃れられる。
ウェイヨンの右足に鎖が絡み付く。
お柚は本来トン単位の巨竜すら振り回すのだ。150キロにもならないウェイヨンは、言って見れば羽のように軽かった。
散々振り回し、鎖が解けるタイミングで投げ離す。
「ぐぅっ! くそっ!」
ウェイヨンは何とかネコの様な柔軟さで着地するが、酔いのような不快さから僅かに動きが鈍る。
何とか離さなかった巨剣を構えた時には、もうお柚が眼前に迫っていた。
助走の付いた斧槍が振り下ろされる。
武器越しに、過去にどんな魔物からも受けたことの無い強烈な衝撃がウェイヨンに伝わった。
〈金剋木〉となるはずの白魔鋼の刀身に青魔鋼の斧槍が食い込んでいるのがわけが分からなかった。
「馬鹿なっ」
「御仕舞いに、するわね……」
競り合いの途中でお柚が武器を切り替えた。
一瞬斧槍が消えたことで巨剣が空振り、直後に展開された何処にでも有るような槍の柄がウェイヨンの胸と両腕を強打する。
「グゥッ!」
予想外の攻撃。
今の振り方では慣性は乗らないはずだが、霊威の防護を撃ち抜いて全身がばらばらになるようなダメージだった。
そして、次の瞬間。
「!!」
150センチ前半の長耳の小兵が、刃渡りだけで身長を超える野太刀を両手に一本ずつ構えていた。
傲慢で自信家なウェイヨンですら、同じ前衛としてある種の美すら感じる圧倒的な量の霊威を纏っている。
「ドライバ・イグジット……」
気が付いたときには、お柚は既にウェイヨンの背後へ通り抜けた後。
ぼとぼとと音を立てて斬断されたウェイヨンの太い両腕が落ちてきた。
数分前に別所で生み出された光景に似ていた。
「〈パワード〉! 〈ショット〉! クソッ、何故発動しない! 貴様一体何を、ぎゃああああああああっ!」
「叫ぶなよ。もうずっと御近所に迷惑かけっぱなしなんだから……」
丘崎は力を失った少し疲れた表情で言うと、
「ごぅっ!? が、カハッ!」
つま先をマーティンの鳩尾に打ち込んで黙らせた。
もっとも、叫ばせた原因はマーティンの右腕を地面に縫い止めさせた三葉飾の大剣なのだが。
丘崎は全身所々から煙と焦げた匂いをさせていた。
磔にされて悶絶するマーティンから離れ、丘崎は近くの家屋の壁にもたれて深いため息をついた。
喚くマーティンを見下ろしながら、ふと近づいて来る足音を認識する。
大勢だ。
心当たりは有った。
(来たか)
「丘崎さん!」
黄の信号弾の打ち上げを知ってやって来たのは見知った顔ばかりだった。
サークルの、以前ニコラウスに引き合わされたマーティンの悪行の被害者と遺族たち、そしてその護衛を兼ねた〈魔絶の刻印〉のメンバーだ。
声をかけて先頭を走って来たのはお嵐だ。
他のメンバーは磔にされていたマーティンを拘束し、傷をふさぐだけの応急処置をしていく。
かつての仲間であるが容赦は無い。
マーティンの行いからすれば当然かと丘崎は思う。
「ほんまごめん! 間に合わんかった!」
「……いえ、大丈夫です。何とか勝ちました、から」
本当に申し訳なさそうに手を合わせるお嵐に、丘崎は苦笑して手を振る。
「なっ!? あんた手が!」
「へ?」
丘崎は、はっとして右手を隠す。
〈ジェノサイダー〉で削られて肘から先が無くなっていた。
「いやあ、すいません戦ってる時に先っちょ無くしてしまって。お見苦しい物を……」
「いやいやいやいや! 手首は先っちょとか呼ばんやろ!? じゃなくて何を謝っとんの!? ええから早よ診せえ!」
素直にグロテスクに焼かれた腕を見せた。
お嵐も熟練の治癒役である。爛れたその断面を見ても怖気づく事は無い。
「これ、痛ないん?」
「いや、痛いんですよ? ただ、ちょっと俺こういうのに鈍いみたいでして、痛いだけなら動けます」
「そういうPA持ちなん?」
「いや、それは多分無いはずなんですけどね」
「なんて子や……」
お嵐は丘崎の非常識さにため息を吐きながらも、腕の治療を始めようとする。
だが、
「まだ待ってください。流石に再生痛だと平気か分からないんで、今身動き取れなくなるのは避けたいです」
丘崎は制止し、左手でマーティンの方を示す。
拘束されながらも周囲に悪罵を投げつけ続けているようで、取り囲んでいる〈魔絶の刻印〉の制圧要員が嫌そうな顔をしていた。
お嵐は困ったように丘崎を見た。
「探してる途中、一瞬だけ俺を感知しませんでした?」
「う、うん。何かわからんけど、勘の良い人らがそないなこと言うてここまで引っ張ってきたんや」
「あれは、俺のPAの暴走の結果です。アレを利用して……」
そう言って、丘崎はふらつきながらもマーティンの方へ歩き出す。
「マーティン・デヴォニッシュに、彼の在り方に決着をつけます」




