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中古系異世界へようこそ!  作者: 高砂和正
2章 黒の猛禽たち
34/57

34 会議 

 壁も天井も大理石の壁が特徴的な、10人は席に着ける円卓が置かれた会議室。

 そこは〈泥の魔窟〉の管理スペースに有る部屋だった。

 ニコラウスの知己であるという魔窟主(ボス)に頼み、数時間だけ借りた部屋なのだという。

 この世界の人類と魔窟の実情に疎い丘崎は、魔窟主が知り合いということに呆れたりもしていた。


「〈変り種〉スタッフの丘崎です! ギルド共々、どうぞよろしくお願いします!」


 転移陣で連れて来られた部屋で待っていたのは、4人。


「あ、はい、お噂はかねがね!」


 30代前半に見える基人系白人種の男性、ウィケロタウロス領主、ハロルド・ウィケロタウロス。

 外見は50代は行っている中年ながら、種族特有の美形を保つ青精人種(エルフ)の男性、ウィケロタウロス騎士団団長、()()(さく)・ラルカンジュ。

 ハロルドと同年代に見える獣相系リス人種の男性、同騎士団諜報部部長、イータオ・サレルノ。

 20代半ばに見える幻世系竜人種の女性、ウィケロタウロス冒険者役場本部長、(よう)()・シルヴェンノイネン。


「お会いできて光栄です!」


 皆、丘崎やトゥレスのような市井の下位冒険者からすれば、縁遠い相手であった。


「ははは、有難うございます! 一層精進して行きたいと思います!」


 トゥレスは、丘崎がサラリーマンじみた腰の低い態度でせっせと名刺交換をしていく姿を指差し、


「ほら、あれが〈社畜〉ってやつだ」

「……ああ、確かに下位冒険者の内からあんなに(じょ)(さい)無くやってればそう呼ばれそうですよね。いや、私も実家に騎士団での名刺保管してますんで持ってきてれば交換はしますけど」

「あそこまで態度変わるのはなぁ」

「ねぇ」


 横にいたイルマとひそひそと話す。


「おい、聞こえてんぞ」

 

 営業スマイルを消してぎろりと睨みつけて来る丘崎に、トゥレスとイルマはふいっと視線を逸らした。











「さてぇ、それじゃあオカ君よろしく」

「はい。〈対界侵蝕(カイモン)〉を使用します。 レベル1 制限形態リミテッド


 ニコラウスに促され、丘崎がPAの使用を宣言した。

 円卓に着いた8人全員が、軽い感応で接続される。

 

「本会議はうちのスタッフ、丘崎のPAの影響下で行います。効果は情報を伝える際の誤解の低減になりますが、伝えたくない事柄に関しては個人で伝えまいと念じるようにされて下さい」


 ニコラウスの言葉に、〈対界侵蝕〉によって意志を上乗せされて伝えられた。


「この状態だと、PA保有者の俺ですら「嘘を付く」ことが出来なくなります。正しくは発言に詐称の意図が乗るので即ばれる、という形ですが。……伝えたくないことを黙秘することは出来ますけどね」


 丘崎が言う。


「……ほぉ、これは便利だな」


 ハロルドが言うと、田吾作が頷く。


「ほんまや。もし議会でこれが有れば、あほ共の揚げ足取りも封じれるで」

「……自分たちの方も小細工が難しくなりそうですがね」


 イータオが苦笑して混ぜ返した。


「PA保有者でない者同士でも意志を共有出来るのね。作用は範囲? 随分な()()()引いたわね」


 葉子は顎に手指を当てながら感心したように言う。

 セトラーとの接点が多い冒険者役場の長の彼女から見ても、丘崎の〈対界侵蝕〉は高評価らしい。

 皆、丘崎のPAの影響下に居る事の効果を理解したようだ。


「もし、依頼で呼んで頂ければ力になれるかとあだだだだだっ!」


 揉み手に営業スマイルで言おうとする丘崎の耳を、ニコラウスが摘んで引っ張った。


「こんなとこでまで商売っ気を出さないように。それでは、会議を始めましょう」


 呆れの混じった表情でニコラウスは言うと、イルマに掌を上にして向け、発言を促す。

 

「……」


 イルマの方は無言のまま、直属の上司であるイータオに目配せする。

 イータオが頷く。

 彼に対しては会議前に簡易な報告と相談を済ませているので確認程度の意図である。

 すう、と息を吸い込み、吐いた。

 緊張していた。

 所属する騎士団の中でも少しは面識の有ったイータオは良いが、ハロルドと田吾作は一部署の下っ端である彼女にとって組織内の天上人だ。

 騎士団を引退するまで関わりが無いかも知れないと思っていた相手に仕事の結果を報告するということで、少し気後れしていた。


「……ウィケロ騎士団諜報部市内課第四班所属、イルマ・ジャネス二等騎士です。今年1月より、私はウィケロタウロス壁西部に拠点を置くギルド〈鷹羽〉に潜入しての活動を行っていました」


 イルマは語る。

 非道な情報操作を行って利益を上げる〈鷹羽〉というギルドの活動と、その構成人員等について。

 活動の報告は、経験不足による不慣れ故に説明が足りない所も有ったが、丘崎の〈対界侵蝕〉の感応がそれをフォローした。

 敵対組織に侵入し、零距離で脅威を感じ続けた当事者にしか分からない危機感を、ダイレクトに伝えられるのだ。


「スロット3冒険者、トゥレス・ヤルナッハだ。今イルマちゃんが言った〈鷹羽〉のギルドマスター、ウノ・イェーガーの実弟で、幹部のホンファ・セミーナティやデリア・ホワイトリリーとも子供の時からの付き合いになる」


 トゥレスは自身の持つ情報を、イルマの報告を補助するようにして適宜提示していく。

 イルマに対しての二人称は、トゥレスの中で敬意を示すべき相手に変わったことで「お嬢ちゃん」の次は「ジャネスさん」といった呼び方をしようとしていたが、最終的に今の形で落ち着いていた。 


「恐らくウィケロでも知る者は少ないだろうが、儂とウノは兄弟揃っての転生型セトラーだ」


 イルマの言葉に、ほう、とニコラウスが興味を示す。

 しかし、この場では追求しない。


「PAは儂も奴もダブルホルダーになる。ウノは非登録だけどな。

 常時展開している〈(れっ)(こう)(きゅう)〉は固有兵装と偽って奴の代名詞として、いや、代名詞と思わせるべく情報操作を行っているが、実際には武装型PAだ。物理法則を無視して亜光速で矢を放つ力がある。

 もう一方は盗聴能力として運用出来る〈聞針(きくばり)〉という能力だ。非実体の針を人や何かしらの物体に突き刺し、盗聴の基点として扱うことが出来る。使用対象に知られずに使えるから犯罪(クリミナル)PAの分類に含まれるはずだ。

 奴は地元のカルメに居た頃も、この能力で情報を集め、他者の弱みを握っては多くの人間を傀儡(くぐつ)にしていた」


 会議に参加した領主側と葉子の計4人は、自身にその針が付着しているのではないかと僅かに焦った表情で自身の身を改めようとするが、


「大丈夫なはずだよ。……どういう理由か、うちのオカ君がPAの効果か分からないけど、(くだん)の『針』とやらの在り処の把握と処分が出来るみたいでね」

「みたいです。自分でもそんなことが出来る理由は分かりませんが、とりあえず皆さんには刺さっていません」


 丘崎が言う。

 干渉専用のPA保有者でもないのに他者のPAに干渉するなど聞いた事も無いが、感応から謀る意図は感じない。

 そして、イルマがトゥレスの話す内容を継ぐ。


「ウィケロで活動を開始してからも、ウノの盗聴は続いたと思われます。〈鷹羽〉の内部に侵入して気付きましたが、あそこに協力する冒険者や情報屋の多くは明らかに〈鷹羽〉上層部に弱みを握られていました。

 ……本心から望まずに上層部に協力していた者達に関しては、情状酌量の余地は有るかと思います」 


 どこか、懇願するような声で言う。

 顔も知らない、仕方なしとはいえ悪行に加担した者達に許しを求めての言葉だ。

 丘崎やトゥレスは、イルマの言葉に少し甘くは無いかと感じる。

 彼らの感覚からすれば、そういった者達は理由はともあれ犯罪に加担した者という扱いになるのではないかという先入観が有った。


「了解や。尋問は真偽精査の魔法を使用の下に行うやろうけど、最大限に配慮するで」


 しかし、田吾作は言った。当然だとでも言うように。

 領主の配下という立ち位置だが、この世界の騎士団長と言えば、都市内における警察組織の長の様な物である。

 そんな立場に有る者が宣言する内容にしては、丘崎とトゥレスの感覚からすれば寛容に過ぎた。

 だが、


「事情が有れば仕方有るまい。田吾作、判断は騎士団に任せるぞ」


 都市を管轄する者として最大の権限を持つハロルドすら、それを()とした。

 行政外の権力者である葉子も、それらに関して意見を挟まない。

 セトラー組の困惑の感情を察したニコラウスは、感応に伝えないようにして内心で苦笑した。


「まあ、そこらへんは()()()にやってもらうんで良いでしょ。イルマ君、続けて」


 ニコラウスに言われて、イルマは頷く。


「これが本題となります。私が潜入捜査中に偶然関わって手に入れた情報なのですが――」


 言霊を込めた詠唱のように、イルマは紡ぐ。

 脅威の実感を乗せて、


「――彼らは武力によるウィケロタウロス内の実権簒奪、事実上のクーデターを目論んでいます。これに関して今後の方針を検討して頂きたいと考えました」


 イルマは言った。


「広域に盗聴能力のPAを仕掛けられてるらしいんで、内密に話を進めるべきだと考えて今回の会議の場を設けさせてもらいました」


 ニコラウスが繋ぐ。


 イルマが語った内容に、ハロルドは田吾作と視線を合わせた。

 彼らにとって、〈鷹羽〉はともかくデヴォニッシュ家がよからぬことを企んでいるというのは不思議なことではなかった。

 デヴォニッシュ家の商家としての活動は多岐に渡り、問題も有るが共存出来れば周囲に益をもたらす物でも有った。

 そういう立ち位置にいる者達だったのだ。

 だが、それが進行しているのが「今」だということを彼らは見逃すわけにはいかなかった。


「アレだと思うか?」

「ぶっちゃけアレでっしゃろな」


 過去8代に渡って領主に仕え続けてくれた騎士団長がばっさり断ずると、若き領主は酷く億劫そうに眉間を揉んだ。


「……そうだよなぁ、狙うなら、確かに今かもなぁ」

「どういうことですか? 閣下」


 イータオがハロルドの反応に違和感を感じて問う。

 葉子の方は心当たりが有るのか、難しい顔をして黙り込んでいた。

 ハロルドは溜息を吐きながら、


「これは、いずれ発表するつもりだった話で、それまで特に内密にして欲しいんだが」


 言いにくそうに口にした言葉に、直ぐそれを確約する意思が返される。


「何が有るんですか?」


 ニコラウスが率直に問う。

 ハロルドは一つ頷き、


「うちが、……ウィケロの街が三年後の春の〈()(ほう)(だい)(ぎょう)(けい)〉の行き先に選ばれた。私もつい先日国王陛下から聞いたばかりの話なんだが、水面下では半年前から候補に挙がっていたらしい」


 ほう、と感嘆の声が上がる。

 大変名誉な話だった。

 ただ、丘崎だけはこの世界での経験が短いことから実感が沸かずに困惑する。


(ええと、〈五法〉ってのは確か……)


 聞いた覚えは有るので思い出そうとした所で、


(アレだよ。前に勉強したよね。「この世界で敵に回してはいけない存在」ってやつ)

(……ああ!)


 丘崎の戸惑いを察したニコラウスが、恥をかかせまいとこっそりと思念でフォローする。

 ニコラウスは〈対界侵蝕〉の影響下に有るのは慣れているので、集団感応を行っていても個人間の思念会話が可能だった。


 ニコラウスが世界で敵に回してはいけないと称した、〈人界五法〉


 この世界最古の皇統、龍国アガナジフの元首、〈龍皇〉

 五精系の始祖にして不老不死の現人神、〈精祖〉

 魔人国ハークステルドの王、〈魔王〉

 数多の獣相系の頂点、〈獣聖〉

 基人系の代表者、〈勇者〉


 それはこの世界の人間の中で最大の力を持つ5人のことである。

 武力でも極めて高い物を持っているが、何よりも権威の面で敵対してはいけない者達だと言われている。

〈龍皇〉はその中の代表のような位置に付いているが、基本は同格とされ、彼らが手を取り合う姿勢を見せること自体が人種間の格差を抑制するという、世界の象徴。

 信仰の対象にすらなる者達だ。

 そして、5年に一度、世界各地に散らばる彼らが一つの都市を訪問する行事が〈五法大行敬〉だった。


「国内だけでなく、近隣諸国からも五法を拝みに人が来ますねぇ」


 ニコラウスが他人事の様に言う。


「それ自体は目出てぇ話だが……」


 トゥレスに哀れむような目で見られて、ハロルドは頭を抱える。

 イルマが入手した『計画』の情報を踏まえ、


「だからこそ、今のタイミングでウィケロ中枢部の乗っ取りを企んだのだろう」


 苦々しそうな表情で吐き出すように言った。


「確かにクーデターで成立した政権や言うても、五法の方々が来はった際に御威光を利用するんやったら、国家独立すら可能になるやろな」


 田吾作が淡々と言う。

 大行敬の行き先は治める者が変わっても変更されないのが基本だ。

 そして、大行啓を利用した同様の革命じみた政権簒奪の例も過去に存在しているのだ。

 そういった簒奪政権が長続きした試しも無いが。


「でも、実際にクーデターなんて成立させられるかしら。それほどの戦力を連中が確保出来てるの?」


 訝しげに葉子が言うと、ニコラウスがぐにゃりと邪悪に笑った。


「ええ、そうなんです。奴らはそれをしくじった」


 うわ、と卓を囲む面々が顔を歪めた。

 

「だからこその今回の会議です。イルマ君、計画では来年春に領主館強襲の予定だったんだよね?」

「あ、はい。本来は丁度今頃に決行する予定だったようですが、マーティンの指名手配によるデヴォニッシュ家の混乱でずれ込んだ様です」

「ジャネス、お前がそれらの情報を得て脱出したということは、向こうがさらに予定を変更する可能性が有るんじゃないか?」


 イルマの説明に、イータオが問う。


「そこまで考えると難しいですが、私が逃げ出す前に拷問を受けた理由は「〈変り種〉に情報を流していた反逆行為」だったんですよ。

 計画については末端の私たちに明かしていなかったのでバレたと思っていないでしょうし、私が騎士団所属であることも把握している様子は有りませんでした。

 というか、クーデター計画を知って以降は()()()()ことを狙って隙を増やしたんです。マーティン関連の裏切りであそこから離れられれば煙幕になるだろうと……」

「……無茶しやがるぜ」

「ま、まぁ相応の痛い目は見ましたけどね」


 苦笑してイルマが言う。


「……そうか」


 イータオが追求を止めて頷く。

 そこをさらに悪く考えても状況は良くならない。


「恐らくですけど、〈鷹羽〉とデヴォニッシュ家は都市内のかなり広く深い所まで手を伸ばしているでしょうね。騎士団の諜報部まで奴らの挙動を掴めていなかったというのは可笑し過ぎますからねぇ」


 ニコラウスの発言にイルマが頷く。


「私や他の潜入捜査員の報告も、部長の所に届くまでのどこかで握り潰されているのだと思います。騎士団の他のところや行政内、冒険者役場でも、脅迫か金につけこまれて利用されているか、協力している者がいるはずです」

「……情けない話やなー」


 田吾作が汚染された自身の組織にため息を吐き出した。

 ハロルド、イータオ、葉子も似たような表情をしている。


「決行計画が遅れたのは、デヴォニッシュ家が集めていた戦力がマーティンの不祥事で離れたことが大きい、ということだったね?」


 ニコラウスは確認する様に言う。

 

「はい。私は〈鷹羽〉ではマーティンとの連絡員をしていましたので、〈変り種〉と〈魔絶の刻印〉の合同探索直後のデヴォニッシュ家の様子を見に行ったんですが、相当慌しくなっていたのを覚えています。恐らく間違い無いかと」


 イルマの答えに、ニコラウスが満足そうに頷く。


「……これらを踏まえ、〈変り種〉としてはデヴォニッシュ家、〈鷹羽〉が再度動く前に先手を打って叩き潰すことを提案します」


 全員の表情が緊張したものになる。


「〈変り種〉に行政、及び冒険者役場からは極秘依頼の形でお墨付きを頂きたいと思います」


 強引な選択では有るが、致し方ない事だとも思える。

 今までの情報からして、既に彼らの根回し自体は終わっているのだろう。

 今こうして悠長に会議が出来ていることすら、偶然の積み重ねで首の皮一枚繋がっていたからに過ぎない。


「仕方ないだろうな。田吾作、騎士団の方は頼む」

「了解ですわ。忙しゅうなるで」

「冒険者役場も協力するわ。……ちょっと内部汚染が怖いけどね」


 各々が了承を示す。


「そちらの部下の汚染状況を調べるのに必要であれば、丘崎を派遣します。彼は〈寂壁〉に穏行を仕込んでもらってますんで、今回のような場を設けなくても多少は街の中で自由に動き回れますから」


 ほう、と感心の声と共に丘崎に視線が向けられた。

 ウィケロタウロス全域でも、影の薄さ、……もとい身を隠す技術に関して〈寂壁〉の評価は高かった。


「……」


 丘崎は自分の名前が出たことで、チラチラと期待の混じった視線をニコラウスに向けるが、


「ギルド内から多少の報酬は出すけど、今回は個人で依頼受けたりしない事。営業もするんじゃないよ?」

「……はい」


 半眼で応えるニコラウスに、丘崎はがっくりと肩を落とした。


「東山氏、もしかしてそっちだけで動くつもりで?」


 イータオが訊く。

 今までの話の流れや口ぶりから、ニコラウスが行政側や騎士団をあまり当てにしていないことに気付いていた。


「状況を整える時間が無いですし、下手にまとまった動きをして今の流れを感づかれたく無いですからね。実動は僕らと一部協力者のみでの敵上位戦力の攻略を想定しています。……まあ、実際に叩く必要が有るのはデヴォニッシュ家の方になるでしょうけどね」

「〈鷹羽〉は所属冒険者の層は厚くないですからね。一番上でもウノのスロット5が最高ですし」


 イルマが補足する。


「らしいねぇ。だもんで、僕らで絶対に叩いておかないと行けない連中を潰す感じで行こうかと。そちらには〈鷹羽〉とデヴォニッシュ家のその他戦力を潰して回って欲しいと思います。主要人物の捕縛令も出して下さい」

「……戦力がまだ集まっていないと言っても、〈鷹羽〉はともかくデヴォニッシュ家の頭はそのままでも粒が揃っているわよ」


 眉間に皺を寄せて葉子が言う。


「スロット9の〈(まが)(へび)〉がいたか」


 デヴォニッシュ家の事情をある程度把握しているハロルドが、その脅威を理解する。


〈凶蛇〉と言うのは、マーティンの両親が冒険者時代にパーティを組んでおり、その流れで今もデヴォニッシュ家に仕えている人物だ。

 当時の彼らは国内有数のパーティであり、〈凶蛇〉個人は驚異的なペースで功績を築き、若干19歳でスロット9にまで上り詰めた猛者である。

 冒険者としては引退しているが、33歳という今の年齢はまだ現役でも可笑しく無い物だ。ウィケロタウロス内ならば間違い無く最強と言われる男だった。

 ウィケロタウロス全体で見て、引退した者の中には元スロット9はいくらかいるが、現役冒険者となると1人しかいない上、その人物も全盛期が過ぎている。

 対抗出来そうな人物が思い当たらない、現在のデヴォニッシュ家の保有する最大の武力だった。


「おまけに当代のデヴォニッシュ夫妻も元スロット8でしたか。生半可な戦力で対抗出来る相手じゃない」

 

 イータオが深刻そうな表情で言う。

 だが、ニコラウスは不敵に笑う。


「そう。だからこそですよ。

 だからこそ野放しにする訳にはいかない。

 だからこそ僕達が対処します」


 力み無く言うニコラウスを見て、葉子が片眉を上げる。

 小細工が大好きで、逃げも隠れも待ちもするし、必要ならば平気で嘘を吐く男だと知っているが、〈対界侵食〉の感応効果が今回のそれが本気であることを示していた。


「……勝てるの?」

「ええ。無論やり方は選びますけどね」

「ニコラウスの選ぶやり方、ね。敵に同情することになりそう」


 嫌そうに言う葉子に、ニコラウスは苦笑した。

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