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彼女は空いている一般道を選んで家に帰ったが、雨のせいか、それでも通常より30分もかかって家についた。
鍵を開けて、玄関に入る。全員、寝ているようだった。
濡れた巫女装束を身にまとい、バスルームへ。
明かりをつけ、緋袴に手をかけた時、不意に“ジェットババア”の目がフラッシュバックする。
また・・・本当なら、同じ妖怪―仲間である存在に手をかけた。
また、止められなかった。
それ以上に、自分の能力を使ったことに、強い自責の念とも言い難い感情があふれだした。まるで、ナイフを突き立てられたフルーツから染み出す、果汁のよう。
同時にこみ上げる音。
炎、悲鳴、女の笑い声・・・潰される!
気づけば彼女は、右手に小型ナイフを持っていた。キャンプなどで用いられる、万能ナイフ。この家で、彼女のみが知る。
恐怖と高揚を入り混じらせ、左腕を洗面台へ差し出し、刃を当てゆっくりと一文字に引く。
「っ――――」
血が、流れない。
「前よりも皮膚が厚くなって・・・っ!」
声を震わせ殺しながら、刃をさらに深く、同じ場所に当てた。
「つっーーーーーーーーっ!」
激痛が体を駆けた。
鮮血が腕を伝い、洗面台へしたたる。
ナイフを捨てると、左腕を押さえてうずくまった。
自分の中で声が話しかける。私・・・昼の私・・・。
≪また・・・しちゃったの?≫
「うん。ゴメン・・・」
≪謝らないで。
2人で1つ。衝動をコントロールできなかった私に、非があるわ。
あれは、仕方なかった。そうしなきゃ、もっと大勢の人が死んでいた≫
「ええ。頭では、分かっているのにね・・・」
≪それより、傷。それに、あの時の記憶・・・≫
「大丈夫。朝までには消えているわ。傷も、記憶も。
でも、消えたらまた・・・」
自分で確認した事実に、涙があふれる。
滴り落ちる赤い液体は、袴の上で同化する。
全てが無意味とでも言わんばかりに。
「助けて・・・誰か助けてよ・・・」
彼女はか弱く、押さえる腕を震わせた。




