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「解除された!?」
―――交通システムのコンピューターが誤作動を起こして、吹田の封鎖を解除したんだ。
名神高速は、大渋滞だ。今、現状にいる高速隊だけでは対処できない。
「何とかしたいですが、もう吹田まで、目と鼻の先です」
彼女の頭上を、摂津北出口の表示が過ぎる。この先、吹田まで出口はない。
ジャンクションから高速に入れば、大惨事が起きてしまう。
―――仕方ない。事態「イ」を適用するんだ。
「そんな・・・でもっ!」
―――これ以上犠牲者は出せない!断念するしかないんだ。
「・・・了解」
車を加速させ、“ジェットババア”を追い抜いた。
相手は、そのテールランプを追う。速く、狂ったように。
JR貨物線の鉄橋をくぐり、左カーブ。
吹田料金所へ向かう最終直線に、彼女はいた。
愛車をバックに、ヘッドライトで照らされたその主は、スカート調の巫女装束を身にまとった、ショートの女の子。
ただ、彼女の巫女装束は、白衣が左前で合わせられている、いわゆる死装束の格好であった。
右腕を、雨降る夜空に伸ばし、手を開く。
「氷花、刃!」
右手の上で、雨粒が凍り始める。凍りついた水分が形を成す。それは、鞘に入った刀へとなり、その姿を具現化する。
刀を、自らの前におろし、鞘を抜く。
刃先から滴り落ちる水滴。それは、雨粒ではなく、自らが生み出していた。
村雨―「南総里見八犬伝」に登場する刀の名を取り、こう彼女は呼んでいる。
「さあ、お願い。そのまま、止まっていて」
“ジェットババア”は停止したまま、彼女と対峙する。
「お願いだから!」
その願いは、空しいだけ。
目を吊り上げた老婆は、再加速。彼女の元へ来る。
「仕方・・・ありませんね。さあ!来なさい!」
彼女は刀を一文字に、相手に向ける。
猛スピードで走り来る標的。
水滴をまき散らし――――――――刹那。
体当たりを仕掛た相手をコンマ差で避け、その実体に刀を入れる。
叫び声と共に標的は消え、再び雨音が強くなる。
たたずむ彼女。
イヤホンマイクに、伝える。
「事態「イ」を適応。ラッシュ967消滅。
高速道路の安全を確認次第、順次、封鎖を解除してください」
―――分かった。よくやったよ。
そのまま帰ってくれ。後始末は、こっちがする。
通信が終わっても、彼女はそのまま立ちつくし、“ジェットババア”が消滅した地点をみつめていた。
雨のハイウェイ。Zの赤いテールランプが、濡れた路面に伸びていた。