12 暴かれる陰謀ー梅津嘉門景春
男は、梅津嘉門景春と名乗った。
そして、その隣には、鹿蔵の弟である猿次郎が立っていた。
景春は、山三郎にこう語り始めた。
「私がまだ貧しい暮らしをしていた頃、母の薬代を工面してくださった方がいます」
景春は、じっと山三郎の目を見て言う。
「それが、あなたの父上、三郎左衛門殿でした」
梅津嘉門景春の名は、山三郎も耳にしたことがあった。
あらゆる兵学に通じた伝説の軍師。
しかし誰にも仕官せず、年老いた母と二人、山奥に籠って暮らす謎の男。
「今の私は、義政様の家臣である細川勝基殿のもとで働いています」
それは初耳だった。
勝基は足利義政の管領の一人、山三郎の主君である佐々木貞国とも近い関係だった。
景春は、勝基が自分にとって、仕える価値のある人物と判断したのだろう。
「しかし、母が受けた恩を返したくて、あなたの行方をずっと探していました」
景春は、三郎左衛門が不破道犬の息子に殺されたことも知っていた。
そして、これらの佐々木家のお家騒動が、そもそもは足利政権内での権力争いに関係していることを話し始めた。
足利政権内では、その頃、細川勝基と浜名入道が政権争いをしていた。
佐々木貞国は、勝基の派閥に属していた。
しかし、貞国の執権である不破道犬は、密かに浜名入道と通じていた。
道犬は、蜘手の方を味方につけて、桂之助、そして月若を陥れ、花形丸を佐々木家の跡取りにしようと企んだ。
それによって、佐々木家を浜名入道側に引き入れようとしたのだ。
「私はこれから、勝基殿の代理として佐々木家へ行き、道犬の謀略を暴くつもりです」
景春は、毅然とした顔で言う。
「そのために必要な証拠も、すでにつかんでいます」
そして山三郎に、
「今は、父上の仇討ちを急ぐべきです。命を絶つときではありません」
と説いた。
景春の話を聞いて、山三郎はようやく我に返った。
自分が死んでしまえば、父の仇は、そのままになってしまうかもしれない。
山三郎は腹を切るのをやめ、自分の家へ戻ることにした。
家に戻った山三郎を待っていたのは、思いもよらない襲撃だった。
突然、床下から刀が突き出してきた。
「危ない!」
山三郎は、とっさに身をかわした。
すると床下から姿を現したのは、なんと伴左衛門だった。
伴左衛門は、葛城に逃がしてもらったあと、密かに山三郎の後を追っていたのだ。
そして先回りしてこの家に潜み、山三郎を闇討ちしようとしていたのである。
二人は、すぐさま斬り合いになった。
しかし、勝負は明らかだった。
やがて山三郎は、伴左衛門の首を斬り落とした。
こうして山三郎は、ついに念願だった父の仇討ちを果たしたのだった。
所変わって、大和国の佐々木家の館。
そこへ梅津嘉門景春が、勝基の名代としてやって来た。
家督相続について、その審査結果を伝えるためである。
貞国は、桂之助から月若へ、さらに花形丸へと家督の相続先を変更することを、足利義政に申し出ていた。
景春は、その申し出を認めるかどうか、その判断を伝えに来たのだった。
そして景春は、いよいよ不破道犬の陰謀を暴き始めた。
ところが道犬は、何も知らない顔をして、
「証拠はあるのか」
と開き直った。
そこで景春が連れてきたのが、鼠の呪詛と藁人形の呪詛を仕掛けた張本人、頼豪院だった。
頼豪院は、その場ですべてを白状した。
もはや逃げられないと悟った蜘手の方は、その場で喉を突いて自害した。
道犬も、さすがに言い逃れはできず、そのまま捕らえられた。
残された花形丸は、これまで何も知らされていなかったらしく、目の前で起こったことに驚いていた。
そして自分も腹を切って死のうとする。
しかし、景春はそれを止めた。
「あなたは、母親とは違い、正直な心根を持っているようだ」
景春は花形丸に語りかけた。
「出家して、母上の菩提を弔いなさい」
そしてさらに、
「梅津家に伝わる大燈国師の法語を授けよう。これをもとに、禅の道を学びなさい」
と告げた。
こう言われた花形丸は出家し、後には一休禅師の弟子になったという。
一方、桂之助は、父の貞国から改心したことを認められ、元通り家督を継ぐことになった。
そして、これまで行方が分からなかった銀杏の前についても、その居場所が判明した。
銀杏の前は、景春のもとに匿われていたのだ。
景春は、かつて自分の母を助けてくれた恩人である三郎左衛門が、不破伴左衛門に殺されたことを知った。
そして、三郎左衛門の息子の山三郎が銀杏の前を連れて逃げ、そのままいなくなったことも。
景春は、山三郎の行方を探した。
その途中、偶然にも、眼平の手下に殺されそうになっていた銀杏の前を助けた。
そして、彼女を自宅に匿っていたのである。
こうして、すべての事件は解決した。
長かった騒動も、これで一段落となる。
――これにて、『昔話稲妻表紙』全巻の終わりである。
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