35.決戦!!!
「キュオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
(フロストバースト!)
氷の息吹をワームの顔面には吹きつけた。
そこで初めて、ワームは琥珀の存在に気がついたようだ。
鎌首をもたげて、昆虫のような複眼が琥珀の方に向けられた。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOO!」
ワームの顔面が凍りついて、霜が張る。
しかし、さほどダメージにはなっていないようだ。
ワームが耳障りな声を上げて、琥珀めがけて飛びかかってくる。
(そうだ、それで良い! こっちに来い!)
「キュイ!」
琥珀は走って、ヘリヤ達と距離を取る。
ワームは視野がそれほど広くないのか、女性五人の存在には気がついていないようだ。
琥珀がさりげなく彼女達の方を確認する。
ヘリヤが琥珀を追いかけようとしているのを、他の四人が止めているようだ。
最終的にはヘリヤも悲しそうな顔をして、『門』に向かっていった。
(よし……いいぞ! 後は僕がワームを遠ざければ良いだけだ!)
琥珀がすぐにやられてしまったら元も子もない。
ワームが女性陣の方に行ってしまう。
(一秒でも時間を稼ぐ。男は根性だ!)
「GYAO!」
「キュウッ!」
ワームが喰らいついてきた。
琥珀は地面を蹴って、攻撃を回避する。
以前ならば、この一撃で終わっていたかもしれない。
レベルアップによる速度上昇、【身体強化(弱)】のスキルがあるおかげで、短い脚でもどうにか避けることができた。
「キュウッ!」
(フロストバースト!)
「GYAN!」
カウンターで氷の息吹をかけると、ワームがわずかに怯んだ。
まったく効いていないわけではないようで安心する。
続けざまに、霜の上からワームの顔面を蹴りつけた。
「キュイッ!」
「GYAO!」
打撃も少しは効果があるようだが、フロストバーストの方がダメージを与えられている気がする。
ステータスの攻撃が『C』であるのに対して、魔力と知力は『B』。
魔法攻撃(?)の方が得意ということなのかもしれない。
(そして、速度も『B』。逃げ回りながら、凍らせまくってやる!)
「キュオオオオオオオオオオオッ!」
「GYAOOOOOOOOOOOOOO!」
ワームが喰らいついてきたり、尻尾を振り回したりと攻撃してくる。
琥珀はそれを飛んでは避け、跳ねては躱していく。
一撃でも喰らえば、それだけで致命傷となってしまう自信がある。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOO!」
「…………!」
(この圧倒的な迫力。何というか、もう生き物として負けている気がするね!)
レベルアップしてかなり強くなったつもりだが、ワームに勝てるビジョンが少しも浮かばない。
どれだけ強くても、蟻は象には勝てない。
捕食者と獲物という生物としての格の違いを感じさせられる。
「アンバー……!」
「キュイ?」
ヘリヤの声がする。
ワームを警戒しつつ声の方向に視線を向けると、女性陣が転移門に到着したようだ。
「アンバー、こっち! 早く!」
「GYAO?」
ヘリヤの必死な叫びによって、ワームが彼女達の存在に気がついてしまった。
グルリと長くて太い首を動かして、転移門の方に顔を向ける。
「キュイ……!」
(いけない……!)
ワームが身体をのけぞらせて、大きく息を吸い込んだ。
炎の息……ブレスを吐くつもりだ。ヘリヤ達の方に向かって。
「キュイイイイイイイイイイイイイッ!」
(頼む……僕のことはいい、先に行ってくれ!)
願いながら、琥珀が猛ダッシュでワームの身体を駆けあがる。
数十メートルもある巨体を走って登っていき、洞窟のような口の前に飛び出した。
「キュオッ!」
(喰らえ! 閃光玉!)
閃光玉を発動させる。
ワームの眼前、ほぼゼロ距離で強烈な光が炸裂した。
「GYUIIIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!?」
よほど驚いたのだろう。
はこうとしていたブレスが口の中で爆発する。
真っ赤な炎。黒い煙が口から吐き出されて、衝撃波となって琥珀の身体を襲う。
「キュウ……」
身体が吹き飛ばされて、何度も何度も地面の上をバウンドする。
サッカーボールというのはいつもこんな気分を味わっているのか。
(痛い、痛い、痛い……でも、まだ死んでないぞ……)
レベルアップによって体力と防御が上がった恩恵だろう。
琥珀は満身創痍になりながらも、どうにか生きていた。
(ヘリヤ、さんたちは……)
悼む身体に鞭打って、顔を横に向ける。
転移門の上にいた五人の姿が消えていく。
どうやら、「先に行ってくれ」という琥珀の願いが届いたようだ。
(良かった……使命を果たした……僕は、やるべきことをやったぞ……)
ヘリヤを無事に次の階層に送り出した。
琥珀はここで倒れるだろうが……どうせ召喚獣だ。また次がある。
ここでやられたとしても、構わないはずだった。
「GYURYUUUUU……!」
(ただ……コイツのことはキッチリとぶちのめしておきたかったな……)
ワームがゆっくりと琥珀に近づいてくる。
先ほどのブレスの暴発により、顔面部分が黒く焼け焦げていた。
それでも、まだまだ元気であるようで、どこか怒ったような鳴き声を上げながら琥珀に接近してくる。
(ああ、クソ……リベンジ失敗か……)
この結果は間違いなく大成功。大金星だ。
だが……それと悔しくないかというのとは話が別。
男としてのプライドとして、ワームを倒してしまいたかった。
「GRYUUUUUUUU……!」
「キュイ……」
(勝ちたかった。ヘリヤさんを怖がらせたお前を、叩きのめしてやりたかった……ああ、もう。悔しいなあ……)
などと考えていたところで、『ピコン』と謎の電子音が鳴る。
目の前にステータス画面とよく似た画面が現れて、初めて見る文章が表示された。
「キュ?」
『レベルが30に上がりました。上限レベルに到達したことにより、種族チェンジをすることができます』
『YES or NO』
(レベルアップ……種族チェンジ……?)
レベルアップ。
ヘリヤを無事に送り出したことにより、経験値を獲得したのだろう。
先ほどまでのレベルが『28』だったので、今回のことで30まで上がったに違いない。
しかし、『種族チェンジ』というのは聞いたことがない言葉である。
(ああ、血を流し過ぎた。全然、頭が回らない……)
「GYAOOOOOOOOOOOOOOO!」
(だけど、この状況…………『YES』に決まってる!)
琥珀がペンギンの手で『YES』を押すのと同時に、ワームが琥珀の身体を飲み込んだ。
バッドエンド。
前回の柊木と同じように、生きたまま消化されてしまう。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
しかし、すぐにワームが絶叫を上げた。
顔を天に向けて、口の中から大量の冷気と氷を吐き出した。
「ピイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
そして、凍えるような冷気を身にまとって、洞のような口内から何かが飛び出してきた。
それは一匹の鳥だった。
コンドルのような大きさの鳥が青白い翼を広げて、天空を衝くようにして飛んでいく。
氷の羽を全身に纏わせたその魔物の名前は『フロストフェニックス』。
極寒の雪山に棲む氷の不死鳥が草原に出現して、ワームを見下ろしていたのである。
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