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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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4-1話 暴露話と顔合わせ


「そっか。プランちゃんやっちゃったか。辛かったろうに……」

 馭者であった武官の報告書を読み、ブラウン子爵は小さくそう呟いた。

「ブラウン子爵は知っていたんですか?」

 リカルドの言葉にブラウン子爵は頷いた。

「うん。知ってたよ。プランちゃんが自分の力を嫌ってる事も含めてね」

 その顔は何ともいえないほど複雑な表情だが、決して明るく楽しいといった表情ではなかった。


 レタラの町、ブラウン子爵の館の客間にいるのは主人であるブラウン子爵にハルト、リカルド、そしてラステッドだけ。

 本来いるべき主賓であるプランは、未だ気持ちが塞ぎこんだままの為個室のベッドで横になっていた。


「……一体どうしてあんな事に……」

 リカルドの呟きにハルトとブラウン子爵は顔を合わせ、互いに頷き合った。

 ワイバーンから出てきた謎の赤い球体。

 突然襲ってきた暗殺者。

 それらの事以上に衝撃的だったのは、プランの剣技である。

 二十二人の襲撃者を、まばたき一つする前に全員を、一切傷つけずに気絶させるなんてどんな技量をして何をしたのか、リカルドには想像することさえ出来なかった。


「前私が言った事覚えてる? 君の目は他人の経験や立ち振る舞いで相手の強さを計る事が出来ているけど、それに過信するなって言った事」

 ブラウン子爵の言葉にリカルドは頷いた。


「その計れない存在の一つが彼女、プランちゃん。立ち振る舞いや経験と強さが一致していないから強さを計るのが難しいのよね彼女」

「それは何故?」

「そりゃ簡単だよ。経験がないんだものプランちゃん。剣を持ったのだってたぶん今回で二回目だし」

「――は?」

「生まれた時からの絶対強者。一を聞いて十を知る天才より更に上の、零の時点で十を知る天稟てんりん。そんな不条理の化身」

「そんな理不尽な――」

「そう。そんな理不尽が自分だからこそ、プランちゃんは苦しんでいるんだよ」

 ブラウン子爵の言葉には言葉に表しきれないほどの重さが込められていた。


 数々の才能を持つプランだが、その中でも剣の才能だけはずば抜けている。

 生まれて初めて剣を触った六歳の時点で、その強さは現在のリカルドやハルトより上だった。


「……でもさ、強いと言っても限度があるでしょ。ブラウン子爵がプランちゃんより強い事を証明すればプランちゃんの苦しさも減るんじゃ――」

 リカルドの言葉を遮り、ブラウン子爵は首を横に振った。

「その考えには二つほど問題があってね。一つは、私じゃあまり意味がないんだよ。幼い頃に約束をしたハルト君がプランちゃんより強くならなければ、プランちゃんは心からは納得できないよ」

「約束?」

 リカルドの言葉にハルトは頷く。


「ああ。『あいつよりも強くなる』って約束したんだよ。ま、まだ結果はなーんにも出てないんだがな」

 むしろ、プランの背丈が伸びて力がついた分より差が広がっているようにすら感じるくらいでハルトは苦笑いを浮かべた。


「そうか……約束か……。それでブラウン子爵。もう一つの問題は?」

「ああ。そっちは単純だよ。私よりもプランちゃんの方が強いよ」

「――そんな馬鹿な」

 リカルドは驚愕の表情を浮かべブラウン子爵の方を見つめた。

 ブラウン子爵の強さはそれこそ並ではない。

 下手な武官なら束になっても勝てないだろう。

 現に、この場にいるハルト、ラステッド、リカルドの三人が全力で連携を取っても、勝ち目は万に一つもない。

 それを知っているからこそ、そんなブラウン子爵から勝てないなんて言葉が出る事が信じられなかった。


「確かに現時点のプランちゃんより強い人もより理不尽な人もいるにはいるよ。だけど、そんな沢山にはいないかな」

 ブラウン子爵がそう答えると、ハルトは口を開いた。

「プランはどのくらい強いんだ?」

 そんなハルトの質問にブラウン子爵は腕を組んで考える。

「んー。そうだね。現時点では、ノスガルド中の武官の上位二割にぎりぎりで入らないくらいかな」

 それはプランが弱いと見るよりは、ノスガルドの武官上位が化け物であると見た方が良いだろうと全員が思った。


「じゃあさ、現時点ではなく、もしプランがその気になって本気で剣を覚えた場合は?」

「そうだね。……自分の実力より上すぎてちょっと自信ないけど、戦う事に忌避感がなくなってちゃんと剣を覚えたら、一年……いや、一月以内でノスガルド国上位五パーセントに入るんじゃないかな?」

「つまり、俺は全武官の五パーセント以内に入れば良いのか」

「ううん。違うよ。ノスガルドの武官だけでなく、剣の指導者や冒険者、剣闘士、また研究者や旅の武芸者、求道者。それらを含めたノスガルド中全員の中から五パーセントに入らないと並ぶ事すら出来ないって事」

「……はぁ。目標がまた上に更新されたな」

 ハルトは溜息をついた後、微笑みながらそう呟いた。


 どれだけ高くても、ハルトが諦めるという選択をすることはない。

 何故なら、大切な妹分との約束で、そして妹分の心を安らかにするためだからだ。

 たったそれだけのことではあるのだが、ハルトの中ではそれが最も大切な事となっていた。




「これさ、何度も考える事なんだが、やっぱり俺ってお邪魔虫じゃね? プランちゃんとハルトの間に俺が入る余地なくね?」

 リカルドはしゅーんとした表情で、ぽつりとそう呟いた。

「いや、何度もいうけどプランとの間にそういう感情はないぞ」

「……ほーんとにー」

 リカルドは冷ややかな疑いの目をハルトに向ける。


「本当だよ。プランちゃんもハルト君の初恋に嫉妬しなかったし、ついでに言うならハルト君の好みはもっと年上のお姉さんだったしね」

 そうブラウン子爵が呟くと、ハルトはぶっと音をたて噴き出し咽た。

「ちょ。子爵!?」

 ハルトがそう声をかけるが既に手遅れで、リカルドはブラウン子爵の方に身を乗り出した。

「その話、詳しく」

 そう尋ねるリカルドと何かを発しようとするブラウン子爵。

 それを止めようとするハルトを、さっきまで静かだったラステッドが羽交い締めにした。


「面白そうな話なんで続きを」

「ラスト。てめぇ!」

「うるせぇ! 真面目で重たい空気が続いて胸やけしそうなんだよ! 馬鹿話結構コケコッコー。俺を楽しませろ!」

 そんな無茶を言った後ラステッドは興味津々といった表情でブラウン子爵の方を向いた。


「……。ラステッド男爵だったね。うん。私の好きな人種のようだ。覚えておくよ」

「是非ラストと呼んでくださいブラウン子爵」

「ん。ラスト君ね。良い関係が結べそうだ」

 そう言って微笑むブラウン子爵に、ラステッドは笑みを返した。

 ハルトはラステッドから抜け出そうともがいていた。


「んじゃ続けようか。アレはいつだったかな……。プランちゃんもハルト君ももう少し小さかったよね。たぶん、三、四年前かな……」

 そう語りだし、穏やかな口調で思い出を語り始めた。

 叫び声が煩かったハルトの口にはクッキーが大量に押し込まれ、もがもがと声にならない声を発し続けていた。




 数年前、何かの用事でレタラに訪れたダードリー・リフレストとその一行。

 メンバーは当主であったダードリーにプラン、ヨルンとハルトである。

 おそらく、次世代の顔つなぎとして連れてきたのだろう。

 ブラウン子爵がその時の用事を覚えていないのは、どうして彼らが来たかよりも、その後の行動が印象に残りすぎてである。


 一言でいえば、その時開いたパーティー会場で、ハルトが来ていた女性に恋をしたのだ。

 それは紛れもない、初恋だった。

 相手は既婚者でもなければ爵位を持っているわけでもない。

 その為立場という意味では問題なかったのだが……その時のハルトは十四歳で、女性は二十五歳である。


 そしてハルトはまっすぐな少年の心を燃やし、翌日に意を決して彼女を探して告白するも、当然のように玉砕した。

『若いというか幼すぎて男として見れない』

『好みはもう少し渋い男性』

 そんな当然の理由の為、女性を責める事も出来ないだろう。


『俺がもっと成長して、貴方の好みになりますから待ってください』

 そんなハルトの言葉を女性は苦笑いで拒否した。

 そりゃあそうだ。

 今結婚を考えている彼女に十年以上待てというのは受け入れられる提案ではなかった。


 そんなハルトの奇行は館内で退屈を持て余していた来賓客達のちょっとした話の種になり女性は少しだけ皆から注目を浴びた。

 そして、それがきっかけとなり彼女は年上の男爵と結婚する事が決まるというシンデレラストーリーが展開され、ハルトは見事に失恋した。


 わずか数日の間だったが、ハルトの落ち込みようはなかなかに凄まじく、慰めて立ち直るのに二週間ほどリフレストに帰るのを延期したくらいだった。




「ちなみに、その時のプランちゃんは『ねぇ。もう少し身の丈にあった相手探そう? 見た目という意味でも歳という意味でも流石に無謀だよ』ってハルト君に真顔で言ってたね。ハルト君の初恋なのに嫉妬も怒りもなく、純粋な心配だけだったからハルト君とプランちゃんの間に恋愛感情はなかったよ。今もないと思う。ハルト君の好みは……プランちゃんとかけ離れていたからねぇ」

 その時の女性の様子はショートカットで背がすらっとして高く、そして胸が大きかった。

 ようするに、そういう事である。


「……いっそ殺せ」

 羽交い締めにされたまま、ハルトは涙を流し地面に横たわっていた。


「じゃあ、俺にもワンチャンあるんだな」

 そうリカルドが呟くと、ブラウン子爵は苦笑いを浮かべる。

 ――プランちゃんにとってリカルド君が現状最有力の結婚候補なんだけど、そういった答えは望んでいないだろうし黙っておこうか。

 確かに結婚の候補ではあるが、それは愛の絡まない政略結婚の為ブラウン子爵は話すべきでないと判断し黙っておいた。


「……お前、おっぱい好きだったんだな」

 淡々とした口調でそう呟くラステッドにハルトは何とも言えない表情で眉をひそめた。




 そんな騒ぎから数日、ハルト、リカルド、ラステッド、ブラウン子爵は交代交代でプランを慰めるというホストクラブのような状況を作り、嬉しさ半分うっとおしさ半分の中でプランは立ち直った。


ありがとうございました。

四部スタートです。

今回もまたリオとアインの方に話が移ります。

ややこしければ申し訳ありません。



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