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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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3-27話 一件落着?


 ワイバーンの討伐に成功した三人が館に戻ってきたのを見て、プランは優しく微笑んだ。

 帰ってくると信じていたが、それでもどこか心配で……。

 だからこそ、ラステッドが怪我をしているがそれでも無事に戻ってきてくれて心から安堵した。


 ただし、三人の精神状況は不安そのものである。

「プランちゃんごめん。何かやばそうな物拾った」

 リカルドのその言葉にもプランは優しく微笑む事出来た。

 無事だったなら、それだけで良かった。

 後の事は後で何とかなるだろう。


 ラステッドが単独で攻撃を受けハルトとリカルドを護ってくれた事をプランは知り、そのまま迷わずラステッドを教会に放り込んだ。

 腰痛をじっくり治すアイアンと腕が徐々に生えるという怪奇現象に若干おびえるアルト、そして軽傷とは言え全身傷だらけのラステッド。

 とうとうフレイヴ全員が教会送りとなってしまっていた。


「そろそろ、本格的に治療院を立てる必要があるかもしれないわね」

 プランは至極まじめにそう考えた。

 治療全てを教会任せにするというのはメーリアやお手伝いの村人への負担が余りに大きすぎるからだ。


「それで、色々とそっちも話す事があるみたいだけど先にこっちから話して良いかしら?」

 フレイヴ領の領主に伝えないとならない事があり、プランは教会の中で村人に包帯を巻かれているラステッドにそう尋ねた。

「ん。俺にか。何だい?」

「私としてはもう十分というか色々経験したから良いんだけど、ウチの腹黒は貰えるものはもらっておけ精神なんで……フレイヴ領が行う賠償が決定しました」

 プランは物凄く申し訳なさそうにそう呟いた。

 ワイバーン事件でもうどうでも良い様な気になっていたが、スパイ行為の証拠が山ほど残ってしまっている以上なあなあにするわけにはいかなかった。


「ああ。払える物なら何でも言ってくれ。ワイバーンの素材とかで手を打ってくれると嬉しいんだが」

「それは三人で分けて頂戴。それを横から奪うほど私は醜くないわ」

 その言葉にリカルドが口をあんぐり開けた。


「え? 俺そのままプランちゃんにぽいするつもりだったけど」

「……恥知らずで悪いけど寄付は受け取るわ。でも、出来たら自分の報酬として使って頂戴」

「……素材よりプランちゃんのご飯食べたいです」

「――今晩の食事は私が作るわ」

 その言葉にリカルドは小さくガッツポーズを取った。


「ごめん。話がそれちゃった。賠償だけど労働という形で払ってもらう事になるわ。ちょっと込み入った話になるけど……」

 そう言った後、プランはヨルンの計画を説明した。


 フレイヴ領はその破綻しきった財政の割に魅力が溢れるものが多く見つかる場所だとヨルンは判断した。

 そんな辺鄙な場所にもかかわらず商人の到来数はリフレストの十倍を軽く超えるくらいだ。

 商人達の金への執着と目利きの鋭さは信頼して良い指標の一つだから間違いはないだろう。

 つまり、交通の利便性が上がればその価値は更に向上し、財政が改善される可能性が非常に高い。


 更に、フレイヴにはその取引する物以上に価値のある、素晴らしいものが存在する。

 それは領民である。

 特殊部隊も真っ青な能力を持った環境適応能力と身体能力の高い森の民としか思えない領民達。

 それこそがフレイヴの最も価値のあるものだとヨルンは判断した。

 だからこそ、フレイヴに対して行う賠償は少ない金銭や買えば手に入る資源ではなく、労働にする事が最も利益を生む行為だと理解した。


 今回の賠償で頼みたい事は二つである。


 一つ目はリフレストとフレイヴの交通を妨げている森林や山岳の適切な対処。

 要するに、道路を作ってもらいたいという事だ。

 この話にはブラウン子爵も絡んでおり、道具や工具、また追加の人員なども派遣される予定である。

 ブラウン子爵がかかわっているのは決して同情や施しではなく、ブラウン子爵も得をすると判断したからだ。


 二つ目は、道が出来てからの話だが、リフレストの見つけた鉱山を掘る為の人員を雇いたいという話である。

 こっちはお互いが得をする話にする予定で賠償というよりは頼み事に近い。

 まだ鉱山の採掘どころか調査も終わってないのに、既に人不足に困っていたからだ。

 ただし、アイアンだけは必ず参加させてほしいという伝言をヨルンからプランは受けていた。


「という事ですが、わかりました?」

 プランの言葉にラステッドは首を傾げ、アルトの方を見た。

「アルト。説明よろ」

 その言葉にアルトは何時ものようにかみ砕いて説明を始めた。

「ウチとリフレストを繋ぐ道に馬車通せるまで、フレイヴ全員で協力して道路作れ。道具とか全部用意したるから働けそれが賠償。という感じ」

「まじか。道具用意してくれるのか。神だな」

「んで二つ目は仕事場用意したるから働け。金やるぞ。ただしアイアンは強制参加な。文官一人消えるのは痛いけどその分稼いでくれるからむしろプラスかな」

「まじか。アイアンがんばれ」

 ラステッドのシンプルな励ましを聴き、寝転がっていたアイアンは重たい体をゆっくりと起こした。


「おい。ふざけているのか?」

 そうプランに呟くアイアンの様子は怒りや悲しみに溢れ出ていた。

「いいえ。大真面目だしうちの筆頭文官はこれが最もお互いが得をすると判断した結果よ」

「俺の事をちゃんと調べて言っているのか。そっちが損をする結果になるし、最悪損どころではすまないぞ」

 そんなアイアンの言葉にラステッドは首を傾げた。

「ん? 何か問題があるのか?」

 そう言われ、アイアンは悲痛そうな面持ちで小さく、震えながら呟いた。


「俺は鉱山を一つ崩壊させてその責任で身分と二つ名を剥奪された。そんな俺がまた鉱山に入るわけにはいかん」

 が、そんな言葉プランには――プランの背後にいる腹黒ヨルンには何の意味もなかった。

「えっと、ごねた場合に伝える言葉がありまして『こっちはきちんと調べた上で言っている。貴方の所為ではありません。でも悪評は今でもあります。だから私は、貴方を格安で雇いたいんです』だって。酷い言葉ねコレ」

 プランはそう言った後苦笑いを浮かべた。


「俺が悪くない。俺は国の管理する鉱山を一つ使い物にならなく――」

「無理な拡張をしたのは貴方の上司で、貴方はむしろ抗議をしてた側。しかも崩壊した時最後まで救助活動を諦めず行い。完全崩落したのに死者ゼロの奇跡を成し遂げた。違う?」

 プランが手紙に書かれていた事をそのまま読むと、アイアンは黙り込んだ。


「ねぇ。本当に辛くて、嫌になってやりたくないならこれは私の方でなかった事に出来るわ。だから教えて。貴方はもう一度、炭鉱夫として働きたい? それとも、二度とかかわりたくない?」

 その言葉にアイアンは震え、そして――豪快に笑いだした。

「ガハハハハハ! 小娘と思ったらウチのボンと同じで立派な人誑しの類だったか! 領主様よ。一つ尋ねるが、俺はフレイヴの武官として参加するのか? それとも『鉄』の炭鉱夫として参加するのか?」

 プランはその言葉に、小さく微笑みウィンクをしてみせた。

「私としては前者が良いかな」

「ガハハハハ! まあええわ。気分も良いし受けて――あいたたた! 笑ったら腰が……。……すまんが腰が治ってからでええ?」

 その言葉にプランはくすっと笑い、頷いた。

「ええ。ゆっくり養生して頂戴。まだ日にちはたくさんあるわ」


 その言葉にラステッドは、首を傾げながらアルトの方を見た。

「アルト。説明」

 ラステッドの言葉にアルトは頷く。

「アイアンは昔凄い炭鉱夫だったけど無実の罪を着せられて追いやられた。ラストが拾った時の落ち込んだアイアンの理由だね。んでリフレスト領はそんなアイアンに名誉挽回の機会を用意した」

「まじか。リフレスト最高じゃね」

「ちなみにアイアンはウチの武官文官を止める気はないみたいだからアイアンの稼ぎはウチに入る」

「まじか。良い事づくめじゃね?」

「得させてやるから黙って従えというリフレスト筆頭文官様の間接的脅迫でございます」

「まじかよ従うわ」

 ラステッドの一言でそんな契約が成立した。


「んでアイアン。昔炭鉱夫だったの?」

「むしろ知らなくて俺を雇ったのか?」

 アイアンの返しにラステッドはうんと頷いて見せた。

「そうか――」

 アイアンはそれはそれで満足そうに笑っていた。




「後は今晩に祝賀会として私が料理を用意してワイバーンを倒した英雄の話で盛り上がる予定だけど……何かあったのよね?」

 プランの言葉にワイバーンを倒した三人は頷いた。


「ああその前にこれ、フレイヴで作っていた加工肉の詰め合わせ。こっちは肉が乏しいって聞いたから飯の時使ってくれ」

 ラステッドがそう言って袋を手渡し、プランは頬をにやけさせながらその袋を受け取り中をちらっと見た。

 干した保存用の肉だけでなく、ソーセージやハムなど明らかに高価な物がふんだんに入っておりプランは涎を堪えるのに必死になっていた。

「……道が開通したらこれらが気軽に食べられるようになるのね」

 そうプランは小さく、決意をするように呟いた。


「んで問題は――コレだ」

 そう言ってラステッドは、妙に大きく、半透明な赤い球体をテーブルの上に置いて固定した。

「……何これ?」

 プランの言葉に応える者は誰もいなかった。

 

「ワイバーンの体から出てきた。ワイスなら何か知ってるんじゃないかと」

 リカルドの言葉に頷き、プランはワイスを召喚した。


「……何これ?」

 召喚された開幕でワイスの口から出た言葉は、答えを期待していたハルト、リカルド、ラステッドの三人を絶望に叩き落した。


「……いやまじでこれ何? ガラスっぽいのにガラスじゃないし。というか暖かいし。いやワイバーンに竜玉とかないしそもそも竜玉とかこんなんじゃないし」

「竜玉って何?」

 プランは気になってそう尋ねた。

「ドラゴンが守ってる財宝の一つ。生まれた時からもっている玉。ただ、私もちらっとしか見た事ないから詳しくは知らない。それでも、これとは全然違ったわ」

「……これ、卵とかじゃないの?」

「ワイバーンの卵はもっと大きいし普通に白い殻が付いてるわ。だからこれは違うわね」

「……じゃあワイス。結局これ何なの?」

「うーん。わからないわ……ごめんね」

 ワイスはプランにそう答え、妖精石に戻っていった。


「……予想よりやばくね?」

 ラステッドが冗談めいてそう呟くが、誰もそれに反応しない。

 それが冗談ではない事が今判明したからだ。


 古代よりの叡智を蓄えたワイスが知らないという事は本当に大事な可能性があって、しかも何か危ない事なのかすらわからない。

 一応数日かけてここまで持ってきたけど特に反応はなかったので爆発はしないと思うが、それでもそんな物理的な危険性も否定出来ない。

 当然高価な物なら、略奪や襲撃の危険性も増えてくる。


 沈黙が続き、全員の表情が暗くなっていく。

 貴重なお宝でも、現在は災いの種にしかなっていなかった。


 ただし、暗い空気の中でも一人だけ表情が明るい者がいた。

 驚く事も嘆く事も恐れる事もなく、自信満々ににっこりと微笑んでいる少女。

 プランである。


 領主としてプランは間違った選択を出来ず、絶対的に正しいと思う行動を取らなければならない。

 そして、今のプランにはその自信があった。

 微笑んだまま、プランはそっと口を開く――。

「ブラウン子爵に預けましょう。んで価値がやばそうならそのままあげちゃおう。ブラウン子爵のとこなら調査も守りも最高だし、いざという時は王様に丸投げ出来るから。それで良い?」

 プランのとても頼りになる言葉に、一同は頷いた。


 虎の威を借るなんとやらだけやたらとうまくなってしまった自分。

 そんな自分も、プランは嫌いではなかった。


ありがとうございました。

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