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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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3-21話 亡羊補牢の作戦会議


「あーいやされるわー」

 ラステッドは羊達が群がりベッドのようになった中で、緩み切った表情を浮かべていた。

「そーですねー」

 そう言いながらアルトも同じような表情になっている。

「いや。お前は本当の意味で癒されないとダメだろ」

 アイアンがそうアルトに言葉を投げかけた。

「そうだな。でもさーぶっちゃけここから動きたくないー。ベッドから出れない気持ちって、世界共通だと思うー」

「わかるー」

 アルトの言葉にラステッドが同意し、それを聞いたアイアン含め三人であははと笑いあった。


 羊に囲まれもふもふした状況でのほほんとした時間。

 だが、プランもリカルドもこの状況を笑う事が出来なかった。

 装備はほぼ大破。

 それはまあ、ぶっちゃけ大した事ではない。

 調査という意味では大きな成果も残せた。

 あんな存在がいるとわかっただけで十分である。


 問題はただ一つ――アルトの左腕がなくなった事、ただそれだけである。


「……アルト。その――」

 声をかけられないプランに、アルトは小さく笑った。

「同情とか謝罪とかならいらないよ」

「でも、私達を護る為に――」

「そりゃそうでしょ。逆に聞くけどさ、今回のメンバーがリフレスト領に行って、同じようにドラゴンに襲われたらどうする? 先に逃げれる?」

 プランの答えは一つしかない。

 自分か武官の誰かを犠牲にしてフレイヴ領の皆を護る。

 それは自分の領内で起きた事に対する義務であり、責任だからだ。

 そもすら出来ないようでは領主である資格すらないだろう。


「……じゃあ、ごめんの代わりに、ありがとう。おかげで私もリカルドも無事でした。何かお礼がしたいけど、何かある?」

 プランがそう尋ねると、アルトは考え込む仕草をした。

「うーん。前回のポカをチャラ……ってのは違うし、物が欲しいって言ってもお互い貧乏領だし……嫁……も別にいらないし。うーん。あ、一個あったわ」

「お。何?」

 プランがそう尋ねると、アルトは子供のような笑顔を浮かべた。

「俺はもう無理だからさ。ラストにリベンジのチャンスあげて?」

「……は?」

 プランは茫然として、そう呟く事しか出来なかった。

「誰か戦える人呼んで、ラスト連れて、あのドラゴンぶった切って来てよ」

「……どうしてそんな無茶を」

「いや男なら誰でも憧れるでしょ? ドラゴンキラーの英雄。それがウチの領主だったらさ、カッコいいじゃん」

「いやいや。無理だって」

 プランの言葉に、アルトは苦笑いを浮かべる。

「あははははは。実は俺もそう思ってる。だけどさー俺達生まれた時からの付き合いでね……。コイツ放置すると独りで突っ込みかねないってわかってしまってな」

 そう言いながらアルトはラステッドの方を見た。

 ラステッドはそっと、アルトから視線を逸らした。

 それはつまり、そう言う事なのだろう。


「ラスト。諦めるって選択肢ない?」

「ない」

 ラステッドはプランの問いに、はっきりとそう言葉にした。

「無駄死にの可能性が高いのよ? そうなれば領はどうするの?」

「それでも行くしかないんだよ。むしろここで行かなきゃ領民皆に怒られる。そういう家なんだよフレイヴ家ってのは」

「……どゆこと?」

「フレイヴ領初代様。もういつの話かもわからんくらい昔の話だけどな、初代様はドラゴンをぶった切って貴族になった。フレイヴって苗字はドラゴンキラーだった初代から受け継がれてきたものなんだ。そんな苗字を持つ俺が、ドラゴンに会って、昂らないわけがないだろ?」

 ラステッドの言葉を聞き、アルトが頼んできた理由が良くわかった。

 確かに、これは放置すれば独りでも行ってしまいそうである。

 領内に危険な存在がいるから排除したいという領主としての気持ちもあるだろうが、それ以上に物語のような冒険が出来る事に心が躍っていた。


「……ドラゴンを倒す為のパーティーを組んでも、ラストは自分でトドメを刺したい?」

「いや別に。トドメに拘りはないしドラゴンを倒す役に立てたならそれで問題ないぞ。後方で何もせず待っていろとか言われない限りは何の問題もない」


 逆にもう少し無茶を言ってくれた方がありがたかった。

 そうだった場合は手が貸せず、無理やりでも諦めさせるという選択肢が取れたからだ。

 ラステッドの言葉にプランは溜息を吐き、リカルドの方を見た。

「リカルド。無茶に付き合えって言ったら怒る?」

「いや別に。そもそもだが、アルトが言ってただろ?」

「へ?」

「ドラゴンキラーの英雄。男なら誰でも憧れる。当然俺もだよ」

「……男って馬鹿ばっかね」

 プランは大きく溜息を吐いた。

「それにさ、ドラゴンを倒したら英雄だろ?」

「そうね」

「英雄になったらそれなりに地位が得られるだろ?」

「そうでしょうね」

「その地位を差し出したら婿になれたりするかなと」

「――本当、リカルドって馬鹿よね」

 プランは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。




 もふもふ羊に包まれながらプランは、ドラゴン退治に協力する為の条件を三つ出した。


 最初の条件はアルトの腕の治療。

 リフレストにはかなり高位のクリア教神殿がある。

 そこの主である司祭のメーリアも腕は確かで、腕くらいなら確実に治療出来る。

 しばらくはリハビリに苦しむが、今治療をすれば一年以内、早ければ半年以内には元通りになるだろう。

 だからこそ、アルトが今回のドラゴン討伐を諦め、腕の治療に専念すること。

 この一つ目の条件を、アルトは笑顔で了承した。

『むしろ治療の恩が増えてやべぇ。おいラスト。ドラゴン倒したら素材は全部リフレストに渡せ。でないと俺達ただの恥晒しになるぞ』

『まじかよやべぇ。全部譲るわ』

 そんな物受け取れるわけがなく、プランは溜息を吐いてその申し出を拒否した。


 次の条件はワイスにドラゴンの話を聞く事。

 そして、話を聞いて絶対に勝てないような相手だとわかった場合は諦める事。

 そんな条件を出し、ラステッドは笑顔で了承した。

『勝利の女神からの助言とか勝ちパターンじゃん』

 なんて阿呆な事を言うラストに、プランは再度溜息を吐いた。


 最後の条件はシンプルな物で、リフレスト領所属元筆頭武官であるハルトをドラゴン討伐パーティーに加える事である。

 力量はリオの方が高く、万能性はリカルドの方が優れている。

 つまり、現在のハルトはリフレスト武官の中では中途半端な存在という事だ。

 それでも、プランにとって長年連れ添った騎士、ここぞという時に頼れるの一番の武官は幼馴染であるハルトだった。

『ねぇ。本当にソレ恋愛関係ないの? 俺邪魔ものになってない?』

 なんて心配するリカルドにプランは三度目の溜息を吐いた。

 ――本当にハルトに恋愛感情ないんだよねぇ。……ついでにリカルドにも。

 そんな事を思うが、さすがに口には出せなかった。


 そんなわけで羊に包まれながら、というか羊に癒されながら五人は省エネ版ワイスを召喚した。

「というわけでーワイスせんせーお願いしまーす」

 プランがそう言うと、ワイスは白い体をぴょこぴょこ嬉しそうに動かし同意した。

「は-い。というわけで、一番最初に是非言っておきたい事があります。何でしょう?」

 ワイスの言葉に一同は首を傾げる。

「んー。無茶するな?」

 プランの答えにワイスは首を横に振った。

「羊にもふられず真面目に聞け?」

 リカルドの答えにも同じように首を横に振った。

「わからん」

 アイアンとアルトはそう答えた。

「……ドラゴンを倒したら私がお嫁さんになってあげる?」

 ラステッドの脳内ピンクな答えにワイスは呆れたような溜息で返した。


「最初に言いたい事ですが……ざっといずのっとどらごん。アレはドラゴンではありませんでした。おーけー?」

「――は?」

 全員は同じような表情で、同じような声を出した。




 ワイスは大昔、文献すら残っていないような古き時代を実際に見てきている。

 その為昔多く生存した生き物についてはそれなり以上に知識があった。

 当然、『ドラゴン』という生き物についても実際に見てある程度以上に詳しい。

 圧倒的な暴威を持って人類に牙を向く空の支配者ドラゴン。

 文字通り空を支配するドラゴンの力は強大で、一匹で国が滅びたというお話は今でも残っているが、これは決して比喩ではない。

 だからこそ、そんなドラゴンを退治するというのはとんでもない偉業であり、今の時代でもドラゴンキラーのおとぎ話や唄は多く残っており、男の子達の憧れとなっている。


 もしあの時、本物のドラゴンと至近距離で出会っていたら、間違いなくこのパーティーは壊滅している。

 全滅か、プランだけ生き残るか。

 その二択となっていただろう。

 無事ではないが、全員が生き残っている。

 それこそが、あの存在がドラゴンでない何よりの証拠だった。


「というわけで、あの生き物の名前は『ワイバーン』と言いまして、『ドラゴン』とは全く違います」

「……どう違うの?」

 プランの質問にワイスはどう答えようか沈黙し、そして言葉を発した。

「んー。完全に別の生き物なんだけど、強さで言えば違いがわかりやすいか。ワイバーンは赤ちゃんドラゴンよりも弱い紛い物よ。それでも人類には脅威だけど」

「……ワイスさん。普通のドラゴンと普通のワイバーンってどのくらい差があるんだ?」

「そうねぇ。さっきのワイバーンが二、三十くらいいても傷一つつかず、かつ一撃で全て葬られるくらい差があるわ」

「――ウチの初代様は化け物だったのか」

「今の時代ドラゴンキラーって誉め言葉みたいだけど、昔は忌み名だったのよ。化け物の代名詞ね。それくらい人間辞めてないとドラゴンなんて戦う事すら出来なかったみたい。もしラストの御先祖様が単独ドラゴン撃破者なら、化け物という言葉以外出てこないようなマジモンの化け物だったはずよ。ドラゴンを倒すってのは、大きな国を単独で滅ぼせるって事と同意味だからね」

「――んで肝心な事なんだけど、結局ワイバーンって私達で倒せるの?」

「ラスト、ハルト、リカルドの三人でならワンチャン? ドラゴンと比べたら雑魚だけど、普通に強いからね。正直止めた方が良いとは言いたい」

「あれ? アイアンは?」

 ラステッドがそう言葉にすると、アイアンは非常に申し訳なさそうに呟いた。


「ワイス様には見抜かれているみたいじゃが……実は俺もワイバーンに襲われた時負傷してな……」

 そうアイアンが言った瞬間、プランは怒鳴るように声を張り上げた。

「どうして言ってくれなかったの!? 治療出来るって言ったじゃない!」

「いや……言い辛くて」

「言ってよ……私を護って怪我したんだから私にも何か返させてよ……。それでどこを怪我したの。教会に行けば腕でも足でも治せるから……」

 プランが悲痛な面持ちで、泣きそうな声でそう呟いた。

「……えっとな……その……ぎっくり腰って……教会で治るかね?」

 そうアイアンが悲しそうに呟いた瞬間、何とも言えない切ない空気が場を支配した。



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