表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/138

3-20話 フレイヴの森探検隊4


 早朝に出発してから一同は、一時間に数回ほどの頻度で襲ってくる動物達を撃退しつつ森の奥に足を進めていく。

 多少苦戦するものの……純粋な野生動物が相手である以上、このメンバーで負けるという事はあり得なかった。

 森の中に住み、コケトリスが脱走し暴れ狂う事にすら慣れ切ったフレイヴ領の三人。

 狩人が本業であるリカルド。

 対動物性能ならば最高峰のメンバーが、今この場に揃っているからだ。


 といっても、強力な力を持った魔物や未知の幻獣などが出れば苦戦するのは目に見えているし、場合によっては全滅の危機となる。

 そうでなくても、彼らが軽々と動物達に対処出来ているのは経験と知識による部分が大きい。

 だからこそ、彼らは油断せず一定の緊張を保った状態のまま、森を探索していた。


 つまり、未知なる相手であれば彼らとて苦戦するという事である。

 そう、だからこそ……彼らの前に未知の生命体が現れた瞬間、軽い緊張感は張り詰めた弓のように変わり、場が恐怖に支配された。

 その灰色でずんぐりした四足の獣を見た時、彼らは一瞬で臨戦態勢となり、リカルドはプランを庇うように前に立つ。

 その生き物は鈍重そうな見た目で、頭に一本の角を備えている。

 それが突撃用の角であると予測し、彼らは正面を避けるように陣形を取った。


「……おい。誰かこれが何か知っているか?」

 リカルドの言葉に全員は首を横に振る。

「いや……体形はカバに似ているが……うん。わかんね」

 ラステッドはそう言葉にした。


 この中でこの生き物の事を知っている存在はただ一人――ワイスだけだった。

 ――あー。サイか。へーこんなとこに住んでるんだ。

 そんなのほほんとした気持ちでワイスは妖精石の中でまったりとその戦いを見学していた。


「……俺、わかったかもしれん……」

 アルトが意味深な表情でそう呟いた。

「それは?

 ラステッドの言葉に頷き、アルトはそっと口を開く。

「角を持つ幻獣……ユニコーン」

 そんなアルトの声を聴いた瞬間、ワイスは妖精石の中で静かに噴き出した。

 当然、外にワイスの声は漏れていない。


「……まさかそんな……。でも、明らかにその……絵本と見た目が違うじゃない」

 プランは両手を口に当て驚愕の表情を浮かべていた。

「歴史の中で美化されるというのは良くある事だ。そもそも、他に一角の獣っているか? そう考えた結果……つまり……これが本当のユニコーンなんだ」

 そう、静かにアルトは呟いた。

 ――馬ですらないじゃない……。

 ぷるぷると震えながらワイスは目じりから涙を零し、笑いを堪えていた。


「もしユニコーンだとすれば……戦うのは良くないんじゃないか?」

 ラステッドの言葉に全員が無言となった。

 そう、ユニコーンだとすれば決して人に仇なす存在ではない。

 そして、戦ったところで正直、伝説の生き物であるユニコーンには勝てる気がしない。

 だからこそ、彼らは戦いを避ける道を探していた。


 と言っても、目の前にいるのはこちらを敵視しているただのサイであったが。


「じゃあ、私が話してみる……」

 プランはそう言って、ユニコーンと思っているサイに一歩近づいた。

 ユニコーンは清らかなる乙女に攻撃する事はないという逸話が残っている。

 だからこそ、プランは多少の危険を顧みずユニコーンだと思っている生き物の前に進んでいった。

 ただし、それはサイである。


「おいで……」

 プランが限界まで作った優しい笑顔を振りまき、サイを手招きする。

 ユニコーンを誘う乙女が理想で、サイに話しかけるおてんば娘。

 そんな光景にワイスは我慢出来ず膝から崩れ笑い転げた。

 ――危ない……このままでは……このままでは死んでしまう。プランもだけど私が笑い死ぬ……。

 ワイスは震える体を必死に動かし、妖精石を揺らした。




 妖精石の反応に気づき、プランは慌ててワイスを召喚する。

 きっとユニコーン相手でも何かしてくれる、ワイスなら何とか出来るとプランは信じていた。

 白い球のワイスはふらふらといつも以上に怪しい挙動をしながら、震える声で囁くように――言葉を紡いだ。


「でぃすいずのっとゆにこーん。これは……ユニコーンではありません……」

 その声はとても震えていた。

「……へ?」

「これはサイです。ただの動物です。ちなみに頭のアレは角ではなく――コブです」

「は?」

「というわけで、プラン。ただの怒ってる野生動物です。逃げれ」

 プランは冷静に、こちらを睨みつけているサイを見て、ダッシュで後ろに走って逃げた。

「ねぇ! 野生動物に背を向けて逃げるってやばいんじゃない!?」

 そんなプランの言葉に、ワイスは冷静に答えた。

「ぶっちゃけおいでの行為で完全にターゲットされてたので、手遅れです」

「そかー」

 そのままプランはわき目もふらず、全力で走って逃げ、皆が後に続いた。

 プランを庇ったリカルドが一度突進されて吹っ飛ばされた事を除けば、全員がユニコーンだと思っていた生き物から難なく逃げる事が出来た。




「……なんか……ごめんな」

 アルトは小さな声で申し訳なさそうに謝罪をした。

 さきほどのユニコーンの事だろう。

「……私もごめん。リカルド痛かったよね?」

「いや、轢かれたのは俺が間違えたからだ。謝るなら俺の方が……」

 二人でリカルドにそう言っていると、リカルドはぽつりと呟いた。

「いやさ……ぶっちゃけあんま痛くなかったぞ? たぶんあの生き物――そんな強くない」


 そんなリカルドの言葉に、皆が無言になった。

 対して強くない生き物に挙動不審になり、挙句の果てに必死の逃走劇を繰り広げたという間抜けっぷりな現状を、誰一人言葉に出来なかった。

 妖精石の中に戻ったワイスはまた震えながら笑っていた。


「そうだよね。そんなぽんぽんやばい生き物が出るわけないよね」

 プランがそう呟くと、一同は無言のまま足を進め始めた。


 それから出て来る動物は、全て冷静になればなんとかなる程度の生き物で、食べる分以上には殺さず適当に追い払って進んだ。

 そこから大体二時間ほど進んだ辺りで、アルトは小さく笑った。

「ふふ。何怖がってたんだろうな。これだけの戦力があるのに」

 その言葉に全員が微笑みながら頷いた。


「ぶっちゃけ余裕だわ。まあそうじゃなければ俺達この森に住めてないわ」

 ラステッドがそう言い切った。


「というか、狩人の俺もなんだが、全員が動物に詳しいからな。あプランちゃんも嫌がらずに解体手伝ってくれるし決して足手まといになってないからね? という感じで、かなり森に適正がある俺達が困るような状況はないんじゃない」

 そうリカルドが言うと、アイアンが困った顔そう言葉にした。

「いや、一つ困った事がある」

 その言葉に全員がアイアンに集中し、アイアンがぼそっと呟いた。

「ぶっちゃけ俺が全く目立ってない事だ。これでもそれなりに戦えるのに……」

 そうしょんぼりした声で呟くアイアンが面白くて、全員は軽く噴き出した。


「そうよねぇ。そうそう困った状況なんて――」

 そう言いながら草むらをかぎ分けたプランの正面に、オオトカゲの顔があった。

 小さな鱗がびっりし覆われた、鋭く大きな牙を持った赤褐色のオオトカゲ――。

「――あれ? なんで私の顔の位置に頭が……」

 真正面にあるオオトカゲの顔は更に高い位置に上がっていった。

 気づけばプランの身長より倍以上高い位置にオオトカゲの頭は移動している。

 そしてその頭は轟くような咆哮をあげた。

 ビリビリと空気が震える。

 その直後にばさっと何かが羽ばたく音が聞こえ、そのオオトカゲは空を舞った。

 オオトカゲには大きな翼が付いていた。


「……空飛ぶオオトカゲかー。はは……は……」

 現実が受け入れられず、茫然としているプランの手を、リカルドは強引に引っ張った。

「プランちゃん! 逃げるよ!」

 リカルドはプランを抱え、風の魔法を全力で駆使し飛ぶように森を駆け抜ける。

 その後を分散しながらフレイヴ三人が着いて移動する。


 更にその後ろを……ばさっばさっと音を立て、オオトカゲに似た何かが追跡してくる。

 グォオオと轟くような咆哮が響き、急降下しては攻撃を繰り替えてくるソレから、各自死に物狂いで走り逃げる。


 この中の誰一人、この生き物を過去見た事がある者はいない。

 だが、誰もがその名前を知っている。

 物語の敵役として最も良く出てくる、誰が見てもすぐに強敵であるとわかる伝説の生き物。

『ドラゴン』

 そのドラゴンに追い立てられながら、一同は必死に逃げ惑う。

 鋭い爪を使った攻撃によりラステッドの剣は折れ、アイアンのハンマーはへしゃげ、アルトに至っては鎧が砕け決して軽くない傷を負っている。

 先行するリカルドとプランを庇う為、傷だらけになりながらもフレイヴの三人はドラゴンの攻撃を受けながら必死に森を走った。

 一度でも足を取られたら、足を引っかけたら、足を止めたら死ぬという状況のまま、三人は文字通り命を燃やした。




 無我夢中で走っていた為何がどうなってドラゴンから逃げられたのか、誰も覚えていなかった。

 わかっている事は、全員命だけは無事に助かり、合流出来たという事である。

 皆が気付いた時には『羊の楽園』と呼ばれる場所に全員で移動しており、山のような数の羊達に群がられもふもふとした感触で体と心の疲れを癒していた。


ありがとうございました。

更新が遅れて申し訳ありませんでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ