3-19話 フレイヴの森探検隊3
ある程度奥に進むと、高頻度で出現する野生動物に苦しめられるようになった。
最初の熊以外にも鹿、猪といった危険ではあるが対処出来る動物達が何度も襲ってくるが、それは全く問題にはならなかった。
逃がす、逃げる、場合によっては狩れば良いとこちらに害のない選択肢で埋まっているのは本当に気が楽だった。
相手が何なのか把握出来、その力量が予想出来るからだ。
ただ、虎やヒョウなどといった二人がかりでないと苦戦する動物もちょくちょくと現れだし楽勝というわけでは決してない。
森の奥に進むと動物の強さも上がっていくらしい。
今は若干の苦戦程度で済んでいるが、近いうちに進む事が出来なくなるだろう。
そんな時――そのおぞましくも恐ろしい動物を目にしたプランはひぃっと小さい悲鳴を上げその動物を指差した。
「ド……ドラゴン!?」
プランが見たのは四足で地面を這う大きな竜のようなそんざ――。
「違います」
リカルドが速やかに訂正しフレイヴの三人は暖かい目をプランに向けていた。
「え? ドラゴンじゃないのコレ? あのおとぎ話に良く出る」
「違うよ。これトカゲ」
「……え? え? いや……でかくない?」
「うん。オオトカゲって名前のトカゲ。ちなみに無害だよ」
「……マジで?」
プランの言葉にフレイヴ領三人もこくんと頷いて見せた。
「……えー。これトカゲェ?」
今度は逆に不満そうな声を出すプランにリカルドは苦笑いを浮かべた。
プランの目にはトカゲには決して見えないからだ。
ドラゴンではないにしろ、ワニの同類だと言われた方がよほど納得するくらいである。
「ちなみに数も多く戦闘力も低いから安い肉として良く提供されるんだ。たぶんプランちゃんもブラウン子爵領の出店で食べてる」
「へー。食べられるんだこの子……」
プランがちらっと、ケダモノのような目でオオトカゲを見た瞬間……オオトカゲはさっと素早い動作で逃げどこかに隠れた。
「……全長二メートルを越える体格の割に恐ろしいほどに臆病で、危険を察知すると逃げる習性があります」
アルトが淡々とした口調でそう呟いた。
視線だけで動物を逃がした意地汚い女。
そんな自己評価にプランは赤面し照れ隠しに後頭部を掻いた。
――今きっと妖精石の中でワイスは大爆笑しているんだろうなぁ。
恥ずかしさを誤魔化しきれずやるせない気持ちを吐き出すように、プランは小さく息を吐いた。
多くの動物と接触した事が時間のロスとなり予定の七割程度しか進んでいないのに日が暮れ始めた。
流石に夜の進行という危険極まりない行為は極力避けたいので、各自野宿の準備を始める事にした。
食事の準備は全てラステッドが行った。
というかラステッドが他の人に何もさせようとしなかった。
妖精体とは言えワイスが居る。
つまりそう言う事なのだろう。
保存用干し肉を簡単に加工した物と塩気の強いスープにその辺りで集めた果物に硬いパン。
テントの食事として考えたら十分以上に贅沢な食事だった。
ちなみにワイスには特別にミックスフルーツジュースを提供されていた。
「……ここまでマメなのに全く脈がない。悲しいが他人のような気がしないぞ」
リカルドはラステッドの方を見ながらそう呟いた。
「……あ、あはは。何かごめんね。コレ見てると相当酷い事しているんだなってのはわかったよ」
プランはラステッドとワイスの関係を見てリカルドにそう呟く事しか出来なかった。
「ま、俺には大きな大きな弱みがあるから。ま、今日までの生活はほんとに毎日楽しんで過ごしてるから気にしないで良いよ。プランちゃんがいなくてもリフレストに住みたいって思うくらいは良い場所だし」
「……そだね。謝るのも変だし感謝しとくよ。ありがとリカルド」
「ん。どういたしまして」
そう言って優しく微笑みリカルドはウィンクをした。
「……一体どういう関係?」
アルトの呟きにプランは少し考え、こう答えた。
「この狩人兼魔法使いな上に武官並の戦闘力を持つリカルド君ですが、何と……無償でウチの領に所属してくれ、事あるごとに毎日尽くしてくれていたりしております。さっきのはその感謝ですね」
「まじか」
「まじか」
「まじか」
フレイヴ三人は目を丸くしてリカルドの方を見た。
そりゃあそうである。
他はともかく魔法使いってのは希少な存在で有能な魔法使いとなるとあらゆる領から引っ張りだことなる存在だからだ。
それが無償で住んでくれるというのはありがたいという言葉以外には出てこない。
「ま、弱みと理由と恩があるからね。といっても、毎日が凄く楽しいから困ってるわけではない」
リカルドの言葉にラステッドは微笑んだ。
「そりゃいい事だ。んでどんな事が楽しいんだ?」
「そうだな……。ああ、一度だけどワイスから魔法の講義を受けたぞ。その日から魔法がバンバンうまくなってる」
「まじかよ俺もリフレスト領に住むわ魔法使えないけど」
ラステッドの冗談なのか本気なのかわからない発言を聞き、アイアンはごつんとゲンコツを叩きこんだ。
「そういやワイス。この三人って魔法使えそう?」
プランがそう尋ねると、幸せそうにジュースを飲んでいた白い光の球はふわふわとプランの傍に移動した。
「ん? 調べようか」
「うん。お願い」
「はーい」
ワイスはふわふわーっと移動してラステッドの頭に止まり、数秒したらアルト、そしてアイアンの頭に止まってプランの元に戻ってきた。
「調べたよー。ああ、でも私が調べられるのあくまで妖精との相性を中心にした魔法の適性だからね」
そうワイスが呟くとラステッドは相性という言葉に反応しがたっと立ち上がってみせた。
「俺! 俺どうでした?」
「うん! 絶対に無理! 才能ゼロだったよ!」
「そんなー」
ラステッドは座り直ししょんぼりしながら若干いじけた。
「んでそっちのアルトも全くなかった。んでーアイアンがプランやリカルドほどじゃないけど適性があったよ。妖精に好かれている……というよりも大地に愛されてる感じ。妖精と契約すればきっと茶色の妖精が来るだろうし魔法も土に関係するのが使えるようになると思うよ」
「――そうかい。ま、俺が魔法使いとか妖精使いとかそういったのはガラじゃないからあんま関係ないがね。ついでに言えば妖精石とか高価なもんあったら金に換えるわい」
そう言って笑うアイアンだが、その笑顔に力はなくどこか寂しそうである。
さっきの会話の中で地雷があったらしいがどこにあったのかわからないし、それに人の傷口を掘り返すような性格の悪い趣味は持っていないのでプランはそこに触れず話を強引に切り替えた。
「にしても色々な動物……動物? まあ色々な生き物が出て来るわねこの森。本当一体何なのかしら?」
「さあな。ただその恩恵をあずかって生きているから感謝はしてるがな」
ラステッドはそう呟き、森を愛しそうに見つめた。
ラステッドにとってこの森は危険な場所である以上に愛すべき故郷だからだ。
「……あくまで仮説なんだが、俺はちょっとこの異常性について推測出来た部分がある」
リカルドの言葉にプランは驚き目を丸くした。
「そんな……私とどっこい程度の知能しかないリカルドが賢げな事を言ってる!」
そう声を荒げた後プランは泣き真似をした。
「ええー。そこ? そこに反応するの?」
リカルドはやたらとテンション高くふざけるプランを微笑みながら突っ込みを入れた。
「話戻すけど……の前に、プランちゃん。リフレスト領の湖の事話して良い?」
「え? 別に良いよ。好きに話しちゃって」
「ん。リフレスト領には比喩でも何でもなく本当の意味で何が出て来るかわからないヤバイ湖があるんだ。魔物が出てきた事もあったらしいぞ」
リカルドの言葉にフレイヴ三人は驚いた。
魔物の危険性を知らない者はこの世界にいない。
実際に出会った事がなかったとしてもその存在はおとぎ話に、噂話に、そして国のお触れなどで広められているからだ。
魔物について一番わかりやすい言葉は『武官と同じ戦闘能力』である。
知らない者はいないが詳しい者もいない。
全く研究が進んでいない魔物についてだが、一つだけ確かなのがその戦闘能力だった。
一番弱い個体であっても、兵士では相手にならない戦力を持っている。
その為、危険度最上位として国家は敵として未来永劫倒すべき天敵であると魔物を認定している。
「んでその湖は本当に何が起きるかわからないし、漁をしても何が手に入るか予想も出来ない。ただ、逆を言えば漁を行えばいくらでも資源と金を集められるという事になる。滅多な事では魚も数を減らさないし魔物も高価な資源になるしな」
「はー。そんな危険な場所があるんだな。儲かるのはありがたいしギャンブルみたいで少し面白いが、そんな場所が近くにあるのは少し怖いな」
ラステッドが素直な感想を述べ、その言葉にプランが首を傾げた。
「ああ。プランちゃんは俺の言いたかった事に気が付いたね。ちなみにその湖は何等かの魔力が溜まってそのような不思議な状態に変化したらしい。言いたい事はわかるな?」
リカルドの言葉にラステッドを除く全員が頷いた。
「……なるほど。大体わかった」
ラステッドは腕を組みいかにも理解したという表情でうんうんと頷いている。
これほどに信用出来ないわかったを見たのは、プランは生まれて初めてだった。
「いや、その湖と同じようにこの森も魔力で変化してるんじゃないかって言いたいんだよ」
リカルドの言葉にラステッドはぽんと手を叩いた。
ありがとうございました。




