3-12話 リフレスト~フレイヴ
「んでさ。別に文句があるわけじゃないけど、なんでウチ来るんだ?」
ラステッドはフレイヴ領に向かう途中、プランとリカルドにそう尋ねた。
ちなみにハルトは先にブラウン子爵領に戻らせた。
フレイヴ領出身の可能性があると聞いてから、連れて来る事は控えようとプランとラステッドが二人で決めたからだ。
理由は幾つかあるが、一番の理由はお互いトラブルの種になる事を避ける為である。
「……すまん。御当主は視察という言葉の意味がわからないんだ」
ラステッドの横にいるアルトは微笑みながら堂々とそう言い放ち、ラステッドはそれをうんうんと何度も頷いた。
「……んー。アルト、何て説明したら良い?」
プランの言葉にアルトは少し考え、こう言葉にした。
「お詫びの品を自分で探したい。あと観光」
それを聞いたラステッドは馬の上でぽんと手を叩いた。
「なるほど! んじゃ好きに見ていくらでも何でも持っていってくれ。でも民の物はちゃんと本人に聞いてくれよな」
ラステッドの竹を割ったような――というか割りすぎてさっぱりしすぎた豪快な性格にプランは苦笑いを浮かべた。
「んでさ、私は畜産の技術を教えろって言ったらどうする? 今のとこ最有力候補なんだけど」
プランの質問にラステッドは首を傾げた。
「あん? 教えろって言ったら教えるけど? それと賠償に何の関係があるんだ?」
「いや、言い辛い事だけどたぶん君の領で一番価値あるのソレだよ?」
そう答えるとラステッドはより深く首を傾げた。
「価値あるものなんてウチには民以外ないんじゃね? んで高々動物の育て方程度いくらでも教えるけどそんな事を詫びにする気はないぞ」
そう答えた後、ラステッドは馬から下りて、プランの方に向き深く頭を下げた。
「今更だがすまない。言い訳もしない。してはいけないとわかっていてした事だ。出来るならそちらが納得いくまできちんと謝罪も賠償もする。何なら俺の命だって出す」
その深々と頭を下げた姿はどこか高潔であり、最初の土下座の時よりその姿はよほど真摯的で、悪いとわかっていてもせざるを得なかったのだと理解するに十分だった。
それが不本意な事くらいプランでもわかっていた。
何故なら、あまりにも彼らフレイヴの人間に悪事が似合わないからだ。
「では改めて、謝罪を受け入れます。後は賠償で話が終わったらお互い対等よ。聞きたい事があったら何でも聞いて頂戴」
プランが微笑みそう答えると、ラステッドは頭を挙げた。
「すまん。恩に着る。んで更にずけずけと踏み込んで悪いが、どしてあんな発展してんだ? でかい教会建ってるし人も増えてるし。その秘密を是非是非」
ゴマすりのような態度で尋ねて来るラステッドに、プランとリカルドはいたたまれないような、そんな悲しげな表情を浮かべた。
「あー。ごめん。凄く言いにくいんだけど、アレ何かしたわけじゃないんです。結果だけみたらカモネギ状態だけど……人が増えちゃったからぶっちゃけウチも食料問題で破綻寸前なのよね」
そう、人が増えたのはリカルド筆頭の盗賊団がごっそり村人になっただけだし、教会の金はアデン男爵領が襲ってきた時にせしめたやたら質の高い武具を売り払った金がメインである。
プランが何か特別な事をしたわけではなかった。
「んー。食料困ってるのか。干し肉で良いなら分けよか? 飯関連なら結構余裕あるぜウチ」
普通に心配してそう尋ねるラステッドにプランは苦笑いを浮かべた。
「ありがたい話だけど、まずはお互い自分の領を優先して心配をしましょ」
「そだな。それに話し合いはまた後だ。この辺りからはしんどい道が続くから少し気合を入れて通るぞ。リカルド。リフレスト御当主様をしっかり守れよ」
ラステッドの言葉にリカルドはしっかりと頷いた。
「前も言ったけどプランで良いわ。代わりに私もラストって呼ばせてもらうし」
「おう。そっちの方がありがたい。というわけで、最初の森だ」
一同の前には鬱蒼とした森が広がっていた。
その森を一言だけで伝えるとすれば、最悪である。
近場にこんな地獄めいた場所があったとはプランは知らなかったし知りたくもなかった。
木々の他に太い蔓が蔓延し、土は水分を多く吸って栄養が蓄えられ、まるでヘドロのようにドロドロとしており、まるで湿地帯のような森ではまともに身動きが取れない。
乾燥地帯の多いリフレスト周囲にこんな場所があったなんてプランは夢にも思わなかった。
そんな森をラステッドとアルトは馬を連れたまま軽々と進み、プランとリカルドは風の魔法を利用して泥汚れが服や靴に付着しないように森に翻弄されながらゆっくりと進んだ。
森が大変なのはぬかるみや通りにくさだけではなかった。
道中でプランの胴よりも太い蔓に擬態した蛇に襲われ、ラステッドとアルトに助けられながら逃げたら今度は腰くらいまである気持ち悪いヒルに襲われた。
そんな生理的にも気持ちの悪い化け物達から逃げ続け、何とか十時間かけ森を脱出する事に成功した。
そんな森を抜けた先、目の前に現れたのは断崖絶壁の山だった。
ほぼ百メートルはありそうな垂直に近い崖を、アルトは軽々と登り、ラステッドに至っては馬に乗ったまま崖を駆けあがっていく。
馬に乗ってずるいとか、そんな話はとても出来ない。
例え馬があっても、プランは当然リカルドもハルトも同じ事は絶対に出来ない。
おそらくだが、行きの時はこの崖を馬に乗ったまま駆けおりたのだろう。
ラステッドが来る時に護衛も付けなかった理由をプランは少しだけ思い知った。
「お姫様抱っことおんぶ、どっちが良い?」
そう尋ねるリカルドにプランは苦笑いを浮かべた。
「……どっちが嬉しい?」
「どっちも嬉しいし……どっちも辛いかな」
リカルドの笑みには余裕がなく、崖を見上げる表情は辛そうだった。
「……おんぶで。せめて手が使える方が良いでしょ。……ごめんね。それとありがとう」
そうプランが答えるとリカルドはすっとしゃがみ込んでプランに背中を見せた。
「そこはごめんよりも言う事がないかな? ありがとうも良いけど他にね」
ウィンクするリカルドにプランは小さく笑い、頷いた。
「ん。お願いします」
「はい。お願いされます」
リカルドはプランを背負ったまま、全身に風の魔法をかけ垂直に壁を駆けあがる。
先行したアルトを抜き、そのまま更に加速して馬で駆け上がるラステッドを抜いた。
恰好付けてるわけではなく、かなりしんどい事をしている為少しでも早く登り切りたいだけである。
むしろ、悠々と気楽な感じで崖を登るアルトとラステッド二人の方が異常だった。
リカルドは一気に崖を登りきり、山の中腹辺りに到着するとプランを降ろしそのまま仰向きにぱたりと倒れた。
肩で息をし汗だくで、誰の目から見ても限界なのは明らかだった。
「もー限界。ごめん休ませて……」
「うん。時間も丁度良いし今日はこの辺りで休ませてもらおう」
そう言いながら、プランは後ろを向き、太陽の位置を確認する。
陰鬱とした深い緑をした森は紅葉のように赤く染まり、黄昏時が近い事を暗示していた。
テントを張って一泊し、早朝から山登りが始まった。
リカルドの体調は体力こそ回復したものの魔力は回復しきらず、少々心もとない状況らしい。
妖精を利用する魔法の為魔力は本人と関係ない部分であり、そればかりは妖精の機嫌次第である為どうしようもない。
山の下り道は比較的緩やかに降りられ、そこからしばらく草の生い茂った草原を歩き、夜を迎えて一泊しまた新たに現れた山を登る。
草が通行の邪魔をする草原と妙に落差のある山、それと茂って人の手に余る森。
それらを都合八日ほど繰り返した後、急に世界が変貌した。
景色自体はさほど変わっていないはずなのに、独特の重苦しかった空気や陰鬱とした気持ちが晴れ、プランは爽やかな風を感じる余裕が出ていた。
「お疲れさん。そろそろ着くぞ」
ラステッドがそう言いながら指を指し示した方角には森が広がっていた。
ただし、今までの湿地帯ジャングルのような森ではなく、土は若干湿った程度で歩きやすく、木も間引き蔦もない管理された森だった。
ありがとうございました。
最近文字数少なく更新も遅めで申し訳ありません。




