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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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2-13話 大騒動へのプレリュード

 

 部屋にいるプランはメイドから朝食の呼び出しに応え、数分ほど移動して食堂に向かった。

 先に到着していたリカルドは席に座ったまま、神妙な面持ちでプランを見ていた。

「何かあったか知らないかい?」

 リカルドの質問にプランは首を横に振り、リカルドの隣の席に座った。


 プランが廊下を歩いている間とこの食堂の中は昨日と全く同じで、変わった様子は一切見えない。

 メイド達は微笑みながら優雅に歩き、各自己の仕事をしている。

 そこに焦りの様子は全く見られない。


 だが、これは来賓である自分達に気を使っているだけであり、実際は何か大変な事が起きている。

 プランとリカルドはそう確信していた。


 見えない部分で騒がしいような慌ただしいような雰囲気もその根拠の一つなのだが、決定的な証拠がここにあるからだ。

 それは、ブラウン子爵がここにいない事である。


 ブラウン子爵が食事を共にしない。

 来客に礼儀を尽くすブラウン子爵が、一番好きな食事時にいない。

 それだけで、ブラウン子爵の手に負えないほどの事件が起きていると理解することが出来た。




 美味しくはあるが、楽しめない。

 ブラウン子爵が食事を楽しむにはゆったりとリラックスして心配事がないと出来ないと言った事を思い出し、プランは小さく苦笑いを浮かべた。

 そんな朝食を慌ただしく終わらせ、食後の紅茶を冷まし冷まし飲んでいるプランに、執事のような服装をした男が現れた。

 背筋をぴしっと伸ばした誰よりも姿勢の綺麗で礼儀正しく見える青年。

 長身で真面目そうで、いかにもな『出来る男』オーラを発しながら男は深々とプランに頭を下げた。

「お食事中に失礼します。私の名前はコーラス・ウェイン。一応ですが、この領で文官のトップを務めております。以後お見知りおきを。リフレスト領主様」

「あ、はい。プラン・リフレストです。よろしく」

 プランはそんな出来る人オーラに驚き、茫然した様子で返事だけ返した。


 筆頭文官であるウェインは、その後リカルドに丁寧に頭を下げた後自己紹介して握手をし、プランとリカルドが紅茶を飲み終わるのを待った。

 そして飲み終わると、そっとプランのテーブル前に書類の束を用意した。

「リフレスト領銅山の開発計画とその進行について。それと契約内容についてを記しています。リフレスト領に持ち帰り協議してみてください。もちろんこれで決定ではありません。何か変更の意見があれば是非教えていただきたいです」

「う、うん。わかった。じゃなくて、わかりました。こちらは持ち帰り協議させていただきます」

「はい。では失礼します」

 そう口にし、ウェインは足早にその場を立ち去――。

「ちょっと待った」

 立ち去ろうとするウェインを、リカルドは引き留めた。


「はい。私に何か?」

 微笑みながらウェインはそう尋ねた。

「ああ。育ちも悪い上に頭も悪いもんでな、単刀直入に聞く。何があった?」

 その言葉にウェインは笑みを失い、小さい声で呟いた。

「領主様が逮捕されました」

 プランとリカルドは聞き間違いかと思い、耳を疑った。




 ウェインの言葉によると、どうやら中央に提出した税金の年間報告書がおかしかったらしい。

 多少変だったり間違いだったりという話ではなく、明らかに故意の偽装。

 つまり、ブラウン子爵に着服の疑いがかけられていた。


「ぶっちゃけ聞くわ。そんな事、ブラウンおじちゃ――失礼、ブラウン子爵がしたと思う?」

 プランの言葉に、ウェインは首を横に振った。

「まさか。神に誓いましょう。ありえない話ですと」

 ウェインがこう言っているのは、人柄の問題だけではない。

 単純に、する必要性が全くないからだ。


 潤沢な予算があり、特産も優れた海洋都市で、国からの覚えも良いブラウン子爵。

 しかも本人であるブラウン子爵の趣味は料理研究。

 これは公費で行って良いというお墨付きも出ている。

 だからこそ、ブラウン子爵が着服する理由もないし、するメリットもないのだ。


「そうよね。私も人の事言えないけど、悪事が出来るほど器用な人ではないよね……」

 プランの言葉にウェインとリカルドは同時に頷いた。

「ただ、事が事なだけに事態はあまりよろしくない方向に向かっています。そろそろ、私にも呼び出しがかかるでしょう。領主様を迅速に逮捕するほど手回しの出来る相手が、筆頭文官である私を野放しにするとは思えないですからね」

 そう言ってウェインは微笑んだ。

 表情ではわからないが、雰囲気で理解出来る。

 この人は相当無理をしていると――。


「ではごゆるりとおくつろぎ下さい。お帰りの際はメイドに申し付けください。馬車の用意をする手筈となっておりますので――」

 一礼し、去っていこうとするウェインをリカルドが呼び止めた。

「おい」

「失礼、まだ何かご用事がありましたか?」

「……助けてって言わないのか?」

 リカルドの言葉を聞き、ウェインは苦笑した。

「わざわざ遠方から来ていただいたお客様の手を煩わせる? それは間違いなく、ブラウン子爵領の誇りを傷付ける行為です。もし領主様がこの場におられましたら、間違いなく同じ事を言っているでしょう」


 そう言い残し、立ち去ろうとするウェインを、リカルドは再度止めた。

「おい」

「……まだ何か?」

「全部片が付いたら、一杯奢れ」

 そんなリカルドの言葉を聞いた後ウェインは目を丸くした。

 驚いた表情でリカルドとプランの顔を見た後、ウェインは無表情のままお辞儀をした。

 そのお辞儀は、今までウェインがしてきたどのお辞儀よりも頭を深く下げていた。




「あーらら。勝手に決めちゃったねー」

 ウェインが立ち去った後、プランはリカルドに茶化した様子でそう呟いた。

 そんなプランにリカルドは微笑む。

「どうせさ、助けるつもりでしょ?」

 その言葉にプランは満面の笑みを浮かべ、サムズアップをして見せた。


「いやはや、私じゃウェインさんに何て言って慰めたら良いかわからなかったわ。こういう時男同士って良いわねー」

 そう言いながらプランはリカルドの背をバシバシと叩いた。

「よっし! 世話になった領への恩返しも兼ねて、リカルド! 頑張ろうね!」

「おう」

 リカルドは微笑みながら頷いた。




 プランとリカルドは別行動を取り、それぞれ会った人にかたっぱしから事情を尋ねた。

 この館内でブラウン子爵を疑っている者はいない。

 それを知っているから出来る情報収集である。


 その結果、これらの事が判明した。

 明け方に兵士を連れ、逮捕状を見せて捕まった。

 挽回の余地はあるとして裁判が開かれるのだが、その裁判が開かれるのは二週間後という異例のハイスピード。

 裁判はこの町にある建物を使う。

 しかし、裁判が開かれるまで領主は捕まったままで、しかも逮捕されっぱなし。

 関係してそうな人も全員逮捕し捕まった。

 捕まった人達はどこにいったのか不明。

 距離の問題から、領内にはいると予想される。

 そして、結構な証拠があり数年単位での着服となれば、これまでの功績があってもお家取り潰しとなる可能性は高い。


 そんな情報を集めたプランとリカルドは、ある一つの同じ考えに思い至った。

「ねぇ。先に聞くけど、証拠があるけど実際にやったと思う?」

 プランの質問をリカルドは鼻で笑った。

「はっ。ブラウン子爵がそんな事するなんて、この領内で信じてる奴いるのか?」

 プランは小さく微笑み頷いた。


 そう、二人はブラウン子爵の無実を疑っていない。

 それなのに証拠があり、そして異常なほど速い事態の展開速度と根回しの良さ。

 これはつまり――誰か裏で糸を引いているのではないか。

 二人はそう考えていた。


ありがとうございました。

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