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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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33話 国の選択、プランの選択2

 ルムルが、中央政府よりも早く動き、先にこれたのには事情があった。


 中央政府に、リフレスト領から書類が届く以前に、ルムル達闘争神教団は、アデン男爵による内乱の事態を知っていたからだ。

 闘争神の神殿には、国内で行われた【名誉ある戦い】が全て記録される様になっていた。

 闘争神に捧げた戦いが終わると、それを記録した本が神殿より生まれる。

 その本は開くと、立体映像が浮かび上がり、実際あったことがそのまま繰り広げられる。

 これを、【ムービーブックス】と呼び、闘争神の神殿にでは、全て厳重に保管されていた。


 ちなみに、アデン男爵領の映像を見た信者は、五割が怒り狂い、五割が笑い転げた。

 名誉をないがしろにした者を、闘争神信者は人と見ないからだ。

 その愚かで神にたてついた虫ごとき存在に五割は怒った。

 残り五割は、愚か過ぎて、喜劇として受けとり笑った。


「ということで、これが一つ目、天罰についてね。神に直接、天罰を落とされた存在ってのはここ十年では一人もいなかったわ。だから、アデン男爵の領地は息子に継がせることは出来ず、領地は没収になる可能性が高いわ」

 神の怒りを買った者の息子を領主にするというのは、あまり喜ばしいことでは無い。

 特に、貶されたと見ている闘争神の関係者から、アデン男爵の息子を処刑せよという声があがるくらいだ。

 だからこそ、教団の怒りを伝える為に、ルムルが中央の役人よりも先に訪れた。


「……何とかならない?本人が悪くても、息子には関係無いし、それに領地を運営するのって大変だから、国が手伝ったらきっと……」

 相手の息子は関係無いとプランは提案するが、ルムルは困った表情を浮かべていた。

「領主様。その意見は、次の話を聞いてから、述べるべきだと思います」

 ヨルンはプランにそう提案した。

 その言葉に、ルムルとティギルは頷いた。

「そうね。次の内容を聞いて、そう思ったなら、私もそれを手伝うわ」

 ルムルはそう言った後、二つ目、アデン男爵領の内情を話しだした。


 ルムルとティギルは、こちらに来る前、先に中央の軍人と共にアデン男爵領に向かった。

 そして、その内情を知った。


 文官は懐を蓄えることしか考えず、今は亡き領主とその息子は税を上げることにのみに勤しんだ。

 反論する武官も文官も全て追放し、優秀と言われた、五年前まで即位していた先代の頃の人員は、知名度が高く、追放できなかったガドラのみ。

 後に残ったは、腐った文官と、贅沢を覚えた領主と息子。そして、何も口出し出来なくなったガドラだけだった。

 せめて兵士が全員、ガドラについていたらクーデターという手段が使えただろう。

 だが、残念ながら兵士は二種類にわかれた。

 反乱に参戦した、ガドラ側についた真面目な兵と、様々な理由で、文官についた兵で。


 武官が一人しかいないから、代わりに装備を充実させた。

 その時武具を用意した商人は文官の知り合いだ。

 装備を整える金が足りなくなった。だから税を増やした。

 領主が贅沢したくなった。税を増やすついでに税を増やした。

 冬対策の予算は、領主の息子がそのままがめた。


 アデン男爵領唯一の村は、わずか五年でボロボロになった。

 老人と子供は一人もいない。五年で全員死に果てた。

 若者は生き残っているが、全員やせ細っている。

 そんな状態で、税に期待出来なくなった文官は困り、こう決めた。

「そうだ。隣から奪ってしまおう」

 そんな下らない理由で、アデン男爵領は内乱を始めた。



「ということで、領主の息子、文官と文官についた兵士は全員捕縛。少なくとも、領主の息子と文官は全員、確実に処刑ね。なので、アデン男爵領が空き地になることはほぼ決定事項です。処刑するならうちの教団の心象も良くなるし、中央としては他の選択肢は無いでしょうね」

 ルムルの言葉に、プランは頭を抑えた。

 プランは、自分の贅を削っても、領民を食わせることが領主だと信じていた。

 だから、そんな領主がいることが信じられなかった。

 領民に肉を与えて、自分は塩スープを飲む父が、偉大な人物だったんだと、プランは改めて思い知った。


「それで、最後の三つ目、中央の見解とは一体何なのでしょうか?」

 ヨルンの言葉に、ルムルは頷いて応えた。

「中央政府の見解では、アデン男爵領は没収。ただし、この領地を欲しがる人はいないから実質放置ね」

 贅の限りを尽くした調度品は全て没収され、残ったのは空になった館と、ボロボロになった村人のみ。

 その上、この辺りは本当に何も無い辺境の地。欲しがる者など、いるわけが無い。

 それはつまり、残った人を見殺しにするということだ。


「ただし、今回の騒動の被害者であるリフレスト領の領主には、即座にアデン男爵領を併合する権利が与えられています。それが中央政府の考えね」

 中央の言いたいことはこうだった。

 領地が欲しいなら、不要な村人を助けろ。


 そして、プランの選択肢は二つになった。

 不要な領地を増やして人を助けるか、見殺しにするか。

 プランはヨルンの方を向いた。

「今のリフレスト領に、領地を増やして運営する能力はありません」

 ヨルンは、そう現状を答えた。

 今でも文官は限界ギリギリの仕事をこなしている。

 それに荒地を加えたら、とてもじゃないが、仕事量が追いつかない。

 オーバーフローの先に待っているのは、確実な破滅のみだ。


「……無理をしない方が良いと思うわ。伝えろと言われたから伝えたけど、それで領民が苦しんだら意味が無いもの。領主なら、優先順位ってものがあると思うわ」

 ルムルは、プランを慰める様、そう言って、プランの頭を撫でた。

 プランは下を向いて、わなわなと震えていた。

 自分の選択で人を殺す。

 それはある意味、()()()()()()()()()()()だった。


 ただし、()()()()()()()()()()()()()

 領主としての仕事は何一つ出来ないからこそ、プランは諦めるという正しい仕事も放棄した。

「――――――……ゃい」

 プランは小さく、何かを呟いた。

「ん?プランちゃん。どうしたの?」

 頭を撫でながら、ルムルは心配したようにそう尋ねた。


 プランは、机をバン!と両手で叩き、声を荒げた。

「全員!ファストラの村に移住じゃい!領地はいらん!人だけ寄越せ!」

 そう叫ぶプランを、ヨルンは苦笑しつつ、その方向で物事を考え出した。

 呆然とするルムルとティギルに、プランは頼んだ。

「おじさんおばさん!力を貸して!」


 プランのまっすぐな瞳に、夫婦は十年前の様子を思い出し、笑った。

 ――この子は何も変わっていない。

 それが、二人にはとても嬉しかった。


「力を貸したいけど、私に出来ることはほとんど無いわ。今回、教団の代表で来てるから教団の意向に背けないの……」

 申し訳無さそうにルムルが言うが、プランは首を振った。

「ううん。そっちもあったら嬉しいけど、欲しいのは、むしろおじさんの力なの」

 プランの言葉に、ティギルは自分に指を向けて尋ねた。

「俺か?多少は戦えるが、そこいらの武官と同じ程度だぞ?」

 そう言うティギルに、プランはにっこりと笑って言った。

「おじさん。武具買って?」

 プランはにっこりと笑いながら、そう言った。

「は?」

 夫婦はそろって、間抜けな声をあげた。




「ヨルン。お金の問題が何とかなれば、全部何とか出来るよね?」

 絶対の信頼を持って、プランはそう尋ねた。

 ヨルンは、メガネの位置を手で直し、無表情で答えた。

「ええ。予算の問題さえ何とかしていただけたなら、全ての問題を解決させましょう」

 ヨルンはプランの信頼を受け止め、答えた。

 無表情になるのは、ヨルンが文官として、本気でいる時の証だった。


「優先順位が高いのは食料では無く、治療そのものです。治療能力者を短期で雇い、元アデン男爵領の領民の生存確率を上げ、同時に兵の治療も進めましょう。その次に食料の購入先を探し、後の問題は……。フィーネ枢機卿との話し合いで何とかなるでしょう」

 ヨルンの言葉に、プランは頷いて尋ねた。

「というわけで、武具の見積もりお願い出来ます?」

 ティギルは、二人に驚きつつ、頷いた。

 プランは嬉しそうに、アデン男爵から奪った装備をティギルに見せた。

 その価値はわからないが、ティギルが「おお……」と驚きの声をあげたことから、安物では無かったらしい。


 せっかく鹵獲した装備が、全て売られることに決まって、ハルトはこっそり涙を流した。


ありがとうございました。

次か、その次で一区切りになります。

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