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火男3

「どうぞ、お茶ですっ」

白いミントをした小きつねが客人に熱いお茶を差し出したあと、丸い茶色のお盆で口元を隠して興味深く客人を見ていた。

今から数分前に茶狐にお社に連れてこられた、火男は挙動不審な様子で湯のみでグヅグツと煮立っているお茶を一息に飲み干した。


「すげー。熱くないの?」


キラキラと目を輝かせている小狐に対して、『あ…。え…、だ………ぶ』と、どんなに耳を済ませてもやはり全然聞こえない。


火男の真っ赤な髪が沈みかけた陽の光りを浴びてより一層赤みを帯びていた。

前髪の合間から見えるガラスのような青い瞳は落ち着きなく社の中の端から端まで見回していた。

火男には熱いお茶を、と言ったのはセルリアンだった。

セルリアンはセルリアンで火男の生態系について調べたらしい。

…が。大した情報は掴めなかったらしく。


「ひょっとこの名前の由来は火男らしいな」

と言ってきたので、

「ひょっとことは何だ?」

とオレが聞くと、セルリアンは唇を尖らせ両手で顔を潰して見せるものだから、セルリアンの美しい顔のパーツが全体的に中心に寄ったプクっとした変顔になり、思わず吹き出してしまった。

「こんな顔をしてる男だ。とてもイケメンとは言い難いな」

オレが笑ったのが面白くなかったのか、プイと顔を背けてひとりごちていた。


イケメンとは言い難いとセルリアンは言っていたが、目の前にいる火男は間違いなくイケメンの部類に入ると思う。

真っ赤なサラサラのヘアスタイルが整った小さな顔を覆っていた。

これは、雪女のめぐみの一目惚れと言ってもおかしくないレベルだが、あの思慮深そうなめぐみが一目惚れなどのような軽率な感情では無いだろう。


「さてと、私がお前を呼んだ理由は…」

じーっとセルリアンに顔を覗き込まれた火男は、猛獣に睨まれた草食動物のように身動き1つできず固まってしまった。

しかし、固まったのは火男だけでは無かった。

オレもオレでセルリアンの事だから、めぐみの存在を、更にめぐみの想いまで明かしてしまうのではないかとハラハラしてしまった。


「取って食う訳では無い。そう緊張するな」

ニッと笑顔を見せたものの、それは逆効果だったようだ。

何か言わなきゃと必死なのか、パクパクと開いたり閉じたりする唇。

ぎこちなく上下に動く首。

そんな火男を見て、セルリアンは嬉しそうに言った。


「お前、本当に小動物みたいでかわいいな」


そうだ、セルリアンは小さな動物が好きだった。

前に依頼人として白ウサギが来たときもベタぼれだった事を思い出した。


「私が呼んだのは…。火男と言う種族に興味が湧いてな。今夜は共に語り合おうではないか、お前の好きな酒は何だ?好きな食べ物は何だ?何でも用意するぞ」

シュバルツがな。

と、小さく続けたのをオレは聞き逃さなかった。

セルリアンの言うことなら何でも聞く、黒狐は今夜もセルリアンのために走り回されるのだろうなー。

テレパスの力を持っている黒狐のことだ。

きっともう社の外でセルリアンの指示を仰ぐために待機しているだろう。


憐れな黒狐に更に追い打ちをかけるように遠くの方で雷鳴が轟いているのが聞こえた。












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