火男との遭遇
「やっぱり酒は最高だなー。特にシュバルツの作るカクテルに勝る酒はないぞ」
セルリアンの命令に早急に従った黒狐の行動は本当にスピーディーな物だった。
セルリアンの指示からあっと言う間に、テーブル一杯の飲み物そして食べ物を運んで来たそのスピードはさすがと言うべきだろう。
お社からセルリアンの部屋に場所を移したオレたちの中に居心地が悪そうな顔をしているのが一人いた。
言うまでも無く、火男である。
その火男にさっきからベッタリ張り付いているのは…。
「本当ぅー、貴方ってイケメンねぇー」
相変わらずのおねぇっぷりで、偽胸を強調したタイトのドレスを着込んでいる金狐である。
その様子に汚物を見るような目を向けているのは銀狐である。
そんな銀狐の視線などお構い無しに、ぐいぐいと火男に体を押し付けていた。
「こんなイケメン久々に見るわぁー、どう?今度二人で会わないぃー?」
元々意志薄弱な火男は自分と全く対照的な金狐にどんな対応していいか分からず、また口をパクパクし始めた。
何か言っているのだろう、しかし、残念なことに全く聞こえない。
「ゾーラいい加減にしろ!その火男はセルリアンさまの客人だろう。お前ってオカマは見境無いのか?」
金狐の行動に見るに見かねた銀狐が睥睨した。
「その通りだ、その火男は今日のパーティの主役だぞ」
片手でカクテルグラスを揺らしながら、イラっとした感じのセルリアンが火男の前に立った。
「お前も飲んでるか?」
「あ…。じ、じ、……め…な……で」
小声過ぎて全く聞こえないが、多分、『自分飲めないんで』と言ったのだと思う。
「そんなこと言わずに飲め飲め」
火男の言葉を全く無視したセルリアンが強引にグラスを持たせて、酒を進め始めた。
火男にしてみれば、さっきまでの金狐のアピールとこのセルリアンのごり押し、どちらにしても地獄なのではないだろうか?
「お…さ、さ、……めない…」
火男が精一杯声を出した所に、部屋のチャイムが鳴った。
「おー、もう一人のゲストが来たぞ、シュバルツ早くドアを開けろ」
キッチンでいそいそと次のおつまみの用意をしていた似合わないピンク色のフリフリレースの着いたエプロンを着けた黒狐が玄関へと向かった。
「ラビル、あのエプロンのセンスどうだ?私がシュバルツのために選んだのだが…」
クスクスと可笑しそうな含み笑いを見て、セルリアンが彼に似合わないのを承知で買ってきたのが分かる。
「あの堅物の黒狐がピンク色のエプロンを着ているとこが見たくて買ってみた。予想以上に似合わないな」
ごくたまに、セルリアンはこんな風にSっ気を見せることがある。
だが、純粋にセルリアンを慕っている黒狐のことだからセルリアンに貰ったものはチリ一つでも大切にするだろう、それが自分のために選んでくれたものならば、もう家宝レベルの物だろう。
まぁ、両人が満足しているのなら、それはそれでいいだろう。
「ところで、もう一人のゲストって?」
「そんなの決まってるだろう?」
セルリアンは親指で鼻をさすりながらリビングの扉が開くのを待った。
黒狐の後ろから現れた雪女の押上めぐみはおずおずと部屋に入ってきた。
おいおい、火男に片想いしているめぐみをいきなりこの場に呼ぶとか…。
セルリアンが何を考えているのか分からない。
遠くで鳴り響いていた雷鳴がようやくバケツをひっくり返したような雨を運んできた。




