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転移した先はカプシーだ。
私が一番最初に訪れた町ね。
転移するといっても、行った事がない場所には行けなかった。
この三日、色々試したり練習をしたりしていたのだ。
このソラヌムという国はレオンの育った国なんだって。
いつでもどこかで戦をしている西方地域の国々は、親と死に別れたり、はぐれてしまったりで孤児が多い。レオンもそういう子のひとりだった。
国境近くの戦場となった村で保護されたレオンは、ソラヌム生まれなのか隣国生まれなのかわからなかったけど、十歳過ぎまではソラヌムの孤児院で育ったそうだ。
一応ソラヌムが故郷という事で、これからもこの国にもこられるようにと王様にご挨拶しとこうと思ったんだけどね…。
私は戦のない国で生まれ育ったから、やっぱり暮らすならそういった平和な国がいい。
何かの話の時にそう言ったら、それなら大国がいいだろうと提案された。
一般に大国で通る国の名前はパエオーニアといって、もう何百年も戦をしていないらしい。
国境近くでは小競合いくらいはあるらしいけど、領主の私兵ですませられる程度だそうで、傭兵の出番はないからレオンも大国には行った事はないそうだ。
ん?という事はレオン、一緒に行ってくれるんですか?
そりゃあ願ったりだけど!
レオンがいないなら、私もこの危険な西方地域でガマンするくらいレオンといたいけど!
だけど、私の一言で生きていく場所を決めてしまって…、いいの?
傭兵は引退したから戦場に仕事は求めてないとの事だし、平和な町でゆったり暮らしたほうが、たぶん幸せだと思うけど。
でもこれって日本人的考えかもしれないし…。
私のそういった気持ちが伝わったのか、レオンはほんのり笑顔で(レアだ!)
「平和とか穏やかなんて知らない暮らしだ。俺にはどうしたらいいかわからない事だけど、ランは知っているだろう?教えてくれ」
喜んで!
間髪入れず、どっかの居酒屋チェーン店のようないい返事をしていた。
さてそういった訳で、カプシーからその日のうちに南下して国境越えをする。
王都からカプシーまで徒歩一日の距離だから、捜索されたらすぐ見つかっちゃうもんね。
まぁ一日二日、たぶん三日くらいは王都内を捜索すると思うけど。
レオン曰く、大国にはいるけど、広範囲の転移魔法を扱える魔法使いはこの国にはいないらしい。
この国というか、この西方地域というか。
いたらものすごい戦力になっちゃうからね!
なので、まさか王都からここまで離れた場所に転移しているとは思わないだろうと予測する。
予測するけど、色々な可能性を考えて素早く行動する事に越したことはない。
この三日で旅支度は整っている。
冒険者登録しているから国境越えもギルドカードでパスできるし、今日の分も入れて四日間荒稼ぎしたお金もたんまりある。
……なんか悪役っぽい表現だな。
私の体力と、歩く速さに合わせたゆっくりした旅は、三週間ほどかけて二つの国を超えた先の港町に着いた。
レオン一人なら十日もあれば十分な旅路だったろう。すべて私に合わせてくれているレオンに、申し訳ないやら情けないやら。
ちょっとへこんでいると、人の機微に敏感なレオンはすぐに気づいてくれる。
「気にするな。今まで追い立てられるように生きてきた。こんなにゆっくり過ごすのは新鮮だ。ちゃんと景色を見た事もなかった。世界は綺麗だったんだな」
なんて、気遣って優しくそう言ってくれた。
レオンさんたら詩的な表現もなさるんだと、こっちも新鮮な発見だよ!
というか、この人私を甘やかしすぎじゃない?日々甘々なレオンに照れてしまうよ!
もちろん嬉しいけどね!!
とにかく、この港から海路で大国に向かう。
西の国の港町から大国パエオーニアの港町までは船で二日ほどだった。
意外と近いな。
ソラヌムは西方地域の中でも地図的に下半分の位置にあったから、南に抜けて海路での旅の方が短期間でパエオーニアには入れるとの事。
北に進路を取って陸路で行ったら二ヶ月以上かかるらしい。しかも戦をしている国を通るとの事なので非常に危険だ。特に私が。
いくら強力な守護があるといっても、それとは別に戦争未経験の私には刺激が強すぎる。
さて、そんな風に平和に船旅を楽しんでやってきたのは、パエオーニアで一番大きな港のあるロートゥスという町だった。
町というか領というのかな?ロートゥス領。
港町らしく活気のある賑やかな雰囲気に、こっちまで気分が上がる。
なんだか景色まで明るく色鮮やかに見えるよ!
戦の多い土地は何より怖いし、気持ちも沈むし、見える物も暗い色合いになるのかもしれない。そういえば余裕もなかったな。
大国パエオーニアは広く、王都は大陸の中心といわれる程の大都会らしい。
そんなにすごいところなら一度くらい行ってみたい。住みたいとは思わないけどね。
そこそこ便利な田舎暮らしを希望している♪
その他の領(って、アメリカでいうとこの州みたいな感じかな?)にも色々な特色があって、どこに住むか気に入る土地が見つかるまで旅をしようと計画を立てている。
どこに行こうと、レオンがいるならバッチコイだ♪
とりあえずロートゥス観光をしよう。
船は西の国を出航して二泊して三日目の朝にロートゥスについたから、朝市なんかを見て回る。
めっちゃ活気があって、見ているだけで楽しい!
朝の買い物客用なのか、漁師さん用なのか、早くから食堂も開いている。
朝ご飯がまだの私たちも市場を一通り見て回ると、朝ご飯を食べに食堂に入った。
何これ!
新鮮な魚介類の朝ご飯に感動する。
単純に塩コショウだけみたいな味付けでもめちゃくちゃ美味しい。
港の魚介料理を堪能したら、次は冒険者ギルドに行く。
国またぎは一回ギルドに顔出ししておく方がいいらしい。依頼を受けるかどうかはまた別なんだって。
そうして義理は果たして、いったん宿をとりに行く。多くはないといっても荷物がある。観光をするなら部屋に荷物を置きたいし、しっかり宿を確保しておいた方が安心だ。
部屋ね……。ツインになった。
ツインですか!
まぁ、恋人だし、シングル二部屋はないけれど……。
レオンも言葉少なだし。
あ、元々か!
でもやっぱり……、ねぇ?
と色々考えちゃうことは先送りにして!
とりあえず荷物を置いたら出かけますか!
気持ちを切り替えて観光を再開する。
まだ午前中だから時間はたくさんある!というか、これからずっと時間はあるか。
私は隣を歩くレオンを見上げた。
すぐに気づいたレオンも私を見返す。
「レオン、初めてのデートですね♪」
ちょっと照れながらそう言うと、レオンも赤くなった。
「あぁ…。まぁ、そうなるか?」
なぜ疑問文になるんですかね?
私たちは恋人で、立派なデートですよ!
ロートゥスは活気のある綺麗な町だった。
さすが大国?西方地域の国々とは基本的な何かが違う。
安全な日本での暮らしになれていた私が、安心して歩ける平和さがある。
この世界に来てずっと緊張してたんだなぁと、今更ながら気づいた。
そうして一日中歩きまくって色々見て回ったり、疲れたら休憩して飲んだり食べたりして過ごしたりと、思う存分遊び倒した!
気分は海外旅行だ。久しぶりに楽しかった~!
初デートの最後はゴージャスな夕食をいただいて、お宿に戻る。
後から知ったけど、高級宿屋さんだったらしく、それなので部屋にお風呂がついていたらしい。
日本では当たり前だから何とも思わず普通に使っていたよ。
レオン奮発してくれたんだなぁ。気づかずすまぬ。ありがとね。
明かりを落とした淡い光はムード満点だ。
レオンったら意外とロマンチストだったりするのね。
ソラヌムで恋人になったとはいえ、実は私たちはまだ恋人らしい事をしていない。
逃げる身でそんな余裕はなかったし、野宿なんかも続いてたし、何ていうか…、初めてが外ってねぇ?
だから安全安心なこの国に来て、ちゃんとした宿屋さんに泊まる事になって、同じ部屋ってなったら、まぁそうなるよね?
私だってそれなりに経験はあるし、大人だし、まぁ…、好きな人とはそうなりたい。
だけどそうなるには覚悟がいる。甘やかな方の覚悟ではなく、現実的な問題の方ね。
この世界で生きていく覚悟。元の世界のすべてを諦める覚悟。
「ラン……」
レオンが少しかすれた声で名前を呼んだ。
うん。こんなに盛り上がっていて非常に申し訳ないんだけど!
「レオン、聞いてほしい事があるんです」
私は話した。信じてもらえないかもしれないけど、この世界とは別の世界からやってきた事。何故やってきたのか分からないから、もしかしたら来た時と同じく、また突然元の世界に戻ってしまうかもしれない事。
「にわかには信じられないが…。でもそれならば、ランの不思議な力も納得できるか…」
レオンは半信半疑でそう言った。
うん、まぁそうなるよね。
というか、半分でも信じてくれたのがすごいよ!
「それでね、私はレオンが好きだから…、レオンとちゃんと恋人になりたいんだけど、その…、子供…、とかね? えっと…」
覚悟とは別に、恋人とそうなった時、女性側としては避けては通れない不安がある。
この世界の避妊事情とかも知らないし。
いや何か、色気も何もない言葉はどう続けていいかわからなくなって、…途切れてしまった。
「あぁラン、心配するな」
そう言うと、レオンは一度言葉を切って、そっと私の両手を握った。
「ラン、結婚しよう。 どうか俺と結婚してほしい」
えぇぇぇぇ!!!!
私は絶句した。
心の中は大絶叫だったけどね!!
「結婚って、レオン!さっきの話は?
私、もしかしたら突然いなくなっちゃうかもしれないんですよ?もしもその時子供がいたら?子供だけ残されちゃったら?反対に子供ごといなくなっちゃったら?
……レオンどうするんですか?」
レオンは真っ直ぐに目を合わせたまま言う。
「ランも子供もいなくなったとしたら、俺は今まで経験した事がないくらい辛い思いをするだろう。
だが…、もしもの先を考えるより、今を考えたい。元の世界に戻るか、ここに居続けるかは半々なんだろう?居続ける方に賭けて、俺はランと一緒に生きていきたい」
情熱的なプロポーズに微笑みながら…、ポロポロと涙が零れた。
「プロポーズしてくれたのは嬉しいです。……でも、そんな簡単じゃないですよ。私はとても怖いです。レオンが好きなんです。離れ離れになってしまったらと思うと、とても怖いんです。でも元の世界の家族や友達を諦める事もできないんです」
レオンはふんわり抱きしめてくれた。
「すまない。簡単に言った訳じゃなかったんだ。
……ランがこっちの世界に来たのはランの意思じゃないんだろう?天というのか神というのか、人の力でどうする事もできない事なら、俺たちにできるのは日々を後悔なく過ごす事だ。
無理に決めなくてもいい。俺たちがどうしたって、きっと天や神には抗えない」
「レオン…」
レオンはゆっくり優しく背中をさすってくれている。
温かくて、混乱していた気持ちが穏やかになっていく。
―――できる事からひとつずつ
どうしていいかわからない時はいつもそうやってきた。
うん。それしかできないんだ。
レオンの言う通り、日々後悔のないようにできる事をがんばっていこう。
やっとそんな風に思えて少し落ち着いたのを察したのか、レオンは抱きしめる腕に力を込めた。
「ラン、元の世界への思いのあるランを心から幸せにするとは言い切れない。が、俺が幸せだとははっきり言える!俺とこの先を共に生きてくれないか」
あまりの言い草に吹きだしてしまった。
レオンったら!
でもほんのわずか、レオンが震えているのに気付いた。
あぁそうか。レオンだって怖いのかもしれない。もしもの時は、レオンは残されてしまう方なんだから。
私は気づかないふりをして、明るく言った。
「出会ってまだそんなにたってないのに、スピード婚ですね!私は未来が不安定というデメリットつきですから、その分レオンを幸せにします!
……よろしくお願いします」
こうして恋人から新婚さんにスピード昇格した。




