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宮廷から迎えが来ても、私は慌てなかった。
四日前にここで、マシューさんの知り合いのおばあさんを癒した後から想定していた。
レオンとしっかり対策も話し合ってある。
そもそもこの国どころか、世界というか大陸規模で、治癒魔法使いの数は少ないらしい。
そんなところに高位の治癒魔法使いが(本当は魔法使いとは違うけど)あらわれたら、そりゃあみんな癒してほしいよね!
正規の宮廷魔法使いの報酬がどのくらいか知らないけど、一般庶民には払いきれないような高額みたいだから最初からそちらには縁がない。
言い換えればお金のある貴族なら払える訳で、そんな魔法使いを宮廷に従事させれば莫大な収入源になる。
加えて王族やら上位貴族なんかは体調不良の時にすぐ癒してもらえるとか。
卑劣だな!
まぁ元の世界にもあった、封建制度ではそういった考えは普通なんだろうけど。
私は差別や不公平はいけないと真っ当に教育された二十一世紀の日本人だ。
封建的なそちらの考えはそちらのものだけど、私の考えは私のもの。この国の民でもなし、従う義務も義理もない。
人様に迷惑をかけない個人の自由は、当然の権利だと思っている。
レオンはそういった私の考えをとても希少なものだと言った。まぁそうだろうね。
そしてそういう考え方はいいと共感してくれた。
この時代っていっていいのかな?こういった封建制度の世界で、そういうレオンの感性は革新的だね。
宮廷からの使者が来た時、本日二人目の××伯爵の奥様の治癒中だった。
さすがに女性を治癒中の部屋に入り込んでくる事はなかったけど、奥様の治癒が終わると、三番目の△△子爵の前にズル込みしてきた。
「宮廷からお迎えに参りました、第二騎士団団長フレット・オーサーと申します。どうぞ一緒にお越しください」
爽やかに言ってるけど、あなたズル込みしてるからね!それズルだからね!全く爽やかじゃないからね!!
私は非難を込めた目と声で返事をする。
「お約束はないですよね?今日はあと三人の患者さんがいらっしゃいますので、その後でしたら伺います」
「宮廷からの迎えを後回しにするといわれますか!」
騎士さんは、ありえないという声で非難してきた。
非難するのはこっちだっちゅうの!
「騎士様?あなたは今、痛みや辛さをガマンして静かに待っている人の前に急に来て入り込んでるんですよ?そして前々から(という程でもないけど)予約していた人に割り込んで宮廷に来いとおっしゃる。それはズルい事です。子供だってわかる道理ですよ?」
「……っ!」
騎士さんは悔しそうに顔を赤くした。
「では待たせてもらおう」
あら、偉そうなしゃべり方になったよ!
怒ると本性って出るよね!
どうぞご勝手に! 私は無言で承諾すると
「次の方」と三番目の△△子爵さんを呼んだ。
レオンが私を心配そうに見ていてちょっと笑っちゃった。
ごめん、ついむきになっちゃったね。
午前中三人、お昼休憩をはさんで午後二人を癒す。
お昼ご飯の休憩を入れるのは、私の体力的というかスキル力的のためだ。
マシューさんのところで疲れ切ってしまったので、自分の力量をみながらやっている。
口うるさく言われないけど、レオンがめちゃくちゃ心配してるのも伝わるしね!
Sランクの傭兵だった彼にくらべたら、移動するにも電車やバスが普及していた日本育ちの女性なんて、そりゃあ弱々に見えるでしょうよ。
まぁそんな訳で、本日の治癒が終わったのは午後のお茶の時間くらいだった。
「お待たせしました」
ちょっと疲れたから、甘いお菓子とお茶をいただいてから行きたいところだけど、朝から待ってくれているフレットさんをこれ以上待たすのも悪いよね。
待たされると思っていなかったフレットさんはお昼ご飯の用意がなかった。
なので一応差し入れをしてあげた。こっちだけ食べる訳にもいかないからね。
そこにいるんだからと一緒にも食べたし、なんだか親しんでくれたような?
フレットさん、ずいぶん待たされていたというのに一緒に過ごすうちにだんだん不機嫌な顔と空気がなくなっていった。
三人目の患者さんから男性ばかりだったから、退出してもらわなくてよかったフレットさんは、ずっと私の治癒を見ていた。
珍しいもんね、気になるよね。
「では参りましょう」
先に歩き出すフレットさん。
「あ。ちょっとまって下さい」
何か?と振り返るフレットさん。
じつはずっと気になってたんだ。
「フレットさん、右の足首と膝、痛くありませんか?」
「…え?」
ほんのり赤くなっている。
「ラン」
レオンが声をかける。
うん、今日はもう五人癒した。
心配してくれてるんだよね、ごめんね。
「知り合いになった人が痛んでるなら、知らんぷりはできないというか…。今日はまだ余力があるというか…。
ごめんね、ちょっとだけ」
「知り合いでもないだろう…」
「知り合い…」
レオンが呆れたような声で言う。
フレットさんも呟いた。
「触っていいですか?」
フレットさんの前で膝をつくと、大慌てで立ち上がらせられた。
「ラン様が膝をつくなどとんでもない!」
そう言ってフレットさんが膝をついた。
わぁ!それじゃあ触れないじゃん!!
「フレットさん…」
残念な子なのかしら。
しかも、様つき。私は脱力した。
結局、さっきまで使っていた椅子に向かい合わせで座って癒す。
「歩く癖とか、何か思い当たる事はありますか?これはそういった系みたいです。癖か習慣を変えなければ、また痛みますよ」
急性とか突発性のケガや病気は見ればわかるし、本人にも自覚がある。
慢性のものは、先天性のものか生活習慣のせいなのか分かりづらいけど、ここ何日か何人もの身体を癒していてちょっとわかってきたのだ。
フレットさんは黙って何か考えていた。
話しているうちに、フレットさんを癒している淡いピンクの光は消えた。
「ありがとうございました。心当たりがあるので気をつけてみます」
そうしてください。
私は微笑んで立ち上がった。
「さあ、いきましょうか」
ギルドの前には立派な馬車が止まっていて、それに乗って行くという。
馬車!初めて乗るよ!!
内心子供のように浮かれているけど、そこは大人だ。落ち着かなければ!
「まるで馬車に乗るのが初めてのようだな」
レオンがおかしそうに笑顔で言う。
あら、内心がばれちゃいましたか!
だって馬車なんて、遊園地のメリーゴーランドくらいしか乗った事がないんだもん。しかもあれ、固定されてて床がまわるだけだし!
あ。もちろん宮廷にはレオンも一緒に行くよ。
フレットさんに渋られたけど、婚約者だと言ったら同行を許された。
婚約者!恋人にだってなったばかりなのに、何度聞いてもニヤける。
もちろん否はないよ!何なら夫でもいいよ!! ……気が早いか。
本当は夫の方が効力的なものが強いらしいけど、婚姻は届け出が必要なので嘘をついても調べられたらすぐわかっちゃう。
それなのでとりあえず婚約者という立場をとるんだって。いつでもどこでも私の側にいて守れるように。
強力な守護はあるんだけどね!気持ちが嬉しいではないか!
婚約者ですか~。ニマニマしてしまう!
なんてしているうちにお城に着いた。
驚いた事に王さまとの謁見だという。
もっと人事というか、その手の役職の人と会うんだと思っていたよ。魔法使いとして就職的な?
フレットさんに案内された控えの間で少し待つ。こちらもずいぶん待たせたから待つのは吝かではない。
とはいってもそう待たされる事はなく、またフレットさんに連れられて、まぁまぁ広い映画で見るような広間に通された。
正面奥には、壇上に座ったおじさんがいる。
この人やっぱ王様だよね。
映画みたいだ~!
あんまりまんま過ぎて笑えちゃう。
王様の近くには騎士さんたち、近衛兵っていうのかな?がいて、これまた映画みたいだ。
フレットさんは私たちを王様の前まで案内すると騎士さんたちの並びに行ってしまった。
王様と相対する。
これってあれかな?ドレスのサイドをもって腰を落としてご挨拶的な?
そんなの読んだ事はあるけどやった事ないからわからないよ!
そもそもドレスじゃないし!
しょうがない。私ができる一番のご挨拶をしよう。
「初めまして。ランと申します」
そういって三十度に頭を下げた。
面接の時のお辞儀のように。
よろしくお願いは、しなくていいから言わなかった。
ちなみにレオンは私の斜め後ろで跪いている。
どんな姿も決まってるよ!カッコいい!!
「変わった挨拶だな。このあたりの者ではないのか?まぁそれでもよい。そなた高位の治癒魔法が使えるそうだな」
さらに驚いた事に、王様自ら話しかけてきたよ!
ソラヌムは小国と聞いていたけど、小国ってフレンドリーなのかしら?
何となくの知識では、王様とか身分の高い人は下々に直接話しかけなかったような?
どっちでもいいか。
「高位かはわかりませんが(本当は分かってるし、魔法ではないけど)微力ながら、人様の役に立てるならと努めてまいりました」
とりあえず日本人的な言い回しで答えてみる。
「謙遜する事はあるまい。報告は聞いている」
聞けば、高位の治癒魔法使いさんでも一日に一人か、やっと二人くらいしか癒せないらしい。私は五人癒してたからね。それがすごい事かは知らなかったけど。しかも魔法じゃなくてスキルだし。でもそれじゃあ高位っていわれるよね。
「それだけの力があるなら異存ない。宮廷で励むがよい」
「え。イヤですよ」
あら。求職もしてないのに上からの物言いに、イラッとしてつい本音が。
広間の空気は固まった。
「余のいう事に従わぬと?」
「私はこの国の民ではありませんので王様に従う義務はありません」
従わない者がいない前提で話す言葉にますますイラついて、またつい言っちゃった。
けどべつにそれがなにか?という気持ちだ。
広間はひびが入るほど固まった。
王様は怒りに顔を赤くして声を荒げた。
「この無礼者を捕らえよ!」
王様付近にいた騎士さんが抜剣して私たちを取り囲んだ。
跪いていたレオンはいつの間にか立ち上がって私の横にいる。
「もういいかな?」
問うと、レオンは頷いた。
では行きますか。
レオンに手を伸ばすと、しっかり抱きかかえられた。
照れますなぁ!とかいいつつ、キャッキャとハイテンションだ。
緊迫したこの状況に場違いだけどさ。恋する乙女は時も場所も選ばずなのよ!
そうして私たちは転移する。
ぶれる景色にフレットさんを見ると、抜剣している騎士さんの中で、柄には手をかけているけど剣は抜いていなかった。
膝、お大事にね!
そんな気持ちを込めて視線を合わすと、わずかに頷いた。
お元気で!




