運命の日~モフモフ~
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──と、そんな意気込みで歩き始めたのは良かったのだが。
「み……美咲……俺ぁもう駄目だ……悪いが先に……逝くぞ……」
「ま……待って……せ……めて……こども……作ってから……」
早速森の中で行き倒れました。
「う、迂闊……だった……。今日はまだ……美咲の晩飯……食ってねぇ……」
「だ……だったら……私を食べて……? ぜ……全部……食べていいから……」
「駄目だ……! 美咲とは高校卒業するまで……セックスしないと決めた……っ!! これしきの事で……その掟を破る訳にはいかんっ!!」
近寄ってきた美咲の肩に手を添えると、そのまま軽く押し返す。
美咲の貞操は、龍ヶ崎高校の卒業式──3月15日まで守られなければならない。何が起きても、何としてでも! 俺はその為なら、犯罪とアッー!な事以外ならなんだってやるっ! 結婚後初めての休みに行った温泉旅館でも熱烈ディープキス以上の事もやらなかった、理性を抑え込んだ!!
だから俺、卒業式が終わったら、美咲とめちゃックスするんだ……。
「ごめん、薫……。それ、ストレートな死亡フラグ……」
「コメディーアニメで死亡フラグ言って死んだやつがいるか!? いないだろっ? だから俺が言っても別に大丈夫だ、問題ないっ!」
「だからそれも死亡フラグ……」
ああ、途中まで感じていたが、これがツッコミ不在の恐怖と言う物か……。体感してみるとアニメキャラの気持ちがよく分かる……。
「ちょっ、薫ーっ!? 眼が、眼がぁぁぁっ!? 眼がイきかけてるっ! 正気を保ってっ!」
嗚呼……。美咲の声がどんどん遠く……。あ、お花畑だー。ばぁちゃん、待っててー。すぐそっちいくからー。
「えっと、えっと、どうしよう……。あっ、そうだ! 種族転換っ!!」
と、意識を小河の向こうに飛ばしかけている俺の目に、光の粒子に包まれていく美咲の姿が。
──一体何が始まるんです!?
俺がそう疑問を抱いたとほぼ同時、光の粒子が弾けて消える。
その向こうにいたのは。
「ほ、ほら~薫~? 薫のだいちゅきな猫耳っ娘でちゅよ~♪」
猫の耳と尻尾を生やした、猫耳っ娘姿の美咲が。
「ご……後生だ……。最後に……"あの"台詞を……聞かせてくれ……!」
最後の力を振り絞り美咲に懇願すると、頬を赤らめながら、美咲が一言──
「──にゃあ~♪」
──と。
それを聞き終えた瞬間。
「イィヤッホォォォォォォォォォォォッ!! 猫耳の破壊力は世界イチィィィィィッ! んでもっていただきまーすっ!!」
「んにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺のオタクに関する理性の壁が一部消し飛び、身の内に秘めたる力を解放。体力、精神力、オタク力を全快させ美咲に飛び掛かり、その耳と尻尾をモフりまくる。
モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ。
「ふ……ぁ……あふぅ……んっ……!」
どうやら猫耳っ娘──猫人は尻尾が弱いらしい。
なので、耳と合わせて重点的にモフる。モフる。更にモフる。もっとモフる。
「らめぇぇぇぇぇぇぇぇ────っ」
「──反省した?」
「反省してます超してます」
あれから十数分。結局いろいろとやり過ぎて、元に戻った美咲に頬をつねられ絶賛反省中。やはり欲望と理性に任せて行動するのは危険すぎる。人間、理性あっての物だね。
美咲は未だに頬を朱に染めて股をスカートで押さえている。あとで身体を好きにさせてあげよう──倍返しで!
「でもお前の猫耳っ娘姿良かったわ。他で萌え要素はどんな種族がある?」
「他にか……。薫の好きそうなところだと、人魚族とか森精族とか、珍しいところでは竜人族とかかな?」
何てこった、全部大好物でござる。
特に竜人族とは珍しい。その辺りの媒体が少ないから、いつか存分に鑑賞させていただこう。
「でも、何だかんだで餓死は免れたね。帰ったらコンビニで何か買おっか」
「なにっ!? 今日は美咲のハヤシライスが食えないと言うのかっ!? 俺も手伝うから、今日食わせてくれ!」
「いや、多分今から戻っても材料調達と仕込みから始めて、食べる頃には日付変わるよ?」
そう言って見せられた美咲のスマホの時刻表示は9時過ぎ。かれこれこっちに来てから一時間半は神様にチートもらって一時間半は歩き続けたことになる。そりゃ行き倒れるのも当たり前だ。
美咲……俺……ハヤシライスが……食べたいです……っ!
食べられないなんてあぁぁぁああぁぁんまりだぁぁぁぁああぁぁぁぁ…………!
「もう、明日作ったげるから我慢してっ。──その代わり、ベッドで好きにしていいよ……?」
「逆に俺を好きにしていいぞ。さっきのお詫びに」
「じ、じゃあ、いっぱいご奉仕してあげるね?」
おい美咲、お前いつからそんなに変態になった。
規正引っ掛かるからやめちくり。
「んじゃ、そろそろ戻るか」
──バシィッ!!
時間が時間なので帰ろうと思ったが、その前にご自慢のチート能力で"旗"を錬成する。材料はそこら辺に落ちてた檜の棒と落葉。
神様曰く、元の世界に戻るときに何か目印になるものを腕輪でスキャニングしてその場所に置いとけば(固定できればなおよろ)、次に来るときにその場所に飛ばしてくれるらしい。簡単に言えばRPGでいうレポートや冒険の書だ。
錬成した旗を地面に突き刺し、同じく檜の棒と石で錬成したハンマーで抜けないように深く打ち込む。
「薫っ、早く手を繋ごっ」
「はいはい、急かさなくても繋ぐって」
嫁に急かされながら、来たときと同じように腕輪を付けた腕を絡ませ、手を繋ぐ。
「「回廊接続!!」」
そう叫ぶと同時に、再び腕輪から溢れる光の奔流。
来たときとは逆に、今度は浮かび上がるような感覚を覚える。
その中で二人は、一瞬だけ意識を手放した──