今日から本気出す~おっさんとの邂逅~
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「──なるほどぉ、つまりはぁ……? 『クエスト達成の為にウサギ用の罠を仕掛けたら、運悪く我輩が掛かってしまった』──という訳だな?」
「え、ええ……まぁ」
現在、俺達夫婦はウサ耳おっさんと対談中。
数分前に自分の仕掛けた罠から助け出して事情を説明して今に至るのだが──
──正直威圧感パネェっす。
赤茶けた顔から覗く鋭い眼光は俺達夫婦を射抜き、その背後から立ち上るオーラは身体を硬直させ、真っ向から浴びせられるプレッシャーは容赦なく俺達を押し潰す。
それら圧倒的威圧感は、明らかに並大抵の人物が放てるものではない。
そんな男性を前に、俺達は半ば怯えながら細々と話すことしか出来なかった。
えっと、まぁ、取り合えず、なんだ。
夫婦揃って謝ろう。
「すすすすすすすみませんすみません俺がこんなことになるとも知らずに作った罠のせいで貴方様をあのような目に遭わせてしまい申し訳ございませんこの罪は出来る限りの事で償いますから本当にごめんなさい許してくださいお願いしますすいませんすいませんすいま」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ」
「何をそんなに怯える必要がある? 我輩はお前達を咎めたりはせんぞ」
「「せんごめんなさい僕ってほんとバカです(んなさいごめんなさい)って──え?」」「だから、お前達が謝ることはない。顔を上げてくれ」
え、えっと……なんか許されたっぽい。威圧感は凄いけど、心が広い……のか?
とにかく、苛立たせるのを避けるため男性の顔を窺いながら顔を上げる。
相変わらずオーラ的な凄味が凄いが、その顔は決して起こってなどおらず、寧ろ自分の方が悪い、と言いたげだった。
「え、えっと……許して……くれるんですか?」
「許すも何も、あんな初歩的な罠に掛かった我輩の方が悪い。やはり老いか……。昔より勘が鈍っておるわ」
最後の方でそう呟くと、男性は自分のオールバックの髪で黒々とした頭を掻いた。
「え、老いって……おじさんって幾つなんですか?」
「ん、我輩か? 39だがぁ……どうした?」
「……おじさん、まだまだ人生長いんですから老いたなんて言わないでください」
「何を言う。人間産まれた瞬間から老いていく。つまりはぁ、別に何歳で老いたと言っても構わん訳だ」
「まぁ、確かにそうですけど……」
男性言うことは確かに間違ってはいない。人間に限らず生物は全て年を取っていく訳で、それは生きている限り絶対不変の理だ。
世の感覚で、「爺さんだから老いた、と言ってもいい」というのが一般なだけで、別に小学生が老いたと言っても良いわけだ。
なんか現代文のテストで取り上げられそうないい話だ。
「というか、なんで貴方……『それ』着けてるんです?」
ここで俺はずっと気になっていたウサ耳について言及する事にした。どうあがいても筋肉モリモリマッチョマンの39歳が着ける代物ではないぞ、あれは。
「ああ、これか。これは……」
「趣味ですか?」
「初心帰りだ」
美咲、下手につつくな。怒ったらどうする。
「実は我輩、冒険者ギルド直属の治安部隊『カルバディオズ』の隊長をしているのだが……」
「「治安部隊?」」
俺達が揃って首を傾げると、男性は軽く頷いた。
「治安部隊というのは、冒険者達を募って作られた部隊だ。基本的に、中~大型盗賊団の討伐等の犯罪組織の撲滅等を主に活動している。人員の募集等は、『緊急クエスト』として冒険者全員に呼び掛けられて、それに同意の者が集まって任務をこなす……という感じだ」
「な、なんか凄いですね……」
「勿論、報酬も普通のクエストの比ではない。故に集まる冒険者も多いが、故に帰ってこれない冒険者も少なからずいる。そんな彼らを少しでも帰還させる──それが我輩の役目だ」
なるほど。どうりで生半可ではないオーラや威厳に満ち溢れているわけだ。
数多くの冒険者の命を預かり、その采配を振るい、自らも共に戦う──。
そんな人物が弱いわけが無い。
「ん? でもそれがなんでウサ耳着けてる理由に?」
話が脱線しかけたのに気付き、フォローを入れて軌道修正する。
「ああ、それはだな……。この仕事をしていると、不意に昔の気分を味わいたくなるのだ──駆け出しの冒険者の頃の自分を。だから一番初めのクエストであるウサギ狩りをやるわけだ。ウサ耳は、単に着けていればウサギは怯えずに動くだろうという発想だ」
「あ、特に深い意味は無いんですね」
つまりは童心に帰ってみたいが為に着けたらしい。見かけからして案外ファンシーな考えを持っているようだ。




