町にて~家政婦探して──シリアス~
──と、ここで俺はあることに気が付く。
「ここってさ、掃除大変じゃね?」
少し探索してみて分かったが、ここは二階建ての7LDK。ダイニングとキッチン、トイレや風呂を除いて、1階に3つ、2階に4つもそれなりの広さの部屋が有り、それらを二人で使用。それらを二人で掃除するとなると、かなりの労働が予想される。
そして俺達は学生。平日は掃除をする暇など無く、休日は元の世界の愛の巣の掃除で手一杯。
えっ? 幾らなんでも時間はあるだろうって?
残念だったな、俺達はオタクだ。
1日通して遊びまくることを──強いられているんだっ!!
ならばクエストは仕事だからやらないのかと言われれば、そうではない。
俺達にとってファンタジー世界に自分達が存在するということは、それだけでオタク魂を掻き立てられる事であり、それを満喫するのは至上の喜び──ズバリ、恐悦至極っ!!
よってクエストや依頼なんかも積極的にこなすからこちらの家にいる時間も短くなる。そしてその貴重な時間を削って掃除を終えれば、夫婦でイチャイチャ出来る時間はほんの僅かしかない。
かと言って掃除をしないわけにもいかないし。
「んー、確かにそうだよね。家政婦でも雇って一緒に住む? 私達が学校行ってる間に掃除とか家事とかやってもらって」
「やっぱりそうだよな。よしっ、なら今から家政婦探しに行くぞっ!」
「出来れば無口で無表情な女の人じゃないのをっ!」
早速次の目的を見つけた俺達は、新たな愛の巣を後にしてギルドに向かった。ギルドなら掲示板とかに「家政婦募集!」とか貼ればすぐに人は来るだろうし、その手の人材入手の方法も分かるだろう。
そして小走りで向かったので家を出て数分。冒険者ギルドにたどり着いた。
「あのー、すいませーん」
「はい、どのようなご用件ですか?」
中に入ると、直ぐ様受付の女性に話し掛ける。
「いや、ちょっと家政婦が欲しくなってさ。それで掲示板で募集する以外に手に入れる方法はあるのかなーって」
「家政婦……ですか? あまりラグナノヴァでそのような職業は聞きませんね。殆どの場合、そのような仕事は″奴隷″にやらせる方が多いですから」
──今、ちょっと聞き捨てならない単語を耳にした。
正直、元の世界だと人道的に問題視されるその単語。
──″奴隷″。
「あー……そっか、そうだったな。この世界、俺らが想像する異世界ファンタジー設定なんかを限界まで盛り込んでいるんだったな……」
そう、それはつまり、中世をモチーフにした異世界ファンタジーでは殆どお決まりの、″奴隷制度″がある事を意味する。
アニメや小説のジャンルとしてでの奴隷は特に気にはしないが、現実問題では個人的に奴隷制度なんて物は気に食わない。
人拐いなどで無理矢理親や友から遠ざけられた人間の人権を無視し、個人を″物″としてしか扱わない最低最悪の愚行。
奴隷に待ち受けるのは、主人への絶対的服従。死ぬまで一生重労働をさせられたり、ただの性欲の捌け口として身体を弄ばれたり、挙げ句の果てには新鮮な臓器バンクとして殺されたり──どうなるかはその奴隷の主人にしか分からない。
ライトノベルなどでは主人に寵愛されてパッピーエンドを迎える者もいるが、そんなのはごく僅か。広大な砂漠の砂の中で、コップに掬えるほどしか居ない。
だからこそ、アニメで奴隷解放運動が起きた時には心の底からその指導者を応援する。
奴隷、ダメ、絶対。
「で、その奴隷の方々は人拐いとかで奴隷になったわけ?」
「いえいえ、そんな事は。殆ど全ての奴隷は、自らの犯した罪で『奴隷化』の判決を受けた極悪人です。人道の規範を大きく外れた犯罪を犯した者に与えられる罪ですので、善良な方々が無理矢理奴隷に、なんて事はありません」
「……でも、殆ど全てってことは、善良な人達が無理矢理奴隷にされてる事もあるんですよね?」
「──盗賊団や犯罪組織などの裏社会では、そうした事が起きているとも聞きます」
なるほど。やはりどんなに明るい世界にも闇はある。
しかも明るければ明るいほど闇は小さくなるが、闇の濃度は濃くなる。
闇は確かに不必要な物だ。
しかし、どんな光の中にも必ず闇はある。
つまりは、闇は不必要なのに存在しないといけないというパラドキシカルな存在なのだ。
ラグナノヴァの奴隷制度はほぼ極悪人にしか使われない分、闇は薄いだろう。しかし、その闇の中の濃い部分が盗賊団や犯罪組織の中での理不尽な奴隷。
その部分だけは許せない。
「んじゃ、その奴隷はどこで手に入る?」
「それでしたら、ギルドを出て通りを北に行った辺りの裏通りに、奴隷商館が」
受付の女性も、奴隷に心が痛むのか声が小さくなっていく。
当たり前だ。どれだけ極悪人であったとしても、彼らは人間なのだ。
聞くに耐えがたい犯罪を犯したなら、それ相応の時間、牢屋に閉じ込めればいいだろう。
個人的な見解が絡むが、俺はそう思う。
受付の女性に礼を告げると、俺達は冒険者ギルドを後にする。
──目指すは、″奴隷商館″。




