第二十四話 春季大会決着! -渚視点ー
準決勝。
相手は昨年優勝し全国大会に出場している。
尋音も小学校の時に比べてかなりうまくなったのは素人の私にも分かる。
もちろん誠司くんだってそうだし、修也くんもさっきの試合ですごくプレイスタイルが変わって頼りになる存在になった。
でも。そんな私たちのチームでも、簡単に勝てる相手じゃないーーー
「ここまででダブルス2と1を落として、修也がなんとか勝って2-1。団体戦逆リーチか・・・」
「ごめん」
「いや誠司のせいじゃないよ。大丈夫ここは俺が勝って部長に繋げるから」
パンパン!とほっぺたを叩いて尋音が立ち上がる。
さっき月海に教えてもらったデータによるとシングルス2、シングルス1の相手選手は去年のチームの時からレギュラー張ってた人らしい。
尋音なら勝てるって信じてる。・・・でもきっと苦しい戦いになると思う。
だからここはマネージャーとして、ううん。ずっと尋音の幼馴染をやってきて、とぎどき練習相手になったりしてきた私が支えてあげたい。
「がんばれー!」
「おう!」
親指をグッと立ててコートに向かっていく。
好きになっちゃったこともあると思うけど、すごいかっこいいよ尋音。
でもこの気持ちは抑えないと。私はずっと幼馴染でしかいられない・・・もんね。
そして試合が始まる。やっぱり予想していた通り、かなり相手も強い。でも尋音ももちろん負けてない。最近身長が伸びてきたと言っても、やっぱり年上相手となると体格差が出てくる。男子って中学生になってから背伸びるらしいけど、そのとおりみたいで一年違えばかなり年下にハンデがあるみたい。でもそんな相手の力強いボールを一生懸命返して、チャンスがあればそれよりも強いボールを放つ尋音の試合をいつのまにか味方も敵もじっと声を出さずに見つめている。
「ゲーム 沢村尋音 4-3!」
「よし!尋音が一歩リード!」
「・・・でもこの流れだと・・」
「ゲーム 4-4!」
「やっぱりお互いブレイクはされない」
「この試合先にブレイクしたほうが試合に勝つと言っても過言じゃないな」
「・・・頑張れ尋音・・!」
その後も互い一歩も譲らず試合が進む・・・。
でもついに試合の流れが変わった。
「・・・!!やっべぇ」
「オラァ!!」
「ゲーム 6-5!」
「!尋音がキープできなかった」
「尋音ーー!!」
嘘。大変。さっき海斗お兄ちゃんが言ってたブレイクした方が勝つっていうことがもしホントになったら・・・。
「尋音ぉー!!負けないでー!!」
「渚・・・」
月海が私の手をぎゅっと握ってくれる。
そして尋音も気付いたのかこっちを振り向いて。
「・・・・・」
遠くてそこまで声を出してない尋音の声は聞こえなかった。
でも口の動きで何を言ってるのか分かった。
「渚ちゃん、尋音はそんなやわじゃないと思うぜ」
「え?」
「だって俺が・・・いや俺と渚ちゃんで思いっきりビシバシ鍛えてやったからな」
「・・・そうだね。うん。尋音は絶対勝つ」
「・・・だから悪いけど今日家帰ったら三十周カウントしてやってね」
・・・あ、それほんとにやるんだ。
そんなふうに海斗お兄ちゃんと話し込んでいると
「よっしゃー!!」
尋音が追いついたみたいだ。
「ほらな」
「うん!」
でもここからはタイブレーク。精神的にも体力的にもかなり辛くなってくる。
「あと何ゲームでもやってやる!!」
そんな心配いらないみたいだけど。
「ふふっ」
「追いついたからって油断できないぜ?渚ちゃん」
「だって尋音すごく楽しそうに試合してるんだもん」
「・・・ああ。こうなったら尋音はきっと負けないな」
とは言っても最後の最後まで緊張感ピリピリの接戦だった。
私も声がかれるくらいに応援した。
そして尋音はこれ以上ないくらいの笑顔で戻ってきた。
「よくやったぞ!!」
「ナイスゲーム!!」
「お疲れ!」
「楽しかったー!!」
あれだけ大変そうな試合して感想「楽しかったー!」なんだね。
「なんとか首の皮一枚つながったな。・・・最後決めてこい齋藤!」
「はい!」
2-2で回ってきたお互いのチームの大将戦。
でも尋音の作ってくれた流れをそのまま齋藤部長が崩さずに試合して6-3で勝利した。
「「「「「「あざーした!!!」」」」」」
「よっしゃー!!」
「決勝進出!!」
「部長強すぎっすよ!」
「一年が頑張ってるのに負けてらんないからな」
辛い戦いだっただけあって乗り越えた時の喜びは大きいよね。
私も選手だったらもっとみんなと喜び合えただろうな。
「渚ー!」
「わ!尋音」
背中をバン!って叩かれた。やっぱりテンションハイなのか力がちょっと強かったよ。いたた・・。
「サンキューな!渚の応援のおかげで勝てたよ」
「えへへ・・なんか照れくさいな。でもまだ決勝残ってるんだからね!油断しちゃダメだよ!」
「わかってるって!」
決勝戦。みんな全力を・・・出し切れなかったみたい。
やっぱり準決勝の疲れがあったのか3-1であと一歩のところで優勝を逃してしまった。
数日後。
「みんなここにそろっているかね」
「・・・はい」
「・・・今回の大会で優勝が部の存続条件。覚えているね?」
「・・・はい」
校長先生と齋藤部長のやり取りが続く。
前回のような失言をしないようにするためなのか校長先生のしゃべりは穏やかだ。
「残念だが・・・テニス部は廃部だ」
部員全員の息をのむ。そして間髪置かずに
「ちょっと待ってください!」
声を上げたのはやっぱり尋音だった。
「またキミかね・・・」
「確かに優勝はできなかったし自分で言い出した条件だから何も言い返せないけど・・・。でも県大会への出場権も獲得してきたんですよ!」
「そのこともつい先ほど辞退すると大会側に告げてきた」
「!!・・・そんな・・」
ガクッとうな垂れる尋音の肩にすっと部長が手を置く。
「・・校長先生。今まで私たちのわがままに付き合っていただきありがとうございました。今回ばかりは引き下がります」
「部長!!」
「ふむ。ではこれで・・」
「ちょっと待とうぜ」
聞き覚えのある声。
ホントこの人はどれだけ私たちを助けてくれるんだろう。
「あ、兄貴!!」
「よっす」
「大学は!?」
「サボってきたぜ☆」
ホントすごいんだかどうなんだか・・・。
「海斗くん!!」
「よっ校長。あんたもずいぶんこの中学にへばりつくんだな」
「・・・なんのようかね」
「廃部ねぇ。OBとしてはあまり嬉しくないね」
「だがもう決まったこ」
「あんたが俺を侮辱したこと名誉棄損で訴えようかなぁ。もしくは生徒に対して使えないって発言、教育委員会に言うだけであんたの椅子は崩れるだろうなぁ」
「優勝しなかったんだ!それはそっち側にも責任が」
「そんな約束、お・れ・はしてねぇからな」
「くっ!卑怯な・・・」
この前の月海もすごかったけど海斗お兄ちゃんはなんていうか威圧感がすごい。
「卑怯だ?はっ、どっちがだ!新入生に裏でテニス部に入らないように糸引いてたの誰だよ!!」
「な、なぜそのことを!!」
「この部の顧問とも言えないような腐った先生がおっしゃっていましたけど?」
「くっ、使えないやつだ」
そ、そんなことがあったなんて。
みんなも驚きと怒りを隠せないようだ。
でも今はとりあえず海斗お兄ちゃんのことを見守るしかない。
「・・・でも俺はお前たちのような卑怯なことはしたくない。・・・だから頼む。廃部にさせないでくれ。OBとしてこの部が潰れんのは見たくないんだ」
「兄ちゃん・・・」
「・・・海斗くん困るんだよそんなことされても・・・もう大会は辞退すると言ってしまったのだし」
「でも大会はこれで終わりじゃない。齋藤にだって最後の大会があるし、ほかの奴らには来年、再来年もある」
「・・・学校の評判のためにテニス部を廃部にする。それも確かにあった。だが本当は・・・もううちには無駄な予算を出す余裕はないんだ」
「!!」
そしてまた明らかになる事実。
「うちは公立校だから一定の予算はある。そして海斗くんは知ってるかもしれないが私のひとつ前の校長はすごい人だったんだ」
「前校長ね・・・」
「その人は生徒のしたいことは積極的にさせてあげることがモットーで、気付いたら多くの部ができ、そして多くの入学者が来るようになっていった。だが問題は当然起きる。多くなった部活の予算は?どうする?前校長のすごいとこはそこなんだ」
「というと?」
「『私が足りない分すべてを出そう』とおっしゃった。当時副校長だった私は度肝をぬかれたよ」
「そんなことがあったのか・・・」
さすがにここまでは海斗お兄ちゃんも知らなかったみたいだ。
というかその前校長どれだけすごい人なんだ。
「しかしその後体調を崩された前校長はそのまま退職し、私はかわりにその席についた。・・・当時は私もそんな校長の意思をついでいこうと思ったよ。だが私はいくら校長であっても一公務員でそんなにずば抜けた収入もない。家族だっている。これでも去年までは頑張って予算を回していたよ」
「・・・。」
「しかし限界だった。だからやむを得ず部活を減らすしかないんだよ。そして昨年度までですでにラクロス部、フェンシング部は廃部にした」
「・・・そんな部あったのか」
「兄貴知らなかったのかよ!」
「無理もない。それくらい様々な部があるんだ。・・・廃部にしたあとの生徒の辛そうな顔は私の胸に突き刺さったよ。そして憎まれることもある。だったら生徒との交流なんか無くしたほうが楽なんだ」
そんな・・・校長先生がこんなにいい人でホントはすごく生徒思いだったなんて。
でもそれってなんか違うと思う。
嫌われなくたって、校長先生だけが無理しなくたっていい方法があるはずだよ。
「・・・ふう。校長・・・先生。なんかすみませんでした。卑怯とかさんざんひどいこと言っちゃって」
「いいんだよ。ひどいことをしてきたのは事実なんだから」
今日おだやかな口調だったのは前みたいな失言を恐れたからじゃない。
きっと校長先生も辛かったんだ。
「校長先生・・・」
「「「「水くせーな校長」」」」
「お、おまえら!!}
え?え?だれ?
いきなり部室に入ってきた4~5人の人たち。そしてそれに反応する海斗お兄ちゃん。
「もしかして兄貴と同じチームだった人!?」
続いて尋音が叫ぶ。
「お、そのとーり。ってか大きくなったな弟クン!!」
「数年前、海斗さんと同じチームでこのテニス部を全国4強まで進んだ、いわば黄金時代の人たちね」
すかさず月海がデータを教えてくれる。
「お前らどーしてここに!?大学は?仕事は?」
「「「「サボった☆」」」」
海斗お兄ちゃんがこんな性格なわけが今よくわかった。
「ってか校長!金足りないの?」
「う、恥ずかしながら、そうだ・・」
「なら俺に相談してよ!これでも若くして会社の代表代理やってんだから!」
「親の七光りな」
「うっせ!」
「「アハハハハ!」」
なんか個性的な人たちだ。
まぁ今の尋音たちも負けてない気がするけど。
「そうだな・・・確かに俺とかはまだ学生だけど、もう立派に職に就いて収入もらってるやつだってOBのなかにはいるんだ。確かに前校長は偉大かもしんない。でもそれをあんたが・・・現校長が完コピする必要もないだろ。だから資金が足りないなら、そこにいるボンボンとか」
「ボンボンいうな!」
「使えるもんは使っとけ。あ、道具としてじゃねえぞ。信頼できる、自分を支えてくれる仲間として頼っていいんだ」
「・・・私は・・・くっ」
校長先生が泣き崩れる。
人から・・・本当は大好きな生徒から恨まれるのってどれだけ辛いことなんだろう。
「ごめんなさい」
思わず口から言葉がこぼれちゃって、それでみんなの視線が私に集まって少し恥ずかしい。でも続ける。
「校長先生がそんなに苦労されてるのも知らず、わがまま言っちゃって・・ごめんなさい!!」
「そう、だな・・・すみませんでした!!・・・・そしてありがとうございます」
私のあとに尋音が続く。
そしてみんながつづく。
険悪だったムードが一気に溶けて暖かくなっていく。
「今日の兄貴無駄にかっこよすぎだ!」
「あはは、そうだったね」
尋音と歩く帰り道。
結局あの後ボンボンさん(仮)を中心として資金援助してくれることになって廃部もなくなった。
「そーなると県大出たかったなぁー」
「また次があるじゃん」
「だな。今度こそは地区優勝しないと!」
「「「「そのとおりだぞ少年!!」」」」
尋音の家のほうからつい数時間前に聞いた声が聞こえた。
「げっ先輩方!!」
「げっとはなんだ?」
「ホントに大きくなったな海斗jr!」
「おまえそればっかだしジュニアじゃねーし」
ほんと、にぎやかな人たちだ。
「兄貴!」
「・・・ん?」
「・・え?なにそのテンション」
「こいつらのせいで彼女とのデートなくなったんだよ!!」
「いいじゃねーかせっかく集まったんだし遊ぼうぜ?」
「そーそー。あ、なんならそこのマネージャーの子も一緒に行く?」
「え、ええ!?」
「あー確かにかわいいな」
ちょっと、困るし恥ずかしいよ!
「おいおいやめとけ。渚ちゃんは尋音のものなんだから」
「「違う!!」」
「おーハモった!こりゃ本物だ。やるね弟クン」
「あーもー!!兄貴!!さっさと先輩たちとどっか行けよ!!」
「えー先輩に対して冷たいなぁ」
「二人になりたいんだって」
「あーなるほど☆」
「「ちっがーう!!」」
ってまたハモったし!!
もう勘弁してよぉ~。
「さ、年寄りはさっさとどっか行きますか」
「だな」
「・・・先輩!資金援助の件はありがとうございました!!」
「おう!気にすんな!」
「お前一銭も出してねーだろ」
「てへぺろ♪」
「「「「ぎゃははは」」」」
笑いながら先輩たちは去って行った。
「面白いし、いい人たちなんだろうけど苦手だなぁ」
「あはは・・・。ホントだよね・・・」
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「なぁ海斗」
「ん?」
「あの弟クンたち、昔のお前ら見てるみたいだったな」
「・・・そっか。そうかもしんねぇな」
「まだあいつのことひきずってるか?」
「・・・忘れてないけど覚えてないよ」
「なんじゃそりゃw」
「ま、尋音たちはうまくやるだろ。俺たちとは比になんないくらい運命が強いんだ」
(だよな、凪・・)
海斗は輝く夜空を泳ぐ風にすっと手を伸ばした
春季大会終わりです!
次からはちょっと日常編です!
雄星とかが久々登場ですね。
活動報告で更新について書きました。
もし、もしも!この作品の更新について
『どーなってんだよ!』って思っている方がいましたら読んでください!