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ハズレダンジョンから始まる祖国再興――亡国王子は『迷宮管理者』を継承する。  作者: 永礼経


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第63話 『迷宮管理者』、不測の事態に遭遇する


「――ん? なんだ? 少し変だぞ――?」


 レンは、迷宮のフロアマップを見ながら、訝しんだ。


「どうした、レン。何がおかしいんだ?」


 と、ロジーナがレンの方を振り返るようにして問いかけてくる。


「――ああ、実は、これまでに湧出ポイントじゃなかったところにマーカーが付いていてな。二人の反応とそろそろ重なりそうなんだが……」

 

 レンは、妙な胸騒ぎがした。


 これまでに、『迷宮管理者』権限外の不測の事態が起きたことはない。

 レンも、そのことが当たり前のことだと、そう思っていた節がある――。


 だが、そ(・)も(・)そ(・)も(・)ダンジョンに『設定』などはな(・)い(・)。『設定』があって『設定どおり』のことが起きると考えているのは、その『設定』というものを扱うことができるようになった、『迷宮管理者』であるレンだけだ。


 そして、その『迷宮管理者権限』が『絶対的なもの』だと、誰かが保証したわけではないのだ。

 つまりは、レンが勝手にそう思い込んでいたに過ぎないという可能性は充分にある――。


(まさか、『突発的変異』か——? ありえる、よな?)


「――ロジーナ! 急ごう! 二人は今第4階層だ。二人は既に踏破した経験がある場所だ。もし、その場所で、想像していなかったことが起きたとしたら、うまく対応できるかあやしい! 万一もあり得る!」


 レンはそう言うなり駆け出す。

 ロジーナも、レンに続いて駆けながら、ノエリアの方に少し顔を向けながら叫んだ。


「ちぃっ! こういう勘ってのは、当たってほしくなかったんだがなぁ――! ノエリア! 接敵するなり、緊急事態になるかもしれん! 魔力の充填をしつつ、ついてこい!」


 言われたノエリアも、なんとなく嫌な予感がしていたのだろう。ロジーナの声に対して、


「もちろんですよ! 言われるまでもなく、充分に準備できてますから、ご安心を!」


と、叫び返しながら、あとに続いている。


 3人は第3階層を一気に駆け抜け、階層連絡通路に飛び込んだ。

 第4階層までの間のこの通路は、螺旋階段状の下り通路だ。

 通路を降りて行く間、先はぐるりと曲がっていて、もちろん先が見えない。


(くそっ! やけに長くないかこの通路——)


 そんなはずはないのに、やけに長く感じる階段を駆け下りている間にも、レンの中で嫌な予感がどんどん膨れ上がっていく。



『きゃぁあ――! アン!! しっかりして――!!』



 階下から突然その声が聞こえた。


「ロジーナ!! ユリアの声だ!! た(・)の(・)む(・)――!!」


 レンは思わずそう叫んでいた。


「まかせろぉ!! 『身体強化・疾風』ぅ――!!」


 ぶわぁっと、レンの脇を『突風』が駆け抜けてゆく。


(一瞬の速さでは、ロジーナには勝てないからな――。たのむ、間に合ってくれ――)


 祈るような気持ちで、レンは足に力を込めてさらに速度を上げる。


「見えた!! ロジーナ! どうだ!?」


「レン!! こいつは、なんだ――!? どうしてこんなのがここにいる!?」


 その声と同時に、レンは眼前に広がる光景を瞬時に頭に叩き込む。


 ロングソードを抜いて、モンスターと対峙するロジーナの背中が初めに目に入る。

 そして、その背中より手前の地面に二人の女の子が倒れ伏しているのが見えた。


 さらに――。


「【アース・ドラゴン】、だと――? どうしてこんなやつがこんな場所に――」


 レンは正直、事態が呑み込めない。

 

 この『迷宮』の設定はいいところ、『C級~B級』だ。

 【アース・ドラゴン】は、まごうことなき『A級』モンスターだ。


「ええっ!? レンさん! なんで、ドラゴンなんかいるんですかぁ!?」


 追い付いてきたノエリアもさすがに驚いて声を上げる。


「――ノエリア! そのことは後だ! 俺とロジーナでタゲを取る! 二人の治療を急いでくれ!」


 レンにも理由は分からない。が、間違いなく目の前にいるのは【アース・ドラゴン】なのだ。

 今はその事実だけ認識していればそれでいい。


「はい! 任せてください! ——ユリア? ユリア、大丈夫?」


 ノエリアがまずはユリアに駆け寄っていく。レンは伏せている二人を飛び越えるようにして、ロジーナの隣まで進み出た。


 正直、ユリアとアンの容態はまだはっきりわからない。が、もし万一のことがあれば、ノエリアがそう報告してくれるだろう。


(あ、そうだ――。もし、俺の言いつけ通りのものを魔道具屋で揃えていたとしたら――)


「ノエリア!! ユリアのポーチを漁ってみてくれ! そこに、『超聖水《エリクサー》』が入ってないか!?」


 レンは、ロジーナの隣で、ドラゴンに剣を向けつつ、そう叫ぶ。


「ポーチ――。あ! ありました! 『超聖水《エリクサー》』です! これを触媒に使えば、私でも超回復魔術式が使えます! 大丈夫! 二人ともまだ息はあります!」


 ノエリアの声がレンの背中のほうから響いてくる。


「わかった! そっちは任せる! ——ロジーナ、聞いた通りだ。ノエリアの援護は期待できない。二人でやるぞ?」

と、レンはロジーナに告げた。

「ふん! 【アース・ドラゴン】なら、私一人でも充分だが?」

と、ロジーナも応じる。


「強がりを言うな。負傷者が二人いるんだ。万一にもここを通すわけにはいかないんだからな――」

「まあ、そうだな。じゃあ、レンは援護だ。先に対峙したのは私だからな? こいつを仕留めるのは私の役目ってことで、そこは譲らんぞ?」


「わかったよ。じゃあ、それでいこう――」

「なら、うまくやってくれよ? お前には『過(・)去(・)』があるからな?」


「今、それを言うかぁ――?」

「くくく、一生忘れてやらんからな。——おっと、おしゃべりはここまでだ。レン、遅れるなよぉ! らぁ――!」


 言うなり、目にもとまらぬ速さで飛び出してゆくロジーナ。


「――ち、嫌なことを思い出させやがって――」


 レンは、ぼそりとそう呟くと、ロジーナに続いて【アース・ドラゴン】に斬りかかった。


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