311話 犬じゃないわん!
311話 犬じゃないわん!
その中の一人、クソ生意気そうな顔をした二十歳そこそこの男が、ツカツカと近づいてくる。
さきほど、3組を落ちこぼれ呼ばわりしたのはこの男。
その男は、センを、腹の底から見下した顔で、
「はぁん……お前が、噂の犬だな……」
「違うワン! 犬じゃないワン! わぉーん!!」
だいぶ難しいボケをかましていくセン。
その変態ぶりを目の当りにして、
センを見下している男は、眉間にシワをよせ、
「……なるほど……確かに、頭がおかしいな、コレ……」
と吐き捨てるようにつぶやいた。
すると、その後ろから、1人の美女が前に出てきて、
「ライバルト……下がりなさい」
命令された瞬間、ライバルト青年は、綺麗に頭を下げてから、
その美女の後ろにまわった。
美女は、センに視線を送り、
「相変わらず、言動すべてがおかしいな、クロッカ様の忠実なるシモベ、センエースよ」
そう言った彼女の名前はフチア。
ガリオ直属の十七眷属の一人。
基本的には、ガリオの城で、ガリオの『世話係の隊長』としての職務をこなしている『執事長+メイド長』といったポジションの彼女だが、
ほかにも、もう一つ役職がある。
それこそが『ガリオ親衛隊の隊長』という重大な役職。
ここにいる五人は、全員、ガリオ親衛隊のメンバー。
選りすぐりの精鋭。
全員、存在値50以上の十七眷属候補生である。
「フチア様も、相変わらず、お美しいですワン! あなた様の御姿を一目見られただけでも眼福で嬉ションしそうですワン! ところで、そっちの無礼な男は誰ですかワン! 私のことを犬呼ばわりするだなんて、失礼ですワン!」
「自ら、率先して、犬ぶっているのだから、別に犬呼ばわりされても問題はないのでは?」
「もちろん、問題はありませんよ。犬呼ばわりされることに抵抗感はまったくないので。ゴキブリ扱いも大歓迎です。むしろ、変に持ち上げられる方が嫌ですね。担ぎ上げられるぐらいだったら、殴られた方がまし。誰だってそうでしょう?」
「……本当に、貴様は頭がおかしいな」
と、フチアは頭を抱えながらタメ息をついた。
「ところでフチア様……いったい、こんなところで何をなさっておいでで?」
「視察だ。われわれ、ガリオ様直属親衛隊は、文字通りに、ガリオ様をお守りすることを主任務としているが……基本的に、ガリオ様が害されることなどないので、それだけを仕事にしていると、何もしていないタダ飯食らいになってしまう。よって、平時には、様々な仕事を行っている。視察もその内の一つだ」
「へぇ、大変ですね」
鼻クソをほじりながら、アホ顔でそう言うセンに、
フチアは、冷めた顔で、
「ちなみに、今回の視察対象は貴様だ、クロッカ様の犬、センエース」
「……はぁ、そうですか。まあ、好きに見ていってください。指導で忙しいので、お茶の一杯も出せやしませんが」
と、そこで、しばらく大人しくしていたライバルトが、眉間にグっとシワを寄せて、
「貴様! さっきから、フチア様に対して、なんという態度だ!」
とブチギレてきた。
「そんなにおかしな態度でもなかったと思いますけどねぇ……お茶を出さなかったのが、そんなに気に食わなかったんですか? でも、それなら、抜き打ちじゃなく、事前にお伝えしておいてもらわないと、こっちも準備できませんよぉ」
「貴様、どれだけ、ナメれば気がすむ! その態度はあまりにも問題! 俺が粛清してやる!!」
と叫びながら、ライバルトは、剣を抜いて、センに向かって斬りかかってきた。
その斬り降ろしを、センは、スイっと、紙一重のところで回避して、
「殺気も怒気もあまり感じないな……あんた、もしかして、誰かに命令されて、俺にキレ散らかしている感じ?」
「……っ」
センの指摘を受けて、ライバルトは、一瞬こわばった顔をした。
見透かされて動揺しているのが透けて見える。




