300話 格下との約束は破るのが定石。
300話 格下との約束は破るのが定石。
「私は許さない」
「……」
「魔人は道具だ。道具に、人と同じ権利を与えるなど……異常だ。それは、『男の体を欲しがる男』と同じぐらい……汚らわしいことだ。虫唾が走る」
性別不合という概念や状態は、この世界にも普通に存在している。
そして、まともな倫理観が働いていない、このレベルの世界においては、
当然、その手の状態は『汚らわしい害悪』『頭のおかしい病気』『気持ちの悪い精神疾患』という認識がされている。
まともな人権という概念すらないので、性自認問題が慎重に扱われるわけがない。
アボカは続けて、
「魔人の扱いは変えない。これまで通り、これからもずっと、魔人は道具だ。いいな」
「……しかし、それでは、あの犬との約束を無意味に破ることになります」
「いずれ処分する予定の犬との約束など果たす必要はない」
「まだ死にません。殺すのは、とことん使い潰してからです。キチンと使い潰すためには、約束を守る必要があります。私としても、『永遠に魔人を優遇する気』などありません。あくまでも、あの犬……センエースを操るためのエサとして、魔人に多少の便宜をはかってやるだけです。あの犬に利用価値がなくなれば、当然、その手の便宜をはかる必要もありませんので、お父様の言う通り、約束など知ったことかと、元に戻すつもりではあります……しかし、今は、それをすべきではない」
「私の命令が聞けないというのか……ガリオよ」
「話を聞いてください、お父様! 今は問題が山積みなのです! 『カドヒト率いる邪教団ゼノ』に、『強大なアンデッド・デス』に、『いるのかどうか分からないけれど、いたら大問題の邪神』……今、世の中には、対処しなければいけない大問題がたくさんあるのです。あの犬……センエースは、それらの問題を対処するのに有益な道具! とことん使い潰すのが賢い! 感情に任せて叩き潰すなど、あまりにも愚かしい!」
「私を愚かだと……言っているのか?」
「だから、話を聞いてくださいと、言っているのに!」
感情を膨らませて大声を出すガリオ。
そんなガリオに、アボカは、冷めた目を送り、
「……命令だ、ガリオ。魔人の扱いは変えるな。犬に迎合する必要などない。もしあの犬が『エサが足りない』などとワガママを言って命令を聞かないのなら……殺してしまえ。……そして、ゼノやデスの問題は、貴様かパルカで対処しろ。龍神族の誇りを忘れるな。貴様らがその気になれば、対処できない問題などない。あってはいけないのだ」
「……」
「なんだ、その目は。なにか文句でもあるのか。……返事はどうした」
「……はい……」
文句なら腐るほどあったが、
しかし、何を言っても、このガンコジジイは聞く耳を持たないと判断し、
ガリオは反論するのをやめて、心のこもっていない返事をした。
(くそジジイが……くそ、くそ……ど、どうする……どうしたらいい? このバカジジイのいうことを聞いて、魔人の地位向上の約束を反故にすれば、センエースは、おそらく怒り狂う……あの犬は何をするか分からない……最悪、カドヒトやデスと手を組んで、龍神族に反旗を翻すかもしれない……流石にそこまではしないか? いや、あの犬の頭のおかしさを考えると……その可能性だってゼロではない……ぐぅ……)
頭を抱えて悩むガリオ。
『龍神族の当主』という、『誰も逆らえない最上の地位』にいるが、
しかし、結局のところ、こういう場面では、
『親子』という関係性の方が重くのしかかる。
どの立場にいる人間であろうと、
結局、人間関係では苦しむもの。
それが人生。
(くそ、くそ、くそ……い、いったい……どうしたら……)




