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森のざわめき

色々と内容の変更がって申し訳ありません、シュリルのプロローグは時系列の流れを自然にするため元の八話の後に配置する予定です。申し訳ありません

 その日はお互い学校も休日だったので、昼過ぎからお馴染みの〈ノスタルジア〉南門で集合したハイドとシュリル。

このゲームはログインした際に自分の転移地点がある程度選べるという便利な機能がある。

転移地点はノスタルジアに存在する四つの門の前か教会区の中から選択できる。

ただしダンジョン内でログアウトしてもこれらの地点に転移することはできないので注意が必要だ。

もし拠点に戻らなくてはいけない時は帰還アイテム〈回帰の札〉を用いることで一番近くの拠点に戻ることができる。ただし値段はそれなりにするのである程度、圏内で換金できるアイテムを圏外で入手するか、この世界の基本通貨である「メル」を稼ぐ必要があるので初心者は自力で戻ることが多い。

ちなみに基本的に〈メル〉という通貨を手に入れるには、倒したモンスターがドロップしたり、クエストの達成報酬から得られたり、宝箱から得るのが定番だ。

ハイドに至っては長期間〈還魂墓地〉の攻略を進めていたので、ある程度は金銭的にも余裕があるので問題ない。

だからと言って彼は無駄使いするような性格ではないのだが。

そんなわけでハイドは南門の広場を選んで転移すると、そこにはすでにシュリルがいた。

「あ、こんにちは。ハイドさん」

「おはよ〜」

先日、〈還魂墓地〉攻略後にハイドの後ろから突然現れた謎のプレイヤーであり、『魔女』という奇怪なジョブでゲームをプレイする少女〈シュリル・キューザック〉はハイドの返事に口角を少し上げるが、ハイドは自分と初めに出会った頃からどこか暗い印象があると思った。

それに対しハイドはまだ眠いのかぼーっとした能天気な様子だ。

シュリルのジョブは正確に言えば『魔女王の娘』だがハイドにはこの世界の詳しい歴史的背景や設定は分からないので、とりあえず魔女ということで記憶している。

昨日見たようにシュリルの見た目は、とんがり帽子を深く被り、肩の露出した黒いローブを着ている。

下された髪は風が吹くと、とても滑らかに流れるため一見作り物なのではないかと思われてしまうほど美しく、容姿はまだ幼さを多く残している。

彼女の性格は感情的な面も多いがその反面、相手の気持ちがよくわかるのが長所だとハイドは勝手に考えている。

なぜ彼女の長所を考えたのかといえば、ハイドは普段から人の悪い部分だけを見てしまいがちな生き方をしているので、最近は相手を平等に理解するために観察すること心がけている。

ちなみに人間観察はハイドが趣味でやっているわけではない、らしい。

 だがハイドはそんなシュリルの雰囲気に関して少し疑問を持っている。

それは彼女が彼と会話する際、表情の分かりにくい彼女だが、その中にあるかすかな表情や声は楽しげではあるが、それと同時にどこか寂しげな印象を受けるのだ。

それにハイドからすれば、昨日のシュリルの感情的な対話をやはり思い出してしまう。昨日のやりとりでの彼女は何かしらあるとすぐに謝り、すぐに泣きそうになる気弱で純情な女の子。

だがハイドはそれ以上彼女に関して深く考えないようにした。

下手に勘ぐるのは自身の悪い癖だし、下手の考え休むに似たりともいう。

何より普段は彼も無愛想な雰囲気でカートンやクラスメイトに接しているのだから人のことは言えない。

この時ハイドはいつの間にかシュリルというプレイヤーのリアルでの性別が男なのではないかという可能性を捨て、普通に女の子として接していた。

そんなハイドがシュリルに今日の目的を尋ねる。

「シュリル、今日はまず街案内する予定だけど。どこか行きたいところある?」

「ええと、beta版と製品版の違いを見つけたいです。主な施設とか、街並みとか」

「そっか、あとは?」

「そうですね。実は私、探してる人たちがいるんです」

この発言にはハイドも心当たりがあるようで、納得した。

おそらく彼女が探しているのは昨日話していた以前、このゲームで冒険を共にした仲間たちのことだろうと思った。

「へえ、betaで知り合った人とか?」

「え⁉︎…はい。そんなところです」

「俺も後から教会区と商店区に用があるからちょうどよかった。そいつら、見つかるといいな」

「そうですね」

彼らは南門から歩いて西の住居区へ向かった。

このゲームを初めてプレイする初見の人なら、この住居区はNPCが住んでいるだけで何の施設もないところだと思うかもしれない。

実際、シュリルの記憶では戦闘職の討伐依頼を受けたり、生産職の納品依頼を受けられるのは主に、街の東にあるギルド編成兼クエスト受注ができる館〈テミス:ギルド館〉だからだ。

だが製品版ではそこ以外にもクエストが受けられる場所は存在する。

それを証明するためハイドはシュリルを連れて住居区の何気ない一軒家の前まで歩いて行った。

木材の外壁に屋根がレンガ造りというこの街で見れば、かなりありふれた家屋だ。ハイドはその家の前で立ち止まると、その家の扉の前へ躊躇なく進んでいく。


「え?ここってただNPCが生活しているだけの場所ですよね。確かbeta版でも一応、難解な表現でなければ住人と会話できましたが、ってちょっとハイドさん!」


シュリルの話も聞かずにそのままハイドはドアを開けて中に入るので、彼女も後についていかざる負えないという風にそれに続く。ハイドが中に入った後、彼女はドアの前で少しの間、逡巡してから遅れてシュリルがハイドの後から扉の中に入る。

すると中には台所で家事をする髪を後ろで結んだエプロン姿の中年女性がいた。

そしてその横にある居間にはロッキングチェア、いわゆる揺れ椅子に座る一人の老婆がいた。

中はそれほど広くはなく、古めかしい雰囲気の他には家具も最低限のものばかりだ。するとハイドは台所にいる中年の女性に話しかける。


「ただいまー、邪魔するぞ〜」


シュリルはハイドのこの行動に対して思った。何て礼儀知らずな男なのだと。

それは彼女がこのゲームに搭載された機能のハイテクさを知っていたためであり、ハイドの行動が彼らに悪い影響を与えかねないと思ったからだった。というのもNPCとはいえ、近年の最新型AIを搭載したゲームは一昔まえのRPGゲームとは違う。

近年のゲームはこの頃目覚ましい発展を遂げたAI技術が惜しみなく使われており、AIによる会話や行動の汎用性は以前にも増してかなり向上している。

そしてそれらの技術の恩恵を特に多く受けたこのゲームでは彼らNPCの行動や言動パターンは他のゲームと段違いだ。

この頃はプレイヤーが起こした行動や言動によって表情や行動が変わったりするほど高機能で、より人間に近い高度な会話を可能にしている。

だがこのゲームは通常の会話や行動、表情の表現だけでなく感情の表現や自己選択の幅もかなり豊富だ。

例えば彼らは話し手が挨拶をすればそれに返すが、毎回その返答に使う言葉が話し手との関係性や状況によって変わる。

それにプレイヤーの無礼な行動や暴言を言えば彼らは怒るだけでなく、時には涙を流すこともある。

そのため時にはプレイヤーの運命を変えてしまいかねないほどプレイヤーというキャラクターの影響力は大きいのだ。

それを知っているバニラはノックもせず勝手に家に上がり込んだ上に、まともな挨拶もせず我が物顔で居間にあった椅子にドスンと座ってくつろぐ彼の行動に肝を冷やした。


「ごめんなさい!勝手に入って…」


NPCを怒らせてはいけないと思い、とりあえず謝らなくてはとシュリルはすぐに謝罪する。

しかし彼女の予想とは異なり女性NPCの反応は思いの他、寛大なものだった。

そこに激昂した様子はなく、むしろその中年の女性NPCはくつろぐハイドを見て笑顔になった。

「あら、よく来たね。ハイドちゃん、元気にしてたかい?あら、横にいる可愛い子は?彼女さんかい?」

「まあまあかな、ブラッドはもういないしな。あとこの子はただの連れ」

NPCへの返答の後に一瞬、暗い表情になるハイド。シュリルはそれを見て疑問を持つ。

〈ブラッド〉とは一体誰だろうかと考えるシュリル。

それにしても彼女はこの反応に一体どういうことなのか。

怒るどころかむしろフレンドリーな対応を返してきているではないか。

彼らの会話の内容からすると、お互い顔見知りということだろうか。意外な反応と自分の場違いな居心地に動揺しそうになると


「お茶でも飲んでいくかい?お嬢ちゃんもどうぞ!」


「いや、それよりもさ。何か〈クエスト〉ない?」


「あら、そうかい?ああ依頼ね、そうそう!実は、この前……」


約二分後


「じゃあ、頼んだよ。またいつでも来な!」


「ああ、また来るよ」


 陽気な会話をしていたと思ったらハイドの『クエスト』という言葉の後、途端に話が途切れたことに違和感を感じるシュリル。

依頼の話をし終えるとその女性は元の位置に戻り、家事に戻った。

そんな奇怪な様子に呆然とする。

それに突然、そのNPCが笑顔から困り顔、無表情に変わっていく表情の変化を見たシュリルは少し怖くなった。

すると彼女のウィンドウにクエスト依頼が表示された。

そこには『四日後に帰ってくる〈ヒラコ〉の夫のために〈昇り兎の肉〉を届けよう』と書かれていた。

その内容を読んでいた彼女へ今頃のようにハイドは先ほどのやりとりを説明する。

「今のは〈クエスト受注〉だよ。実はこの家には何度か来たことがあって、このおばさんとは顔見知りなんだ。ていうのもNPCのクエストは東の〈テミス:ギルド館〉以外にも受けられるんだけど…もしかして知ってる?」

「いえ、beta版ではクエストを受けられるのはギルド館だけでしたから、知りませんでした。あの…さっきの話、突然途切れませんでした?」

「ああ、依頼の話はウィンドウからスキップできるんだよ、あらかじめ設定で会話の表示の許可が必要だけどな。にしてもあの表情の変化は初見じゃトラウマになるかも…。まあそれはともかく、移住区のNPCでも友好度さえあげればクエストを受けられたり、〈取引〉もできるんだよ。まあ俺は商店で買ったほうが早いから使ったことはないが」

それについては知らなかったシュリルは納得する。

その機能は知らなかったが、確かにそれなら今までの出来事にも辻褄が合う。

依頼の件も『クエスト』というワードを使って質問すると、あのような話が飛んだ状態になるらしく、その機能はシュリル自身も以前にギルドの受付人との会話で経験済みだったことに気づく。

「そんな機能があったんですね。あの、できればこれからはNPCとの会話。飛ばさないでくれませんか?ちょっと怖いです…」

「お、おう。すまん」

その話を聞いた後、シュリルは画面右上にハートの形をしたマークが三つ表示されているのを見つけた。

そのうちの二つは暗くなっていたが、一つは一割ほど明るく色づいていた。

おそらくこれがハイドの先ほど話していた友好度のパラメーターであり、これが増えていたため先ほどハイドが女性に話しかけた際、NPCは友好的に接してくれたのだとシュリルは納得する。

それに彼女はまた一つ自分について分かったことがあった。

今こうしてハイドの受けた依頼が自分のウィンドウにも表示されているということは、テイムされたモンスターという扱いのシュリルでも共有という形でクエストを受けられるのだとわかり安心した。


「場所は後追いの森だってさ。あとで行ってみるか。あそこなら初心者にも優しいし」


「はい、ぜひ行きたいです」


 彼らはその家を後にし、中央の教会区へ向かった。

もともとハイドは昨日、教会区に行く予定だった。

その理由は他でもない、蘇生したバニラに会いに行く予定だった。

だが彼女は先日の件の後、そのままログアウトしてしまったようなので今日会いに行く約束をしたのだ。

彼らは協会区につくと、多くの小規模な教会を見て回った。

もともとこの教会区は謎が多く、ハイドにとっても理解できていないことが多い。

それはこのゲームの半数近くのプレイヤー間でも同じで〈ノスタルジア〉の教会の多さから元々、歴史的に高い宗教色を持っていたからではないか、という何とも浅慮な考えで納得してしまっているプレイヤーも多い。

だが教会区の謎を調べようにも、ほとんどの扉は閉ざされ、例え入ることができたとしても無人であることが多いらしく、ほとんどの情報は与えられていない。

あるプレイヤーの噂では、ここら一帯の建物は『運営サイドの人間がゲーム内に持つ個人家屋なのではないか』、はたまた『その昔、この街の住民は邪教を信仰するカルト集団という設定なのでは』という、何ともぶっ飛んだ考察や論争が繰り広げられているのが現状だ。

 しばらく歩いているとハイドは興味深い僧侶の装備をしたプレイヤーがいるのが見えた。

僧侶の装備は大体、杖が唯一の武器であり彼らのシンボルでもあるのだが、彼らはそれに当てはまらない装備をしていた。左手に杖を装備し右手にメイスを持つ者や、メイスの代わりに剣を持つものもいた。

それを見たハイドは

「あの人、筋力あげてるみたいだな。普通は装備重量的に杖だけ持って戦場に出て、接近戦は前衛に任せるものだけど」

ハイドは通常、戦闘時に使うMPの最大値を増やすか、パーティーの緊急時や敵の攻撃迫った時に備えてSPDやDEFをあげるのが普通だという認識を持っていたハイドは意外な目でそれを見つめていた。

「私も以前は僧侶でしたけど、モンスターにダメージを直接あたえない分戦闘ボーナスが少ないんです。だからああやって武器で戦いながら少しでも経験値を多くしようとしてるのかも…です」

「僧侶も案外、大変なんだなあ」

ハイドはこの手のゲームではヒーラーを一切経験したことがないので、その苦労を知ることはなかった。

そもそもハイドは今まで生粋のソロプレイヤーだったので、そういうジョブ界隈事情を聞くと、そんな苦労を考えることで自分がいかにパーティープレイを好まないのかを再確認させた。

「そういえばシュリルはその、探さなくていいのか?」

ハイドが指しているのは先ほど、南門にいた時にシュリルが言っていた『探している人たち』のことだった。

それに気づいたシュリルは

「うーん、こうして街を回っていれば何かわかると思ったんですけど、そう簡単に見つからないみたいです」

この手のことについて聞くことはあまりプライバシーのこともあるのでハイドは避けたかったのだが目的は明確にしておきたいと思ったのか、彼はもう少し突っ込んで聞いてみた。

「あのさ、探してる人っていうのは誰なの?いや、答えたくないならいいけど。そこはシュリルの裁量に任せるっていうか…」

「そうですね、実は以前のこのゲームで私と同じパーティーだった、〈ギュラリ〉さんや〈ヤマト〉さん、〈ミラ〉さんと、〈カートン〉さんというプレイヤーを探しているのですが…もしかしたら名前変わったのかな」

シュリルの出す名前にはほとんど聞き覚えのない名前ばかりだったのか、ハイドはあまり関心がなさそうに相槌を打っていく。

たとえ知っていたとしてもハイドは基本的に自分にとって覚えるべき重要な人間の名前以外、忘れてしまうので本当は知り合いの人や見たことのある人でも、ハイドにとって印象に残らない限り覚えていないことも多い。

だが一人、聞いたような名前があるのに気づいた。それもかなり最近に。

商店区で会った男の名前、確か彼は〈カートン〉という名前だった。

「えーっと、あの〈カートン〉って人について詳しく聞きたいんだけど、前はどんな装備だった?ジョブとか」

「知ってるんですか⁉︎今どこに?他のみんなは?」

「い、いやあ。聞いたことあるかもと思ったけどやっぱりないかな」

「そうですか…」

ハイドの質問にシュリルは歓喜したのか目深くかぶったフードから大きくつぶらな眼を覗かせる。

純粋なその瞳とほのかに赤く染まった透き通るような白い肌は、まるで幼い女児を感じさせるほど無垢に感じた。

そんな可愛げな顔で見上げられてドギマギしそうになるハイドは慌てて弁解すると、彼女はシュンと物悲しげな表情になり、後ろに退がる。

彼女を落胆させたことに大きな罪悪感に襲われるのを感じたハイドは申し訳ない気持ちになる。

「それでカートンさんなら確か、以前は〈守護騎士〉をしていたと思います。大盾とメイスを装備した爽やかなお兄さんって感じの雰囲気でしたけど。何か思い当たる節はありませんか?」

「いやあ〜、多分ないかな。悪いな」

使っていた武器は多少違う点もあるが、シュリルの言っていた職業である〈守護騎士〉いわゆるタンクである点と爽やかな雰囲気という特徴、それはまさしくハイドの知っている人物だった。

まさか自分の知り合いがこのゲームのbeta版でパーティーを組んだ人と、偶然にも今の自分が仲間になっているなんてなんの冗談だ、とハイドは驚きながらもネトゲ内の世間の狭さを実感した。

そしてハイドはシュリルに自身がカートンと知り合いであり、フレンド登録もしていることは言い出せなかった。

正直ハイドの本心では、もし仮にその人物がカートンで、彼女にその事を教えても良かったのだ。

しかし今その事を彼女に教えると万が一、それで彼女が彼らを見つけカートンのパーティへ移動した際、芋づる式で自分も彼のパーティーに入ることになりかねないと思ったのだ。

それは彼女が自分と契約関係にあるからであり、例えハイドとシュリルの間にある〈モンスターとテイマーの契約関係〉を切断するにしても、ハイドは再びブラッドを失った時のようにまた一人で戦うことになるし、また自分よりレベルの低いモンスターをテイムしてから育成するのはかなり面倒だと考えた。

かなり利己的な理由だが、今だけは彼女にいてもらう必要があった。

せめて彼女の代わりになるモンスターをテイムするまでは。ただ、例えそれ以前にシュリルが自分の仲間を見つけても、自分のパーティーに引き止めることはしたくないという気持ちもあった。

だからもし、彼はシュリルが自分のパーティーを見つけ、そこに移るというのなら契約解除することも考えておかなくてはと思った。

そのため彼はその時がくるまではシュリルにこの件は保留しておこうと思った。

「多分ハイドさんがカートンさんに直接お会いする予定はないかもしれないので言っちゃいますけど、カートンさんのことなんですが。本人には内緒の話ですけど、同じメンバーの〈ヤマト〉さん曰く、その…実は『ロリコン』っていう特殊な性癖らしいです。」

「え?〈カートン〉が?」

「はい」

「そ、そうなのか。それはかなり…うん」

「なんでそれ言ったの?」

「探す時の情報になるかと思ったんです、けど。言わない方が良かったかな…」

「ああ、そう…」

低身長のせいか幼く見えるシュリルが顔を赤らめつつ、両手で口元を覆いながら耳づてに伝えてきた。

それを少し屈んで聞いたハイドは、正直どう反応していいか分からなかった。

自分の友達というほどの間柄ではないが、リアルではカートンの知り合いである彼は、普段クラスでは同年代にモテモテの頓田がそんな特殊性癖を抱えているという事実にはかなり驚いた様子のハイド。

それにしても突然、なぜシュリルはこんなことをいったのか。

ハイドはもしかしたらカートンと自分に何らかの関係があることをシュリルに見透かされてるのではないかという疑心を持ったが、理由を聞いて安心した。

それにしても彼を探すためとはいえ犠牲になったカートンの心が悔やまれるばかりだ。

だがもし先ほどの宣言が事実ならカートンに、この一見女子中学生のようなシュリルを渡すわけにはいかないと思った。

 ハイドは話題を変えるべく、話のネタを探していたところ、教会区の中でも最大の教会である〈church of Requiem〉へたどり着いた。

そこはとても壮大であり、現実のイタリアやフランスにある有名な宗教建築をひと回りほど小さくしたのではないかと思うほど、精巧に造られていた。

実際に中に入ると、大理石を用いた壁や床が建物自体の歴史を感じさせ、天井や壁には様々なカラーで彩られたガラスが絵になったような窓がたくさんあった。

彼らは奥に進むと分かれ道になっていたので立ち止まった。

分かれ道の中間にはこの教会のシンボルなのか大きな石像が立っており、その背後には絵画が描かれていた頭までローブを被った僧侶のような女性の石像の裏に、一匹の鳥(距離が遠いらしく、ぼんやりとぼやけている)と、貧しい民衆が描かれている。

一見すると、この石像の女性が後ろの絵画の鳥と民衆を引き連れて歩いているように見える。

「ハイドさん、こっちに行くと何があるんですか?」

「ああ。とりあえず行ってみるか」

バニラが左手にあった扉をあけ先に進むと、そこにはランプが壁に備え付けられ、天井がカラフルなガラスで装飾された大きな広場に着いた。

その奥には石で作られた大きなアーチが部屋の中央にポツンと立っていた。

しかしそのアーチで囲まれた空間をシュリルは凝視すると、透明な膜のようなものがあるのに気づいた。

「あの、さっき扉前の看板にも書いてありましたけど〈再起の祠〉って何ですか?」

「ああ、ここは祠といっても語源から神道系の神様を祀るような石造りの屋城を想像するかもしれないけど、実際はただ石で出来たゲートから死亡したプレイヤーが復活するだけなんだ。別にストーリー的に重要な意味はないと思う」

「じゃあもし圏外で死亡した場合、ここに戻ってくるんですね」

「本来、このゲームでの初期スポーン地点はこの〈再起の祠〉のはずなんだけどな」

「そうですね、なんであんな場所からリスポーンしたんだろう」

「俺にも全く分からない。修正が来れば詳細がわかるんだろうけど」

ハイドにとっては、ブラッドが自分から離れたことも何らかのバグであってほしいという思いが心にあった。

彼はまだその件について完全に立ち直ることができていないためか、少し表情が暗くなる。

 彼らは部屋を出ると、先ほどの分かれ道から右のほうへ進んでいく。扉を開けると食堂があった。

それほど人は多くないが、戦士や魔法使い、中には盗賊もいた。

それぞれが料理が並べられたテーブルで談笑していた。

カウンターの奥には白いローブを着た身なりのNPCがいた。それらを眺めていると、不意に誰かがハイドに近づくといきなり怒鳴り声をあげる。

「おそーーーーい!いつまで待たせてんのよ、このノロマ!!」

憤慨しながらハイドの近くで腕を組んでいる女性は、先日ハイドたちとパーティメンバーとして〈還魂墓地〉で戦った〈トレジャーハンター〉の【バニラ】だった。

相変わらず、露出度の高い格好をしているせいかハイドは反射的に目を背けてしまう。

「だいたい、待ち合わせは昼ごろって言ってたのに今何時だと思ってるのよ!!!三時よ!三時!」

「いやあ〜、色々あってな。まあ、約束通り『報酬』は持ってきたんだしさ。これで勘弁してくれ」

バニラが顔を真っ赤にして腕を振り回しているのもが彼女が怒り心頭なのも仕方がないのだ。

ハイドはもともと昼ごろにシュリルとともにこの食堂に着くはずだったが寝坊していたのだ。

朝方一度起きた時に、シュリルにだけ時間の変更を伝えてそのまま二度寝してしまい、バニラは知らないという大惨事を招いたのだ。

 するとハイドはウィンドウを開き、アイテムから先日のボス〈エンド・オブ・ソーサラー〉の撃破報酬である〈形見の指輪〉を取り出す。

内心この指輪には愛着が湧いてしまっていた彼だが、渡さないわけにもいかないので名残惜しくも渡すと

「へえ…。まさかとは思ったけど、本当に倒したのね。あんたからメッセージが来た時は驚いたわ」

そう言いながら手渡された指輪を興味深げに眺めているバニラ。

しばらくそれを眺めた後、何とそれをハイドに返してきた。

「はい、これは返す」

「え、何で?これはバニラが手伝ってくれた報酬だし、受け取れない」

「いいのよ、あとでもっと価値の高いもので返してもらうから」

「まじか、鬼畜だなお前」

「当たり前でしょ?私がいなかったらクリアなんて夢のまた夢だったんだからっ!」

腰に両手を置き、ふんと鼻を鳴らし横にぷいと向いたバニラに、苦渋の眼差しを送るハイド。

すると横目に、ハイドの隣に連れがいることにようやく気づいたのかすぐに向き直る。

「ん、ハイド。その子は一体…」

「ああ、この子は昨日〈還魂墓地〉でバニラとあそこのボスを倒して帰ろうとしたら、いつの間にか後ろに現れてたんだ。しかも、このゲームのバグのせいかモンスター扱いになってて…って聞いてんのか?」

俯いたまま両手をピンと下に伸ばしているバニラに不安を覚えたハイドは具合でも悪いのかと気を使う。

一方ハイドの横にいたシュリルが帽子のつばを両手で掴み、深くかぶっていた帽子をいきなり脱ぐ。すると一歩前へ出てその帽子を膝の位置で抱え、頭を下げだした。

「あ、あの!ごめんなさいっ!なんていうか、その…話に入るタイミングが無くて…えと、〈シュリル・キューザック〉って言います。バニラさんでいいでしゅっ⁉︎…すか…?」

顔を真っ赤にしながら突然、自己紹介をしだしたシュリル。

そういえば、話に夢中でシュリルをバニラに紹介するのを忘れていたとハイドは後悔する。

それにしてもこの子、幾ら何でも緊張しすぎじゃないだろうか。もしかしてバニラの威圧的な態度に、緊張しすぎてリアルでの素なシュリルが出てしまったのかとハイドは心配するのと反面、シュリルが自分と同じコミュ障であることに共感したのか嬉しくなった。

するとバニラが

「なるほど、シュリルね…うん」

依然として下を向いているバニラ、表情は見えないが、だんだんとプルプル震えているのがわかった。

その反応にシュリルが不安そうに見つめ、その場に沈黙が走る。

唾をゴクリと飲み込む音が聞こえた。

するとバニラはゆっくりと顔を上げ、シュリルを見つめると

「シュリルちゃん…か、か…」

「「か?」」

「かわいいいいいいい!!!小さくて髪もサラサラで恥ずかしがり屋で、シュリルちゃんがさっき噛んでたとこなんて、お姉ちゃん昇天しそうになっちゃった〜!!」

「いや、昇天しちゃダメだろ」

「でもハイドさん、たとえ死んでもすぐそこで復活できますよ?」

「お、そうか」

「きゃああああ、シュリルちゃんに気遣われちゃったあ!!やばいやばい」

シュリルを見るなり感激しているバニラは、今にも口からよだれが垂れそうになるほどシュリルを見つめている。

すると我慢できなくなったのか、思い切り抱きつきだした。

バニラのその変態的な顔を見たハイドはドン引きせざる負えなかった。

シュリルはバニラの豊満な胸に顔が埋まって苦しいのか、顔を赤らめながら必死に呼吸しようとしている。

ハイド的にはシュリルのその状態は可愛らしくてもう少し見たかったが、さすがに心配になってバニラに離れるようにいうと、バニラはシュリルに自分の無礼を謝罪した。

深呼吸をして呼吸を整えると、

「ごめんなさい、さっきは気が昂ぶってシュリルちゃんに失礼を。にしても何でこんな可愛い子がハイドみたいな、パーティーも作れないほどの絶望的コミュ障と一緒にいるのよ」

ギロリとバニラがハイドを睨みながら、質問の答えを待つ。

「さっき説明してたろ、聞いてなかったみたいだけど。てか今お前、『絶望的』って言ったな?聞き捨てならないな」

「何よ、事実でしょ?私がこの前一時的にあんたのパーティーに入ったのは他でもない奇跡よ」

「なんて性悪なやつだ…」

「今何か言った?私は別にいいのよ?さっきの報酬の件、取り立てても」

「それは勘弁してくれ…」

なんて狡猾な女なのだろう、恐ろしいと思いながらハイドはバニラを見つめる。

一方シュリルはさっき脱いだ帽子を再び深くかぶり直し、位置を調整している。

その後、彼らはテーブルに座ると改めてハイドはバニラに彼女が離脱した後の経緯を説明し、このゲームで起きている不可解な現象についてどう思うか尋ねた。

「そうねえ、でも確かにこのゲームで不可解なことが起きてる可能性は否めないかも」

「というと?」

「この前の〈エンド・オブ・ソーサラー〉との戦闘の際に使っていたあのスキル。あの後、私なりに色々調べてみたんだけど。いくら探してもやっぱりあのスキルに関する情報がないのよ」

「そんなまさか…」

「あのスキルって、何ですか」

ハイドはシュリルにも話の趣旨がわかるよう、その時の出来事を説明した。

あの時のスキルとは、紛れもない〈還魂墓地〉で〈エンド・オブ・ソーサラー〉が使用していたスキル〈空堕とし:偽〉。

指定した地点の真下に黒い粒子が円形に集まり、その真上を円柱状に奔流として流れ、瞬時に対象を消し去る能力。あの強力すぎるスキルを受け、バニラは戦線を離脱したのだ。

それに終盤に使用してきたハイドの投げナイフによる投擲や遠距離の物理ダメージを無効化する壁を発生させた謎のスキルも気になる。

そのスキルについての情報はネット上でいくら調べても見つからず、その詳細は隠されたままだ。

「それに攻略サイトで最近、話題になってる〈特殊条件〉ていうのも気になるわね」

「特殊条件?」

「ゲーム内である発生する特定の条件を満たすと起こる、謎の現象らしいんだけど。昨日、さっきのスキルのついて攻略サイトで調べてた時に見つけたんだけど。ちょうど昨日、その情報が更新されてたらしくてその記事を見つけたの」

バニラによると、その記事の概要はこうだ。

最近「ALF」内で稀に起こる〈特殊条件〉についての記事でその日の夜七時ごろ、あるプレイヤーが〈ノスタルジア〉北部に位置するエリア〈ラルフ高原〉の攻略中、何らかの特殊条件を満たし、【エクストラスキル】なるスキルを得たとの事だった。

そのスキルの詳細は公開されていないが、多くのプレイヤーがその特殊条件を満たすことで得られる【エクストラスキル】の情報を得るべく躍起になっているということだった。

それを聞いたハイドとシュリルは、自分たちも現在保有している【エクストラスキル】について考えていた。

「確かさっき、ハイドとバニラもこの【エクストラスキル】っていうのを獲得したって言ってたわよね?」

「ああ、というかこれがあるから今シュリルと一緒にいるわけで。シュリルが俺にテイムされてる理由でもある」

「はい、どうやら私はこのゲームでモンスター扱いされてるみたいです。それも〈魔女王の娘〉というジョブで」

「でも、自発的にスキルやクエストの受注はできるのよね?」

「ええと、スキルはまだ使ったことないですけど、クエストの受注はできました」

「そう…」

ハイドはバニラにシュリルの所有しているスキルについて話してはいないが、魔女王のスキルスロットを得られるというのも気になっている様子だ。魔女王の存在、その全貌を知るのはいつになるのか。

そもそも魔女王の娘というゲームの設定上のキャラクターはなぜハイドのような平凡なテイマーを選んだのかは謎だ。

だがそれらを知るすべは今の所存在しないのでハイドはそれについて考えるのを辞めた。


 ハイドとシュリルはその後、街の東にある商店区内の屋台で営業している鍛冶屋へ向かった。

バニラはどうやらまた他のパーティーで宝探し(また宝箱を独占するつもりだろうとハイドは予想している)をするらしく、二人で向かうことになった。

大通りということで人通りも多く、はぐれてしまいそうで心配だったがそんな中でもシュリルは自分の探し人たちを見つけようと目を凝らして探している。

しばらく歩くとその鍛冶屋に着く。どうやら前回、カートンと遭遇した鍛冶屋は避けて違う鍛冶屋を選んで来ている様子のハイド。

そこでヒゲが鼻の下にだけちょっぴり生えたチョビヒゲおじさんの鍛冶師に頼んで、ハイドは新しい武器を作ってもらうことになった。

と言っても作る武器は他でもない短剣と決まっている。それは彼の戦闘スタイルやステータス傾向を踏まえたれば当然かもしれない。

ちなみに前回の短剣はというと、ハイドが〈還魂墓地〉のボスを倒すために武器として投擲してしまった〈蜂針の短剣〉であり、〈エンド・オブ・ソーサラ〉による謎のスキルで弾かれた際、天井に突き刺さって回収できなくなった遺物でもあった。

そういうわけでハイドは新しい短剣を作るべく鍛冶屋のおじさんに素材を渡し制作してもらう。素材は先日までの〈還魂墓地〉の攻略でたくさん得たドロップ品を消費して作ることになった。

「これで足りるかな、じゃああとは頼んだぞ」

「おうよ、任せときな!」

そういうと鍛冶屋は片手に槌を持ち、先ほどハイドが渡したベースとなる金属を叩き始める。鍛冶屋がおじさんが高温に熱せられた金属を叩く甲高い音を鳴らす。彼の汗が顔中から吹き出す様子を見ていた二人は、それほど接近していないにも関わらず見ているだけでこちらまで熱くなってきたように思った。

 完成するのを待っている間、シュリルは鍛冶屋に飾られた数々の武具を見ている。

斧や大剣などの破壊力抜群の武器に、レイピアやロングソード、さらには弓や杖などの戦闘必需品まで飾られている。

それらに興味津々な様子で釘ずけになっていると、ふと店の横で何やら話し込んでいるプレイヤーたちがいたってきた。

彼らもこの店を利用したようで、一人の戦士が片手に持つロングソードは光沢を帯び、艶のある様子から彼らの剣が研がれたばかりであることがわかった。

すると彼らの片方の話がシュリルの耳に届いた。

「なあ知ってるか?最近、〈後追いの森〉で噂になってるあの事件」

「知らねえな、なんだよそれ」

「この前、ある初心者パーティーが〈後追いの森〉を攻略し行ったとき、プレイヤーキラーの集団に遭遇したんだってさ」

「へえ、〈後追いの森〉つったらビギナーが初めて攻略するダンジョンだろ?なんで殺すんだよ。価値のあるものなんて持っていないだろうが」

聞き耳を立てていたシュリルに気づいたのか、自分の武器を見ていたハイドも隣に来ると彼らの話に耳を澄ませた。

「違うんだよ、奴らは報酬が欲しいんじゃなくて、殺して煽ることに快感を得てるんだよ」

「なんじゃそりゃ、変わった奴らだなあ」

「まあまあ、まだ話は続きがあってな。なんでもこの森、時々霧がかかるらしいんだけど。ビギナー達が襲われた時もそりゃあ濃い霧だったみたいで。都合のいいPKの奴らがそのパーティーを襲っては殺して、最後の一人だけ残ったんだと。奴らがそいつを殺そうとした直前、どこからともなく霧の中から正体不明の獣が出てきて、襲ってた奴らを全員食い殺したらしい」

「なんだそりゃあ、正体不明って…それで、残った一人は?」

「PK集団がその獣に蹂躙されてる最中、必死に逃げた後、なんとか街まで戻ったらしい。リスポーンした仲間がそいつにその獣について聞いたら『何が起こったのか分からないが、とにかくあんなモンスターがいるなんて情報はなかった』だとよ」

「そんな馬鹿な事があるか、あそこのエリアボスの〈血染め熊〉と間違えただけだろ〜」

「さあな」

そんな話をしていくと、彼らは立ち去ってしまった。

なんとも不思議な事件だったが、ハイドはその話を聞いて特に驚く様子もなく、自分なりに話を反芻しているようだった。

対するシュリルはPK集団や正体不明の獣の話を聞いて恐ろしくなったらしく、緊張した面持ちでいる。

「ハイドさん、さっきの話…聞きました?」

「ああ、一応な」

「今から〈後追いの森〉に行くのは避けたほうがいいかもしれませんね。せっかくの戦闘練習でしたけど…」

ハイドとシュリルは本来この後、〈後追いの森〉でシュリルの魔女王の娘としてのスキルを試しに行く予定だった。

するとそんな弱気なシュリルとは打って変わって、ハイドは興味津々な様子で

「何言ってるんだシュリル、もちろんそいつを見に行くに決まってるだろ」

「ええ⁉︎」

「いや、そんな驚かなくても。第一、シュリルのスキルがどんなものか見に行く予定だったし、あわよくばそいつを倒せるかもな」

「そんなあ、無茶ですよ…第一パーティーが全滅するほど強いんですから」

ハイドは彼らの言っていた噂の真意を確かめたくて仕方がなかった。

彼自身のこういう場面での好奇心は時に思わぬ危機を呼び寄せるとも知らずに、そのモンスターに挑む気満々だった。

というのも彼らの言っていた謎のモンスター?がもしも先ほどバニラたちと話していた〈特殊条件〉と関わりがあるのなら、その実態を調べてみるのもありだと思ったのだ。

それらについては近日に公式から知らされるだろうが、それでもハイドは自分で確かめたいと思った。

だが彼が〈後追いの森〉に行くべきだと思ったのにはもう一つ理由かあった。なんならむしろこっちの方がハイドの本命なのだが。

その理由とは彼の犯したさっぱりの責任を果たすためのものだった。

それは先ほど彼らの話にあった正体不明の獣ではなく、彼自身が以前に手放すことになったモンスターである〈ブラッド〉のことだった。彼は自分の無茶な攻略で幾度も全滅し、ブラッドの親密度を下げた上にその際起こる事態を考慮していなかった。

その責任を果たすには彼が〈後追いの森〉へ行き、初めて訪れた湖で出会ったブラッドを再びテイムすることでしか果たせないと考えた。

かつてのブラッドはもう出会えないが、新しく自分のパーティーでやり直そうと考えていた。

そしてその行為はハイドのためでもあったが、シュリルのためでもあった。

彼女のこのゲームでの経緯はどうあれ、このゲームのシステムによって自分と強制的に仲間にならざる負えなかったシュリルへの思いやりであった。

それにもしもこれから彼女と冒険を共にするにしても、彼女はその間に自分の元いたパーティーになんらかの形で出会うことだろう。

その際、自身のテイムモンスターであるシュリルが気兼ねなくこのパーティーを離れられるように、ブラッドをテイムしておくことに越したことは無いと思ったのだ。

だがそうは言っても、とても簡単とは言えない目的だ。

一度契約を解除したモンスターとの関係を修復するにはそれなりの技術がいるし、何より再び主人と契約するかどうかを決めるのはモンスター自身なのだから。

ハイドはたとえそれでも、ブラッドを再び自分のパーティーに招き、また一緒に冒険したいと思ったし、シュリルにはせっかく始めたこのゲームを元いたパーティーで楽しんでもらいたいと思ったのだ。

 だからこそハイドは少々強引にも、シュリルを〈後追いの森〉に連れて行こうと思った。

ハイドの必死な後押しが効いたのか、シュリルは不安いっぱいという面持ちながらも彼の提案を受け入れた。

その後、彼らはハイドの行きつけの商店である〈アルド商店〉へ行き、それぞれの準備を済ませた。

その際、シュリルはまだゲームを始めてから今まで一度も戦闘をしておらず、所持金もなかったので代金はハイドが全額負担した。

そして彼らは南門から出ると、目的地である〈後追いの森〉へ向かった。

最近はラノベばっかり読んでいます。息抜きに普通の小説も読みたいかなあって思ってます。

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