第15話「俺の知識鑑定、どこまでいけるんだ」
ギルドとの試験導入が始まってから、数日が経った。
「鈴木さん、今日は珍しく、予定が空いてますね」
朝、ロイドが、予定表を見ながら言った。
「新しく雇う職員候補の面談が、明日以降にまとめて入ってるので、今日は身体が空いてます」
「そうなんですよ。せっかくなので、少し、自分の時間に使おうかと」
蒼太は、そう答えながら、伸びをした。
事業を始めてから、毎日、目の前の依頼をこなすことに追われていた。
薬草。
魔法理論。
人物適性。
古代文字。
契約書。
そして、組織全体の状況把握。
気づけば、知識鑑定の使い道は、ここまで広がっている。
けれど、蒼太自身、その全容を、まだきちんと把握できていなかった。
「今日は、ちょっと、自分のスキルを、じっくり検証してみるか」
蒼太は、そう言いながら、頭の中で、これまで試してきたことを、ざっと思い返してみた。
薬草の効能。
魔法の理論。
人の隠れた才能。
古代の失われた言語。
契約書に仕込まれた罠。
そして、組織全体の状況把握。
思い返せば、思い返すほど、自分でも、その広がり方に、驚かされる。
「これ、体系的に整理しとかないと、逆に、自分でも把握できなくなりそうだよな」
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「検証、ですか」
隣で聞いていた美穂が、興味深そうに首をかしげた。
「うん。ここまで、なんとなく必要に迫られて、いろいろ試してきたけど。正直、自分の力が、どこまでできて、どこからできないのか、ちゃんと整理したことがなくてさ」
「それ、聞いてみたいです」
隼人も、帳簿を閉じて、身を乗り出した。
「俺も、蒼太のスキル、正直、まだ全部把握できてないので」
普段は冷静な隼人にしては珍しく、少し前のめりな様子だった。
「じゃあ、みんなで見てようぜ」
健太が、面白そうに言った。
「今日は、荷物運びも休みだしな」
こうして、事業所の一角で、蒼太の「検証会」が、始まることになった。
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「まず、基本的なところから確認するか」
蒼太は、机の上に置いてあった、何の変哲もない木のコップを手に取った。
「知識鑑定」
いつも通り、情報が流れ込んでくる。
材質、製法、耐久性、使われている木材の産地。
「これは、いつも通りだな」
「対象物があれば、確実に情報が出てくる、と」
隼人が、羊皮紙に、メモを取り始めた。
いつの間にか、隼人が、検証結果を記録する係になっていた。
「じゃあ、次。対象物なしで、遠くのことを聞いてみる」
蒼太は、目を閉じて、意識を集中させた。
「隣国の、今の王様の名前は」
思った瞬間、答えが浮かんでくる。
「――出た。隣国の王の名前、性別、在位年数まで、普通に分かる」
「対象物どころか、距離も関係ないんですね」
美穂が、少し呆れたような、感心したような声を出した。
「じゃあ、もっと遠くはどうなんだ」
健太が、興味を持ったように、続けて聞いてきた。
「海の向こうの、まったく知らない国とかは」
蒼太は、試しに、意識を向けてみた。
「知識鑑定」
やはり、答えは、当たり前のように浮かんでくる。
「出るな、これも。国の名前、統治体制、主な産業まで、普通に分かる」
「距離、本当に関係ないんですね……」
隼人が、少し声を震わせながら、メモを取った。
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「じゃあ、次は、これはどうだ」
蒼太は、少し悪戯っぽい表情を浮かべた。
「明日の天気」
目を閉じて、意識を向ける。
けれど、今度は、何も浮かんでこなかった。
「……あれ」
「どうしたんですか?」
「出ない。天気、分からないな、これ」
蒼太は、もう一度試してみたが、結果は同じだった。
「じゃあ、これは、どうです」
隼人が、興味深そうに続けた。
「一週間後の天気、とかは」
「試してみる」
蒼太は、意識を集中させたが、やはり、何も浮かんでこなかった。
「一日後だろうと、一週間後だろうと、駄目みたいだな。天気って、まだ確定してない未来の話だもんな。過去や現在の『事実』は分かるけど、これから起こることまでは、分からないっぽい」
「未来予知は、できない、と」
隼人が、そう言いながら、メモに書き加えた。
「じゃあ、これは?」
健太が、興味を持ったように、口を挟んできた。
「明日、俺たちの依頼、何件入るか、とかは」
蒼太は、試しに、意識を向けてみた。
やはり、何も浮かんでこない。
「これも、駄目だ。まだ起きてないことは、いくら聞いても、分からないみたいだな」
「なるほど。過去と現在は分かるけど、未来は分からない、か」
美穂が、感心したように、うなずいた。
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「じゃあ、もっと試してみるか」
蒼太は、次に、机の上にあった空の花瓶を見つめた。
「この花瓶の中に、水を出せ」
念じてみたが、当然、何も起こらなかった。
「まあ、そうだよな」
蒼太は、苦笑した。
「知識があっても、実際に物を生み出したりはできない、と」
「魔法とは、違うんですね」
「うん。魔法は、魔力を使って、実際に現象を起こす技術だから、それとはまったく別物だ」
蒼太は、頭の中で、これまでの経験を整理しながら続けた。
「知識鑑定は、あくまで『知る』能力であって、『何かを起こす』能力じゃない。何かを起こしたいなら、その知識を使って、自分の身体や魔力を動かす必要がある」
「魔法を撃つのと、身体強化するのと、同じですね」
隼人が、納得したように言った。
「知識は一瞬で手に入るけど、実際に使いこなすのは、また別の話、ってやつ」
「そうそう。それは、最初からずっと変わらないルールみたいだ」
「じゃあ、これは、どうでしょう」
隼人が、ふと思いついたように言った。
「壊れた物を、鑑定で直す、とかは」
蒼太は、試しに、机の脚が少しぐらついているのを見つけて、そこに手をかざしてみた。
「知識鑑定」
修理方法や、必要な材料についての知識は、いつも通り、頭に流れ込んでくる。
けれど、机の脚そのものは、当然、直らないままだった。
「これも、駄目だな。直し方は分かるけど、実際に直すのは、俺が手を動かすしかない」
「知識鑑定は、あくまで、情報をくれるだけ、ってことですね」
美穂が、まとめるように言った。
「うん。そこから先は、いつも通り、自分の手足を動かすしかない」
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「じゃあ、次、これは?」
美穂が、ふと思いついたように言った。
「私の今の気持ち、分かります?」
蒼太は、少し身構えながら、意識を美穂に向けてみた。
けれど、いつものような情報は、何も出てこなかった。
「……分からない。というか、そもそも、試す気にもならなかった」
蒼太は、正直にそう答えた。
「これまでも、他人の内面とか、個人的な事情までは、意図的に見ないようにしてきたから。今回、試そうとしても、なんか、自然と気持ちが向かなかった」
「それは、なんでですか?」
「なんとなく、そこに踏み込んだら、自分が自分じゃなくなる気がして」
蒼太は、少し照れくさそうに、頭をかいた。
「まあ、単純に、知りたくない、っていうのもあるけどな」
その言葉に、美穂が、くすっと笑った。
「蒼太くんらしいですね」
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「じゃあ、こういうのはどうだ」
健太が、少し身を乗り出して言った。
「誰かを、意のままに操る、みたいなことは、できるのか?」
「試したこともないし、たぶん、できないと思う」
蒼太は、少し考えてから答えた。
「知識鑑定は、知る能力であって、支配する能力じゃない。仮にできたとしても、それは、俺がやりたいことじゃないな」
「まあ、蒼太が、そんなことしそうにないもんな」
健太が、笑いながら言った。
「それに」
蒼太は、続けて言った。
「もし本当にそんな力があったら、正直、怖くて使えないと思う。人の心をいじるなんて、俺には、荷が重すぎる」
その言葉に、事業所の空気が、少しだけ、しんとなった。
「まあ、そういう蒼太だから、俺たちも安心してついてこられるんだと思いますよ」
隼人が、静かにそう言った。
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「じゃあ、次は、生き物にも試してみるか」
蒼太は、ふと思いついて、そう言った。
事業所の隅に置いてあった、鉢植えの観葉植物に、手をかざしてみる。
「知識鑑定」
種類、生育環境、水やりの頻度、根の状態まで、いつも通り、詳細な情報が流れ込んできた。
「これも、普通に出たな」
「植物も、対象物として扱われるんですね」
美穂が、興味深そうに言った。
「じゃあ、生きてる動物とかは、どうなんでしょう」
「試してみたいけど、ここに動物、いないもんな……」
蒼太が、周りを見回していると、健太が、ふと窓の外を指差した。
「あそこに、野良猫がいるぞ」
事業所の前を、一匹の猫が、のんびりと横切っていくところだった。
蒼太は、窓越しに、その猫へ意識を向けてみた。
「知識鑑定」
猫種、推定年齢、健康状態、そして――普段の縄張りの範囲まで、頭の中に流れ込んでくる。
「これも、普通に出た。生き物でも、変わらないっぽいな」
「便利すぎませんか、それ」
隼人が、少し呆れたように言った。
「街の見回り依頼とか、これがあれば、魔物の生態調査、一瞬で終わりそうですね」
「まあ、今度、機会があったら試してみるか」
蒼太は、そう言いながら、頭の中で、また一つ、応用の可能性をメモしていた。
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「じゃあ、もう少し、実務的な検証にしようか」
蒼太は、話題を切り替えるように言った。
「一度に、二つのことを同時に鑑定する、っていうのは、できるのか」
「同時に、ですか」
「うん。今までは、一つずつ順番にやってきたけど、もし同時にできたら、効率、もっと上がりそうだし」
蒼太は、試しに、机の上のコップと、隣にあった羊皮紙に、同時に意識を向けてみた。
けれど。
「……あれ、駄目だ。片方に集中すると、もう片方の情報が、頭から抜け落ちる」
蒼太は、少し驚いた顔で言った。
「一つのことに集中してる間は、他のことに意識を向けられないっぽい。少なくとも、今の俺には、普通に順番にやるしかないみたいだ」
「それは、ちょっと意外ですね」
隼人が、興味深そうに言った。
「知識自体は、無限に近いくらい広いのに、一度に処理できる量には、限界がある、ってことですか」
「たぶん、そういうことだと思う」
蒼太は、頭を振りながら答えた。
「情報は、いくらでも取れる。でも、それを『処理する俺の頭』の方に、限界があるっぽい」
「なるほど。それなら、いつか、その処理能力自体を、鍛えたり、増やしたりできるかもしれませんね」
隼人が、ふと思いついたように言った。
「並列で考える訓練とか、あるいは、それを補う何かとか」
「並列で考える、か」
蒼太は、その言葉を、口の中で繰り返してみた。
まだ、はっきりとしたイメージは湧かない。
けれど、なぜか、その響きに、妙に惹かれるものを感じた。
「せっかくだし、ちょっと調べてみるか」
蒼太は、目を閉じて、意識を集中させた。
「並列思考について」
思った瞬間、頭の中に、これまでとは違う種類の情報が、流れ込んできた。
複数の思考を、同時並行で処理するための理論。
魔力回路を分岐させ、脳の処理領域を、意図的に拡張する技術。
その具体的な手順まで、頭の中には、すでに完全な形で入っていた。
そして――この技術を実際に使いこなすには、**魔力と知力、両方のステータスが、一定以上必要になる**こと。
「理論だけじゃなくて、使い方の手順まで、頭の中では完全に分かる」
蒼太は、そうつぶやきながら、少し興奮した様子で続けた。
「これなら、いけるかもしれない。試しに、使ってみる」
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蒼太は、目の前のコップと、机と、椅子と、窓の外の景色に、同時に意識を向けようとした。
理論通りに、思考回路を、分岐させるイメージで。
その瞬間。
「――っ!?」
頭の奥で、何かが弾けるような感覚がした。
大量の情報が、処理しきれないまま、一気に頭の中へなだれ込んでくる。
「蒼太!?」
美穂が、驚いた声を上げた。
蒼太は、こめかみを押さえながら、その場にうずくまった。
「痛……頭が、割れそうだ……」
まるで、頭蓋骨の中に、無理やり何かを詰め込まれているような、鈍く重い痛みだった。
「大丈夫か、おい!」
健太が、慌てて駆け寄ってくる。
蒼太は、しばらく目を閉じて、荒い息を整えてから、ゆっくりと顔を上げた。
「……なんとか、大丈夫だ」
「一体、何が起きたんですか」
隼人が、心配そうに聞いてきた。
「並列思考、理論上は、使い方が分かった。でも、実際に発動させようとしたら、いきなり、こんな頭痛が」
蒼太は、額の汗を拭いながら、続けた。
「たぶん、さっき鑑定した内容に、ヒントがある。この技術を使うには、魔力と知力、両方のステータスが、一定の水準に達してないといけないみたいなんだ」
「ステータスの数値そのものが、条件になってるんですね」
隼人が、確認するように言った。
「うん。俺、王城で鑑定されたとき、魔力はまあまあだったけど、知力は測られてすらいなかった。もしかしたら、そっちが足りてないのかもしれない」
蒼太は、頭の中で、鑑定結果を、もう一度整理しながら言った。
「知識だけ持ってても、ステータスが足りなければ、扱いきれない。それどころか、無理に使おうとすると、こうやって、体に負荷がかかる」
「なるほど……」
隼人が、神妙な顔で、メモに書き加えた。
「じゃあ、スキルの中には、知識だけじゃなくて、ステータス的な条件を満たさないと、使えないものもある、ってことですね」
「たぶん、そういうことなんだと思う」
蒼太は、頷きながら、少し悔しそうな表情を浮かべた。
「せっかく理論は分かったのに、今の俺じゃ、宝の持ち腐れだな」
「まあ、焦る必要はないだろ」
健太が、蒼太の背中を、軽く叩きながら言った。
「今のステータスでも、十分やれてることが、たくさんあるんだから」
「それは、そうなんだけどな」
蒼太は、苦笑しながら答えた。
けれど、内心では、小さな闘志のようなものが、静かに灯り始めていた。
いつか、魔力と知力、両方のステータスを、この技術に見合うだけ育てることができたなら。
自分の力は、また一段階、違う次元に進めるかもしれない。
「まあ、それは、また今度、じっくり考えるか」
蒼太は、そう言いながら、この日の検証内容を、頭の中で、もう一度反芻していた。
まだ試していないことも、きっとたくさんある。
けれど、今日だけでも、自分の力の輪郭が、以前よりずっとはっきりしてきた気がした。
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「あと、これも気になってたんですけど」
美穂が、ふと口を開いた。
「疲れとか、あるんですか? 鑑定を使いすぎて、動けなくなる、みたいな」
「それも、いい質問だな」
蒼太は、そう言いながら、自分の体調を確かめてみた。
今日一日、何度も知識鑑定を使ってきたが、疲労感のようなものは、まったくない。
「魔力も、体力も、減ってる感じはしない。何回使っても、平気っぽい」
「本当に、便利すぎるスキルですね」
「便利すぎて、逆に、底が見えないのが、ちょっと怖いくらいだよな」
健太が、苦笑しながら言った。
その言葉には、冗談めかした響きの奥に、少しだけ、本音も混じっているようだった。
「一応、念のため、もう少し極端な使い方も、試してみるか」
蒼太は、そう言うと、立て続けに、十回近く、手近な物へ知識鑑定を使ってみた。
机。
椅子。
窓枠。
床板。
壁の石材。
どれだけ連続で使っても、頭が重くなる感じも、体がだるくなる感じも、一切なかった。
「うん、やっぱり平気だ。使い放題ぽい」
「その事実だけでも、十分すぎるほど規格外ですよ」
隼人が、少し呆れたように言った。
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一通りの検証を終えて、隼人が、まとめたメモを、みんなに見せた。
「整理すると、こんな感じですね」
**できること**
- 対象物がある場合、その物についての知識を、瞬時に、無制限に得られる
- 対象物がない場合でも、この世界に関する「過去・現在の事実」であれば、知ることができる
- 個人・組織を問わず、規模の大小に関係なく、情報を得られる
- 何度使っても、疲労や消費がない
**できないこと**
- まだ起きていない「未来」の情報は、得られない
- 知識だけで、物理法則を無視した現象(物を生み出す、など)は起こせない
- 他人の内面や、意図的な支配は、これまで一度も成功していない(そもそも、やろうとする気になれない)
- 一度に処理できる情報には、限界がある(現時点では並列処理できない)
「こうして見ると、確かに、すごい力だけど、万能ってわけじゃ、ないんですね」
美穂が、しみじみと言った。
「うん。むしろ、できないことが、ちゃんとあるって分かって、逆に安心したかもしれない」
蒼太は、素直にそう言った。
「もし本当に、なんでもできる力だったら、たぶん、俺、どこかで自分を見失ってた気がする」
「それ、分かる気がします」
美穂が、静かに頷いた。
「何でもできる人間って、逆に、何を大事にすればいいか、分からなくなりそうですもんね」
「まあ、それに」
健太が、続けて口を挟んだ。
「できないことがあるからこそ、俺たちの出番もある、ってことだろ」
「健太、たまにいいこと言うな」
蒼太が、からかうように言うと、健太は、少し得意げに胸を張った。
「たまに、じゃなくて、いつもだろ」
その言葉に、事業所には、小さな笑いが起きた。
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「でも」
隼人が、メモを眺めながら、続けた。
「『できないこと』の中に、ヒントもある気がします」
「ヒント?」
「一度に処理できる情報に限界がある、っていうのは、裏を返せば、その処理能力を鍛えれば、もっと多くのことが同時にできるようになる、ってことですよね」
隼人の言葉に、蒼太は、少し考え込んだ。
「並列で考える力、か」
「まだ、遠い未来の話かもしれないですけど」
隼人は、そう付け加えながらも、どこか楽しそうな顔をしていた。
「蒼太のスキルが、これからどう化けていくのか、俺、正直、ワクワクしてます」
「ワクワクって、お前」
蒼太は、思わず笑った。
「まあ、俺も、ちょっとだけ、そう思ってるけどな」
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その日の夜、蒼太は、事業所の窓辺で、今日一日の検証結果を、もう一度頭の中で整理していた。
対象物があれば、何でも分かる。
対象物がなくても、過去と現在の事実なら、何でも分かる。
けれど、未来は分からない。
物を生み出すこともできない。
人の心を操ることもできない。
一度に処理できる量にも、限界がある。
「ちゃんと、できないことがある、か」
蒼太は、そうつぶやきながら、小さく笑った。
その事実が、なぜか、少しだけ、心を軽くしてくれる気がした。
自分の力は、確かに規格外だ。
けれど、万能じゃない。
だからこそ、健太や美穂、隼人、ロイド、そしてこれから増えていくであろう仲間たちの力が、ちゃんと意味を持つ。
「一人でできないことは、みんなでやればいい、か」
それは、この一ヶ月あまりで、蒼太が、繰り返し辿り着いてきた結論だった。
知識だけでは、何も終わらない。
誰かがそれを実行して、誰かがそれを支えて、初めて、形になる。
自分一人の力の限界を知ったことで、逆に、仲間の存在の大きさが、はっきりと見えた気がした。
「さて、明日からはまた、目の前の仕事頑張るか」
蒼太は、そう言って窓の外に広がる、異世界の夜空を見上げた。
自分の力の輪郭が、今日、また少しはっきりとした。
「並列で考える、か……」
蒼太は、まだ見ぬその先の可能性を、少しだけ想像してみる。
異世界での日々は、また一つ新しい問いを手に続いていく。
――第16話へ続く。




