今日は何が何でも、ホームランボールをキャッチしたい!
プロ野球の『オールスターゲーム』が本日、この野球場で開催される。
今日のために俺は、「秘密の特訓」をしてきた。
特訓だけじゃない。情報収集もがんばった。
調べたのは、「この野球場では、どの辺りにホームランのボールが飛んできやすいのか」。
オールスターを狙ったのも、この日はいつもよりも、打線が強力になるからだ。
しかも、試合前には『ホームラン競争』もある。短時間にホームランボールが出まくる「ボーナスタイム」だ。
片手にグローブをはめて、さあ、準備は整った。
外野スタンドでホームランボールを待つ俺。
(今日はホームランボールを、何が何でもキャッチしたい!)
とはいえ、さすがオールスターだ。同じようにホームランボールを狙っている「競争相手」は多い。
ホームラン競争が始まったけれど、俺はホームランボールをキャッチできずにいた。
そのままホームラン競争が終了する。
悔しがる俺。惜しい場面が二回はあった。
が、これから試合開始だ。まだチャンスはある。
(今日はホームランボールを、何が何でもキャッチしたい!)
試合が進んでいく。
幸いなことに、乱打戦だ。
けれども、俺はホームランボールをキャッチできずにいた。
ホームランは何本も出ているのだが、飛んでいく方向が違う。
俺は焦った。今日はこのまま終わるかも。ホームランボールをキャッチできなければ、「特訓してきたこと」が無駄になる。
次の瞬間だった。
快音が一つ。
そして、打球がこっちに向かってくる!
俺はドキドキしながら、そのホームランボールをグローブに収めた。
(よし! キャッチしたぞ!)
そのあとの行動は、前もって決めている。
(今こそ、特訓の成果を見せる時!)
俺は慣れた手つきで、白い布をグローブにかぶせた。
心の中で三つ数えてから、その布を素早く取る。
すると、グローブの中から白いハトが飛んでいった。
(どうだ! すごい手品だろ!)
俺の予想では、万雷の拍手が起こるはずだった。
なのに、拍手はまばらだ。
俺はショックを受ける。
この手品を三か月特訓してきたのに、反応はこれだけ?
しかし、どうすることもできない。
すごすごと引き下がろうとした時だった。
現在守備をしているチーム、その監督がベンチの前に出てきた。
両手を「長方形の輪郭」に動かしている。あれはビデオ判定の要求?
すると今度は、相手チームの監督も、ベンチの前に出てきた。
で、同じように、両手を「長方形の輪郭」に動かしている。こっちもビデオ判定の要求?
まさかの展開だ。両チームの監督が、ビデオ判定を要求している。
普通はあり得ないことに、お客さんたちがざわついた。
この異常事態に、審判団が一か所に集まる。協議を始めた。
その結果、審判の一人が両手を「長方形の輪郭」に動かす。ビデオ判定だ。
さっそく野球場の大画面に、直前のホームランの映像が流れた。
快音がして、打球が外野スタンドに飛び込む。あれは間違いなくホームランだ。
しかし、そこで映像は止まらない。
なんと、俺がハトを出すところが、大画面に映し出されている!
さらに別角度からの映像だ。
快音がして、打球が外野スタンドに飛び込み、俺がキャッチする。
そして、白い布をかけて、ハトを出す手品だ。
この直後、客席から大きな拍手が起こった。
そうそう。俺が期待したのは、こういう反応だ。
拍手してくれているお客さんたちに、白い布を振って応える俺。
そのあと、両チームの監督に、そして、審判団に向かって、深々とお辞儀をした。
次回は「入学試験」のお話です。




