オークキングの最後
その後、しばらくは彼女を肩に乗せて、周囲の探索を行いながら過ごした。
以前に黒焦げになった人々も、土に埋葬したり、残された物資を回収したりと、割とやる事が多かった気がする。
彼女と少しずつ会話ができるようになり、名前やここに来た理由を聞かせてもらえた。
彼女の名前はリース。この近くにある国の王位継承者のひとりだそうだ。
ここに来た目的は……俺の退治だそうだ……。
なんと、俺は討伐対象のオークキングだそうだ。
真面目に何度も彼女に聞き返したが、真剣な顔でオークを何度も連呼してくるので、心が折れた。
なんで、俺がオークになるわけ? 意味わかんないんだけど!
で、オークは人を食べたり、女性を襲って子供産ませると伝説があるそうだよ……彼女が不思議がったのは、何も手を出してこないオークが存在した事みたいです。
いや、初対面の女性を襲うとかありえなくない?
もともと不細工だからなぁ、オークになっちまったかぁ……なんか諦めの境地に達してしまったよ。
何度か、俺は元々人間だと切召?したけど、そこは彼女は一切理解してくれなかった。
すごく悲しいというか、けっこう絶望を感じる。
で、彼女が俺の側から離れても良いと言ったけど、一向に離れようとしない。
理由を聞いたら、ちょっと可愛そうになってしまった。
俺の討伐に失敗してしまった彼女は、もう国へは帰れないそうだ……。
仮令ここから国に戻っても、待っているのは王家の名を汚した者として奴隷になるか処刑されてしまうのだとか。
奴隷制度が存在している事すら耳を疑ったが、仕事のミスで死刑とか意味が分からなかった。
そんなブラック国家ならしょうがないね。
彼女に安全を保障すると誓って、ここに居ていいと許可した。
いや、もっと良い所あると思うのだけどねぇ。
そんな思いもありながら、彼女と洞窟生活が始まっていった……。
彼女が出した火は魔法だったので、何度でも火は出せるそうだ。今まで火種を絶やさないように頑張っていた労力を返してほしいと言ったら、物凄い笑顔で笑われてしまった。
「ふふ、本当に人間のようなオーク様ですね。可笑しくて笑ってしまいましたわ」
「ダカラ、オレハニンゲンダッタンダ!」
「冗談がお上手ですのね、オーク様は。それよりもこちらのお肉焼けてますわよ、お召し上がりくださいまし」
リースは、口元に手を当てて微笑みながら、焼けたお肉を差し出してくれた。
本当に美人で器量も良いのに……勿体ないようなぁ……。
そう考えていると、また血流が下半身に集まり始めたので、彼女から視線を背けた。
彼女もそれを察したのか、なるべく視界に入らないように配慮してくれる。
本当は、今すぐにでも押し倒したいけど、この醜い身体では、いろいろ負わされた彼女がさらに不幸になってしまう。
できれば、綺麗な身体のまま、早くここから出してあげたい。
――彼女との洞窟生活もかなりの長くなり、多くの時間を共にした気がする。
お互いの言いたい事は伝えきっているので、特に遠慮もなく会話ができる関係になった。
必死に一線を越えないように、俺の自制心は強烈に頑張っているのだ。
時には、太ももに強烈なパンチを浴びせたりして、これでもかと痛めつけて堪えている。
彼女がたまに不用意な言葉を発しようとするのも、先に察知して止めていた。
だめだよ、こんな醜い化物に絆されちゃ!
そんな、緩やかな日々も終わりが来た。
「はははは、負け犬のリース姫は、オークの手籠めにされたのか。くくく、お前にはその醜い豚がお似合いだな。皆の者、オークを退治した後は、あの女は好きにしてよいぞ。王位継承第二位に上った我が許す!」
リースと同じように、また沢山の人が俺達の前に現れたのだ。
「リース、ケッシテマエニデルナ。サガッテイロ」
「でも、それではオーク様が」
「ジブンノミヲマモルコトニテッシロ。アンナヤツハテキジャナイ」
俺は、鼻高々に仰け反り笑う男に向かっていく。リースを侮辱した罪は死を以て償ってもらおうか。
オークとして自覚した今、あんな奴等に負けはしない!
「者ども! あの醜い豚を撃滅せよ!」
「おう!」
男が剣を俺に向けると、一斉に騎士が攻撃を仕掛けてきた。後方からは魔法も降ってくる。
どれもリースの時と大差なく、剣は歯が通らず、魔法はそのまま拳や蹴りで全て跳ね返していった。
「くっ! この化物め! 例の物を出せ!」
「はっ!」
高飛車男が指示を出すと、後方から筒状の物が現れる。
何だあれ? バズーカーか? どうせ大したことないだろう。
そう高を括っていると、筒の先が光り始め、俺に目掛けて放たれる。はは、余裕だろ。拳で返してやるわ!
そうイキッて拳に力を込める。
「オーク様、その光はオークを浄化する魔道具でございます! 避けてください!」
リースが後ろから悲痛な叫びをあげる。
なんじゃ、その武器……光を間一髪躱すと、後方から大きな衝撃音が聞こえてくる。
後ろ! リースは無事か?
直ぐにリースの居た場所を探し駆けだした。土煙で視界が遮られ彼女の姿が見当たらない。
頼む、無事でいてくれ!
一心不乱に彼女の安否を確認するが……どこにも姿が見えない。
瓦礫を押しのけると、岩と岩に挟まれ息も絶え絶えの彼女がいた。
「リース、イマタスケル! シンデハイケナイ!」
「オーク様、無事でよかったです。私はもう助かりませんの。これまで生かしてくれてありがとう存じます。貴方との暮らしは私の最後の希望でした。私の分まで生きてくださ……」
「モウ、モウシャベラナクテヨイノダ! イマスグニタスケルカラ、イキロ! リース!」
リースは、目に涙を浮かべ俺の頬に最後の力を振り絞って触れてくる。
俺はその手に自分の手を添えた。
「貴方の純粋な心が好きでした。貴方の子供であれば欲しかったのよ。ごめんなさい、素直になれなくて……」
そう告げるとリースの瞳から涙が流れ、触れていた手から力が抜けてしまった。
「リース! リース! ウォォォォォォッ!」
俺が避けなければ、リースは死ななかったかもしれない。
どうして俺は……後悔と悔しさでやり場のない怒りが込み上げてくる。
「おい、もう一撃で止めをさせ。くくく、醜い豚の奴隷に相応しい無様な死に様よ。哀れだのうリース姫は」
許さねぇ、俺達の細やかな生活を、リースの命を奪ったお前達を!
リース、直ぐに戻ってくるからね、ちょっとの間まっていて。
「オマエラノクニヲ、コッパミジンニフキトバシテヤル!」
身体の奥から黒い煙が湧き出てくる。絶え間なく湧き出る黒い煙が、自分の身体を包み込んでいくような感じがした。
高飛車男へ視線を向け、一気に天井を伝い駆け出す。
あっけに取られた男の元に一瞬で到達し、その首を引き千切り投げ捨てた。
「王子が! 王子が!」
周囲の騎士が慌てだしたが、俺の怒りは収まらない。目に付く奴から順に、引き千切りながら壁に投げ捨てる。パシャっと人が変な音を立てて潰れていく。
その光景に妙な興奮すら覚えた。
後方にいた騎士には女もいる。
男は全員潰し、女は逃げられないように岩の檻を即席で拵え封じる。
瞬く間に、攻め入ってきた人間どもの駆逐は終わった。
直ぐに、リースの亡骸に戻り、彼女の安らかな顔に指で触れる。
「リース、マモレナクテゴメンナ。オレノコトヲミテクレテアリガトウ。カミサマノモトデ、シアワセニスゴシテクレ」
彼女の亡骸を、そっと岩をどけて抱えた。
冷たくなった身体に、俺はそのまま感情を露にして泣き叫んだ。
「ユルサネェ、コイツラノクニヲゼンブオカス! ウォォォォォッ!」
――リースの死後、俺達を襲ってきたエレスティアーナ国へ俺は侵攻を開始した。
捕獲した女共に、次から次へ子供を産ませ、数百の部下を拵えた。
一度の出産でミニオークが五人誕生し、一週間で大人まで成長するのだ。
隣接する街から毎日大量に搬送してくるので、供給量も問題がない。
俺の遺伝子を持っているオークは全て知性も高く、そこいらの魔物とは比べ物にならず、エレスティアーナ国の陥落は目前だった。
「オークキングサマ、エレスティアーナノヒメヲホカクシマシタ」
「ソノオンナハワレガアイテスル。ツレテマイレ」
リースに良く似た女が俺の前に現れる。
「リース……」
「この醜い豚が! エレスティアーナの名にかけて服従などしませぬわ!」
あぁ、そうだよね……顔は似ててもあの子じゃないよね……。
ちょっとだけ、懐かしい気持ちが湧いてきたけど、目の前の女で現実に戻った。
――エレスティアーナ国を滅ぼした後は、自分の子供達に統治を任せ、俺はリースの墓のある洞窟へ戻っていった。もう、こんな世界に未練はないのだ。
「リース、オレヲムカエニキテクレナイカ……」
そう呟いて、彼女の墓の前で命の火が消えるその日まで護り続けた。
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この異世界で、転生幼女は何を願う
〜TS幼児エルフは”おむつ”がとれませんっ!〜
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