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貧乏フリーター、闇魔法始めました。  作者: しふる
第1章 闇魔法始めました。
5/5

1-5 闇の力承諾書に関するご案内

 まずは受け取った承諾書の1枚目を読む。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


              闇の力承諾書に関するご案内



                             年  月  日


地球

契約者様へ


                       魔界

                       代表者 魔神

                      (代理人)中級悪魔 ヌンムス


 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。――――――――――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ちょっ、日本の企業かよ」


 悪魔との契約書であるため、黒い用紙におどろおどろしい赤い文体で契約内容が書かれているものかと身構えていたが、あまりにも日本的な書面であったため、思わずツッコミを入れてしまった。ヌンムスが『何か変ですか?』とでも言わんばかりにキョトンとした表情を向けてくる。悪魔だの闇の力だの魔法だの、それらのお伽話に比べれば些末なことであるため、そういうものなのだと自分に言い聞かせ、続きを読んでいく。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。さて、この度の承諾書は貴殿と悪魔が契約を締結するに当たり、御留意していただきたい注意事項を記載した書面であります。つきましては、以下に示す契約条件を熟読していただき、御了承を頂きたくお願い申し上げます。


第1条

 貴殿は悪魔との契約により闇の力を得る。闇の力とは、神族を視認する力、及び次条に示す力とする。


第2条

 貴殿は闇の力により魔法を扱えるようになる。なお、魔法には様々な属性があり、本契約により得られる力は闇魔法を主とする光属性以外の全てである。


第3条

 貴殿は第2条で得る力により、神族(天使、精霊、妖精)と戦闘する義務を負います。


第4条

 貴殿は第2条で得た力をむやみに行使し、人類、及び魔族に対して危害を加えることを禁じます。


第5条

 第4条の規定を破り、人類、及び魔族に対して著しい損害を与えた場合、やむを得ない事由がなければ、悪魔が貴殿との契約を一方的に解除する権利を有する。なお、解除により貴殿に付与された第2条で示す力は、全面的に使用不能となる。


第6条

 貴殿が悪魔との契約解約を希望する場合、悪魔が次なる契約者を探す時間を考慮し、1ヵ月前に解約手続きを行う。貴殿と悪魔との契約が解約された場合、貴殿は第2条で示す力を引き続き保持することができる。なお、1ヵ月を待たずして解約する場合は、第5条で示す解除扱いとして、第2条で得られる力は全面的に使用不能となる。


第7条

 貴殿は第2条で得る力により、――――――――――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「一度契約してもやめられるなんて、随分ちゃんとした契約なんだな。なぁ、クーリングオフとかってできるの?」


 ハイ、チーズと言いながら花を写真に収めているヌンムスに問いかける。


「はい、できますよ。第10条に書いてある内容がそれに当たります」


 どれどれ、とまだ目を通していない第10条を読む。


「え~と、第10条『契約完了後10日以内であれば、違約なしに解約できる。なお、この場合は第6条で示す解約とは異なり、保持可能な力は極めて基本的なものに留まる。』か。クーリングオフを適用しても、少しなら魔法を使えるってわけか。良いことだらけだな」


「ちなみに基本的な魔法とは、火、水、雷、風、土、闇属性が使えます。光属性以外の魔法なら全部ですね。例えば火属性なら、ロウソクやマッチ限定ですが、火をつけることができます」


「なんだそれ。かなり限定的な用途だな。ちなみに他は?」


「水属性ならシャワーの水の出を良くでき、雷属性は携帯の充電を少し早めることができます。土属性なら土壌のpHを調整して酸性にしたり塩基性にしたり、そして闇属性なら遮光カーテンを作って快適な昼寝ができるようになります」


 あまりにも微妙すぎる用途のオンパレードに、苦笑いで答えるしかなかった。


「はぁ……。まあ、日常生活をほんの少しでも便利にできるみたいだし、使えないよりは良いのかな……」


 何となしに紙をめくり、2枚目と3枚目の承諾書を見る。どうやら2枚目からは複写になっており、2枚目は本人控え、3枚目は悪魔控のようだ。2枚目の右下にある自署欄に記入することで、契約が完了するらしい。


「う~ん、もう契約するって心に決めているしなぁ……」


 承諾書などの法律的な堅苦しい文体で書かれた内容物をじっくり読み込むのは大変苦痛を感じるものである。その場合、契約相手の人となりを信頼できるかどうかを品定めをし、問題なさそうであれば深く考えずに契約を交わしてしまう人も多いだろう。

 こと京に関しては、悪魔との契約書においても同様であり、また既に契約をするという腹積もりであったため、躊躇はなかった。


「取りあえずサインしちゃうか」


 そしてこのお気楽な判断が、京の今後を大きく変えることになる。仮に思いとどまって、花の前で優しげな表情を浮かべる悪魔に対し、たった一つの質問をする手間を惜しまなければ、間違いなく契約を断るという判断に至ったであろう。

 しかし、京は自分の趣味が絡むと、前しか見えなくなる性格であった。この日の過ちは、『ヒルガオの変』として京の自分的歴史教科書に刻まれることとなった。


 署名欄に迷いなく筆を走らせていく。


「契約完了、と」


 記入を終え、ヌンムスに声を掛けるべく前方を見た刹那――


 ガチンッ。


 ――京の目の前で何かが弾けた。

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