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第12話水の姫巫女は何でも屋?

 三日目の始まりは当然儀式から。朝の五時くらいに一度起こしにきたセリーナは、既に準備すら整えてしまっていた俺を見て驚きの声をあげていた。


「まさか既に準備を済ませてあるとは、驚きです」


「別にそこまで驚かなくてもいいじゃないですか。今日はちょっと朝起きるの早かっただけですよ」


「それでも驚きますよ。まさかここまで巫女様が儀式をやる気になってくれるとは、私感激です」


「あ、驚いていたのはそこだったんですね」


 そんなやり取りをしながら部屋を出るとすぐに、ユキネと鉢合わせた。


「あ、私の同志!」


 彼女の方から俺達の存在に気づき、声をかけてくる。何だこの挨拶は。というか今日は裸エプロンじゃなくて、裸浴衣?


「ちゃんと名前で呼んでください! あと私はあなたと同志になった覚えはありません」


「恥ずかしがらなくてもいいのに。ね? セリーちゃん」


「そうですよ巫女様。同じ性癖の持ち主同士仲良くしましょう。ユキネさんは決して悪い人ではないので」


「仲良くしたい気持ちはありますけど、こんな年がら年中裸に近い方と仲良くはなりません」


「失礼な! これは私の正装なのよ」


「裸の時点で正装も何もあったものじゃないと思いますが……」


 昨日のあの部屋に行く所だったというユキネも加わり、今朝は三人で海中への入口へと向かった。だがその道中、いきなり床が揺れ始めた。地震でも起きたのだろうか? でもここは海中だし、そんな事はないはず。


「何だったのですか今の揺れは」


「最近増えたんだよね。この謎の揺れ」


「本当最近の話なのですが、何故か水中にあるここだけが揺れるという不思議な現象が起きているんです」


(つい最近なら、もしかしたら俺がこの世界に送られた事とも何か関係あったりするのかな。異世界同士が繋がった事とも)


 まあそうは言っても、俺は既に死んでいる身だし、たとえ関係があったとしても、どうのこうのとかあるわけないから、気にする必要はないか。


「そういえばあの後セリーちゃん達、儀式を行いに行ったの?」


「そうですよ。巫女様の初めての仕事でもあったので、私も付いて行ったのですが、何かありましたか?」


「うーんこれは言うべきなのか、迷っていたんだけど、やっぱり言わないと駄目だよね」


「だから何ですか」


「まさか巫女様って……」


 神妙な面持ちで何かを言おうとするユキネに、思わず息を飲んでしまう。


(まさかと思うけど、アライア姫に続いて、彼女にも分かってしまったのか?)


 もしそうだとしたら、俺は彼女に……いや、セリーナを含めた二人に、この先どう接して行けば、いいのだろうか?



「巫女様って……」



 どんどんと心拍数が上がっていく。まさか三日目にしてバレてしまうのか? 巫女の中身が男であることが。


「実は泳ぐのがへた?」


 どうやら俺の心配は、ものすごく余計なものだったらしい。


  ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 その後は儀式をセリーナに手伝ってもらいながらも無事に済ませる事に成功。ここまでが初日から今に至るまでの経緯。かなり長いものになってしまったが、それほど濃い二日間になった。


 で、今は朝食の時間なのだけど……。


「あ、あのセリーナさん。確かに私は昨日海鮮料理ばかりでは飽きると言いましたけど」


「何か問題でもありましたか?」


「問題といいますか、何と言いますか……」


 確かに海鮮料理ではなく、今日は肉類の食事。ただし食事を食べている場所が問題で……。


「いくらなんでもこんな不安定な小舟の上で、食べなくてもいいじゃないですか」


 何と今俺達が食事を食べている場所が、昨日ウォルティアを見回った際に使用した小舟の上。料理はわざわざ店の人にここまで運んで来てもらうという始末。


「巫女様が海鮮料理以外の物を食べたいと仰ったので、わざわざお店を探して連れてきたのですから、文句言わないでくださいよ」


「せめて店内で食べさせてほしかったのですけど」


「駄目です。これからこのまま今日のお仕事の場所に向かうのですから」


「今日の仕事場所? 何か特別な事でもあるのですか?」


「特別に何かあるというわけではないのですが、どうしても巫女様の力を貸してほしいというご依頼が、昨日届きまして。今からそちらに向かうのです」


「巫女ってそんな一般的な仕事を請け負ったりするのですか?」


「はい。概ね毎朝の儀式と、これから徐々に増やしていく水の姫巫女としての重要な仕事を除けば、巫女様は基本市民の困りごとなどを解決するための何でも屋みたいな立場の仕事を普段はこなしていく事になります。何でも屋と聞くとあまり響きは良くないですが、これも平和な世界を築いていく為の重要なお仕事です」


「なるほど」


 よい国ほど国民の声に耳を傾けると言うが、もしかしたらこのウォルティアも、こうやって市民の困りごとを解決しているから、今の形が出来上がっているのかもしれない。


(少しはやり甲斐があるかもな、そういうのも)


 俺は少しだけここのやり方に感心したのであった。


 移動すること十分後。


 今日の依頼者の元へ到着した。その頃には食事も終えて、仕事の準備万端。さあ、今日から頑張らないと。


「えっと、もう一度依頼の内容を教えてくれませんか?」


「じゃから、わしが出かけている間、この子達の面倒を見ていておくれ。三時間後には帰ってくる」


(何が巫女にしかできない仕事だー!)


 巫女にしか頼めない仕事だからと気合いを入れた初めての仕事は、何とおじいちゃんの可愛い孫達(子供三人)の子守り。頼める人がいないかったからと言っていたが、いくらなんでもこれは酷すぎる。


(さっき少しでも関心した俺が馬鹿だったよ!)


 これじゃあ本当にただの何でも屋さんと変わりないだろ。

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