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第13話水の子守り巫女

「セリーナさん、何でこんな依頼引き受けたんですか」


「何でもなにも、市民からの依頼を受けるのが私達の役割でもあるのですよ」


「その役割について、もう少しよく考えた方がいいかもしれないですね」


 という事で、市民の依頼第一号はまさかの子守り。しかもまだ小学校に上がるか上がらないかくらいの年齢で、両親はおじいちゃんに子供を預けて、二人で旅行へ行っているらしく、しばらく帰って来ないらしい。そしてそのおじいちゃんも、三時間とは言えど家を空けている。どうしてこの家族は、知らない人に子守りを任せられるのか不思議でしょうがない。


「ふぇぇん、お母さんどこー」


 しかもこの子供達、何が大変かって何かあると泣き出す所だ。今だってお母さんがいないからって急に泣き出すし、何とか泣きやます方法がないかと考えた結果、あれをやって見ることにした。


「お母さんは近いうちに帰ってくるから泣かないで。ほら、いないいない、ばぁ」


「ふぇぇぇぇん」


 どうやらこの世界ではいないいないばぁは通じないらしい。


「巫女様、余計泣かしてどうするのですか! しかもこの子は三人の中でまだ赤ちゃんなんですよ? 小さい子にトラウマを植え付けたって意味がないですよ」


「そこまで言われると、かえって私が傷ついたのですがそれは」


 初めてだよ。いないいないばぁをしただけで、トラウマとか言われたの。


「もしかしてその子、ミルクじゃないですか?」


「ミルク? そういう事なら今すぐ作ってきます」


「作ってくるって何を言っているのですか?」

 

 慌ててミルクを作りにいこうと立ち上がった所で、セリーナに呼び止められる。


「え? ミルクは作る物ですよね」


「だから何を言っているのですか。そんなもの作れるわけないじゃないですか」


 そこまで言われて俺はようやく気づく。もしかしてこの世界に粉ミルクとかの概念がないのか? だとしたら、子供にミルクを与える方法って……。


(まさか!)


「母乳を与えなきゃ駄目に決まっているじゃないですか。私うまくできる自信がないので、お願いします」


 そうなりますよねー。


「ぼ、母乳? 私がですか?」


 というか俺の方がうまくできる自信があるわけない。だって俺、元々男だし、そんな経験一切したことがない(ある方がかえって変だ)。


「私が他の二人の世話をしますので、お願いします巫女様」


「そ、そんな本気で頼まれましても……」


 こればかりは流石に躊躇ってしまう。でも俺がやらないで誰がやる。いつやるのか? 今だろ。


(ええい、もうヤケクソだ)


 今日だけ男を捨ててやる。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「巫女様、そんなに落ち込まないでくださいよ。結果的にうまく行ったのですから」


「母乳しか与える方法しかないと言った時点で、その予感はしていたんですよ。なのに、気がつけなかった自分が恥ずかしいです」


 子守りを始めてもうすぐ二時間が経つ頃、遊び疲れてしまったのか、子供達はグッスリと早いお昼寝。


 え? 母乳の件はどうなったのかって。


 それはちゃんと与えましたよ。予め母親が旅行へ行く前に用意してあったものを使ってね。


(なんか凄く恥ずかしいことをした気がする)


「でもよかったですね巫女様」


「何が良かったのか私にはサッパリ分からないのですけど」


「だって後はあのおじいちゃんが帰ってくれば無事仕事が成功したことになるのですよ。初めての仕事で成功するのって、結構心地いいと思いますけど」


「それは確かに、分からなくもないかもしれないですけど」


 何とも言い難いのだが、何故か達成感が俺には湧いてこなかった。理由は分からないが、やはり母乳の件を引きずっているからなのかもしれない。


「セリーナさんはこういう仕事をやっていて、楽しいと思いますか?」


「はい。私は嫌いではないですよこういうお仕事」


「知らない子供に母乳を与える仕事をですか?」


「何かいやらしい意味に聞こえるんで、やめてください!」


 それから一時間後、依頼主のおじいちゃんが帰宅。無事初めての仕事は終了し、あとは城に戻るだけになった。だがその帰り際、


「ん? 何か城の前が騒がしいですね」


「何か人集りができていますけどか、何かあったのすかね?」


「分からないですけど、とりあえず行ってみましょう」


 たまたま通りかかった城の前の広場が少し騒がしかったので、ちょっと寄って見ることにした。


「え? 人が倒れているのですか」


 周囲の人に話を聞いてみると、誰かが倒れているらしく、救護班を今から呼ぼうとした所だったらしい。少し気になった俺は、人混みをかき分けてその中心へと向かう。そこに倒れていたのは十七歳くらいの一人の女の子だった。


「大丈夫ですか!?」


 倒れている少女に慌てて駆け寄り、身体を起こしてあげる。そして彼女の顔をみた時、俺は一瞬だけ驚いてしまう。なぜなら、


「え? ひ、向日葵?」


 何とその少女の顔は、幼馴染の夏野向日葵にすごく似ていたからだった。


「巫女様? 早くはこんであげましょ」


「どうして……どうして向日葵がここに?」


「巫女様!」


 俺はしばらくその少女を抱きかかえたまま、その場を動くことができなかった。


(どうして……向日葵がここに?)


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