拍手した。ちょっとムカつくくらい予想外。
体育館は揺れていた。
歓声。ドラム。ライト。
全部が——ダイレンのためにあるみたいだった。
跳ぶ。決める。笑う。
歓声が爆発する。
……見事なショー。
でも。
その視線は、どこかを探していた。
——誰かを。
アイリン。
見つからない。
ほんの一瞬。
彼の表情に影が落ちた。
…
反対側では。
ヴィヴィアンがポーズを決めていた。
完璧な笑顔。完璧な角度。
“見て”っていう光が全身から出てる。
でも——中は違う。
ダイレンが観客席を探している。
自分じゃない誰かを。
「親じゃない?」
誰かが言う。
「バレーの子でしょ」
笑い。
ヴィヴィアンも笑う。
完璧に。
……でも。
中で、何かがひび割れた。
笑顔は鎧。
美しさは避難所。
——でも、それじゃ足りない。
“見られない恐怖”が、胸を締める。
…
次の日。
今度はアイリンの番。
体育館は満員。
空気が重い。
緊張と汗の匂い。
観客席から。
ダイレンが見ている。
ほとんど、それしか見ていないみたいに。
サーブの準備。
呼吸を整える。
——その瞬間。
「おや」
オスクリタが言う。
「いい感じに不安定」
間。
「こういうの、大体恥かくやつ」
「黙って」
心の中で言う。
「私はただの観測者よ」
腕を組む。
「感情の公共サービス」
ざわめきが広がる。
同点。
「ほら」
続ける。
「大事なときに失敗するの、得意でしょ?」
「うるさい」
「才能よ。自覚したら?」
アイリンは息を吸う。
深く。
そして——跳ぶ。
全力で打つ。
ボールが落ちる。
得点。
試合終了。
歓声。
爆発みたいに。
拍手。笑顔。抱擁。
観客席で。
ダイレンが彼女を見る。
世界が消えたみたいに。
…
オスクリタが首をかしげる。
「……へえ」
小さく言う。
「これはちょっと予想外」
「どうして全部壊すの?」
アイリンがつぶやく。
「壊してない」
オスクリタは肩をすくめる。
「現実を足してるだけ」
間。
「期待防止フィルターってやつ」
……
でも。
ほんの少しだけ。
彼女も笑っていた。
…
その夜。
部屋。
ノートを開く。
ペンを走らせる。
私は失敗した。最後は勝ったけど、やっぱり足りない。
「うわ」
オスクリタがのぞき込む。
「十九世紀の詩人でもここまで重くないわよ」
「整理してるだけ」
「私はアイスで整理するけどね」
アイリンはため息をつく。
「休みたい」
「最高のプラン」
オスクリタが明るく言う。
「私の中で休めば?」
「24時間自己否定サービス」
「安心は保証しないけど」
…
ノック。
アンドレアが入ってくる。
「まだ気にしてる?」
優しく言う。
「でも決勝まで行ったよ。すごいよ」
アイリンは目を落とす。
「合ってない気がするの」
小さく言う。
「もっと強くて、もっと明るくて、もっと…違う自分じゃないと」
アンドレアは笑う。
静かに。
「私もそう思ってた」
一歩近づく。
「でもね」
「自分を好きになるほうが、ずっと価値があるよ」
影の中で。
オスクリタが鼻で笑う。
「はいはい、名言タイム」
「マグカップに書いてありそう」
でも——
アイリンは無視する。
初めて。
アンドレアの声のほうが、大きかった。
…
夜。
打ち上げ。
音楽。笑い。光。
少しして。
ダイレンが近づく。
「ちょっと外、いい?」
夜の空気。
静か。
「アイリン」
少し緊張した声。
「好きだ」
間。
「付き合ってほしい」
——沈黙。
一瞬。
オスクリタも止まる。
そして。
「来た」
小さく言う。
「感情崩壊イベント」
「王道」
「逃げるなら今よ」
アイリンは息を吸う。
「……ごめん」
正直に言う。
「今は、まだ無理」
ダイレンは少し驚く。
でも——うなずく。
「分かった」
優しく。
戻る。
でも。
少し違う空気で。
…
その夜。
眠れない。
考える。
彼のこと。
自分のこと。
未来。
影の中で。
オスクリタが見ている。
静かに。
「離れていくの?」
小さく聞く。
アイリンは答える。
「知りたいの」
「自分のこと」
「なるほど」
オスクリタが言う。
「自己探求フェーズ」
間。
「シーズン2ね」
アイリンは笑う。
「守ってくれてありがとう」
少しだけ優しく。
「でも、これからは自分でやってみたい」
沈黙。
…
朝。
キャンパス。
ダイレンが待っている。
アイリンは言う。
「あなたは特別」
間。
「でも今は、自分に集中したい」
彼はうなずく。
彼女は歩き出す。
…
オスクリタが後ろからついてくる。
少し不満そう。
でも。
どこか誇らしげ。
「まあ」
彼女は言う。
「泣かなかっただけマシ」
間。
「進歩ね」
アイリンは笑う。
「相変わらずね」
「あなたもね」
オスクリタは肩をすくめる。
「まだ私の声、聞いてるし」
少し考えて。
「統計的に見て」
笑う。
「私たち、まだセットよ」
…
影は後ろに落ちる。
でも——
もう、引っ張らない。
ただ、隣を歩く。




