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満月の夜。
ひとつの小さな影が広い森の中を走っていた。
人の姿に似ているが、所々違う。
頬は痩せこけ、手足は折れそうなほどに細く、肌は何処か仄暗い。
ほとんど骨と皮膚だけの身体には不自然なほど大きく張った腹。
無造作に伸ばされたぼさぼさの髪の間から、大きく開かれた目が見える。
その姿は宛ら『餓鬼』のようであった。
その影は一度足を止め、腕に大事に抱えているものを見た。
布の隙間から出ている小さな手が微かに動く。
その様子に、その影は不気味に口角上げていた。
不意な後ろの小さな物音に、それは周りを確認するように丸まっていた背を立てて、首を伸ばした。
見回して早く立ち去ろうと、背を丸めて足に力を籠める。
瞬間、鈍い音を立ててその首が地面に落ちた。
首の後に一拍置いて身体が崩れ落ちてゆく。
血の流れないその死体の横に刀を携えた一人の女が素足を下ろした。
その死体は徐々に液状化して地面に染み込んでいく。
完全に死体の痕跡がなくなったあと、その女は優しく布に包まれたそれを拾い上げた。
一枚捲ると、その無垢な瞳と目が合う。
まだ首も座っていない、生まれて間もない赤子であった。
それまで静かだった赤子は、直後大きな声をあげて泣き始めた。
先程とは打って変わって、手足を大きくばたつかせている。
その様子に、女は酷く苦い顔をした。
「・・・人間じゃないか。」
暗い森の中に小さく響いた女の声は、赤子の大きな声によって掻き消されていった。




