上手く話せない僕が最強になった理由【1】
※実在する地名・神社が出てきますが、参考にしただけです。
本作はフィクションですので、ご了承ください。
※エセ関西弁注意
【1】の人間関係
不良グループのリーダー・椋子 → 主人公・柚貴 ← 友人・楓
僕はうまく話せない日がある。
理由はわからないけど、昔から、上手に話せる日と上手く話せない日があった。
初対面の人に会う時は、だいたい緊張して話せない。
だから、小・中・高校の入学式は、いつも最悪だった。
「……ぼ、ぼ、ぼ、ぼくのな、なま……は……」
「だははははは! 緊張しすぎだろう!」
「どもりすぎ~」
「あーははははは!!」
自己紹介は、いつだって笑われて終わりだ。
いや、終わるならいい。
「ねぇ! パン、買ってこいって言ったじゃん!」
「おいおい。梗香、こいつをパシリに使っているわけ? いいのかよ~」
「いいのよ。こいつ、口がきけないんだから」
……大抵、こうなる。
上手く話せない。それだけで「いじめてもいい人間」になってしまうらしい。
中学校もそうだったし、入学したばかりの高校でもこうなってしまった。
「話せなくたって、買い物くらい出来るでしょう!」
二時間目が終わり、パンを買って来いと、校舎の裏に呼び出された。
でも、僕は自分でお弁当を作ってくるし、自転車通学なので、お金は持っていない。
「……」
それを言うために来たのに、何も言えない。ただ、かけている黒ぶちの眼鏡をいじるので精一杯だった。
「聞こえてんの!?」
女の子だけど迫力のある声で、梗香さんが威嚇してくる。
何とか、無理矢理にでも僕は口を動かした。
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼく………ぼく、そ、そ、そういうこと…………したく……な……」
「聞こえませーん」
「もっとはっきり言ってくださーい」
梗香さんの後ろにいる柾君と柳葉さんがニヤニヤ笑いながら、からかってきた。
ああ、中学校の時と同じだ。
言いたいことも言えないから、友達もできない。
こうやって、力で支配しようとする人達にいじめられる毎日だ。
「こらあああぁぁ!!!」
突然。
背後からものすごい声が響いてきた。
その声を聞いた途端、僕にはたった一人の味方がいる事を思い出した。
そうだ。高校に入って、初めての友達が出来たんだ。
「あんた達、何しとんねん!!」
酒井楓ちゃん。
入学に合わせて、大阪から引っ越してきたクラスメイトだ。
ショートヘアに悪戯っぽい笑顔がとても素敵な女の子だ。
「ちっ! 大阪女が来た」
「逃げるよ!」
「柚貴。てめえ、昼休み、体育館の倉庫に来いよ! 椋子さんに言っておくからな」
楓ちゃんは喧嘩が強い。
小さいころから、柔道を習っていたんだって。
勝ち目がないせいか、梗香さん達はさっさと逃げてしまった。
男の僕が守られているなんて情けない話だ。でも、その話をしたら、楓ちゃんは「逆に、うち、料理は作れへん。おあいこや」と笑って返してくれた。
「ぜーぜー……あいつら、逃げおって……」
「……あ、あ、あ、あり……」
ありがとう、楓ちゃん。
僕は感謝の気持ちを言いたかったが、言葉が全然出てこない。
「礼なんかええよ、柚貴」
僕が上手く話せない事も気にしていないようだった。
楓ちゃんは大阪からここ栃木に引っ越してきて、日が浅い。
まだ、ここに馴染んでいないので、友達がいない今だけ、僕と友達になってくれているのかもしれない。
それでも、僕は嬉しかった。
「柚貴、あいつらに昼休みも呼び出されているのか?」
「……」
僕はうなずいた。
「剣崎か」
剣崎椋子。僕を虐めてくる梗香さん達のリーダー的存在だ。家が反社会的勢力……つまり、ヤクザをやっている。椋子さんの父親の報復が怖くて、先生達は椋子さんに強く出られないらしい。だから、椋子さんは学校でやりたい放題。校則で禁止されているのに、髪の毛は金髪に染めて縦ロールのパーマをあてているし、耳にはピアスをつけている。取り巻きの梗香さん達を引き連れては、弱いものを虐めている。
何人もの生徒達が彼女の持つ扇子に叩かれ、泣かされてきた。
「あらあら、あなたのせいで制服が汚れてしまいましたわ」
「ごめん……!」
「ごめん? そんな一言で許されると思っているのかしら? 恥を知りなさい!」
「痛っ! やめて! やめてください!」
僕はただ見ているだけだった。
助けたかったのに。
でも、これ以上、彼女達に虐められるのが怖かった。
入学して間もないころ。僕は体育の時間に足をひねった椋子さんを、保健室まで連れて行ってあげたのが、良くなかった。まさか、ヤクザの娘だったなんて……。
この事が彼女のプライドを傷つけたらしく、それからというもの椋子さんは毎日、僕に突っかかってくる。
僕のお弁当を自分が作っていると知ると、「なら、私の分も作りなさい!」と脅かされている。きっと今日も、お弁当の催促だ。
「うちもついていくから、安心せえ」
「っ!」
僕は首を振った。
僕のせいで楓ちゃんが怪我をしたら、困る。
「遠慮すんな、柚貴。あんたは、関東で出来た最初の友達やからな。声をかけてきてくれたやろ? お弁当一緒に食べようって」
そうだ。よく覚えている。
楓ちゃん、まだ皆と馴染めていなかったので、一人で食べていた。だから、なんとなく声をかけたんだ。
今まで女の子とそんな話した事も無いのに、よくそんな事が出来た、と自分でも思う。でも、それだけ楓ちゃんの背中が寂しそうに見えた。
楓ちゃんはしゃべってみると気さくな子で、すぐに僕たちは気が合った。
「なあ、柚貴」
楓ちゃんが、急に真面目な声を出してきた。
「あんたの為なら、うちは身体を張れる。剣崎に、打ちのめされてもいいとも思うとるくらいや。だってな、うちは、うちはあんたの事……」
キ~ンコ~ン
あ、チャイムだ。
「か、か、帰ろう」
「え、あ、ああ~……」
楓ちゃんが何か言いかけていたけど、授業に遅れる方が問題だ。
肌ざわりのいい風が吹く中、僕たちは急いで、教室へと走っていった。
♢♦♢♦♢
僕は料理が好きだ。
料理は話さなくていい。作って、笑顔で差し出す。それだけで、相手も笑顔になってくれる。
その時、僕は生きていい存在なんだと、強く感じる事が出来た。
「おおきに。嬉しいわ。毎日、あんたのお弁当、食べられるの」
楓ちゃんは僕のお弁当が好きで、一食300円で買ってくれる。
僕は「お金は要らない」と言ったが、楓ちゃんは首を振った。
「あかんで、こういうのはキッチリしとかないと。材料費や手間賃を考えた方がええ。……ふ、夫婦とちゃうんから……」
最後、なぜ顔が赤くなったのかはよくわからないけど、楓ちゃんの言うことは一理あると思って、ありがたくお金をいただいている。
でも、今、目の前の人は、そういう感覚は無さそうだ。
「持ってきたんでしょうね! お弁当!」
昼休み。
言われた通り、体育館の倉庫に行ってみれば、椋子さんと梗香さん達がいた。
「……あ」
椋子さんの足元を見ると、人が倒れていた。
クラスメイトの桜輔君だ。制服は足跡だらけで、汚れている。たくさん蹴られて、苦痛に顔を歪めていた。
「くっ……!」
「な、なぁ。あんた、大丈夫か?」
僕と楓ちゃんは、桜輔君の元に駆け寄りたかった。
でもすぐ近くに椋子さんがいるので、近寄れない。
「この人? 私に生意気言うから、しつけしてやっただけですわ」
椋子さんは綺麗な顔をしている。本当はとっても美人なんだ。
でも、この嫌な笑顔と意地悪な性格。心底、勿体ないと思う。
「運動したから、お腹が空きましたわ。あなたの作ったお弁当、いただけるかしら?」
「……」
僕は黙って差し出した。
こんな平気で人を傷つける人の為に、お弁当なんて作りたくない。同じお弁当でも、楓ちゃんの分は楽しいけど、椋子さんの分を作っているときは気分が悪いんだ。
「さて、柚貴さん。約束どおり、卵焼きは入れてきたんでしょうね?」
「……」
僕は首を縦に振った。
椋子さんは「よろしい」と満足そうにつぶやくと、梗香さん達に顎で指示した。
「あなた達は外に出て、お昼を召し上がってきなさい」
「はい」
「この人も連れ出しなさい」
椋子さんは桜輔君を冷たい目で一瞥した。
梗香さん達は若干かったるそうだったが、椋子さんには逆らえないので、桜輔君を担ぐ。
「おら、来いよ」
「痛い……痛い……」
通り過ぎる時、顔にもいくつか痣がある事を確認した。
「……」
だ、大丈夫かな……。
もうやめてほしい、こんな事。
梗香さん達は、外へ出て行ってしまった。
お弁当を受け取った後、椋子さんはいつも梗香さん達を外へ追い出す。その後、いつも僕に嫌がらせをするのだ。
「……あなたも外に出なさい、大阪女」
椋子君が僕の後ろにいた楓ちゃんを睨みつける。
だが、楓ちゃんも負けてはいない。
「なんで? うちは柚貴の友達や。うちが出ていくなら、柚貴も出る」
僕の右腕を楓ちゃんがしっかりと抱きつく。
な、なんかやりすぎだと思うけど、頼もしい。僕はいい友達を持ったと思う。
「あらあら、何を言っているのでしょう? 柚貴さんは今から私とご飯を頂くのですわ」
椋子さんが、僕の左腕を強く引っ張る。
ちょっと痛い。
「ふん。ならあんた、一人で食えや」
楓ちゃんが僕の右腕をもっと強くつかむ。
い、痛い…。
「柚貴さんは今から私に、「はい、あ~ん」をするんですわ。いいから、出ていきなさい!!」
「はい、あ~ん!? なに、柚貴、あんた、そんな事こいつにやっとるの!?」
「……」
僕はうなずいた。
それが椋子さんからの嫌がらせだ。いつも僕がお弁当を持っていくと、梗香さん達を追い出して、「私の口に、食べ物を運びなさい」って強要してくる。
「あんたな!」
楓ちゃんが椋子さんの胸ぐらを掴んだ。
楓ちゃん、僕の為に怒ってくれている。
「うちだってやってもらった事ないわ!」
……ん?
「羨ましすぎるやろう!」
な、なんか違うな。
「あらあら。あなた、まだやってもらってないんですの? いつも一緒にいらっしゃるくせに」
「やかましい。いつか、やってもらう予定や」
やってあげる予定はないんだけど……。
「そして、高校卒業したらな、一緒に住むんや」
知らないよ、そんな予定。
「そして、柚貴は料理担当で、うちが掃除洗濯担当やろ? 柚貴はうちが出かける度に「行ってらっしゃい」ってお見送りをしてくれるんや。……かわええ、絶対にかわええ! そんなエプロン姿の柚貴、誰にも見せとうないわ。そんなん思いっきり抱きしめる! そしたら、柚貴も抱き返してくれて、そして、ちゅ~……」
「お止めなさい!」
椋子さんがたまらず止めた。
「全部、あなたの妄想でしょう!」
「予定や!」
楓ちゃんの中には、僕を巻き込んだ将来設計が建てられているようだ。
でも。
相手が楓ちゃんなら、僕、別に嫌じゃない……かも……。
「もういいです! さっさと出ていきなさい!」
「嫌や! そんなに、「あ~ん」してほしかったらな、うちがしたる! 口開けろ!」
「あなたにされても、嬉しくありませんわ!」
そこからは、もう罵声怒声の押収で……。
あまりにも酷いので、僕は「止めなよ!」と止めたけど、全然止まらず。
仕方なく、先生を呼びに言ったのだった。
♢♦♢♦♢
学校の帰り。
春の匂いが満ちた風を受けながら、僕は自転車をこいでいた。
気持ちいいはずなのに、頭は今日の事でいっぱいだ。
「校内で迷惑行為をするな、酒井」
「なんで、うちだけ? おかしいやろう。剣崎が、うちの大事な柚貴にちょっかい出してきたから……」
「うるさい、剣崎は関係ない」
「関係あるわ! おかしいって! 先生! 先生!!」
僕がきちんと話せる人間だったら、楓ちゃんを擁護できたのに。
僕が虐められている事も説明できたのかな。
でも、先生達、椋子さんのお父さんに怯えているから、何もしてくれないだろう。
ああ。
そもそも、僕が強かったら良かったんだ。
椋子さんに虐められている皆を救い出せたのに。
僕が強かったら……。
最強の力を持っていたら……。
「柚貴くん♪」
「っ!」
梗香さん達だ。
気が付かなかった。
いつの間にか、右に梗香さん。後ろに柾君、左に柳葉さんが笑いながら、自転車をこいでいた。
囲まれている!
僕は顔を伏せ、全速力で自転車を走らせた。
「おい、待て!」
「逃げるな!」
「追え!」
太ももの筋肉をフル活動させても、追いつかれてしまう。
僕はわざと家には向かわず、旧道を自転車で走った。
このままついて来られて、住所までバレたら、家族に迷惑をかけてしまう。
ああ、ダメだ。キツい。
ずっと必死にこいでいるから、ももが痛くなってきた。
「……」
僕は自転車を乗り捨てた。
それからは、自分の足で走っていく。
「待て!!」
まだ追ってくる。しつこい。
懸命に走っていると、「玉藻稲荷神社」と書かれた案内板が建っていた。
ここに神社があるのは知っていた。行った事はないけれど。
僕は赤い鳥居をくぐり、奥へ奥へと走っていく。
社殿が見えてきた。あそこで行き止まりだ。
「……はぁ……はぁ……」」
ならばと、右に曲がる。
少し坂道になっているところに、沼があった。
いや、近くに立っている案内板には「鏡が池」と書いてある。
池……。沼じゃなくて?
ほとりには僕の腰ほどの高さがある石碑が建っていた。その石碑に、一枚のお札が貼られている。
お札に何か書いてあるけど……風化されていて読めない。
「やっと追いついた」
背後から嫌な声が聞こえた。
振り向くと、梗香さん達が立っていた。とても友好的な顔には見えない。
「ったく、手間をかけさせて!」
梗香さんが合図を送ると、柳葉さんが僕の左腕を、梗香さん自身が僕の右の腕をつかんだ。
う、動けない……。
僕の前には、柾君が立っている。
「椋子さんがよ、明日、あんたに大事な話があるみたいなんだよ。きっと、お前を徹底的にボコるんだと思うぜ。へへへ」
今まで、気の弱い生徒に暴力をふるってきた椋子さん。ついに僕も……。
ん? そういえば、椋子さんは僕を叩いた事がないな。
痛いのは嫌だけど……でも、なんでだろう?
「そういう時、椋子さんは一人でボコるから、俺達の楽しみがないんだわ。だから……」
ドガッと鈍い音がすると同時に、僕のお腹に激痛が走った。
考え事をしている間に、思いっきり殴られてしまった。
「うっ……!」
痛みで顔を歪ませる。
それを見て、柾君達は楽しそうに笑った。
「俺たちは今から、お前を殴ってやる!」
言うやいなや、右ストレートが僕の頬を直撃した。
僕の視界が歪んでくる。
それは痛みによるものなのか、眼鏡が外れかけているのか、確認できない。
「いいね。次、私にやらせてよ」
「えー。私、最後?」
梗香さんに蹴られ、
柳葉さんに殴られる。
僕は抵抗できないまま……石碑に倒れこんだ。
石碑が音を立てながら、崩れる。
はずみで札が取れ、風に飛ばされてしまった。
僕は、なかなか立てなかった。
意識はあるけど、身体が動かない。何かに縛られているみたいだ。
どうなったの? 僕。
ま、まさか、死んじゃったの?
そう思ったのは、僕だけじゃないみたいで。
「お、おい。こいつ、動かねえぞ」
「あんた、強く殴り過ぎなのよ!」
「やばっ! 逃げろ!」
三人の足跡が遠のく音がする。
「ま、ま、まっ……」
腕を伸ばし、三人を引き留めようとするが、また上手く話せない。
僕は意識を手放し、腕はパタリと地面に落ちた。
♢♦♢♦♢
「嬉しいのう、嬉しいのう」
僕はぼんやりした意識の中で、一人の女性の声を聞いた。
「私を封印していた術が解けた。札をはがしてくれたおかげだ。この時代には、もう三浦の奴はいまい……少年よ」
少年?
ん? 僕の事?
だんだん視界がはっきりしてくる。
「だ、だ、誰……?」
目の前にいたのは、女性だった。
色とりどりの着物を何枚も重ね着している、綺麗な女性だ。
だけど、この人、人間じゃない!
長い黒髪から飛び出た耳は犬のように尖がっているし、毛がふさふさしている。
それに、お尻から何本もの尻尾が生えていた。
「我が名は、玉藻の前」
「た、た、た、たま……も、もの……ま、ま、ま……」
言いにくい。
多分、口の調子がいい時じゃないと言えないだろう。
「ん? なんじゃ。お前、「どもり」か。我が封印されてから、一千年近く経つというのに、人間というのは基本、変わらないものじゃな。……玉でよいわ」
「た、た、たま……さん」
年上の女性っぽいので、「さん」付けしてみる。
玉藻の前は意外そうに目を丸くし、そして嬉しそうに笑った。
「ふふふふ。おぬし、名は何という?」
僕?
僕の名前は……。
「ゆ、ゆ、ゆ、ず、ずき」
「ユズキか」
玉さんは復唱したので、僕はうなずいた。
「では、ユズキ。私にその体を譲れ。代わりに、お前の望みを全てかなえてやる」
え?
何を言っているの?
「さあ、目を覚ませ。ユズキ。そして、私の為に動くのだ!」
♢♦♢♦♢
「柚貴!」
「……っ!」
目を覚ますと、見慣れた顔。
あ。
楓ちゃんだ。
なんか、安心する。
これは、夢かな。
「柚貴。あんた、何、ぼーっとしとるの? 大丈夫?」
「いい夢だな」
「へ?」
「楓ちゃんがいる。ホッとする……」
「……」
夢の中の楓ちゃんは、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「……なんで、そんなキザな事、言うの。こいつ……」
「ん?」
な、なんか、夢にしては視界がはっきりしているな。
え?
ええ!!
何、これ!?
僕は周囲を見回して、声を上げた。
ここ……。
「学校じゃないか!!」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




