ブランディーヌの心 3
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(まずはレオンス殿下のご都合を聞かないといけないわよね?)
ブランディーヌとレオンスに、二人きりで会う機会を作るためにまずすることは日程調整だろう。一番忙しいレオンスにまず予定を確認しなければならない。
予定が決まれば、ジゼルに相談してブランディーヌの謹慎を解いてもらうように働きかけてもらう。
場所は、レオンスと相談して決めればいいだろうか。ブロンデル国の王太子を王宮に招こうとしたところで、必ず側近がついてくるのは目に見えているため、レオンス本人に一人きりになりやすい場所を選択してもらうのが一番手っ取り早い。
頭の中で今後の行動予定を立てながら城の部屋に戻ると、ちょうど中からラファエルが飛び出してくるところだった。
「ああ、ローズおかえり! 部屋にいなかったから王宮へ迎えに行こうと思っていたところだったんだ」
(ブランディーヌ様の予想通りだったわね……)
ラファエルの仕事が終わってもローズが帰っていなかったら王宮に乗り込んでくるだろうと推測したブランディーヌは、見事に的を射ていたようだ。
ラファエルとともに部屋に入ると、ローズの顔を見てミラがホッと息をつく。
(ラファエル様もミラも、ちょっと過保護すぎるわ)
苦笑しながら、ローズはラファエルと並んでソファに腰を下ろす。
夕食まではまだ時間があるのでミラがてきぱきとお茶の用意をし、気をきかせてニーナとともに控室へ下がっていった。
ローズがお土産にもらったマカロンの包みをローテーブルに置くと、ラファエルが不思議そうな顔をする。
「それは?」
「ブランディーヌ様にいただきました」
「姉上に? ローズ、姉上に会ったのか⁉」
「はい。王妃様にお会いした後にですけど……」
ニーナにジゼルにコンタクトを取ってもらったことと今日のことをローズが素直に白状すると、ラファエルはあんぐりと口を開ける。
「どうしてそんな……」
「やっぱりこのままだとダメだと思ったので。……勝手な真似をして、ごめんなさい」
ラファエルに禁止されたのに言いつけを守らず勝手に動いたから、ラファエルは怒っただろうか。
びくびくしながらローズがラファエルを見つめていると、彼はシトリン色の髪をぐしゃりとかき上げた。手つきが少し乱暴なので、イライラしているのかもしれない。
「ローズに関わらせたくなかったのに。……くそ! 母上め、勝手に余計なことを決めやがって。ブランディーヌの処罰を君が決定するなんて、優しい君には荷が重すぎる! 今からでも遅くない、母上に断りに行こう」
イライラしているからだろう、ラファエルの口調が少し乱れている。
「え、ダメです! い、行きませんよ!」
「ローズ!」
「だって、これは、わたしが向き合わないといけない問題だと思うんです!」
「もしかして、母上の言ったことを気にしてる? ローズがこの件を断ったせいで俺との結婚が流れることはないから。母上が何を言ったところで俺が何とかするから、気にしなくていいんだ」
(でも、それだったら、結局何も変わらないわ……)
ラファエルがローズを守ろうとしてくれているのはわかっている。
だけど、それではローズは強くなれない。ラファエルとミラに守られて、二人がローズを守ろうとすることで不利益を被ったとしても、今のローズのままならば守ってあげられる力ないのだ。
「い、いやです」
ローズはふるふると首を横に振った。
このままなのは嫌だ。守ってもらうだけなのは嫌だ。
ラファエルがローズを大切にしてくれるように、ローズだってラファエルが大切なのだ。
(すぐには無理かもしれないけど、強くなるって決めたの)
部屋の中に閉じこもり、他人を恐れて震えて怯えるだけのローズは、ラファエルの手を取ったときに卒業したのだから。
「わたしも、ちゃんと強くなるんです。強くなろうって決めたんです。堂々とラファエル様の隣に立てるように。今度何か起こったときには、わたしがミラを守れるように。頼りないかもしれないけど、わたしも二人を守れるようになりたいんです」
ローズは身長も低めだし手も小さいし、腕力もなければ走る速度も恐ろしくのろくて、迂闊で全然しっかりもしていないけれど、守られるだけのお姫様になるつもりはない。
すぐには変われないかもしれないけれど、一歩ずつでも前進するのだ。
「ローズ、君は……」
「ローズさまぁああああああああ‼」
ラファエルが何かを言いかけたが、それをぶった切るように控室の扉が勢いよく開け放たれた。突進してきたミラがローズに抱きつき、ぼろぼろと泣き出す。
「……聞き耳を立てていたな」
ラファエルがじっとりとミラを睨んだ。
ミラを止めようして止めきれなかったニーナが、はあ、と額を押さえる。
「ローズ様、わたくしもこれまで以上にローズ様をお守りできるようになりますからぁあああああ」
「ミラは、今のままでも充分すぎるほどわたしのことを守ってくれているわ!」
これ以上ミラが頑張ったら、それこそ何をするかわからないところがあるので、ローズは慌ててミラを止める。
「ミラ、お二人の邪魔ですよ」
「そうは言いますが、ローズ様が! わたくしのローズ様が……!」
「お二人とも、失礼いたしました。ミラは連れて行きますので」
ニーナがミラをローズから引きはがして、半ば引きずるようにして控室に連れていった。
控室の扉が閉まっても「ローズ様ぁ」と聞こえてくる声にラファエルが苦笑する。
「なんだかミラに全部持って行かれた気分だ」
「ミラがその、すみません」
さすがに部屋に飛び込んでくると思わなかった。
ローズが謝罪すると、ラファエルが「いいんだけどね」と言いながらローズを抱き寄せる。
「感動は俺が一番に伝えたかったのに、ちょっとだけ残念かな」
感動とはなんだろうか。
ラファエルの腕の中で顔をあげると、ラファエルがちゅっとローズの額にキスを落とす。
すると、キスされたところに手を触れて顔を赤く染めたローズの、今度は頬にキスが落ちてきた。
「心配なのも本当なんだけど、不思議だね。君が俺の隣に立ちたいって、俺を守りたいって言ってくれたのが、すごく嬉しい」
ラファエルが優しい手つきで藍色のローズの髪を撫でる。
「君はこんなに可憐で優しくて可愛くて、これ以上ないくらいに俺を虜にしているのに、さらに勇敢さまで加わるなんて……愛おしすぎて、永遠に腕の中に閉じ込めていたくなるね」
「そ、それはダメですっ。ずっと腕の中に閉じ込められていたら、ドキドキしすぎて、心臓がいくつあってもたりなくなっちゃいます!」
真剣な顔でそんなことを言うローズに、ラファエルはきょとんとして、それからぷっと吹き出した。
「ふ、ふふふ、あはははははは! ローズ、君ってば……!」
心配する所はそこなのかと、ラファエルはしばらく笑い続けたが、ローズは彼がどうしてそんなにおかしそうなのかわからずに、ただきょとんとして彼を見つめたのだった。
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