婚約者は試される 3
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「教育係だって?」
夕食の時間になってローズの部屋を訪れたラファエルは、明日から教育係が来ることになったのだとローズが報告した途端、ぎゅっと眉を寄せた。
ラファエルとソファに座って話している間に、ミラとニーナが部屋の中に夕食の準備をしてくれる。ミラはニーナに対してまだ思うところはあるようだが、侍女同士が険悪だとローズが困るという結論に至ったようで、今ではそれなりに歩み寄ろうとしてくれていた。
ニーナは物事をはっきりと言う性分で、きつそうに見えるけれど、ローズに対して冷ややかと言うわけではない。王妃の侍女を務めていただけあって仕事も完璧で、細かいことにもよく気が付く。ローズもこの数時間で慣れてきたから、ミラもそのうち慣れるだろう。
運ばれてきた食事からいい匂いが漂ってきて、ローズがちらりと振り返れば、マルタン大国のカトラリーの扱いをミラに教えているニーナが見えた。
ローズがマルタン大国に慣れるまで、二人きりで食事をすることに決めたのはラファエルだ。
ラファエルはニーナを振り返り、詰問するような低い声で問うた。
「ニーナ、どういうことだ」
「王妃様がお決めになったことですから」
「余計なことを」
ラファエルが忌々しそうに舌打ちする。
「必要だと思ったことは俺が教えるから不要なのに」
「お忙しい殿下にお時間があるとは思えませんが」
ニーナがあきれ顔でそう返した。ローズもそう思う。ラファエルはアルベリク国王から仕事が与えられてとても忙しいはずだ。無理はしないでほしい。
食事の準備を終えると、ローズと二人きりになりたいというラファエルの主張を聞いて、ミラとニーナは控室に下がった。
席につけば、テーブルいっぱいにマルタン大国の料理が並べられている。
到底食べきれない量だったが、ラファエルは食べたいものだけ食べればいいと言ってくれた。残っても、使用人たちに下げ渡されるから無駄にはならないという。
「これははじめてみました」
レレイバ港に到着してから十日ほどマルタン大国を観光したので、それなりにこの国の料理を口にしてきたけれど、まだまだ知らない料理がたくさんある。
「それはナスの中にトマトを詰めて煮たものだ。そっちは香辛料につけた鶏肉を焼いたもの。俺も作り方を知っているわけじゃないから詳しくは説明できないけど、そっちのナスはあっさりしているから、ローズが好きな味かもね」
「はい。美味しいです!」
煮てとろとろになったナスに、トマトの酸味がよく合う。ふにゃふにゃと笑うローズに、ラファエルは満足そうに微笑み返した。
「ローズは美味しそうに食べるから見ていて幸せな気分になるね。あ、このパンにはこの肉を挟んで食べると美味しいんだ。はい、あーん」
パンを二つに割って、間に肉を挟むと、ラファエルが笑顔でローズの口に近づける。
ラファエルと出会ってから、彼はいつもローズに食事を食べさせようとしていたので、彼から給餌されることにすっかり慣れていたローズは素直に口を開けた。
「ふふ、これがあるから君と二人で食事を取りたいんだよね」
ラファエルが上機嫌で、今度はロールキャベツのようなものを切り分けてローズの口へ運ぶ。見た目はロールキャベツだが、グリドール国のものとは味付けが違う。
次から次へと食べ物を口に運ばれて、ローズは必死になって咀嚼した。飲み込めばすぐに次が運ばれるので、息をつく暇もない。
「むぐむぐ、ラファエル様も、ごはん……」
「ちゃんと食べるから心配はいらないよ。お腹の具合はどうかな? そろそろスイーツの方がいいかな?」
だいぶお腹がいっぱいになったローズがこくこくと頷くと、ラファエルがデザートを手に取った。米をミルクで甘く煮込み、そのあとで焼き上げたプティングのようなものだ。とろりとした優しい甘さがたまらない。ローズがぺろりとそれを平らげると、ラファエルが最後に口に運んだのはマカロンだった。
「ローズはマカロンが好きだから用意させたよ」
ローズはすでに満腹だったが、マカロンを近づけられて反射的に口を開けた。カシュッととろけるような甘さにうっとりする。
ローズがマカロンを食べ終えたあとで食後のお茶に手を付けると、ラファエルがようやく自分の食事をはじめた。
(わたしに食べさせずに、食べればいいのに)
そう思うものの、ローズに食事を運ぶラファエルが楽しそうなのと、ローズもなんだかんだと彼に給餌されるのは嫌いではないので、二人きりの時の食事は結局いつもこのような感じになる。
食事を終えたラファエルが使用人を呼びつけて片づけを命じ、ローズを連れてソファへ移動した。
当り前のようにローズを膝の上に横抱きにして、すり、とローズの藍色の髪にラファエルが頬を寄せる。
(疲れているのかしら?)
ローズに頬を寄せたまま黙り込んでしまったラファエルを見ながら、なんとなく思う。
暇さえあればローズを甘やかそうとするラファエルが、逆に甘えているように感じたからだ。
ローズがおずおずと手を伸ばして、遠慮がちに艶やかなシトリン色の髪を撫でると、ラファエルが気持ちよさそうに目を細めた。
「お疲れですか?」
「ん? ああ、どうだろう。そうかもしれないな。父上から命じられたブロンデル国の件だが、問題だらけでね」
「そうなんですか?」
「うん、そうなんだ。父上は絶対面倒くさいから俺に押し付けたんだろうね。これで俺がへまをしたら、俺の評価はガタ落ちになるだろうし、頭が痛いったらない」
「そんな……」
ローズが思っていた以上に大変な問題だったようだ。
「わたしもお手伝いできればいいんですけど……」
「ありがとう。でも大丈夫だよ。父上に体よく押し付けられたことは気に入らないが、こういうのも王太子の仕事だからね」
ラファエルが顔をあげて、そっとローズの頬に唇を寄せた。
「こうして癒してくれるだけで充分だ」
一度離れた唇が、今度はローズの唇をかすめていく。
ボッと赤くなったローズを見て、ラファエルが楽しそうに笑った。
「君がいれば何だって頑張れそうな気がするよ」
ローズは赤くなった頬を押さえながら、でも本当にそれだけでいいのだろうかと自問する。
――マルタン大国の歴史を学び、国民性を学び、そして周囲の言葉に耳を傾け、国王となるラファエル様を支えられるようにならなければなりません。
(ラファエル様は有能な方だから、わたしなんかの支えは必要ないのかもしれないけど、でも……)
アリソンから言われた言葉を思い出して、ローズはラファエルに気づかれないように、そっと小さく嘆息したのだった。
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